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溺愛される結果になった

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「シャルロット!聖女候補であるエマに嫌がらせをするとは何事だ!貴様には愛想が尽きた!貴様との婚約は破棄だ!」

婚約者の王太子殿下は、浮気相手であるエマ様の肩を抱き寄せ私にそう宣言した。

この、王太子殿下の誕生日パーティーの場で。

勝ち誇った顔で私を見つめるエマ様。

わたくしは…もう、諦めた。

「そうですか…わかりました」

「ふふ」

エマ様がさらに笑みを深める。

だが、わたくしは負けを認めるわけではない。

肉を切らせて骨を断つ、という作戦だ。

「王太子殿下に掛けられた魅了の呪いを、わたくしの命と引き換えに解いて差し上げますわ」

「…は?」

「貴様、何を言って…」

戸惑う王太子殿下に微笑む。

エマ様は焦り出すがもう遅い。

「…」

わたくしは祈りの力を発動した。

エマ様は聖女候補ではあるが、わたくしも聖女候補。

エマ様ほど力が強いわけではないので、エマ様の掛けた呪いを解くならば命がけになるが…必ず成功させる。

そして、光が王太子殿下を包み込む。

王太子殿下は目を覚ました。

「ああ、僕は一体どうして呪いなどに負けてしまっていたのか…シャルロット嬢。清廉な君が嫌がらせなんてするはずがないのに…騙されてごめん。婚約者である君を蔑ろにして、無実の罪まで被せようとしてしまった」

「いえ、いいのです」

「その上愛してもいない女性に愛を囁いていたなど、吐き気がする。助けてくれてありがとう」

「はい、お救いできてよかった…」

「…シャルロット嬢?」

王太子殿下の無事を確認して、わたくしは意識を失った。










「…僕のせいで申し訳ない。だが、本当に助けられました」

「いえ、王太子殿下のせいではございません。娘も王太子殿下を助けられて、この上ない栄誉だと思っているはずです」

騒動の収集は父上に任せ、僕はシャルロット嬢とシャルロット嬢のご両親を連れて自室に戻った。

宮廷医師団を部屋に呼んで、シャルロット嬢を診てもらう。

その間にシャルロット嬢のご両親に謝罪する。

僕のベッドで眠るシャルロット嬢は、小さくなっていた。

その姿は五歳くらいの女の子だ。

「診察は終わりました」

「どうだ?」

「呪いを解くため、己の命を犠牲にしようとしたのでしょう。ですがシャルロット様は聖女候補。シャルロット様の身体はギリギリのところで耐え、これ以上の消耗を防ぐために幼い姿に変わった…というところでしょう」

「それしか考えられませんな」

「元には戻るのか?」

全員頷いた。

「それはもちろんです。ですが、聖魔力が回復するまではこのお姿のままでしょう」

「いつまでかかる」

「ひと月程です」

なんてことだろう。

僕は婚約者からそんなにも長い時間を奪ってしまったのか。

「本当に申し訳ない…」

「いえ…」

「…なにか出来ることがあれば言って欲しい」

罪滅ぼしくらいはしたい。

そんな思いで言ったのだが、思わぬお願いをされた。

「それでしたら、お忙しい王太子殿下には申し訳ないのですが…」

「なんでも言ってくれ」

「娘と、週に一度会ってやって欲しいのです」

「シャルロット嬢と?…ああ、もちろんだ」

頷けば、ホッとした表情。

そして、僕は幼くなったシャルロット嬢と交流を持つこととなった。

婚約破棄宣言は、もちろんその後改めて公式に撤回した。

父上は僕をお叱りになったが、王太子でいることを許してくださった。

そしてエマ嬢は僕を使って国を思うままにしようとしたと判断され、禁固刑に処された。

多分、一生牢から出られないだろう。













幼くなったシャルロット嬢は、記憶と知識はそのままらしい。

けれど、見た目に合わせて言動も幼くなったと聞いている。

どんな反応をされるか緊張しつつ、シャルロット嬢に会いに行く。

「ヴァレール様ぁー!」

「ああ、シャルロット嬢。走ったら危ないよ」

幼くなったシャルロット嬢は、僕を一目見て駆け寄ってきた。

シャルロット嬢はこんなにも素直な子供だっただろうか。

そういえば、僕は必要最低限の関わりしかシャルロット嬢と持っていなかったな。

立派な王になりたいからと、勉強ばかりに夢中になっていたが…もしかして、シャルロット嬢は本当は幼い頃もこうして僕と会いたかったのだろうか。

だとしたら、酷いことをしたかもしれない。

「むー、シャルって呼んでください!」

「…シャル」

「わーい!」

無邪気に笑うシャルロット嬢…シャルに、なんとも言えない気持ちになる。

思わず聞いてしまった。

「シャル、僕が好きかい?」

「はい、好きです!」

「僕は君に構ってあげなかったのに?」

「でも、ヴァレール様の頑張りはわたくし知ってますもの!」

シャルの言葉に驚いた。

「え?」

「たまにいただくお手紙で、立派な王になるため頑張っていると書いていたでしょう?なにをしたとか、なにを学んだとか。そんなヴァレール様だから好きなの!だから、構ってくれなくても大好きですわ!」

そんなことを言ってにこっと笑うシャル。

僕は、そんな幼い彼女にどうしようもなく惹かれるのを感じた。

そして、一途に自分を想ってくれていた彼女に酷いことをしたと反省した。

構ってこなかったことも、濡れ衣を着せるところだったことも。

全て取り返しがつかないことになるところだったのだ。

それを他でもない彼女がこうして助けてくれて、こうして教えてくれた。

だから、せめてこれからは彼女の献身に報いたい。

「シャル、なにか望みはあるかな?」

「じゃあ、一緒にお昼寝したい!」

「え?」

「お願い!」

そしてシャルのためにお昼寝した。

けれどそれも僕のためのおねだりだと知った。

横になるだけのつもりが、いつのまにか寝落ちしていて目が覚める。

「んん…おはよう、シャル」

「おはようございます、ヴァレール様。よく眠れましたか?」

「うん、頭がスッキリしてる」

「睡眠もお昼寝も大事ですよ!どうかご自愛なさってね」

にこっと笑うシャル。

僕の体調を気遣ってくれたようだ。

実際、シャルのことが心配で眠れなくなっていたから助かった。

「ありがとう、シャル。君はどうしてそんなにも…僕を慕ってくれるの?」

「だってわたくし、ヴァレール様に光を見たんですの」

「え?」

「国を想い民を想うヴァレール様は、この国の希望です。そんなヴァレール様の支えになりたくて…」

照れたように頬を押さえる。

僕はどうしてこの可愛らしい少女を顧みることなく自分のことばかりを優先してしまっていたのか。

「シャル」

「はい」

「これからは、君を大切にする。…ごめんね」

「ふふ、許して差し上げます!」

ああ、この子を僕は…守りたい。

今更、なのだけど。














ひと月の間、毎週シャルを構いに行った。

そして、シャルが元に戻ったと連絡がきた。

シャルに会いに行く。

「…シャル」

「お、おおお王太子殿下、ごきげんよう!」

どもっているのを見るに、幼児化していた時の記憶もあるらしい。

「シャル、今までごめんね」

「え…」

「君を構ってあげられなかった。僕の将来のお妃様なのに」

「そ、それは…」

「いつものように抱きしめてもいいかな?」

シャルはその言葉に固まった。

そして顔を真っ赤にしてコクリと頷いた。

僕は、このひと月ほど会うたび毎回していたようにシャルを抱きしめる。

「…本当にごめん。これからは大切にする」

「はい、許して差し上げます…な、なんちゃって。えへへ」

自分で言って、困ったように照れ笑いをするシャル。

その笑顔に、小さなシャルと同じ可愛らしさと愛を感じて思わず強く抱きしめた。
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