Antique Love

夏祭りの夜に

２ (4)

　
　膝の上に寝転び私を見上げるクマのぬいぐるみは、泣いていた。

　黒く丸い片方の瞳が濡れている。

　揺れる小さな小さな水たまりに、またポツリと水が落ちて、その水が自分のものだと気付いた。

「ご……っ、ごめん！」

　二宮さんが慌てた声を発した。ラムネ瓶を置き開いた両の手が、オロオロと動いているのが気配で分かる。私はというと、彼の慌て様に自分の涙腺の弱さと、分からず零れた粒を悔いていた。

「僕が変なこと言ったからだね……。ちょっと自虐的だったよ、反省してる」

　ごめんね、また二宮さんは謝った。ちっとも彼は悪くないというのに。

　だから彼は優しいのだ。全部を受け入れようとするその心には、きっと私なんかは持てない程の強さがあるに違いない。

　弱くて泣き虫の私は、二宮さんに「ごめんなさい」の言葉も出せず、ただ首を横に振って「あなたのせいじゃない」と伝えることしか出来なかった。

　　再び零れそうになる涙を必死に堪えようと下唇を噛む。

　視界の真ん中でぼやけるぬいぐるみの姿に「駄目だ、駄目だ」と心で何度も唱え、「何故泣くのだ」と自分を叱り……。

　これ以上彼を困らせるのも、この場を気まずくするのも、嫌だしいけないと思った。

「あの……麻衣ちゃん、」

　すると、二宮さんは下を向く私を覗き込んできて意外な事を。

「ありがとう」
「……え？」
「さっきの言葉、嬉しかったよ。自分のこと認めて貰ったみたいでさ、ちょっと救われた感じだ」
「二宮さん……」
「だから、もう泣かないで。君が泣くのを見るのは、その……辛いというか、困るというか……」

　顔を上げれば当然彼と目が合った。まだ涙が残っているのか相手の顔が少しぼやけている。

　まばたきをひとつしたらしがみ付いていた滴が頬を滑り、クリアになる視界。はっきりと目に映る二宮さんの親指が私の頬を撫でる様にして涙を拭いた。