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鷹の魔族

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「…ふむ」

俺は、前のあの子に大昔命を救われた魔族だ。

瘴気にあてられて凶暴化した動物を先祖に持つ魔獣。

それと同じように、瘴気にあてられて凶暴化した人間を先祖に持つ魔族もこの世には存在する。

人型のモノもいれば、魔族とは名ばかりのほぼ魔獣のような進化を遂げた魔族もいる。

俺は、その魔獣のような魔族だ。具体的に言うと、鷹。鷹の姿の魔族。

「やはり、あの子が大切にされるようになると祝福がもたらされるか」

地上の様子を見て、そう分析する。

あの子が虐げられている間は、少しずつ国が衰退に向かっていた。そうとは悟られないスピードで、ゆっくりと。

けれど、魔法使いがあの子を見つけてバレないように保護するようになってからは違った。

あの子が幸せを感じるようになったから、国に祝福がもたらされた。

農作物は質の良いものばかりが豊作。漁業も大漁。鉱山でも金の取れる量がなぜか増えた。全部あの子のおかげでもたらされた祝福だ。

「だが、それを知られるわけにはいかない」

でないとまた、他国の王族に無理矢理攫われて不幸になってしまう。

まあ、今の魔法使いならそんなことが起きても守れるだろうけれど。

この数百年で随分と力をつけた。また生まれてくるあの子のために。

魔法使いの隠蔽魔法は完璧だ。神による託宣すら誤魔化すレベルで。

誰もあの子が聖女さまなんて気付いていない。

「魔法使いに心底依存しているらしいし、ここまでの祝福があるなら本人は相当幸せを感じてる。最近は兄とやらにも懐いているようだし、ロゼもいる。だったら俺にできるのは、今のあの子の幸せを守ること」

だから、最近栄えてきたこの国を狙う狡猾な隣国の皇帝は。

「我が贄となれ、人間」

俺が頭からパックリと食べてしまおう。











「なあおい、お前結局隣国の皇居内食い荒らしただろ。皇帝だけとか言ってなかったか」

「だって全員歯向かってくるから」

「…うわ」

「それより、お前大丈夫なのか?」

「なにが」

惚ける男に、『食べ物』を少し譲る。

「あの子の今回の父親にかかった呪い、解くのに魔力かなり使うんだろ。魔法使いに協力するのは賛成だけど、無理するな」

「あんがとさん」

持ち帰った大量の生肉を二人で貪る。

「んー、寝て食べたら少し回復したわ。また今度の『マッサージ』に向けて魔力とやる気をなんとかしなきゃな」

「おつかれさん」

「ま、次のマッサージはしばらく先だからそれまでには魔力の回復どころかおつりも来るでしょ。一応あいつからも報酬に魔力石いくつか貰ってるし」

「ふーん」

「今のあいつには魔力石なんて腐るほど貯蓄あるから、大した報酬でもない気はするけど」

そうだよな。あいつあの子が生まれてくる時のために入念に準備してたもんな。

「とはいえ、あの子の敵になる奴以外の肉は食う気しないからいつも獣肉だったからな。すげぇ美味いぜ、あんがとさん」

「おう」

「でも、俺とあいつでここまでの手間がかかる呪いってぶっちゃけどうよ」

「やばい」

「だよな」

今回のあの子の父親は、相当恨まれていたらしい。…おそらくは、あの子の今回の母親。今は亡きメイドに。

「人の怨念は怖いな」

「俺たち魔族じゃ考えられないほどにな」

改めて、人という存在にゾッとする。そんな奴らの中で、唯一美しさを感じるあの子。人の世で生きるのは辛いだろう。今度こそ力にならなくては。
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