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ポンコツ過ぎて墓穴ばかり掘る
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「ルミネちゃん」
「…きゃー!キルアくーん!!!今日もかっこいいよー!可愛いよー!声も綺麗だよー!存在自体が素晴らしいよー!もはや芸術だよー!!!」
「ふふ、今日も元気だね!たくさん褒めてくれてありがとう。ルミネちゃんこそ可愛いよ」
「きゃー!!!死んでもいい!今すぐに死んでもいい!」
「ダメだよ、ルミネちゃん」
ハローハロー。皆様におかれましてははじめまして。私ルミネと申します。
はい、突然ですが私は前世の記憶がございます。この世界の人には秘密だけどね。
前世日本のオタク女…それも二次元ガチ恋勢だった私、あろうことか大好きな最推しのいる世界に転生しました。
しかも最推しの幼馴染になれました。本来の設定ではいつもどこにいても独りぼっちだった彼。その孤独な幼少期を守り、支える日々は素晴らしいものでした。
もちろん彼のステータスを上げるのにも貢献しました。今の彼は本来の設定より三割増しで強いぞ!原作ブレイク?そんなものは知らん。
「でも…今日でこの村ともお別れかぁ」
「寂しい?」
「ルミネちゃんがいれば平気だよ」
「ふふ、よかった」
さて。最推しのキルアくんを愛でる日々は幸せでしたが、いよいよ物語が始まる頃です。
キルアくんはこれから、勇者一行と合流し魔王を打ち倒すのです。キルアくんはそんなことまだ知らないけど。
本来であれば、魔法を極めるための一人旅に出る天才キルアくん。今回は私もついていくのですが、まあ誤差の範囲でしょう。
ちなみに私には何の才能もないのでただの荷物持ち。でもキルアくんと聖女ちゃんをくっつけるためにも付いていくことを決めた。
キルアくんはこれから、聖女ちゃんに一目惚れする。けど聖女ちゃんは勇者くんに惚れてる。でも聖女ちゃんと勇者くんはまだ魔王討伐までは想いは告げられないよね、程度の関係のはず。私が上手く引き剥がせばキルアくんにもチャンスはある!
私はキルアくんにガチ恋してる。それは前世も今世も変わらない。むしろガチ恋度が悪化してる。だからこそ、キルアくんは幸せにしてあげたい。こんな恋心、そのためならドブに捨てられる。
「…そんなに緊張しなくても、ルミネちゃんは俺が守るよ。行こう」
「うん!」
これで村ともおさらばだ。せいせいする。
ぶっちゃけ、今世の家族との仲は冷え切っていて、だから村への思い入れとかは一切ない。何故ならキルアくんを差別するからだ。
そんなクソみたいな村で過ごしたので、私の思い出は全てキルアくんとのものだけだ。
だからキルアくんが聖女ちゃんとくっついたら、そのまま村へは戻らず流浪の旅にでも出るつもりなくらい村が嫌い。
あばよ、人を平気で差別するクソ村!キルアくんを拒絶する村なんてこっちから願い下げだ!
「そういうわけで、これから仲間になるキルアだ。みんな仲良くしろよ」
「キルアです。よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「よろしく」
「よろしくー」
無事勇者一行と合流し、キルアくんは聖女ちゃんと出会った。
これから私は頑張って二人をくっつけようと思う。
「あと、キルアの付き人ちゃんのルミネちゃんも一緒に来るからな。か弱い女の子を困らせるなよ」
「ルミネです!よろしくお願いします!」
「よろしくね!」
「よろしく」
「よろしくー」
幸いにして、役立たずの私もキルアくんの付き人として受け入れられた。
危険な場所に行くときも結界を厳重に張られた上で連れて行ってもらえる。
怖い目にも何度も遭ったので度胸だけは身についた。戦闘センスはまったくないが。
なんだか気づいたら、無力な私は囮役として役に立っていたりする。
どんな形であれみんなの役に立てるのは、嬉しい。みんな、いい人だから。
「お疲れ様ー」
「いやー、勝った勝った」
「ルミネさんが敵の注意を引いてくださったおかげですね」
「ありがとうな、ルミネ」
「…ルミネちゃん、大丈夫?」
心配そうにしているキルアくんに思わず頬が緩む。やっぱりキルアくんはかっこよくて可愛い。
「うん、なんか知らないけどお役に立てたなら何よりだよー」
「ルミネちゃん、あんまり無理しないでね…ごめん、離してあげられなくて」
「うん?いいんだよ、故郷を離れて寂しいのはわかってるよ」
キルアくんは優しくて気にしいだなぁ。
「そうじゃなくて…」
「それより聖女ちゃん、見ましたか!?今日のキルアくんの活躍!颯爽と魔法で敵を消し去る姿!もちろん皆様大活躍でしたが、キルアくんかっこよかったですよね!?」
「ふふ、ええ!私もそう思うわ!さすがはキルアさんね!」
聖女ちゃんと手を取り合ってキャッキャとキルアくんを褒め称えまくる。
聖女ちゃんにいかにキルアくんが素晴らしいかアピールだ。
その間、キルアくんは聖女ちゃんに褒められて嬉しいのか目がとろんとして可愛い可愛い表情になる。なお多分本人は隠してるつもり。
聖女ちゃんと長々とキルアくんについて語り合った後、席をちょっと移動して勇者くんの隣に座る。
勇者一行の魔物退治の打ち上げは長いのだ。
「勇者くん、隣ごめんね」
「ん?もちろん構わないぞ」
「勇者くんって本当にかっこいいよねぇ」
「そうか?」
「すっごくかっこいいよ!優しくて強くてまさに勇者様!でもこういうオフの時が一番好きだな。ふとした瞬間の横顔が素敵」
勇者くんと聖女ちゃんを引き離すための作戦だ。我ながら性格が悪い。
とはいえ、嘘はついてない。全部本音。ただ、キルアくんには及ばないよねってだけ。
勇者くんには魔眼があるから、嘘は通用しないからね。本音だけでアタックだ。
「…ありがとう。俺、魔眼持ちだから全部本音で言ってくれてるのはわかってる」
「ん。知ってるよ」
「けど、あんまり俺とベタベタし過ぎると…妬かれるぞ?」
「誰に?」
聖女ちゃんかな。
「俺を無条件に、心から好いてくれるお前のことが…結構好きだからこその忠告だ。お前は身近な人の好意にもっと敏感になれ。俺たちの間の好意が友情でしかないと、憧れでしかないと…あいつは気付いてない」
いや、聖女ちゃんには誤解してもらっておいた方が好都合だからさ。
いいんだよ、これで。
「勇者くん、大好きだよ」
「…俺も、大好きだよ。でも」
「ルミネちゃん」
後ろから、聖女ちゃんとイチャイチャしてるはずのキルアくんがにゅっと出てきた。
どうしてかな、いつも優しいキルアくんの周りの空気が冷たく感じる。
聖女ちゃんと喧嘩でもした?
「キルアくん、どうしたの?」
「…ルミネちゃんが一番好きな人は誰?」
「え?」
「誰?」
ありゃ、これは相当参ってる。
キルアくんは精神的に限界になると私にいつもこの質問をする。
そして私が勢いよくキルアくん!と叫ぶのを見て心底安心した顔をするのだ。なおいつも問題はその後に自力で解決している。
…けどなぁ。
今、その質問には答えられないなぁ。
「…」
「…」
「…俺だよね?」
不安そうに潤んだ瞳。可愛いなぁ。
これも聖女ちゃんとイチャイチャするための試練だよ、キルアくんがんばれ。
「…えっと、私ちょっと夜風に当たってくるね」
「待ってよ」
「ごめんね」
さっさと場を離れて夜空を見上げつつその辺を散歩する。
キルアくんは別に追いかけてくることもなくて。
それが寂しいなんて、どうかしていた。
「…ふふ」
聖女ちゃんとキルアくんはお似合いだ。
くっついて欲しい。心からそう思う。
でも、本当はキルアくんを独占したい。
…なぁんちゃって。
無理だよ、無理。
無理無理無理無理無理無理。
「ははははは…」
喉の奥から乾いた笑いが出て、さらに笑う。
…好きだなぁ、本当に。
「ルミネちゃん」
…あれ?
追いかけて来なかったと思ったんだけど、いつのまにやら後ろにキルアくんがいた。
「ねえ、やっぱり怒ってる?」
「え?」
「魔王討伐なんかに巻き込んで」
「そんなことないよ」
「じゃあなんで当てつけみたいなことするの」
当てつけ?
「聖女ちゃんに俺の自慢してくれるのは、まだ好きでいてくれてるって思って嬉しかったからまだ…まだ良いよ。ルミネちゃんに褒められるのは、どんな状況であれ頭溶けるくらい嬉しいから。それでも…正直、嫌だけど。まるで俺と聖女ちゃんをくっつけようとしてるみたいに見えて」
あれまバレてる。
「でも勇者くんについては違うよね?あれはもう完全に当てつけだよね?今まで俺以外の男をあんなに褒めたことなかったのに!!!」
初めて、キルアくんが私に声を荒げた。
ちょっとびっくりする。
「い、いや、恋くらい自由だと思ったんだけど…」
「…は?」
「あの、誰かを好きになるのに理由は要らないというか」
実際には恋してるのはキルアくんに対してだけど、まあ言うわけにもいかないし言い訳にもちょうど良いし、今ここに魔眼持ちは居ないし。
そういうことにしておきましょう。
なのでこっちは気にせず聖女ちゃんに押せ押せで行こうぜ。
「…あー、はは。なに?え?…恋」
「う、うん」
「じゃあ俺は?俺のことは?」
「え?もちろん幼馴染として深く深ーく愛してるよ!」
海よりも深くね!
まあ、恋愛感情込みだけど。
「へー。あっそう…なにそれ。ウケる」
「…キルアくん?」
「んー…一応、お役目だからね。魔王討伐は頑張らないといけないんだけど。ご褒美はあってもいいと思わない?ルミネちゃん」
「え?」
話題が急にすり替わった?
「ね、ルミネちゃんもそう思うよね?」
「あ、うん!キルアくんにはたくさんご褒美があると、私も嬉しいよ!」
「はは、ははは…ルミネちゃんは、本当に俺が好きだね」
「うん!」
「でももう、一番じゃないんだよね?」
…答えられない。
一番好きだよなんて言えないし言わないもん。
「…そ。ねえ、ルミネちゃん。俺の目ぇ見て」
「ん?」
キルアくんの目を見つめる。暗い中でも、その瞳は光って見えた。
…あれ、これ、魔法発動してる。
気が付いたら、キルアくんからなんだか甘ったるい嗅いだことのない匂いまでして。
目を逸らせない。匂いが立ち込める。
クラクラ、クラクラ。
「ねえ、ルミネちゃんのこと世界で一番に幸せに出来るのは誰?」
「…キルアくん」
「そう、正解」
頭を撫でられるとふわふわして、幸せな気持ちになる。
「ルミネちゃんのご主人様は誰だっけ?」
「ご主人様…?」
「そう…わかるよね?」
ご主人様、ご主人様は…。
「キルアくん…」
「正解」
ちゅっと頬にキスされる。
身体が熱い。
脳が焼ける。
私、今までなにしてたんだっけ。
今、なにしてるんだっけ。
「ルミネちゃん、俺と付き合ってくれる?魔王討伐後、すぐに結婚しようよ」
「うん…」
「よかった。じゃあ、魔王討伐まではこのまま…夢見心地でいてね?俺の言うことを聞いていれば、幸せなんだよ」
「うん…」
そこからは靄がかかったみたいに意識が朦朧として、ただただなんとなく程度しか認識できなくなった。
いつも目の前にいたキルアくんだけが私の全てになった。
そして魔王討伐が終わって、みんながそれぞれ元の村に戻って、勇者くんと聖女ちゃんは原作通りくっついて…キルアくんは、私と結婚した。
そして今は、新居で二人きり。キルアくんは元いた村でなく、王都に良い家を買った。ソファーの上で、私を膝に乗せて向かい合わせになるキルアくん。
そこで初めて、自我が戻った。
「…え、あ、え」
「ああ。とうとう解けちゃったね。思ったより解けないから、このままにしとこうと思ったんだけど」
「き、キルアくん」
「勇者くんは多分、君への洗脳に気付いてたよ」
洗脳。
え、怖い。
そもそも何故私なのか。
「けど、なにも言わなかった。魔王討伐を優先したんだ。そして、その後も自分と聖女ちゃんとの結婚を優先した。俺の行為を咎めなかった。わかるかな。勇者くんはルミネちゃんを見捨てたんだよ」
「…」
「青ざめた顔も可愛いね。ね、俺が愛してあげる。だから全部諦めようね」
首にキスマークを付けられる。
それを恍惚とした表情で見つめるキルアくん。
…うーん。
もしかしてキルアくんは私を好きなんだろうか。
いつのまに?なんで?そして何故ヤンデレているの?
「えっと、キルアくん」
「うん」
「どうして…」
「…好きだから。ルミネちゃんのことが世界で一番大好きなんだよ。愛してる」
「そっか…私も好きだよ」
とりあえず、気持ちを伝えてみる…が。
「…はは。そんな嘘が通用するわけないでしょ」
「キルアくん」
「どれだけ言い訳しても、もう離してやらないから」
君が悪いんだよ、と囁かれソファーに押し倒される。
うーん。
これで幸せを感じる私も大概おかしいんだよなぁ。
どうしよう。
明日から信じてもらおう大作戦を決行することにして、とりあえず今は好きな人と肌を重ねる幸せを味わおうか。
「…きゃー!キルアくーん!!!今日もかっこいいよー!可愛いよー!声も綺麗だよー!存在自体が素晴らしいよー!もはや芸術だよー!!!」
「ふふ、今日も元気だね!たくさん褒めてくれてありがとう。ルミネちゃんこそ可愛いよ」
「きゃー!!!死んでもいい!今すぐに死んでもいい!」
「ダメだよ、ルミネちゃん」
ハローハロー。皆様におかれましてははじめまして。私ルミネと申します。
はい、突然ですが私は前世の記憶がございます。この世界の人には秘密だけどね。
前世日本のオタク女…それも二次元ガチ恋勢だった私、あろうことか大好きな最推しのいる世界に転生しました。
しかも最推しの幼馴染になれました。本来の設定ではいつもどこにいても独りぼっちだった彼。その孤独な幼少期を守り、支える日々は素晴らしいものでした。
もちろん彼のステータスを上げるのにも貢献しました。今の彼は本来の設定より三割増しで強いぞ!原作ブレイク?そんなものは知らん。
「でも…今日でこの村ともお別れかぁ」
「寂しい?」
「ルミネちゃんがいれば平気だよ」
「ふふ、よかった」
さて。最推しのキルアくんを愛でる日々は幸せでしたが、いよいよ物語が始まる頃です。
キルアくんはこれから、勇者一行と合流し魔王を打ち倒すのです。キルアくんはそんなことまだ知らないけど。
本来であれば、魔法を極めるための一人旅に出る天才キルアくん。今回は私もついていくのですが、まあ誤差の範囲でしょう。
ちなみに私には何の才能もないのでただの荷物持ち。でもキルアくんと聖女ちゃんをくっつけるためにも付いていくことを決めた。
キルアくんはこれから、聖女ちゃんに一目惚れする。けど聖女ちゃんは勇者くんに惚れてる。でも聖女ちゃんと勇者くんはまだ魔王討伐までは想いは告げられないよね、程度の関係のはず。私が上手く引き剥がせばキルアくんにもチャンスはある!
私はキルアくんにガチ恋してる。それは前世も今世も変わらない。むしろガチ恋度が悪化してる。だからこそ、キルアくんは幸せにしてあげたい。こんな恋心、そのためならドブに捨てられる。
「…そんなに緊張しなくても、ルミネちゃんは俺が守るよ。行こう」
「うん!」
これで村ともおさらばだ。せいせいする。
ぶっちゃけ、今世の家族との仲は冷え切っていて、だから村への思い入れとかは一切ない。何故ならキルアくんを差別するからだ。
そんなクソみたいな村で過ごしたので、私の思い出は全てキルアくんとのものだけだ。
だからキルアくんが聖女ちゃんとくっついたら、そのまま村へは戻らず流浪の旅にでも出るつもりなくらい村が嫌い。
あばよ、人を平気で差別するクソ村!キルアくんを拒絶する村なんてこっちから願い下げだ!
「そういうわけで、これから仲間になるキルアだ。みんな仲良くしろよ」
「キルアです。よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「よろしく」
「よろしくー」
無事勇者一行と合流し、キルアくんは聖女ちゃんと出会った。
これから私は頑張って二人をくっつけようと思う。
「あと、キルアの付き人ちゃんのルミネちゃんも一緒に来るからな。か弱い女の子を困らせるなよ」
「ルミネです!よろしくお願いします!」
「よろしくね!」
「よろしく」
「よろしくー」
幸いにして、役立たずの私もキルアくんの付き人として受け入れられた。
危険な場所に行くときも結界を厳重に張られた上で連れて行ってもらえる。
怖い目にも何度も遭ったので度胸だけは身についた。戦闘センスはまったくないが。
なんだか気づいたら、無力な私は囮役として役に立っていたりする。
どんな形であれみんなの役に立てるのは、嬉しい。みんな、いい人だから。
「お疲れ様ー」
「いやー、勝った勝った」
「ルミネさんが敵の注意を引いてくださったおかげですね」
「ありがとうな、ルミネ」
「…ルミネちゃん、大丈夫?」
心配そうにしているキルアくんに思わず頬が緩む。やっぱりキルアくんはかっこよくて可愛い。
「うん、なんか知らないけどお役に立てたなら何よりだよー」
「ルミネちゃん、あんまり無理しないでね…ごめん、離してあげられなくて」
「うん?いいんだよ、故郷を離れて寂しいのはわかってるよ」
キルアくんは優しくて気にしいだなぁ。
「そうじゃなくて…」
「それより聖女ちゃん、見ましたか!?今日のキルアくんの活躍!颯爽と魔法で敵を消し去る姿!もちろん皆様大活躍でしたが、キルアくんかっこよかったですよね!?」
「ふふ、ええ!私もそう思うわ!さすがはキルアさんね!」
聖女ちゃんと手を取り合ってキャッキャとキルアくんを褒め称えまくる。
聖女ちゃんにいかにキルアくんが素晴らしいかアピールだ。
その間、キルアくんは聖女ちゃんに褒められて嬉しいのか目がとろんとして可愛い可愛い表情になる。なお多分本人は隠してるつもり。
聖女ちゃんと長々とキルアくんについて語り合った後、席をちょっと移動して勇者くんの隣に座る。
勇者一行の魔物退治の打ち上げは長いのだ。
「勇者くん、隣ごめんね」
「ん?もちろん構わないぞ」
「勇者くんって本当にかっこいいよねぇ」
「そうか?」
「すっごくかっこいいよ!優しくて強くてまさに勇者様!でもこういうオフの時が一番好きだな。ふとした瞬間の横顔が素敵」
勇者くんと聖女ちゃんを引き離すための作戦だ。我ながら性格が悪い。
とはいえ、嘘はついてない。全部本音。ただ、キルアくんには及ばないよねってだけ。
勇者くんには魔眼があるから、嘘は通用しないからね。本音だけでアタックだ。
「…ありがとう。俺、魔眼持ちだから全部本音で言ってくれてるのはわかってる」
「ん。知ってるよ」
「けど、あんまり俺とベタベタし過ぎると…妬かれるぞ?」
「誰に?」
聖女ちゃんかな。
「俺を無条件に、心から好いてくれるお前のことが…結構好きだからこその忠告だ。お前は身近な人の好意にもっと敏感になれ。俺たちの間の好意が友情でしかないと、憧れでしかないと…あいつは気付いてない」
いや、聖女ちゃんには誤解してもらっておいた方が好都合だからさ。
いいんだよ、これで。
「勇者くん、大好きだよ」
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「ルミネちゃん」
後ろから、聖女ちゃんとイチャイチャしてるはずのキルアくんがにゅっと出てきた。
どうしてかな、いつも優しいキルアくんの周りの空気が冷たく感じる。
聖女ちゃんと喧嘩でもした?
「キルアくん、どうしたの?」
「…ルミネちゃんが一番好きな人は誰?」
「え?」
「誰?」
ありゃ、これは相当参ってる。
キルアくんは精神的に限界になると私にいつもこの質問をする。
そして私が勢いよくキルアくん!と叫ぶのを見て心底安心した顔をするのだ。なおいつも問題はその後に自力で解決している。
…けどなぁ。
今、その質問には答えられないなぁ。
「…」
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「…俺だよね?」
不安そうに潤んだ瞳。可愛いなぁ。
これも聖女ちゃんとイチャイチャするための試練だよ、キルアくんがんばれ。
「…えっと、私ちょっと夜風に当たってくるね」
「待ってよ」
「ごめんね」
さっさと場を離れて夜空を見上げつつその辺を散歩する。
キルアくんは別に追いかけてくることもなくて。
それが寂しいなんて、どうかしていた。
「…ふふ」
聖女ちゃんとキルアくんはお似合いだ。
くっついて欲しい。心からそう思う。
でも、本当はキルアくんを独占したい。
…なぁんちゃって。
無理だよ、無理。
無理無理無理無理無理無理。
「ははははは…」
喉の奥から乾いた笑いが出て、さらに笑う。
…好きだなぁ、本当に。
「ルミネちゃん」
…あれ?
追いかけて来なかったと思ったんだけど、いつのまにやら後ろにキルアくんがいた。
「ねえ、やっぱり怒ってる?」
「え?」
「魔王討伐なんかに巻き込んで」
「そんなことないよ」
「じゃあなんで当てつけみたいなことするの」
当てつけ?
「聖女ちゃんに俺の自慢してくれるのは、まだ好きでいてくれてるって思って嬉しかったからまだ…まだ良いよ。ルミネちゃんに褒められるのは、どんな状況であれ頭溶けるくらい嬉しいから。それでも…正直、嫌だけど。まるで俺と聖女ちゃんをくっつけようとしてるみたいに見えて」
あれまバレてる。
「でも勇者くんについては違うよね?あれはもう完全に当てつけだよね?今まで俺以外の男をあんなに褒めたことなかったのに!!!」
初めて、キルアくんが私に声を荒げた。
ちょっとびっくりする。
「い、いや、恋くらい自由だと思ったんだけど…」
「…は?」
「あの、誰かを好きになるのに理由は要らないというか」
実際には恋してるのはキルアくんに対してだけど、まあ言うわけにもいかないし言い訳にもちょうど良いし、今ここに魔眼持ちは居ないし。
そういうことにしておきましょう。
なのでこっちは気にせず聖女ちゃんに押せ押せで行こうぜ。
「…あー、はは。なに?え?…恋」
「う、うん」
「じゃあ俺は?俺のことは?」
「え?もちろん幼馴染として深く深ーく愛してるよ!」
海よりも深くね!
まあ、恋愛感情込みだけど。
「へー。あっそう…なにそれ。ウケる」
「…キルアくん?」
「んー…一応、お役目だからね。魔王討伐は頑張らないといけないんだけど。ご褒美はあってもいいと思わない?ルミネちゃん」
「え?」
話題が急にすり替わった?
「ね、ルミネちゃんもそう思うよね?」
「あ、うん!キルアくんにはたくさんご褒美があると、私も嬉しいよ!」
「はは、ははは…ルミネちゃんは、本当に俺が好きだね」
「うん!」
「でももう、一番じゃないんだよね?」
…答えられない。
一番好きだよなんて言えないし言わないもん。
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「ん?」
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気が付いたら、キルアくんからなんだか甘ったるい嗅いだことのない匂いまでして。
目を逸らせない。匂いが立ち込める。
クラクラ、クラクラ。
「ねえ、ルミネちゃんのこと世界で一番に幸せに出来るのは誰?」
「…キルアくん」
「そう、正解」
頭を撫でられるとふわふわして、幸せな気持ちになる。
「ルミネちゃんのご主人様は誰だっけ?」
「ご主人様…?」
「そう…わかるよね?」
ご主人様、ご主人様は…。
「キルアくん…」
「正解」
ちゅっと頬にキスされる。
身体が熱い。
脳が焼ける。
私、今までなにしてたんだっけ。
今、なにしてるんだっけ。
「ルミネちゃん、俺と付き合ってくれる?魔王討伐後、すぐに結婚しようよ」
「うん…」
「よかった。じゃあ、魔王討伐まではこのまま…夢見心地でいてね?俺の言うことを聞いていれば、幸せなんだよ」
「うん…」
そこからは靄がかかったみたいに意識が朦朧として、ただただなんとなく程度しか認識できなくなった。
いつも目の前にいたキルアくんだけが私の全てになった。
そして魔王討伐が終わって、みんながそれぞれ元の村に戻って、勇者くんと聖女ちゃんは原作通りくっついて…キルアくんは、私と結婚した。
そして今は、新居で二人きり。キルアくんは元いた村でなく、王都に良い家を買った。ソファーの上で、私を膝に乗せて向かい合わせになるキルアくん。
そこで初めて、自我が戻った。
「…え、あ、え」
「ああ。とうとう解けちゃったね。思ったより解けないから、このままにしとこうと思ったんだけど」
「き、キルアくん」
「勇者くんは多分、君への洗脳に気付いてたよ」
洗脳。
え、怖い。
そもそも何故私なのか。
「けど、なにも言わなかった。魔王討伐を優先したんだ。そして、その後も自分と聖女ちゃんとの結婚を優先した。俺の行為を咎めなかった。わかるかな。勇者くんはルミネちゃんを見捨てたんだよ」
「…」
「青ざめた顔も可愛いね。ね、俺が愛してあげる。だから全部諦めようね」
首にキスマークを付けられる。
それを恍惚とした表情で見つめるキルアくん。
…うーん。
もしかしてキルアくんは私を好きなんだろうか。
いつのまに?なんで?そして何故ヤンデレているの?
「えっと、キルアくん」
「うん」
「どうして…」
「…好きだから。ルミネちゃんのことが世界で一番大好きなんだよ。愛してる」
「そっか…私も好きだよ」
とりあえず、気持ちを伝えてみる…が。
「…はは。そんな嘘が通用するわけないでしょ」
「キルアくん」
「どれだけ言い訳しても、もう離してやらないから」
君が悪いんだよ、と囁かれソファーに押し倒される。
うーん。
これで幸せを感じる私も大概おかしいんだよなぁ。
どうしよう。
明日から信じてもらおう大作戦を決行することにして、とりあえず今は好きな人と肌を重ねる幸せを味わおうか。
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