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パパの婚約者だった人

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「…ぼーっとしてどうしました?お嬢様」

「マリー、あのね」

乳母のマリーに聞いてもいいのかちょっと悩む。

「なんでしょう?」

「…あのね、あのね。パパの大切な天使様ってだぁれ?」

「それはもちろんお嬢様です」

そうだけどそうじゃない。
















あれ以降、私はあの〝天使様〟が気になって仕方がない。

とても綺麗な人で、好みドストライクなのもあるけど…なんだか、とてもとても引っかかるのだ。

知っておくべき大事なこと、な気がした。

気になる夢も、よく見るようになってしまったのもある。あまり、良くない夢だ。

けれど、探りを入れても誰も口を開かない。

「パパに直接聞くとまた悲しそうなお顔になりそうだから聞けないしなぁ」

庭で一人、ぽそっと呟いて視線を落とす。

「おや、お困りかな」

聞いたこともない声が、場違いな明るさを持って響いた。

視線を上げれば、明らかに怪しいお兄さん。フードを目深に被り、顔を隠している。

でも私にはわかる。

この人はイケメンだ。

最近顔のいい人によく会うなぁ。

「…警戒しないのかい?」

「お屋敷のお庭にいるなら、パパの知り合いじゃないの?」

「不法侵入者かも」

「お望みなら防犯ブザー鳴らしてあげようか」

「それはやめて」

ちなみにこの防犯ブザーも私の知識の元魔法で再現したもの。元々良かった領内の治安がさらに良くなった。

「それで、お兄さんだぁれ?」

「それはもうちょっと後でね」

「???」

後でとはなんぞや。

「そうそう。お嬢様は何に困っていたのかな?」

「んー…」

「大丈夫。秘密のお話だよ」

秘密のお話。

いいのかな。

「あのね、パパの天使様が知りたいの」

「それはお嬢様だろう?」

「違うの。本当に天使様になっちゃった、綺麗なお姉さんなの」

私がそう言えば、フードのお兄さんは笑う。

「誰も教えてくれないのかい?」

「うん」

「薄情だね。あるいは、腫れ物に触れる時のような優しさなのかな」

意味深な言葉に首を傾げる。

「その人はね、フラヴィ・ジゼル・ペリドット。とある伯爵家のお嬢様だったんだ。身体が弱い人でね。見たならわかるかな、儚げな美人だったろう?」

「うん、素敵な人」

「君のパパの婚約者だった人だよ」

なんでだろう。

心臓が止まるかと思った。

「…ああ、安心して。今は君もまた、パパの最愛だよ」

「う、ん」

わかってる。

でも。

「もし彼女がいたとしても、君はパパに引き取られていたと思うけどね」

「うん…」

「…心配しているのはそこじゃないんだね?なにが、そんなに気になるのかな?」

お兄さんは笑う。

…なにが、気になるか。

だって…あの、お姉さんは。

「夢でみたの」

「うん」

「あのお姉さんが、殺されるところ」

あの日以降、夢の中でいつも同じように殺されていたから。
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