Antique Love

奏 みくみ

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夏祭りの夜に

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 ***

 お祭りは、去年要子さんと浴衣を着て参加した“あれ”以来だった。花火大会も同時に開催される、要子さんの住む街で行われる県内でも有名な夏祭り。

 それから比べると、今日の“これ”は規模は大分小さいものの、この町では一番盛り上がる人気高いものらしい。

 参道は自分の想像以上の数の屋台と人で賑わっていた。

「小さい神社だからって馬鹿に出来ないなぁ。結構大々的なんだね」

 二宮さんはそう言って、まずは参拝するため屋台の裏を通って行くことを提案してきた。

 参道は屋台を楽しむ人と通行人がごった返していて歩きづらい。行きは人が少なめの裏を通り参拝をスムーズに終わらせてから、ゆっくり帰りがてら屋台を覗こう、と。

 私もそれに賛成した。この賑わいじゃ、お参りする前に人混みに疲れてしまいそうだもの。


「麻衣ちゃん、このお祭り知ってた?」
「いえ。……私、この町に越してきたのは今年になってからだし」
「そっか。あの店継ぐために来たんだもんね。前はどこに住んでたの?」
「百合岡に。イトコが住んでたし職場に近かったので」
「えっ? 職場?」
「私、高卒で一度就職してたんですよ」
「そうだったんだ!……社会人……僕より人生経験は先輩だね」
 
 「凄いなあ」と二宮さんはしみじみ呟いた。自分は高校生の夏にバイトした経験しかないと照れたように笑う。

 私は必要以上に感心を向けられ肩を竦めた。

「たった二年ちょっとですよ。バイトと対して変わらないです」
「何言ってんの、全然違うよ。それに今だって立派に店主じゃないか」
「……それこそ立派でも何でもない……ただ逃げてきた後の結果だもん……」

 提灯や屋台の電気、賑わいの声――明るい参道から外れた砂利道。

 同じ様に人混みを避けて歩く人達が砂利を鳴らす。サンダルで石を踏み締めながら、私は言葉も踏み締めた。

「お兄ちゃん! 待ってよ!」
「待つかよ、先着いた方がヤキソバおごりー!」
「なにそれ! 聞いてないしっ!」

 兄妹らしい浴衣の子供たちが派手な音と共に笑いながら横を駆けて行った。

 その音が「麻衣ちゃん?」と私を呼んだ彼の声をさりげなく隠そうとしてくれたので、それに乗じて聞こえなかったフリをする。

 顔を覗き込まれそうな気配に、私は俯いた顔を上げれなくなってしまった。

 社に近づくにつれ、この参道脇も人が増えた気がする。二宮さんは再び私を呼んだ。声を少し大きくしたのは、やっぱり聞こえなかったフリのせいだろう。

「麻衣ちゃん? どうしたの?」
「あれっ!? カガマイじゃん!」

 二宮さんの声と重なった聞き覚えのある声と、呼ばれ方。

 反射的にというか驚きにというか……とにかく私はその声にハッと顔を上げ――。

 声の主と視線が合った。
 
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