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とてもとても怖かった

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「あの子が…」

「あの狂犬が実の娘のように可愛がっているという…」

「平民の血も混じっているのに、爵位まで継がせる気とは本気か?」

「まして女だというのに」

「…あんな娘にあの狂犬が懐くとは信じられん」

怖い。

パパの都合で、どうしても私を連れて高位貴族の集まる場に行かなくてはいけなくなった。

…皇帝陛下の、命令だって。

皇帝陛下はパパの従兄。

仲が悪くはないらしいけど、命令なら仕方ないんだろう。

「まあまあ、そこまでにしておきなさい」

皇帝陛下が現れる。

皇帝陛下はなにかパパに言って、数分前から他のところにやってしまった。

私はそれからずっと、独りぼっち。

怖い人たちに、圧をかけられていた。

怖い。

「でもね、お嬢さん。自分の立場は、わきまえるべきだね」

この人、他の人よりうんと怖い。

「僕はジャックの兄のような存在だ。だからね、ジャックには幸せになって欲しい。結婚して、子を成して。そんな普通の幸せ。だから君は邪魔なんだ」

「…」

「最近、ジャックに可愛がってもらって調子に乗っているようだけど。自分から、身を引こうか」

諭されるように言われて、声が出ない。

パパはそんな人じゃない。

一度拾った私を、今更邪魔者扱いなんてしない。

仲良くなる前だって、構ってはくれなかったけどそんな意地悪しなかった。

そう言いたいのに、言い返せない。

「…いい加減にしろ」

その時パパが帰ってきた。

命令を無視して。

「ジャック?僕はさっき席を外せと…」

「俺の娘に手を出すな!!!」

パパは、畏れ多くも皇帝陛下を怒鳴りつける。

「…ジャック?」

「アニエス。帰るぞ」

「…パパっ」

公の場でパパと呼んでしまった。

泣いてしまった。

でもパパは怒らない。

それどころか皇帝陛下を睨みつける。

「俺の娘を泣かせたな…」

「じゃ、ジャック。本当に、そんな子を我が子のように思っているのかい?」

「我が子のように…?この子は俺の子だ!!!」

パパの怒りに、誰も声を出さない。

不敬だと、引っ捕らえろと言い出す人がいてもおかしくないのに。

「…わかった。僕の認識が間違っていたようだね。平民の血が混じっていても、ジャックに幸せを分けてくれる天使様だったらしい。酷いことを言ったね。許してくれるかい?」

えぐえぐと泣きパパの足に縋る私を、パパは抱っこして皇帝陛下から守るように隠す。

「許すわけがない」

「…ああ、本当にごめんよ。ジャックの幸せを考えたつもりが、ジャックの幸せを壊そうとしてしまった。皆の者、これは僕の失態だ。どうかジャックと天使様を責めないように。そして、以後天使様を傷つける言動は僕が許さない。いいね?」

高位貴族の人たちは、一瞬ざわざわしたけれどパパと私に頭を下げた。

貴族が頭を下げることは、相当重いことだ。

でも、私の涙は止まらない。

「…いくら挽回しようとしたところで、今日のことは貴方が相手でも絶対に許さない」

「…うん、そうだね。でもどうか、これからも僕のそばにいておくれ。お前がいないと僕はダメになってしまう」

「…」

「その代わり、もう二度と天使様を傷つけないし傷つけさせない。これ以後は天使様を傷つけた者は僕に逆らったものとして処罰するから」

「…わかった」

これ以上は皇帝陛下に逆らうわけにいかないパパは引き下がる。

そしてそのまま、私を抱っこして連れて帰った。























もし。

私が記憶を取り戻していなかったら、パパと私の関係はどうなっていたんだろう。









































「…ああ、天使様に酷いことをしてしまった。その分天使様を庇護しなければ。爵位を継げるように、その後も苦労しないように。そうしたら、その頃にはジャックも許してくれるかな」

「失礼ですが…何故あの者をそこまで」

「ジャックは僕の弟分だもの。なのに今回は酷いことをしてしまったな…ねぇ、誰が僕に天使様がジャックの邪魔になると告げ口してきたんだっけ?」

びくりと男が肩を揺らす。

「ああ、お前か。よくも余計なことを言ってくれたね。八つ当たりかもしれないけど…僕の機嫌を損ねたお前が悪いよね?」

「へ、陛下っ?お、お許しください!陛下!陛下ぁっ!!!」
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