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妹はケーキ一つで幸せそうに笑う

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エレナをティータイムに誘う。エレナは中庭を気に入った様子だったので、今日は天気も良いし中庭でティータイムと洒落込むことにした。

エレナの大好きだったガトーショコラも用意させる。昔出してくれていたレシピで作って欲しいと頼んだ。懐かしい味を思い出してくれたら嬉しい。

エレナは私がエレナの好物を覚えていたことにとても喜んでいた。俺にとってはそのくらい当たり前なんだが…それでも喜ぶエレナが可愛くて、私はエレナの頭を撫でる。エレナは相変わらず手を伸ばせばびくりと震えるが、それでも撫でさせてくれた。撫でられている間は穏やかな表情になるので、いやではないはずだ。

ガトーショコラは昔と同じレシピのモノだと伝えると、エレナは更に喜んだ。幸せそうに笑う。可愛い。

昔の話を語らうと、エレナはますます幸せそうに笑う。そうして私も昔を思い出す。

私は公爵家の嫡男として恵まれた環境に身を置いていた。だが、その分公爵家の嫡男として期待も一身に受けた。

幸い、私は優秀な方だった。幼い頃から文武両道。完璧な嫡男。だが、褒めそやされることはあっても努力を認められることはなかった。

私は、私の努力こそを見て欲しかった。

私を息子ではなく後継として接する厳しい父も、父の関心を集めるために私を利用する母も、誰も私の努力に気付いてはくれなかった。

そんな頃に妹という存在を知って、母に近付くなと釘を刺されたが私は好奇心が勝り会いに行った。思えばそれが母に逆らった初めての記憶だ。

妹はとてもお転婆で、でも可愛らしい子だった。そして、あの子から見た私は他の人から見える私とは違うらしかった。

『お兄様はとても、一生懸命に頑張ってらっしゃるのね!』

なんでも器用にそつなくこなす、完璧な令息ではなく。努力して身につけた能力を最大限に引き出す。それが妹から見た私だった。そしてそれは、私が自覚する私だった。

それからは、妹の側に入り浸るようになった。妹は私を受け入れてくれた。妹の側は心地良かった。そう、本当は私こそが妹に救われていた。

次期当主というプレッシャーから救ってくれたのは妹だけだった。妹の側にいると、私は次期公爵ではなく自分自身でいられた。それだけで十分だった。

エレナの母君には、正直言って良い感情はなかった。まあ、妾だし。だが、この人がエレナを生んでくれたと思うと嫌な感情は吹き飛んだ。そしてエレナの母君は、私を大層気遣ってくれた。

それは私が次期当主だからとか、正妻の息子だからとかではなく、周りからのプレッシャーを感じている幼い少年への優しさだと気付いてからは、私は別邸の方が居心地が良くなってしまった。

…その後エレナの母君は亡くなられたので、母君とはもう少し多くを語らうべきだったと後悔したが。あの、エレナの母君の眩しい笑顔を、私はきっと忘れられない。だって今も鮮明に思い出せる。

その後、エレナと話していると何に感極まったか知らないが妹の侍女と私の護衛達が涙ぐんでいた。とりあえず放っておいても問題はないと判断してエレナにもそう伝える。今の話で感動するくらいなら、エレナへの忠誠心があると判断して良さそうだ。良い侍女を選べたと内心ホッとする。

ともかく、ティータイムはこうして穏やかに過ごすことが出来た。
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