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妹が体調を崩した

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学園から急な連絡があった。エレナが体調を崩して保健室で休んでいるらしい。報せを受けてすぐに迎えに行く準備をする。

歩き方がふらふらしていて、どこか意識が上の空らしい。熱はないとのことだった。保健室では休ませてやるくらいしか出来ないらしく、後で医者に見せてもらうよう言われた。リナリー女医に至急連絡を取り、出来るだけ早く屋敷にお連れするよう使用人に頼む。

馬車に急いで乗り込み、出発する。仕事の忙しさにかまけて、エレナをよく見てやれなかったと後悔する。毎日顔を合わせて話もしているのに。可哀想なことをしてしまった。

幸いにも皇太子殿下がわざわざ〝お姫様抱っこ〟で保健室に連れて行き、今も側にいて手を握っていてくださるらしいので…兄としては複雑ではあるが、まあ、エレナも心細くはないだろう。

…だが、手を握っていてくださるのは有り難いが、お姫様抱っこは必要だったのだろうか?いや、ふらふらしていたならまあ、仕方がないのか…兄としてはやはり複雑だ。

エレナは、皇太子殿下をどう思っているのだろう。もう、エレナのことは学園では有名になっているのだろうし…外堀はなんだかんだで埋まってしまっている。エレナが嫌がるなら連れて逃げるが…出来るなら、皇太子殿下と幸せになって欲しい。皇太子殿下も、私にとっては大切な方だから。二人が寄り添いあい微笑みの絶えない暮らしを送れるなら、私にとってはそれが一番いい。

学園に着くとすぐに保健室に案内される。ノックをし、中に入る。エレナの寝ているベッドの、仕切りのカーテンを開けると皇太子殿下がエレナの手を握って頭を撫でていた。

「やあ、マックス。エレナならこの通り、今はぐっすり寝ているよ」

「ご迷惑をおかけしました。ありがとうございます、皇太子殿下」

「好きな女の子を気遣うのは当然さ。それと…」

「…はい」

真剣な表情になる皇太子殿下に、姿勢を正し耳を澄ませる。

「…エレナの家庭環境を、少しだけ聞いた。多分、一番肝心なところは言われてないから全部ではないと思うのだけど」

「…エレナはなんと?」

「幼い頃はわんぱくだったと。マックス、君も木登りしたんだってね。見てみたかった!」

「くっ!」

いい笑顔で見てみたかったなどと宣う皇太子殿下は意地が悪い。弱いところを突かれて思わず何も言えなくなる。しかし皇太子殿下はすぐに真面目な表情になる。

「…エレナは、別邸で育ったと。ある日突然使用人達ががらりと変わり、虐待を受けて育ったと」

「事実です。お叱りは甘んじてお受けします」

「いや、マックスがそれを容認していたとは思わない。親に逆らうのは、マックスの立場では難しかっただろう?エレナは現に、マックスを大切に思ってる。それなら僕から言うことはない。…ただ、マックスにとってはそれすら罪悪感を刺激するかもしれないけどね」

「…おっしゃる通りで」

「エレナのスキンシップ恐怖症はそこから来てるんだね。…心の傷は、治りにくいからな」

「私ももっとエレナをよく見てやれるよう努力します」

「そうだ、医者はもう呼んだ?」

「医者を呼ぶ指示は出しています。早ければエレナを連れ帰る頃には着いているかと」

「そう…ごめん、もう僕にできることはないだろうから、見送りだけさせて」

「はい」

私はエレナを抱き上げて、皇太子殿下と馬車までご一緒した。

「エレナをよろしく」

「もちろんです。今日は本当にありがとうございました。またエレナが体調を戻したら、仲良くしてやってください」

「ふふ、それこそもちろんだよ」

馬車に乗る。エレナが少しでも楽な姿勢を取れるよう横抱きにする。…こうしてみるとやっぱり、エレナはまだまだ幼いな。
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