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これからここで暮らします

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ご機嫌よう。メランコーリッシュです。アトランティデにやって来ました。空から見たアトランティデは、とても広くて活気に満ちていました。これからここで暮らすのかと思うと楽しみです。そしてペガサスの引く馬車が皇宮に着くと、ニタが馬車から降りるのに手を貸してくれます。

「シュシュ、お手をどうぞ」

「ありがとうございます、ニタ」

馬車から降りると、いよいよ皇宮を案内されます。パラディースの王宮よりもさらに煌びやかで、ドキドキしてしまいます。こんなすごいところにこれから私なんかが住むなんて、びっくりです。本当にいいんでしょうか?

「シュシュの部屋は俺の部屋の隣に用意させてある。ここだ」

ニタに案内されて私の部屋に入ります。そこは塔にいた頃とは比べ物にならない広くて清潔で、ちょっとした小物なんかもおしゃれな可愛らしいお部屋でした。私なんかにはもったいない気もしますが、思わずテンションが上がってしまいます。

「わあ!」

「シュシュ、気に入ったか?」

「はい、とっても!広くて可愛らしいです!」

「そうか。よかった」

なでなでと私の頭を撫でてくれるニタ。はしゃいでしまったのが恥ずかしくて、思わず俯いてしまいます。私、こんなに幸せでいいんでしょうか?そして皇宮の案内の次に侍女を紹介されました。

「これからよろしくお願いします」

「どうぞよろしくお願いします、メランコーリッシュ王女殿下」

今度こそは侍女と仲良くなれたら嬉しいのですが…。仲良く出来るよう頑張ります。

「さあ、シュシュ。もう遅いし、食事にしよう」

「はい、ニタ」

その後、ニタと食事をとりました。アトランティデは主食がパンではなくパスタという食べ物で、とても美味しかったです。まだまだたくさん、アトランティデには美味しいものがあるとニタが言っていました。今から楽しみです。

お風呂に入って天蓋付きベッドに潜り込んで、今日一日のことを思い返します。

「…なんだか、嘘みたい」

今日はとても奇跡的な日でした。王女なのに、祝福の名も与えられず、塔に幽閉され、虐げられて来た私が、大国アトランティデの皇帝陛下の運命の番に選ばれたなんて。誰が想像できたでしょう。正直、未だに信じられません。いっそ嘘でしたと言われても納得できます。

「でも、ニタの柔らかな笑顔は本物…だと思う」

ニタは初めて私に優しくしてくれた人。もし、私なんかがニタの運命の番なんて間違いで、別の人が選ばれたとしても私はニタを恨まない。でも…ニタのあの笑顔は本物だった。だから…私はニタを信じるべきなんだと思う。でも…。

「手放しで、信じるのは…怖いよ」

もし、ニタに捨てられたら、私はあの生活に逆戻り。いや、もしかしたら国に戻ることすら父から許されずに平民として生きていくしか無くなるかもしれない。そうなってもニタのことを恨まない自信はあるけど、生きていける自信はない。きっと、平民としての生活は私が思うより過酷なのだろうから。

「…はあ」

眠れない。どうしよう。思考がぐるぐるして、気持ち悪い。

私がベッドの中でグズグズと考え続けていると、部屋のドアがノックされます。こんな時間に誰でしょうか?

「…はい、どうぞ」

声をかけるとドアが開いて、そこにはニタが立っていました。

「シュシュ、俺だ」

「ニタ!どうしたのですか?」

「いや…シュシュは初めて皇宮に来たのだし、緊張して眠れないかもしれないと思ってな。ホットミルクを持ってきた」

「えっ…ありがとうございます、ニタ」

ニタは私を心配してわざわざホットミルクを持ってきてくれたようです。本当に優しい方。私なんかにはもったいない方です。

「シュシュ。眠れないなら、少し一緒に話さないか?」

「はい、ニタ」

お部屋にある椅子に二人で座って、一緒にホットミルクを飲みます。

「ニタ。気を遣わせてすみません」

「いや…実は俺も、運命の番がここにいると思うと、眠れなくてな。柄じゃないが、緊張しているんだ」

ニタはやっぱり優しいです。

「ふふ。そういうことにしておきますね」

「…。シュシュには敵わないな」

困り顔のニタもかっこいいです。きっとニタはさぞかしモテるんだろうな。

「ニタは…」

「うん?」

「その…私なんかが、運命の番で、…大丈夫、ですか?」

きっと、こんなことを言うとニタを困らせてしまうけれど。それでも、どうしても聞きたかったのです。

「…当たり前だ。俺は、シュシュが運命の番でよかったと心底思っている」

ニタは、ちょっとだけ怒ったような顔をしています。私、なにかしてしまったでしょうか?

「だが、シュシュ」

「は、はい、ニタ」

「自分のことを〝なんか〟とか言うな。怒るぞ」

なんと、私のために怒ってくれたようです。

「あ…すみません、ニタ」

「もう言うなよ?」

「きょ、極力気を付けます…」

「約束だからな」

「はい…」

どこまでも優しいニタ。本当に、私にはもったいない方。

「…出会ってすぐにこんなことを言われても、信じられないのはわかるけどな。…俺は本当に、シュシュが好きだ。愛している」



「ニタ…」

「運命の番だから。愛おしいし、可愛らしいと思う。でも、たとえ運命なんてなかったとしても、シュシュに出会えたらきっと俺はシュシュに恋してた」

「えっ…」

「波打つ美しい金の髪も、蒼い瞳も、赤い唇も、白い肌も…とても美しいと、俺は思う」

「に、ニタ…ありがとうございます。でも、そんな気を遣わなくても…」

「お世辞じゃない。本心だ」

ニタの言葉に顔が熱くなります。

「ニタ…」

「ちょっと愛を囁くだけで顔を染める奥ゆかしさも可愛らしい。侍女に気遣いをする優しさも好ましい」

「え、えっと…」

「全部俺の本心だ。だから、俺を信じろ」

真っ直ぐな、強い瞳。自分の心を守るためには、この優しさを跳ね除けなくてはならないのだけれど…私は…。

「…いますぐに、は、難しいですけれど、…私も、ニタを信じたいです」

「今は、それで十分だ。シュシュ」

来い、と腕を広げるニタ。その胸に飛び込む。

「いつか、心の底からニタでよかったと言わせてやる。覚悟しておけ、シュシュ」

「その日を待っています。ニタ」

そのまま、言葉も交わさずにしばらく抱きしめ合う私とニタ。

「…そろそろ、部屋に戻るな。おやすみ、シュシュ」

「おやすみなさい、ニタ」

ニタに抱きしめてもらったおかげか、ぐるぐる思考は止んで、よく眠れました。
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