もう我慢するのはやめる

下菊みこと

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ドカ食いしまくる令嬢のお話

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私は侯爵家の一人娘で、元婚約者は辺境伯家の次男。

元婚約者はやがてうちに婿入りして、うちの侯爵家を継ぐ予定だった。

だというのに、奴はこともあろうに浮気しやがった。

結果婚約は解消することとなり、奴の私財から多額の慰謝料をせしめて別れた。

奴は家を追い出され、残り少ない私財を持って市井に生きることになった。

しかし奴は転んでもタダでは起きない男だ。

辺境伯家で鍛えたクソ強フィジカルであっという間に冒険者として名を馳せて、浮気相手でしかなかった女と幸せになりやがった!

ふ○っきゅー!!!

許すまじ!!!

こっちはテメーのせいで女侯爵になれとか無茶振りされて跡取りとしての勉強に忙しいって言うのによー!!!

まあ、言って私の性に合ってたらしく実は父の手伝いがてらの跡取りとしての勉強も楽しいっちゃ楽しいけど。

でも忙しいんじゃボケー!!!

私も他にも楽しみが欲しいー!!!

というわけで、もう我慢するのはやめる。

お前から貰った慰謝料で好きなもんドカ食いするぞオラー!!!










「今日からよろしくね」

「は、はい!!!」

好きなものを好きなだけドカ食いするため、家で雇う料理人とは別に私専用の料理人を用意した。

親や元々いる料理人の許可も得てる。

雇う費用もたくさん作らせるのにかかる費用も当然自費で出す。

そんな私専用の料理人さんは実は料理の専門家ではなくスラム街から拾ってきた棄民である。

拾ってきてから身綺麗にして、ある程度の教養を身につけてもらってから正式に採用した。

これも親や元々いる料理人の許可を得ている。

なので料理の腕は初心者同然だがそんなことはどうでもいい。

なぜって、私が食べたいのはタコスだから!!!

この国のプライベートシェフも作り慣れてないものなら初心者に作らせても変わるまい!!!

いや、変わるか。

でも良いんだ。とにかくありとあらゆる種類のタコスを食べまくりたいのだ。

レシピは手に入れまくった。

材料もその都度買える。

私専用の料理人さんはレシピを読める程度の教養も身についた。

手先が器用なのは知ってる。

うん!!!

問題ない!!!

「じゃあ今日はお昼はカルニタスがいい!」

「かしこまりました!たくさん準備してお待ちしております!」

今日もお父様の手伝いをしながら、侯爵としての仕事を覚える。

そしてお昼。

私の部屋の机の上は、カルニタスのタコスのセットが。

「わー!!!これ全部食べていいの!?」

「は、はい!」

「いただきます!!」

私はタコスを食べる。

食べて食べて食べまくる。

「美味しー!!!」

「お、お嬢様、凄い勢いで食べてますけど大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫!コルセットつけてないから!飲み物も飲んでるから!」

「そういう問題かな…」

めちゃくちゃ食べまくる私に、専属の料理人になってくれた彼…ルカは心配してくれる。

「ルカは心配性だね」

「お嬢様は俺を救ってくれた方ですから」

「気まぐれだけどね」

「十分です」

そんなことを話している間にも食べ尽くした。

結果テーブルの上は空。

「あれだけ作ったのに…」

「ふぅ、ご馳走さまでした!」

満足!!!

「夜はカルネアサダのタコスねー」

「は、はい!」

こうして私は見事に、好きなものを好きなだけ食べる生活を手に入れたのである。















あれから半年。

私は父からたくさんのことを教わって、日々次期侯爵としての知識を蓄えている。

そして、毎日好きなだけタコスのドカ食いを楽しんだ。

タコスにも色々な種類があり、豚肉牛肉鶏肉ラム肉…ソースも色んなバリエーションがあるから飽きたりなんて一切しなかった。

いや、もちろん時々違うものも食べてるけど。

そんな私はたっぷりと肉がついた。

胸とお尻に。

貧相な身体がぼんきゅっぼんのグラマラスな体型になった。

いやぁ、なんの奇跡だろう。

デブではなくグラマラスに進化したのは嬉しい誤算だ。

まあもちろんお腹にもお肉はついたが、許容範囲内だし…うん。

そんなこんなで食に仕事に楽しい日々を過ごし、見た目もむしろ良くなった私。

全てが順調、あとは結婚だよね。

「ということでルカ、結婚して」

「…はい?」

「ルカと結婚したい」

「はい!?」

ルカは仰天する。

「やっぱり年上のお姉さんは嫌?」

「嫌ではないですけど!」

「ルカも結婚できる年齢でしょう?」

「そうですけど!」

「じゃあ何が問題なの?」

「俺は元々スラム街で育った棄民ですよ!?」

なんだ、そんなことか。

「戸籍はとっくの昔に用意してあげたでしょ」

「そうですけど!」

「ルカを親戚の養子にしてもらえるよう頼んであるから、貴族同士の結婚になるし問題ないよ」

「聞いてませんけど!?」

「言ってないもん」

私がそう言えばルカは呆れたようにため息をつく。

「俺を救ってくれた時といい、どうしてそうも強引なのか」

「一目惚れしたからだけど」

「え?」

「適当に恩を売れる棄民を探してたら、思いの外好みど真ん中のルカを見て惚れちゃったのよね」

「はいっ!?」

ルカは真っ赤になる。

脈ありでしょう、わかってる。

ぼんきゅっぼんのナイスバデーになってからというもの、ルカからの熱い視線も感じるしね。

「問題は私が全部排除する。家族の許可も得てる。だから、ね?お願い!」

「…お嬢様」

ルカは真っ赤な顔で頷いた。

「そこまで貴女が求めてくださるのなら」

「やったー!ルカ愛してるー!でも婚約しても結婚してもタコスは作ってね!」

「作りますけど…」

困った人ですね、とこぼすルカはそれでも幸せそうな表情で。

だから私も飛び切り幸せな気持ちになった。
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