女公爵は軽薄に笑う

下菊みこと

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女公爵は少女を救う

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「様子がおかしい?」

「はい。どこかからいつのまにか可愛らしいぬいぐるみを拾ってきたのはいいのですが、その頃からなんだか…その…気が違ってしまったみたいで…」

「あらまぁ…詳しく話せるかしら?」

「…はい。森の中をぬいぐるみと一緒に探検していて、それだけならば微笑ましくて私も最初は歓迎していたんですが…」

「ええ」

「…その、薪を小屋の裏に積んでいるのですが、それを『お菓子だね、フレール』と言ってぬいぐるみに食べさせるような仕草をしたんです」

「…そう」

「そして…自分でも、食べてしまったんです」

「…」

「私は慌てて止めましたが、『魔女が邪魔をするよ、助けてフレール!』と言って暴れて…」

「なるほどね」

「その日からあの子、普通の食事を摂らないどころか、私を魔女、夫をその手下と言って近寄らなくなって…ぬいぐるみが原因かと思って捨てようとしたのですが、その度に大暴れで…」

「そう。苦労したわね」

「はい…」

「そのぬいぐるみだけれど、私が円卓金貨十二枚で引き取るわ」

「…え!?」

「そのぬいぐるみを引き取れば、時間はかかるかもしれないけれど娘さんも正気に戻ると思うわ。いいかしら?」

「ぜ、是非…!ありがとうございます!でも、そんなに良くしていただいていいんですか?」

「いいの。こちらとしてはあのぬいぐるみは喉から手が出るほど欲しいしね」

「そんなに価値があるのですか…?」

「ええ。コレクターにとってはね」

「そうですか…」

「娘さんは今どこに?」

「森のどこかをぬいぐるみと一緒に探検している頃かと」

「わかったわ。ぬいぐるみを引き取る際ちょっと手荒な真似をしてしまうと思うけれど、許してね?」

「は、はい」

「怪我はさせないから安心して。先に円卓金貨を払ってしまいましょうか。リュカ」

「こちら円卓金貨になります」

「わ…あ、ありがとうございます!これで夫と娘に毎日お腹いっぱいにご飯を食べさせてあげられる…あの子がおかしくなったのは、きっと飢餓のせいもあるんです。本当に親としては情け無い…公爵様、本当にありがとうございます!」

「いいのよ。あまり自分を責めちゃダメよ?あのぬいぐるみはちょっとした曰く品なの。貴女は悪くないわ」

「公爵様…ありがとうございます」

「リュカ。娘さんを探しに行くわよ」

「はい、ご主人様」

ー…

私はアラベル。大好きなフレールとは兄妹なの。

僕はフレール。大好きなアラベルとは兄妹さ。

まあるい紅い瞳がとても素敵なフレール。

まあるい蒼い瞳がとても素敵なアラベル。

私とずっと一緒にいてね。

僕とずっと一緒にいてね。

フレール、今日はどこに行く?

アラベル、今日はこっちに行こう。

あら、可愛いお菓子の詰め合わせ!

ほら、可愛いお菓子の詰め合わせ!

こんなにたくさんのお菓子を食べてしまっていいのかしら?

こんなにたくさんのお菓子だから、食べてしまっていいんだよ!

あら、魔女が誰かとお話してるわ。

ほら、魔女が君を貴族に売ろうとしている。

 どうしよう、フレール?

売られる前に魔女を倒してしまおう、アラベル!

でもどうやって?

火を放つのさ!悪い貴族ごと燃やしてしまおう!

さすがフレール!火を放つわ!

さすがアラベル!君は正しい!

さあ、小屋に火を…。

「そこまでよ」

「!悪い貴族!」

「あらまぁ…重症ねぇ…リュカ」

「はい、ご主人様」

リュカがきこりの娘に保護魔法をかけた上で、チェーンウィップで攻撃する。呪われているだけの普通の人間である少女は、あまりの痛みに気絶した。痛みは与えたものの、保護魔法のおかげで怪我はない。

「さて。リュカ、ぬいぐるみを回収。精神を癒す魔法と、精神を保護する魔法を娘さんにかけてあげて」

「もちろんです、ご主人様」

リュカはぬいぐるみを回収した。ぬいぐるみの呪いはリュカには通用しない。ぬいぐるみは成すすべもなく抱き上げられた。リュカがきこりの娘に精神を癒す魔法と、精神を保護する魔法をかける。これですぐに正気に戻るだろう。

「娘さんを小屋まで届けてあげましょうか」

「はい、ご主人様」

ー…

「アラベル!?」

きこりの妻が気絶して運ばれてきた娘に駆け寄る。リュカはきこりの娘をベッドに優しく寝かしてやる。

「気を失っているだけです。目が覚めたら元の娘さんに戻っていますよ。ただ、このぬいぐるみを拾ってからしばらくの記憶はないかもしれないですが」

「そうですか…」

「あとはよろしくお願いしますね」

「はい!」

「じゃあ、私達は失礼するわ。さようなら」

「ありがとうございました!」

こうしてきこりの家族の未来を救いつつ、ぬいぐるみの回収を終えたアンジェリクとリュカ。これでまたベアトリス皇女に献上できるとご機嫌なアンジェリクに、リュカは微笑ましい気持ちになる。

「そうだわ!ねえ、この辺りに美味しいパフェがあるレストランがあるんですって!二人で行きましょう?」

「私などでよろしければ喜んで」

リュカはアンジェリクに付き合ってパフェを食べにレストランへ行く。アンジェリクの嬉しそうな笑みに、リュカは蕩けそうな笑みで返した。
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