上 下
1 / 1

発明家の天使に、実家が商会をやっている交渉上手な私が迎え入れてもらえた結果。

しおりを挟む
「今日からよろしくお願い致しますわ」

にっこり微笑む妻に、夫となったばかりのジャンはとても困った顔をした。

妻となった彼女はリナ。それなりに大きな商会の末娘だ。

リナの実家は、一応貴族の端くれである男爵家との繋がりのため。ジャンの実家は、リナの実家から用意された支度金目当てで結婚を決めた。

まあ、当然ながら実家同士の思惑があっての政略結婚。お互いに愛はない。

それなのに、可愛らしい笑顔を向けられて…あまり人付き合いの得意ではないジャンはどう振る舞えば良いかわからないのだ。

「えっと…うん、よろしく」

やっと口から出たのは、そんな平坦な言葉。ジャンは自分に絶望する。

しかし、そんなジャンの手をリナは両手で包み込んだ。

「優しそうな旦那様で良かった!」

屈託のないその笑顔。ジャンは、リナに恋をした。













「旦那様、何をされていますの?」

夫婦となった二人。何度も言葉を交わし、少しずつ距離を詰めていくがお互い知らないこともまだ多い。

「あ、えっと、これは趣味で…」

「まあ!もしかして魔道具の開発ですの!?」

本来なら、貴族のすることではない。魔法を得意とする平民達が、生きていくために行う仕事だ。だが、ジャンはどうしてもこの趣味を捨てられなかった。両親もそんなジャンを放っておいてくれるので、好きにしていたが…リナに、嫌われるだろうか?

「まあまあ、面白そうな魔道具!どう使いますの!?」

しかし、リナはノリノリだった。

「え?あ…えっと、血液を調べて特定の病気の検査に使う感じかな…」

「まあまあまあ!もう実用段階にあるんですの?」

「うん、ふつうに使えると思う。ただ…趣味で作ったものだから、特にどうする気もなくて」

それを聞いたリナは、パッと笑顔になった。

「旦那様、もしかして実用段階にありながら発表していない魔道具…たくさんあるのではなくて?」

「え?う、うん」

「ふふ、その研究内容…私に、託して見ませんこと?」

リナの言葉に、ジャンは目を丸くした。












結論から言おう。ジャンの男爵家は、それはもう大金持ちになった。ジャンのこれまでの様々な研究成果と、それを活かしたリナのおかげである。

「リナ、ありがとう。おかげでうちは裕福になったよ。領地改革にお金も回せて、領民達にもたくさん還元できた。両親も領民達も、みんな喜んでるよ。まだ幼い妹にも、将来結婚支度金を多めに持たせてあげられる。本当にありがとう」

「いえいえ、コツコツ研究を続けて魔道具を生み出してきた旦那様の成果があってこそ。私はその研究内容を、魔道具を作っている平民達へ与えただけですわ。代わりに、儲けの10%を男爵家へ返還するという契約でね」

ジャンが行ってきた魔道具の開発研究の成果。幼い頃からジャンがずっと続けてきたそれは、膨大な量になる。しかも、誰も手をつけていなかった医療分野における魔道具開発だった。治癒魔術でこと足りると、誰も医療分野の魔道具は作っていなかったのだ。

しかし、実はかなり需要はある。治癒魔術の発展していない外国への輸出を考えれば、かなりの利益になるのだ。

リナは旦那様がそれを今まで公にしていなかったのはちょっともったいないと思いつつも、だからこそ自分が嫁いできてから莫大な利益を得られたとホクホクする。商会の末娘として交渉に長けたリナだから、魔道具作成を生業とする平民達と良い契約を結ぶことが出来た。

「これからもまだまだ、彼らが得た利益の10%は男爵家に還元され続けますわ。でも、旦那様が研究を続けてくだされば更なる利益も見込めます。どうぞ、これからも頑張ってくださいませ。交渉は私に任せてくだされば大丈夫ですわ」

「うん、ありがとう。おかげで領地の景観も良く出来たし、領民達への教育にもお金を回せるし、領民達への税も軽く出来たし。もっと頑張って、もっと家族や領民達を楽させてあげられるよう頑張るよ!」

「ふふ。領民達に利益を還元すればその分、さらに男爵家に利益がもたらされるというもの。旦那様の頑張りは、旦那様の大切なものを全て幸せにしてくれますわ」

こうして、二人の奇跡的な掛け算によって男爵家は一気に発展した。領内ももちろんものすごく発展した。魔道具を作成する平民達も、大きな利益を得られた。その平民達から商品を仕入れて輸出しまくったリナの実家も、それはもうものすごい儲けを得た。

結果、ジャンが爵位を継ぐ頃にはその功績を称えられ子爵家に格上げされた。リナがジャンとの三人目の子供を産む頃には、リナの両親には商会の魔道具の輸出による国への金銭的貢献から男爵位を授けられた。

ジャンとリナの結婚は、みんなが幸せになる奇跡的な掛け算となった。

そしてジャンとリナの子供達も、それぞれ医療分野における魔道具の開発やそれを製品化する際の交渉などの腕を日々磨いている。

小さな領地…どころか、国全体がジャンとリナのもたらす利益により豊かになっていった。子供達も、やがて国に利益をもたらす天使となるだろう。

「リナ、君は僕の天使だ」

「ふふ、なら旦那様は私だけの天使ですわね」

今日も無邪気な笑顔を自分に向ける妻に、ジャンは優しく微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

私を婚約破棄に追い込んだ令嬢は、あなた以外の男性とお付き合いしてるのはご存知ですか。

十条沙良
恋愛
あなたはご存知ですか?カミラは他の男性ともお付き合いしてる事を。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

とある災厄の魔女のお話

下菊みこと
恋愛
あるいは天の国の使者のお話。 災厄の魔女がいかにして国を滅ぼしたのか。災厄の魔女は国中のすべての御霊を連れて、どこへ行くのか。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】私を醜い豚と罵り婚約破棄したあなたへ。痩せて綺麗になった私を見て今更慌てて復縁を申し出てきても、こちらからお断りです。

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
恋愛
「醜い豚め!俺の前から消え失せろ!」 私ことエレオノーラは太っていて豚のようだからと、 婚約破棄されてしまった。 見た目以外は優秀であっても、 人として扱ってもらえなければ意味は無い。 そんな理不尽な現実を前に、 ついにエレオノーラはダイエットすることを決意するのであった。 一年後、鏡の前に立つ。 そこにもう豚はいなかった。 これは人となったエレオノーラが、 幸せになっていく物語。

婚約破棄されましたが、友人の兄にプロポーズされて結婚することになりました。

ほったげな
恋愛
婚約破棄された私。その後、友人の兄に一目惚れされてプロポーズされました。

令嬢は敵国の騎士に恋をしました

絹乃
恋愛
負傷した敵の騎士を助けた令嬢のお話。薬草の知識のあるわたしは、敵である彼を助けました。彼の首には指輪を通した鎖が。元気になれば彼女が待つ国へ帰るのね。ずっとここに居てほしい、でもそれはきっと無理な願い。

処理中です...