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テンイ編 4
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「秘密基地みたいだな」海斗は感想を漏らした。
天井に等間隔で照明が取り付けられているおかげで、地下にいるにも関わらず、内部をはっきり見て取れた。四面全てが金属で覆われており、所々に扉が付いている。アニメに登場しそうな秘密基地みたいな印象を受けた。ここから巨大ロボットが発進しても不思議はない。
内部は警報が鳴り響いており、英語のアナウンスが流れている。最終学歴中卒の海斗の英語の成績は普通だったので、ネイティブな発音の英語は聞き取れない。何を言っているのかわからない。
「施設の一部が破壊されたのと、侵入者が現れたと警告しているようだ」一朗太がアナウンスを通訳した。
「銃を持った連中が現れても不思議はないよね」美月はスカーを出現させ、最前列に立たせた。
「後ろは私に任せて」日奈は自分たちの背後に、通路を塞ぐほどの巨大な盾を出現させた。
海斗はちょっと呆気に取られた。少し見ない間に、二人の妹がとても頼りになる存在になっていた。成長したんだろうと、後で喜ぶことにした。今は救出に集中する。
「どこにいるのかわかるか?」カオナシに訊いた。
(わかる。私の言う通りに動け。ただし、警戒を怠るな)
四人は走り出した。
暫く直進してから右に曲がったところで、アナウンスの内容が変わった。海斗には意味を理解できないが。
「緊急事態に付き、安全が確認されるまで各区画を封鎖するらしい」一朗太が通訳した。
床から、厚い鉄板がせり上がってきた。
「このまま進め!」
力を使って破壊しようとした海斗を制止した一朗太。美月は言われた通り、スカーを突っ込ませた。厚い鉄板は紙のように、簡単に破れた。一朗太の力で、金属から紙に変質したのだ。
(敵が来るぞ)
カオナシの忠告を海斗は伝えた。
向こう側から、アサルトライフルを持つ四人の軍人がやって来た。前列の二人が床の上に片膝を付き、後列の二人は立った状態で、海斗たちに銃口を向けた。警告なしで引き金を引いたが、何も起こらなかった。一朗太の力で、四丁の銃は丸ごとゴムに変質したのだ。それを知らない軍人たちは、混乱することなく素早く捨てハンドガンを握るが、それも丸ごとゴムに変質した。武器が使えないと悟ると、軍人たちは無理に戦わずに撤退した。
「逃げてくれるのはありがたいね」海斗は漏らした。テンイを冒険して学んだことだが、戦わずに済むのなら、それにこしたことはない。
「三十六計逃げるにしかずだ」一朗太は説明する。「一度引いて態勢を整えたら、またやって来るぞ」
「その前に、救出して逃げないとな」
(救いがあるとすれば、連中にとってここは重要施設のはずだから、重火器は使用しないだろ)カオナシは補足した。
敵と遭遇することはなかった。カオナシの分析では、情報を共有した上で、対抗策を考えているか、ここを戦場にする気がないとのこと。後者であれば、素直に喜ばしい。
(止まれ。左手の扉の先にいる)
海斗たちは扉を潜った。警報やアナウンスはこの部屋では鳴り響いていないが、その部屋は異様さに満ちていた。広い空間は白い光で照らされていて全体をよく見通せた。そのせいで、見たくないものまで見えてしまった。大きな円筒形のガラスが幾つも並んでおり、その中には人がホルマリン漬けで入れられている。人間でないのは、一目でわかった。
テンイの家族たちだ。
ここにはテンイの家族の標本が並んでいる。
「なんだよ、これ……」海斗は信じられない思いで、あるガラスの前に立ち触れた。中には全裸状態の通じ合う者が入れられている。
(人間どもめ……)カオナシは静かに、だが烈火の如く怒りに燃えていた。
「これが、ニューイーラが隠したい真実か……」一朗太は呟いた。
中には内蔵だけを保存しているものがあり、それを見てしまった日奈は、口を押えて必死に吐き気と戦う。美月も吐き気を催したが、気丈に日奈の背中を擦る。
(こうなる前に、二人を助け出すぞ)
カオナシに促され、四人は一番奥の扉を潜った。そこは手術室そのものだった。白衣を着た外科医らしき人たちが、闖入者に一斉に目を向けた。
英語で何かを言ってきたが、海斗には理解できない。と言うより、耳に入ってこない。手術台の上には、全裸状態のアマネが横たわっており、今まさに切開されようとしていた。少し離れた位置に、大きな台があり、その上にはゴンが横たわっていた。その光景に、海斗の中で何かがプツンと切れた。
外科医の一人を押し倒し、馬乗り状態で顔を何度も殴打した。周りの外科医たちは喚くのだが、美月はスカーの刀を逆刃状態して、外科医をフルスイングのように叩いた。スカーの力は凄まじく、成人男性を軽々と吹き飛ばし壁に激突させた。日奈は複数の盾を出現させて、外科医たちに突っ込ませた。壁に激突して気を失った。
外科医が気を失ったところで、海斗は立ち上がり、アマネの元へ向かった。
「起きろって」
呼吸器を外して、体を揺さぶったが、起きる気配はない。仕方ないので、頬を強めに叩きながら声をかけた。
アマネの口から呻き声が漏れ、瞼がゆっくり開いた。
「……かいと……?」寝ぼけ眼を海斗に向けた。
「約束を守りにきたぞ」
「やくそく……?」
「守るって約束しただろ」
ぼーとしていたアマネは、おもむろに上体を起こすが、麻酔の影響で体に力が入らない。海斗は手を貸して、アマネを起こした。
「頭、痛い……」アマネは右手で頭を押さえた。
ひとまず安心した海斗は、ゴンに顔を向けた。美月たちに起こされたゴンは、床の上に四股を付けて立っているが、こちらも麻酔の影響でふらふらしている。一歩を踏み出そうとするが、どさっとその場に倒れた。口を動かすも、呂律が回っていない。
「さっさと脱出しないとな」海斗は言った。
「その前にやることあるよね」美月は倒れている外科医から、白衣を奪い取って、アマネに渡そうとした。
彼女は意識が混濁しているせいで、自分のあられもない姿に気付いていないのだから、服を渡されても着替えるという思考に行きつかない。美月は無理矢理、白衣を着させた。海斗は気遣いができる妹に感謝した。焦りと緊張のせいで、全裸のまま街に連れ出そうとしていた。
「歩けるか?」海斗は訊いた。
アマネは弱弱しく頭を左右に振った。
「乗れ」海斗はアマネに背を向けて、両膝を曲げた。
アマネは倒れるように全身を預けたので、海斗は危うく押し潰されそうになった。踏ん張って耐えて、アマネを落とさないようにしっかり背負った。ゴンはスカーが担ぎ上げた。
「後は戻るだけだな」
(馬鹿を言うな)カオナシが言った。(あの入り口は、既に敵に抑えられていると思った方が良い。待ち構えている可能性が高い。出るなら、ここから出るぞ)
海斗は天井を見上げた。「今更だけどさ、崩落する危険性とかないかな」
二人を助け出したことで、心に少しだけ余裕が生じて、そういった可能性を考えられるようになった。今更ながら、かなりの危険を犯して入り口を作ったのだと実感した。
(それなら、入り口を作った時に、崩落してもおかしくなかっただろう。多分、大丈夫だ。ここも監視されているはずだから、悠長に出口を作っている暇もない。そこで私に考えがある)
海斗はカオナシの脱出計画を説明した。説明し終えたところで、扉が開き、一人の男性が入ってきた。現れた人物に、敏感に反応したのは日奈だった。小さな悲鳴を挙げて、美月の後ろに隠れた。
「侵入者ってお前らかよ。これが飛んで火に入るなんとやらってやつか」
日奈の兄、矢立陸治は、何が面白いのか不明だが、ケラケラと笑った。
海斗は陸治に対して攻撃的な視線を向ける。
「まあ、落ち着けよ。最愛の妹と再会できて、俺は今、気分が良いんだ」
「黙れ。臆病者のクソガキ」一朗太の言葉には侮蔑が含まれていた。
「何だって……?」陸治のこめかみに青筋が浮かんだ。一朗太に対してメンチを切る。
「日奈から聞いたぞ。父親は自殺し、母親は失踪。大切な人が次々と自分の元から離れていった。日奈まで離れていくのが怖くて、暴力によって支配することで自分から離れないようにした。家族の絆を信じられない、臆病者の発想だな」
日奈は美月の影から陸治を凝視した。「本当にそうなの……?」
「てめぇも殺す……」陸治は顔を紅潮させていたが、不意に冷静になった。「俺はここに勤めることになって、ある真相を知った。昔々、街を襲った大惨事の真相を。なあ、お前ら、黒い残暑の真相を知りたくないか?」
海斗たちの顔色が変わった。
「良い表情じゃないか!それが見たかった!」陸治は満足気にげらげら笑った。「知りたいのなら、相応の態度を取るのが礼儀だろ。お願いしますって頭を下げな」
「断る」間髪入れずに一朗太は拒絶した。「お前に頭を下げるぐらいなら、知らない方がいい」
「お前はそうでも、そっちの二人は知りたがっているようだが」
海斗と美月は顔を合わせた。
十四年前に起きた未曽有の大惨事。多くの死傷者や行方不明者を出した。原因は、未だに判明していない。どうして家族や友達は、理不尽に死ななければならなかったのか?その答えを知る人物が目の前にいる。だが、日奈に酷いことをした奴に、頭を下げるのは強い抵抗があった。対して、知りたいという強い欲求もある。
「惑わされるな。どうせ口から出任せしか言えない」一朗太は忠告した。
「おいおい。決めつけるなよ。俺は、お前以上に情報を持ってるんだぜ。例えば、そいつの中にいる奴についてとか」陸治は海斗を指した。
一朗太はすぐに反論の言葉が出なかった。「はったり、というわけではなさそうだな」
「お願いします。教えて下さい」日奈は美月の影から出て頭を下げた。
陸治はあからさまに不機嫌になった。「日奈。黒い残暑後にやって来た俺たちには関係ない話だ。お前が頭を下げても教える気はない。さあ。どうするお二人さん?」
「お願いします……」葛藤の末に、最初に膝を屈したのは美月だった。その表情は心底から悔しそうだった。
「妹は頭を下げたぞ。お前はどうする?」
「……お願いします……」海斗も頭を下げるが、心底から悔しそうだった。
陸治は腹の底から笑った。「いい!すげーいい!最高の気分だ!特別に教えてやるよ。あれは、お前の中にいるローブ・オブ・オーダー――この世界ではカオナシと呼ばれている奴が引き起こした。お前らは滑稽だぜ。なんの罪もない人間を何万と殺した奴といるんだからな!」
げらげらと笑う陸治の笑い声は耳に届かなかった。海斗は呆然としながら、自分の胸に視線を落とした。共に居る人物に、真偽を確かめようと口を開くが、言葉が発せられる前に、後頭部に強い衝撃が走った。パンッ!という快音が鳴った。
「だからどうした!」海斗と美月の後頭部を叩いた一朗太は叫んだ。稲郷兄妹は参謀殿を凝視した。
この反応は予想外だった陸治は、呆気に取られた。「いや、お前、大量虐殺した奴といるんだぞ……」
「だからどうした!」
「……お前、おかしいよ……」
「指摘されなくても知っている」一朗太は海斗、美月の順に睨んだ。「海斗。美月。それは今重要なことか?違うだろ!街から脱出するのが先決だろ!考えるのは後にしろ!」
一喝が効いて兄妹は気持ちを立て直した。
自分の思い描いた通りにいかずに、陸治の顔は悔しさで歪んだ。
「貴重な情報提供をするあたり、クソガキにしては役に立ったな。感謝しておいてやる。臆病者」
陸治の顔が再び紅潮した。「てめぇから殺す!」
「海斗!」一朗太が合図を出すと同時に、海斗たちの頭上の天井が液体となって、手術室へと流れ込む。海斗はすぐさま、四本の柱で支えられた黒い屋根を出現させて、液体と化した大量のそれから自分たちを守った。陸治は反応が遅れて、飲み込まれた。しかも手術室へと通じる扉は、紙に変質させてあったため、手術室から押し出された。
屋根を消滅させてから、海斗たちは天井を見上げた。円形の穴が出来上がっており、縁から水滴が一滴ずつ落ちる。穴の奥には青空が見える。海斗は自分たちの足元に円形の黒い足場を出現させ、エレベーターのように上昇させて外へと出た。突然できた穴を覗き込んでいた通行人たちは、海斗たちが現れたことに心底驚いた。
「外の空気は美味いね」海斗は新鮮な空気を肺一杯に取り込んだ。
「ここは、柴野地区か……」一朗太は現在地の把握に努めた。振り返れば、ニューイーラ本社ビルの威容が間近にある。
突如として、街全体に警報が鳴り響いた。続いてアナウンスが流れる。
「住民の皆様にお知らせします。現在、青葉特別区はテロリストの攻撃を受けています。テロリスト殲滅のために防衛軍が出動します。住民の皆様は安全が確認されるまで、最寄りの建物に避難してください。繰り返します――」
通行人たちは蜘蛛の子を散らすように、最寄りの建物に避難した。
「こんな時に、テロリストかよ」海斗は忌々しそうに呟いた。
「ボケるな。どう考えても、テロリストは俺たちだ」
一朗太の言葉を証明するかのように、戦闘車両が現れた。荷台で立っている軍人は、取り付けてある機関銃の銃口を海斗たちに向けた。
「日奈」一朗太は指示を出した。
日奈は複数の巨大な盾を出現させて、壁を作り上げた。これで、進路を阻むと同時に、視界を遮ることに成功した。盾壁の前で急停止した戦闘車両は、すぐに迂回した。
この隙に、海斗たちは逃げ出した。
「速く行ってくれ……」
海斗は頭上を見上げながら心から願った。
遥か頭上から、ヘリコプターのローター音が聞こえてきて、空から海斗たちを捜索している。簡単には見つからない工夫をしているとはいえ、ローター音が聞こえるのは心臓に悪い。海斗たちは、路地裏にいて上空から見つけづらいように、黒い屋根で姿を隠している。表通りは簡単に歩けない。防衛軍が捜索しているのもあるが、あちこちに監視カメラが設置してあるため、海斗たちの逃走ルートは筒抜けになっているのだ。
ローター音が少し遠くなったことで、海斗は胸を撫で下ろした。美月たちに顔を向けた。美月と日奈はそれぞれ、ゴンとアマネに付いていた。二人はようやく意識がはっきりしだした。一朗太は街からの脱出方法を一人で考えている。
「二人とも大丈夫か?」
「あまり大丈夫ではないな」ゴンは力がいまいち入らないのに関わらず、無理に立ち上がった。四股が微かに震えている。
「もう少し待って」アマネは壁に寄りかかった状態だ。
街から脱出するためには、二人の力も必要だと参謀殿が言ったので、ここで二人の回復を待っていた。加えて、一朗太が考える時間も必要だった。
「悪いが、あまり悠長に構えていられん」
一朗太が言った言葉を、海斗は通訳した。
「包囲網は確実に狭まっている。ここが見つかるのも時間の問題だ」
「まずは状況を説明してくれ」ゴンが言った。
一朗太の説明を海斗は通訳した。
「同族同士で殺し合うなど、やはり人間は――。いや。今はそんなことを言っている場合ではないな」
アマネは申し訳なさそうに海斗に顔を向けた。「ごめんね。私たちのせいで、同族を敵に回して」
「俺は約束を守っただけだ。何があっても守るって約束しただろ」
アマネは顔の筋肉が緩みそうになったが、寸でのところで堪えた。表情を正して、全身に力を入れて立ち上がった。
「足手纏いにはならないよ」
気合は十分だが、僅かにふらついている。
「街から脱出するにあたり、案があるなら聞かせてくれ」
「空を飛ぶのはどう?」アマネが提案した。
「却下だ」即座に反対した。「敵にはスナイパー…、狙撃手…、………狙い撃つのが得意な奴がいる。遮蔽物がない空を呑気に飛んだら、撃ち落とされるのが目に見えている。遮蔽物の多い地上を歩いた方がマシだ」
「単純に路面電車を乗り継ぐのはどうだ?」海斗が提案した。
「向こうがわざわざ俺たちのために、移動手段を残してくれていると思えない。よしんば、動いていても、速度が出ない。囲まれるぞ」
このあたりで、意見は出尽くした。一朗太並みに、頭の回転が速いのは、この中ではゴンぐらいだろうが、彼は青葉については無知だ。妙案は出てこない。他の四人にしても、知恵の泉のように、次から次へとすぐさま湧き出てこない。
「俺の意見を言わせてもらう」一朗太は注目を集めた。「実のところ、移動するだけだったら簡単だ。俺の力を使えば、建物を横断しながら街の外まで真っ直ぐ行ける。だが、ここから街の外まで、直線でもおよそ三十キロメートルある。走って向かうには体力がもたない。歩いて行くにしては遅すぎる。その途中で、監視カメラか避難者の通報で囲まれる可能性が高い。やはり現実的なのは、どこかで車を確保することだ」
「ちょっと待って。それって盗難するってことだよね?」美月が言った。
「そうなるな」
「それはちょっと……」倫理的な問題が発生してしまうため、凄く嫌そうな顔になった。
できれば海斗も、そんなことをしたくない。そんなことをしては本当の犯罪者になってしまう。自分は良いとしても、美月と日奈の経歴に傷がついてしまう。
「贅沢を言える立場だと思うか?悪いがこの点は飲み込んでもらうぞ」
「わかった」いの一番に同調したのは日奈だった。
「ちょっと落ち着こうな。日奈」海斗は諭す。「そんなことをしたら、経歴に一生の傷が残っちまうぞ。将来を考えれば、慎重にならないとな」
「私は、お兄ちゃんたちと一緒に居られるなら、そんなの気にしないよ。私は明日も地獄のような中で生きてきたから。私の将来よりも、お兄ちゃんたち一緒に居られる今が大切なの」
こう言われては、諭す言葉が出てこなかった。少々の葛藤はあったが、海斗と美月も飲み込んだ。
「奪う車はもう決めてある。防衛軍の車を奪うぞ」
「軍用車を奪うのか?」海斗は予想していなかった。てっきりその辺に落ちている車を盗むのかと思っていた。
「仕方ないだろ」一朗太はゴンに顔を向けた。「ゴンはでかい。軽自動車では乗り切れない。自然と、中型車以上になる。その辺にでかい車が落ちていて、運良くキーが刺さっているなんて奇跡に期待するのは現実的じゃない。だったら、既に動いている車を奪った方が現実的だ」
「それって軍人と戦うってことだよね?」美月は訊いた。
「そこが問題だ。俺たちは素人だからな。俺の力で、武器を玩具にできても、白兵戦となると、ほぼ確実に負ける。相手は訓練を受けたプロだからな。車を無傷で手に入れるためにも、力の使用は控えたいしな。そこで二人に期待したいんだが」
一朗太はゴンとアマネに顔を向けた。
「期待してくれて構わない」ゴンは言った。
「殴り合いはできないけど、力を使えばどうにかできるかな」
海斗が小さく挙手した。「白兵戦なら俺もできる。カオナシに鍛えてもらった」
「スカーと合わせて四人か。俺がサポートに徹すればいけるか……?」
流石に今回ばかりは、参謀殿でも自信を持てずにいた。だからといって、いつまでもうだうだ考えるタイプではない。決断し作戦を説明した。
一朗太は路地裏の影から、徐行に近い速度で周囲を捜索しているランドクルーザーを覗く。
運転席、助手席、後部座席、荷台、合わせて六人といったところか。一朗太は海斗たちに顔を向けた。海斗は黒い槍を握っている。
「時間との勝負だ。援軍が到着する前に片を付けてくれよ」
海斗が二人に通訳し、全員が頷いた。
ランドクルーザーが、襲撃地点と定めたところを通過した。
「今だ」
日奈は力を使って、ランドクルーザーの前方に盾壁を出現させ進路を塞いだ。急停止した車。続いて、ランドクルーザーの後方にも盾壁を出現させ退路を塞いだ。軍人たちは車から降りて、アサルトライフルを構えながら周囲を警戒する。
勢いよくゴンが飛び出し先陣を切った。スカー、海斗、アマネも続く。軍人の反応は素早かった。すぐさま銃口を向けて発砲しようとしたが、一朗太の力でゴムにされてしまい、リアルな造形の玩具の銃にされてしまった。銃を捨て、コンバットナイフを握りしめた。それもゴムにされてしまったのだが、まだ気づいていない。
ゴンは軍人の一人に体当たりし押し倒し、胸に前足を押し付けた。軍人はナイフでゴンの首を刺そうとしたが、刀身がくにゃりと曲がった。ゴンは首に鋭い牙を突き立てた。悲鳴を挙げる軍人。構わずにゴンは声帯を噛み潰した。
美月はスカーを操り、軍人の一人に逆刃の状態で斬りかかった。軍人は避けようとしたが、動けなかった。足元に視線を落とすと、道路が沼みたいになっており、足首まで浸かっている。大振りの一撃は、右肩に直撃。鎖骨が折れる嫌な音が鳴った。軍人は小さな悲鳴を挙げて仰向けに倒れた。
海斗は一朗太の力で、身動きが取れない軍人に向かって、石突で鳩尾を狙った。ずれてしまったが効果はあった。軍人は思いっきり突かれたところを両手で押さえて、前屈みになった。海斗は差し出された頭を思いっきり叩いた。軍人は前のめりになりながら倒れた。
アマネは背中に翼のようなものが出現すると同時に、二人の軍人の頭上から見えない力の塊を振り落とした。拳骨をするような形になった。脳天に直撃した二人は、ふらふらとしてから倒れた。
荷台に乗っていた最後の一人は、通信機に向かって英語で何かを話すが、それもゴムにされてしまっていた。荷台にゴンが乗り込み、右足に牙を突き立てた。悲鳴を挙げるのを無視して、ぶんぶんと振り回してから、明後日の方に投げ飛ばした。
「上出来だ」
路地裏から一朗太と日奈が出てきた。
六人はすぐにランドクルーザーに乗った。巨体のゴンは荷台に乗るのだが、一朗太の指示で日奈も荷台に乗る。スカーには消えてもらった。
「いつの間に車の免許を取ったんだ?」海斗は助手席に乗って、純粋な疑問を口にした。
実のところ、青葉の住人の車の免許取得率は低い。無償で利用できる便利な足が存在するのが一番の理由だ。海斗にしても車の免許の必要性を感じなかったので、取得していない。
「持っていない。ゲームで慣らした程度だ」
「素人じゃん」
後部座席に乗った美月は、いきなり不安げな表情になった。その隣に座っているアマネは、日本語を理解できないので、きょとんとしている。
「安心しろ。今時の車は大半がオートマだ。素人でも運転できる。後はスーパーマリオカートの応用でどうにでもなる」
「ならねぇよ」
一朗太は海斗の突っ込みを無視して、車窓から身を出した。「日奈。車を覆い隠すように盾を両脇と後ろと上に展開してくれ」
「えっと……、こう?」
壁の役目をしていた盾は一斉に動いて、ランドクルーザーの前方以外を守るように展開した。盾と盾の僅かな隙間から陽光が差し込むが、車内は薄暗くなった。
「どうだ?ゲームみたいだろ」一朗太はにやりと笑った。
「御見それしました」
確かにこれは、カートを中心に展開する三つの甲羅みたいで頼もしく感じる。この状態でぶつかってくるのは、子供の頃もだが、今でも嫌いだ。ふざけんなっ!と叫びたくなる。
一朗太はギアをドライブに入れて、アクセルを一気に踏んだ。
「安全運転で頼むよ!」海斗は叫んだ。
やはり一朗太は素人であった。直進しているのに、ふらふらしている。ガードレールに突っ込みそうで、本当に怖い。
「そんなことを言っている暇はないぞ」
カンカンカンカンと何かが金属に激しくぶつかっている音が鳴り響く。海斗は疑問に思い、車窓から身を出した。盾に守られているので周囲を見通せず、何が起きているのか把握できないのだが、音は鳴り続けている。
日奈は立ち上がり、盾と盾の僅かな隙間から、外の様子を探った。
「一、二…三台追いかけてきてるよ」
「危ないから伏せてろ」海斗は怒鳴るように言った。万が一に、隙間を通って当たる可能性がある。
日奈は言われた通り、荷台に伏せた。
海斗たちの進路を塞ぐように、十字路の左右からランドクルーザーが姿を現した。機関銃の銃口を向けた。
「ショートカット戦法をするぞ」
一朗太は勢いよくハンドルを切った。
「ぶつかる!ぶつかる!」
ランドクルーザーはガードレールを突き破り、建物の中へ突っ込んだ。その建物はオフィスのようだ。おっかなびっくりに外の様子を伺っていた数名の社員は、ぎょっと驚き、慌てて逃げた。
ランドクルーザーは受付のあるロビーを突き破り、仕事場を突き破り外へと出て道路を走行する。幸いなことに怪我人はいない。ワイパーを動かして、フロントにくっ付いた書類やら小物やらを落とした。普通に考えればありえないことだ。勿論、これには種がある。一朗太が力を使って、ランドクルーザーが通る箇所だけ紙に変質させたのだ。運転手以外には、暴走運転にしか見えないため、海斗たちはそのことに気が付いていない。
「マリオカートで磨いた技術がこんな形で役に立つとはな」一朗太は興奮していた。
「カートじゃないけどね……」美月の呟きは、アマネ以外に聞こえなかった。
「お前、楽しんでいるだろ!」海斗は言った。
「ああ!楽しくてしょうがない!」
こいつ。もしかしてハンドルを握ると人格が変わるタイプだったのか?
などと、海斗は疑った。
強い衝撃が車内を襲った。
今度はなんだ?と海斗はまた車窓から身を出したが、周囲を見通せないためやはりわからない。今度はゴンが立ち上がり、隙間から外の様子を探った。
「海斗。空を飛ぶ乗り物が追いかけて来るぞ」
「って、ことはヘリコプターか!」
「恐らくロケットランチャーでも使ったんだろ」一朗太は分析した。
「それって大丈夫なの?」美月が運転席と助手席の間に身を乗り出した。
「わからん」一朗太は正直に答えた。「この盾の強度実験はしていないからな。問題ないかもしれないし、数発で駄目になるかもしれない」
ロケット弾が、ランドクルーザーの目の前で着弾した。道路に大きなが穴が穿たれた。足を止める作戦にでたようだ。一朗太は舌打ちしながらハンドルを切った。再びのショートカット戦法だ。ただし今度は、ただの住宅だ。家族が住むための家だ。ランドクルーザーはリビングへと突っ込んだ。そこでは一家が家族団欒を――していなかった。目と鼻と口以外が出ていないマスクを被った三人組の男性が、家族を居間で座らせていた。一人が家族を見張り、他の二人は家の中を物色している。この場合、誰にとって運が良いのか悪いのか、不明だが、強盗現場に出くわしてしまった。街の状況を考えれば、火事場泥棒だろう。誰も予想していなかった、ランドクルーザーの登場に一斉に顔を向けた。
一朗太は見張っている強盗を弾き飛ばした。
稲郷兄妹の顔から血の気が一気に引いた。
一朗太はハンドルを切って、半回転させて急停車させた。ギアをニュートラルに入れて、アクセルを吹かして強盗を威嚇した。強盗たちは弾き飛ばされた仲間を見た。手足が変な方向に曲がっており、全身から血を流している。ランドクルーザーの威嚇は、次はお前たちの番だと告げているようだ。二人は顔を合わせて同時に頷いてから、脱兎の如く逃げ出した。一朗太はギアをドライブに入れ直して、再び道路に戻った。
「お、お、お、お前はなんてことをしたんだ!?」海斗は叫んだ。
勢いに任せてぶつかったので、即死で間違いないだろう。運良く生きていたとしても、重度の障害が残るのは間違いない。まさか大切な家族が、殺人に手を染める瞬間を、すぐ隣で目撃する日が来るとは夢にも思わなかった。
「どうしよう。どうしよう。どうしよう。どう――」美月は青い顔を両手で挟んで呟き続ける。
「ただの人助けだ。問題ない」一朗太は顔色を変えずに言い切った。
「そうか。そうだよな!」
激しい混乱に襲われている海斗は正常な判断ができなかった。
ランドクルーザーに再び衝撃が伝わった。
「不確定要素がある以上、墜とした方がいいな」一朗太はハンドルを握りながら呟いた。「ゴンに墜とせるか聞いてくれ」
海斗は車窓から身を出した。「ゴン!ヘリを墜とせるか!」
ゴンは隙間から暫し観察した。「……あれはどういう物なのだ?」
「機械の塊……」海斗は説明に窮した。まず機械がなんなのかわからないだろう。どうやって説明しようか考えて、突き刺す獣との戦いを思い出した。「あれには電気がよく効く」
「それなら可能だ」
「次の衝撃後に、攻撃してくれ」という一朗太の作戦を伝えた。
ランドクルーザーに衝撃が伝わった。次弾装填している隙に、上方の盾が左右に開いた。ゴンは力を使って頭上に巨大なプラズマを出現させた。そこから巨大な稲妻が、ヘリコプターめがけて迸った。ヘリコプターは慌てて回避したが、稲妻は追いかけてきた。超高温の電熱でヘリコプターは溶かされながら両断された。表面に電気が走りながら落下するヘリコプター。盾は再び閉じた。それと同時に、後方から大きな爆発音と衝撃波が伝わった。
街の外――ゴールは目前に迫っていたが、海斗たちの考えは読まれており、防衛軍が既に布陣して待ち構えていた。しかもどうやって先回りさせたのか、立派な砲塔が陽光で輝く戦車まで配備されている。
「数が多いな……」一朗太はぼやいた。
海斗の脳裏に妙案が浮かんだ。「そのまま行け。俺に考えがある」
「期待するぞ」
海斗が力を使うと同時に、戦車から砲弾が打ち出された。砲弾は黒い壁に阻まれた。そしてランドクルーザーは、黒く緩やかな坂を上っていた。海斗は、カオナシの力を使って街の外まで続く橋を出現させたのだ。防衛軍は橋を攻撃するがびくともしない。海斗たちは、橋を渡り切り街からの脱出に成功した。
「やるじゃないか」
地下作戦司令部の正面にある巨大スクリーンに送られてくる映像を見ながら、クリストファーは素直に感心した。映像には小さくなっていくランドクルーザーの姿が映っている。圧倒的に不利な状況であったにも関わらず、ローブ・オブ・オーダーたちは逃げ切った。この時ばかりは、拍手を送りたくなった。
「追撃しますか?」ハワードが訊いた。
「止めておくとしよう。これ以上の犠牲は出したくない」
ようやく、街ごとテンイへやって来たのだ。プロジェクト・パラディーススが本格的に動くのだ。そのためにも、やるべきことは沢山ある。徒に兵を消耗したくなかった。
「了解」ハワードは部下たちに撤収の指示を出した。
クリストファーは、内心でほくそ笑んだ。
実のところローブ・オブ・オーダーが街を出て行ったのは、喜ばしいことだった。いずれは決着を付けないといけない相手だが、街を戦場にしなくて済む。この街が、新世界の首都になるのだから。反面、ローブ・オブ・オーダーの名において、諸族を集め連合軍を結成される可能性があるが、未開の原始人相手に負けるとは露とも思っていない。防衛軍に加えて、長い時間をかけて育てた新戦力もある。後者が戦力として役に立つには、時間が必要なのが難点であるが、ゲームを通してある程度、育てたので僅かな時間で済む。とはいえ、慢心しては足元を掬われる。スケジュールを幾つか繰り上げる必要がある。
「主任」傍に控えるクラークに目を向けた。「対オブ・オーダー用の兵器の進捗状況はどうなっている?」
「試射を行い、問題点を洗い出して更なる改良を加える必要があります」
「完成まで何日掛かる?」
「速くても二か月は必要かと」
「では、三か月の猶予を与える。それまでに完成させろ」
「畏まりました」
クリストファーは、次にハワードに目を向けた。
「総司令。兵器が完成次第、すぐに動けるように、情報収集と作戦立案を頼んだぞ」
「了解」
「私は、君たちの仕事に大いに期待している」
青葉特別区が見えなくなったところで、一朗太はブレーキを踏んで止めた。ギアをニュートラルに入れた。
「一旦集合」
車から降りて招集した。ランドクルーザーを守っていた盾は既に消えていた。
海斗たちは、車から降りて一朗太の元に集まった。
「どうしたんだよ?」海斗が訊いた。
「これからのことについて話し合いが必要だ。行く当てなんてないしな。どうする?」
確かに話し合いが必要な案件だった。助けることばかり考えていたので、その後のことは何も考えていない。海斗が知る限りでは、テンイの家族は、基本、気が良い人たちなので、身を寄せることができる。ただし、人間だとばれなければだ。人間だと知られたら、追われてしまう。身も心も休まらない日々になってしまう。
皆が頭を悩ませるが、この問題は簡単に解決する。
「私の家に来る?」アマネが提案した。「海斗の故郷を見たから、次は私の故郷を見て欲しい。何より、助けてもらったお礼をしたいし」
「翼有る者の集落か。興味深い」ゴンは強い関心を示した。
「反対意見はあるか?」
誰も何も言わなかった。
「お世話になります。よろしくお願いします」海斗は頭を下げた。
「任せて」アマネは嬉しそうに胸を叩いた。
「風が気持ちいい」アマネは荷台の縁に座って、全身で風を浴びていた。青い長髪が風でたなびく姿は、その美貌と相まって一枚の絵画のようだ。
一行は、アマネの家――翼有る者の集落に向かうべく、ランドクルーザーで移動中だ。といっても、燃料がなければ動かない乗り物なので、行けるところまで行って、そこからは徒歩で移動する予定だ。
「そう思わない?」海斗に訊いた。
「そうだな」荷台の上で胡坐を掻き、腕を組んでいる海斗は上の空だった。
「人間ってこんなの作れるんだね。凄いよ」
「そうだな」
「私も欲しくなってきたよ。海斗は作れるの?」
「そうだな」
生返事ばかりする海斗に、アマネは不満を募らせ頬を膨らませる。
「ちょっと海斗。私の話を聞いてる?」
「そうだな」
「聞いてないでしょう」
「そうだな」
「…………海斗。好きだよ」
「そうだな」
反応が薄すぎることに、アマネは泣きそうになった。
荷台の上で、くつろいでいたゴンは、いい加減に見かねた。十三本ある尻尾の一本を動かして、海斗に往復ビンタをした。
「何しやがる!」
両頬がひりひりして痛い。多分、これは腫れる。
「目は覚めたか?」
「俺は起きてるよ」
「起きているなら、ちゃんとしろ」
ゴンは顎でアマネを指した。
「どうした!?」泣きそうな顔になっているアマネに、素直に驚いた。
「だって、海斗が全然相手にしてくれないんだもん」
「ごめん。記憶にないんだけど、本当にごめん」
覚えていることは、一朗太の指示で、海斗、ゴン、アマネの三人で荷台に乗るように言われたことだ。参謀殿曰く、『俺たちに気兼ねなく、考える時間が欲しいだろ』とのこと。何を指しての発言なのかすぐにわかったので甘えさせてもらった。
「悩みがあるなら相談に乗るよ」アマネが言った。
「……それなら、御言葉に甘さえてもらおうかな」
一人で考えても埒が明かない。海斗は、黒い残暑と、陸治から聞いた、その真相について話した。
「話を聞く限りでは、カオナシ様がやったのは間違いないだろ」ゴンが答えた。「だが、それがどうしたのだ?」
「いやな。俺、美月、一朗太の両親や友達は、黒い残暑で亡くなったんだよ」
「それと…、上の空がどう繋がるのだ?」ゴンは言葉を慎重に選んだ。
「テンイに来てから、カオナシは俺を助け続けてくれた。今もこうやって、お前たちと不自由なく会話できるのはカオナシのおかげだ。でも、黒い残暑で、何万もの人間を殺した。その中には、俺の両親や友達も含まれる。俺は……、カオナシとどう付き合ったらいいのかわからなくなって……」
「……テンイの家族として言わせてもらえれば、カオナシ様に賞賛を送りたい。だからこそ、何と言っていいのか、わからないな」
「私は海斗の気持ちがわかるかな」アマネは言った。「故郷を飛び出したはいいけど、いざ家族の集落が目前に迫ったら、どうすればいいのかわからなかったから。私が翼有る者だと知られたら、殺されるのもあって怖かったし」
「凄いな。そんな思いをしてまで、入ったのか」海斗は感心した。
「家族を知りたかったってのがあったから。ほとんど勢いで飛び込んでみたの。そしたら、翼有る者は絶滅したと思われていたみたい。それ以来、気楽に旅をしてたんだよね。海斗たちに出会うまではね」
「勢いで飛び込んだのか……」時にはそういうのも必要なのかもしれない。じゃないとわからないこともある。「俺も飛び込んでみるよ。直接カオナシと話してくる」
「それがいいだろう」ゴンは同意した。
「……ところで、どうすれ――」そこで海斗の意識は途切れた。
瞼を開けると、死者の底にいた。向こうから呼び出してくれたのは、素直にありがたい。海斗は、何の力を持たない一般人であるため、自分からカオナシに会いに行く方法は持ち合わせていない。
カオナシは地面の上に座って、木に背中を預けていた。相変わらず、動物たちに囲まれている。本来であれば、頭がある空洞部分から、小動物が出てきた。
「私に用件があるようだから呼んだ」
「そうなんだけど、びっくりするから、急に呼ぶのは止めてくれ」
「次からは気を付けよう」
「単刀直入に訊く。あんたは本当に黒い残暑を引き起こしたのか?」
「そうだ」
あまりにも簡単に認めたことに、軽いショックを覚えた。カオナシのことは信頼しているし、知らなかったとは言え今まで見守っていてくれたから信じたかった。自分は一人ではなかったのだ。できれば、陸治の戯言であったと願っていた。
「…………どうしてだ?」
「それを説明するためには、事の始まりから説明しなければならないな」
死者の底の雰囲気が変わった。生命の営みが行われているのだが、そこで暮らしている動物たちがまるでカオナシを存在していないかのように振舞っている。小鳥たちは、カオナシの目の前を通過していった。
「私の記憶を元に、映像を編集した」最初にそのような断りを入れた。「大戦争後、私たちが鎮守を始めてから、滅多に家族の前に姿を現さなくなって幾星霜。この時の私は、久しぶりに家族の前に姿を現した」
一瞬にして映像が切り替わった。空を飛んでいるカオナシを、更に上空から見ている形だ。海斗はてっきり主観映像かと思っていたが、第三者的な視線だ。
カオナシは初めて見る種族の集落――無数の洞窟で形成された集落――に舞い降りた。頭から胴体は人間と変わらないのに、手足は犬猫のそれだ。
「この家族は、敏なる者。力は強く、高い身体能力を有する」カオナシは説明した。
カオナシが登場したことで、敏なる者たちは大喜びした。すぐに集落総出で歓待を受けるカオナシ。だが、楽しい雰囲気はあまり長く持たなかった。徐々に興奮しだした敏なる者たちは怒り出し、カオナシに詰め寄った。リーダーらしき人物が、怒りに任せながら理由を話した。
「ここで私は人間という種族が、悪逆な行いをしていることを知った。実のところ、私が人間という種族を知ったのは、最近のことなのだ。私はすぐに人間の元へ向かった」
また映像が一瞬で変わった。今度は軍隊の宿営地にしか見えない場所だ。無数のテントに車。そして無数の檻。その中には、テンイの家族が、種族ごとに入れられていた。
「この光景を見て、私は激しい怒りを覚えた。まるで、家族を物のように扱っているからな」
上空にカオナシが現れたことに、軍人たちは驚いた。写真を撮ったり、カメラで撮影している人もいる。家族たちはカオナシの登場に、希望を見出し檻に掴まって、助けを懇願する。
「まず私がしたのは警告だった。家族を解放し、元の世界に帰り、二度とテンイに来るなと」
映像の中で、部隊長らしき人物が頷いて、テンイの家族を解放した。だが撤収するには、時間がかかるので、時間が欲しいと言った。
「素直に言うことを聞いたから、私は人間の言い分を飲んだ。今にして思えば、これは過ちだった。問答無用で殲滅すればよかった」
映像が切り替わった。今度は、通じ合う者たちの集落に変わった。
「だいたい一年後ぐらいに、再び家族の前に姿を現した。そこで、人間たちが再び家族狩りをしているのを聞いた。人間は端から約束を守る気などなく、愚かにも私は騙されたのだ。私は人間の殲滅を決断した」
映像が切り替わった。軍隊の宿営地に変わったが、今度の軍人たちは、カオナシの来訪に対し、戦闘準備をして待ち構えていた。両者の間に言葉は必要なく、カオナシが到着してすぐに戦闘が始まった。
「なんだよこれ……」海斗は戦慄した。
それは戦闘と呼べるものではなかった。カオナシが一方的に蹂躙しているのだ。この時の人間たちは保有している全ての火器で攻撃した。だが、直撃してもカオナシには、まるで効果がなかった。せいぜい汚れるぐらいだった。対して、カオナシの攻撃は、人間たちを次々と屍に変えていった。虐殺と言っても差し支えはないかもしれない。
「人間からすれば、私は幽霊のような存在であり、人間の武器では私に傷一つ付けることはできない。だがそれ故に、油断してしまった」
カオナシは死屍累々とした地上に降り立ち、檻の扉を包丁のような剣で斬って、捕らわれていた家族たちを次々と開放する。そんなカオナシに対して、背後から駆け寄って来る一人の軍人がいた。その手には剣のような物を装着している。それは中身をくり貫いたような球体であり、その中に右手を入れているのだが、無数の細い触手が右腕に絡みついている。球体から淡い光を発する剣身が伸びている。
「よく見ておけ。これこそ私が敗れた理由だ」
カオナシは近づいてくる軍人に対し、全くの無警戒。堂々と背中を見せている。軍人はその背中から剣を深々と突き刺し貫いた。数瞬後にカオナシから悲鳴が上がった。
「一体何があったんだ?」海斗は訊いた。
「ホコと言ってな。これは、大戦争において、翼有る者たちが作り出し、私たち――現在は鎮守たちを殺すための武器だ。ホコは大戦争で全て失われたと思っていた。仮に現存していても、人間がそれの正体を知っているとは思わなかったし、扱えると思ってもいなかった。慢心したが故に私は敗れた」
映像が切り替わった。今度は、真っ暗な映像が暫し続く。
「人間で言うところの気を失った状態になっていた」カオナシは説明した。
真っ暗だった映像が、急に明るくなった。そこは海斗にとっては、比較的見慣れた光景だった。カオナシは手術台の上に乗せられ、用途不明な様々な計器に繋がれていた。その周りには、白衣を着た無数の人間がいる。誰も彼もが、珍獣を見る目でカオナシに好奇の視線を向けている。
「この時の私は死に向かっていた」
「どういうことだ?」海斗は首を傾げた。
「世界の法則が違うのだ。どうやら地球では、私は存在できないようだ。凄まじい速度で消滅していくのがわかった。どうせ死ぬのなら、一人でも多くの人間を道連れにしてやろうと、私は力を使った」
そう言った瞬間、カオナシを中心に、黒い球体が広がっていった。突然の出来事に慌てふためく人間たち。必死に逃げるが壁は、人間の逃げ足よりも速度があり、人間たちを易々と飲み込んでいった。その光景に、海斗は言葉を失った。忘れたくても忘れられない。理不尽に家族や友達を奪った、あの時の黒い壁そのものだった。何年経とうが、こればかりは見間違いようがない。
「結果的に、これで私は自由を得た。だが、消滅する事実は変えようがなかった。私は何としても生き延びなければならなかった。そしてお前を見つけたのだ」
上空から見下ろすカオナシ。地上から見上げているのは子供の頃の海斗。
「もういい」
そこから先のことははっきり思い出していたので、海斗は遮った。映像は切り替わり、死者の底になった。小動物たちは、再びカオナシの元へ集まった。
「これが黒い残暑の真相だ」
「……………どうして俺だったんだ?」
「地球で私が生き延びるためには、肉の器が必要だった。一番近くにいた器がお前というだけだ。それ以上もそれ以下の理由もない。今だから話せるが、これは私にとって初めての試みであり、成功するかはわからなかった。最悪、お互いに悪い影響が出ていたかもしれない。結果的に良かったと思っている。お前を基準に、人間というのを知ることができた」
「俺から出ていくことは可能なのか?」
「可能だが、やろうとは思わない。世界の法則の関係で、私の魂は、お前とくっ付いてしまった。無理に引き剥がすことはできる。その代わり、お前に悪影響を及ぼすことになる」
「なあ、あんたは、美月の髪がどうして白いか知っているか?」
カオナシは頷いた。「勿論だ。お前を通して私も知っている。あの子は、家族を愛していたが故に、失った重度のストレスから、脱色してしまった」
淡々と言われることに、無性に腹が立ってきた。
「あんたのせいで美月の人生は滅茶苦茶になった!美月だけじゃない!一朗太や拓郎!ひまわり園の家族たちの人生を滅茶苦茶にした!」
黒い残暑の真相。それは、カオナシが自棄を起こしたからだった。何故かわからないが、酷い裏切りにあったような気持になった。
「……………そうだな。私が大人しく死んでいれば、多くの人間が生を全うできただろう。だがな海斗。私はお前の言葉を聞きたい。お前はどう考えているのだ?」
「俺のことはどうでもいい!重要なのは美月のことだ!」
「……では、お前は私に何を望む?謝罪か?この命か?」
「謝罪はしてもらう!そこから先は…美月の判断に任せる……」凄く情けないことを言ったような気になった。
「それでは暫し、体を借りるぞ」
海斗は不思議な感覚に襲われた。現実に戻って来たのに、まず体の自由が利かない。自分の意思に反して、体が全くいうことを聞かない。見えている景色もなんか変だ。まるでカメラを通して世界を見ているような感じだ。これが体を借りられるということなのを知った。
ゴンは姿勢を正して、カオナシに対して伏せている。アマネはどこか警戒した様子で、カオナシを見つめる。
「一朗太。車を停めてくれ」カオナシが言った。
ランドクルーザーが停まると、カオナシは荷台から降りて、美月の元へ向かい土下座した。突然のことに、美月は困惑した。初めてカオナシと対面する日奈は、海斗の外見と中身が、全く違うことに困惑した。
「黒い残暑は私が自棄を起こして、起きたものだ。知らぬとはいえ、私はお前たちの家族友人を奪った。本当に申し訳ないことをした」
「お止め下さい」ゴンが言った。「元をただせば、人間が蒔いた種。カオナシ様が謝罪する理由はなく、人間が謝罪するのが筋ではありませんか」
「黙れ。私は、人間もある意味、被害者と知った」
「それはどう――」
「あの」美月は遮った。「それはお兄ちゃんから頼まれたんですか?」
「海斗の望みだ。そして私にどうして欲しいかは、美月の判断に任せるとのことだ」
「……………考える時間をください……」
海斗は焚火を挟んで、一朗太と向かい合っていた。アマネが一緒に居ようとしたが、海斗が頼むと、何かを察して、大人しく引いてくれた。
今晩も野宿をすることになったが、今までと違うのは、車中泊ができることだ。寝づらいものの、夜の寒い風に晒されないのは本当にありがたかった。また、車の中にはサバイバルキットが常備してあり、その中には非常食もあった。加えてゴンが狩りをしてきたおかげで、栄養と空腹の心配は今のところなかった。
「――てなわけさ」
海斗は、どうして黒い残暑が起きたのかを説明した。一朗太は長時間の運転で疲れているはずなのに、海斗の相談に乗ってくれた。本当に良い家族に恵まれた。と、つくづく実感した。
「それでお前はどう思ったんだ?」
「どうしてかわからないが、裏切られたように感じた」
「……そう感じたのは、お前が納得できなかったんだろう。お前が納得できる理由だったら、そんな風には感じなかったんじゃないか?」
「…………多分、そうだと思う……」
冷静になり、指摘されたことで、カオナシに歩み寄れる理由が欲しかったんじゃないかと思う。自分でも意識していない心のどこかでは、やっぱり信頼したいのだろう。
ここで会話が途切れ、二人は焚火を見つめる。重苦しくはないのだが、会話が続かない空気だ。薪が爆ぜる音が、やけに耳に残った。
「……なあ」海斗は、恐る恐る口にする。「お前は黒い残暑をどう思っているんだ?」
「…………今から話すことを、誰にも口外しないで、墓まで持っていくと約束してくれるなら教える」
海斗は一瞬、躊躇ったが頷いた。
「俺は黒い残暑が起きたことに、心から喜んでいる」
海斗は驚愕した。大勢の命を理不尽に奪った大惨事を喜ぶなどありえない。問い詰めようとしたが、一朗太は手を前に出して止めた。
「最後まで聞け。それから文句があるなら聞く」
海斗は大人しく引き下がった。参謀殿を見つめる目は、厳しくなった。
「俺の両親は、所謂、毒親という奴でな。虐待は当たり前。飯のない日だって、当たり前のようにあった。真面目な話。黒い残暑が起きなければ、遠からず俺は死んでいた」
海斗は一朗太と出会った頃のことを、急に思い出した。同い年とは思えないぐらい、チビで瘦せていた。その頃は、毒親という言葉を知らなかったし、そんな親が存在するとも思っていなかった。今の話を聞いて、その頃を思い出すと、ちゃんと聞かずに問い詰めようとした自分が恥ずかしかった。
「黒い残暑があった日。俺は両親の虐待で外へ放り出された。それが結果的に、俺の命を救い、両親は死んだ。そして、ひまわり園に引き取られて、家族の温かみを知った。俺からすれば、黒い残暑は人生に光を照らしてくれたきっかけだ。誰も彼もが、美月のように家族を愛しているのが当たり前だと思うな」
「俺は間違っているのか……?」独白のように言った。
「俺の例が特殊だったというだけだ。倫理的には間違っていない……、お前は両親の顔を思い出せるか?」
「それはもち……、あれ?」海斗は首を捻った。
顔にモザイクが掛かっているように、上手く像を結ばない。というか、両親の好物とかも上手く思い出せない。
「上手く思い出せないのか?」
「そうなんだけど……」
生まれてから十年以上、毎日顔を合わせていた家族の顔を、どうして思い出せないのか不思議でなかった。
「俺に言わせれば、お前はある意味、幸福な人生を歩んだ。美月のお兄ちゃんで居続けるための努力をした。それが、他の家族と決定的な違いだ。誰よりも先に、未来を見据えて努力していた。言葉を変えれば、余計なことを考えずに済んだ。お前は自分でも気づかない内に、過去に囚われていないのだろう。それを踏まえて聞く。お前はカオナシをどう思っているんだ?」
「何万もの人間を――」
「倫理に基づく言葉だ。俺が聞きたいのは、お前の言葉だ」
「美月の――」
「それは兄としての言葉だ。そういったものを全部取っ払って、丸裸になった稲置海斗の言葉を聞きたい」
海斗は自分の心と向き合い、知った本心に自己嫌悪に陥った。「ああ、くそっ……。認めたくないな。こんな俺を……」
「それでも聞かせて欲しい」
海斗は長い沈黙の後に喋り出した。「黒い残暑は過去のことだ。今更、蒸し返したところで、何が変わるんだ?俺はカオナシに対して、強い怒りや憎しみを持てない。むしろ、あいつも被害者だろうと思ってしまう。くそっ。俺って薄情な人間だったんだな」
口にすると、強い罪悪感に襲われる。その辺に硬い岩であったなら、自分の頭を勝ち割りたくなった。
「お前が本当に、薄情な人間なら美月の兄になったりしなかっただろう。日奈を救おうとしなかっただろう。あの二人のために、ニューイーラを敵に回したりしなかっただろう。俺にしても、ここまで付き合ったりしなかっただろう。間違えるな。お前は薄情じゃない。ただ、何が大切かを知っているだけだ」
「ありがとうよ。そう言って貰えて、少しだけ心が軽くなった」
「事実を言ったまでだ」
「……もう一度、カオナシと話をしてみるよ」
(では案内しよう)
世界が一瞬にして変わった。そこは死者の底ではなかった。見回す限り平野がどこまでも続き、青空には雲一つない。カオナシは海斗に背を向けて、青空を眺めている。
海斗はカオナシの背中に向けて、いきなり頭を下げた。「済まなかった。一方的に責めるのは間違っていた。許して欲しい」
「私は今、喜んでいるのだよ」カオナシは背を向けたまま言った。「お前がようやく一人の人間として言葉にしてくれたことを。例えそれが、罵声であっても、私は喜んだ」
「一方的に責められたことを、怒らないのか?」
怒られても仕方ないと思えることをした。という自覚がある。だから罵声を浴びせられたら、大人しく受ける気でいた。
「何故だ?お前たちも被害者ではないか。私に対して怒りや憎しみをぶつけるのは自然なことだ」
「事情を知らなかったら、そうかもしれない。でも事情を知った今では、あんたも被害者だ」
「それは違うぞ。人間も巻き込まれた被害者だと知った。私の中に、許すも許さないもない。謝罪は不要だ。そんなことよりも見よ。この青空を。これこそ、本来のテンイの空だ」
海斗は青空を見上げた。
「透き通っていて綺麗だな」
加えて、高層建築物がないので、とても広く感じる。
「そうだろう。……だが、悲しいことに、この空を知るのは、今では私たち鎮守だけだ」
海斗は首を傾げた。現実の空と、ここの空の何が違うのかわからない。
「それはつまり……、人間のせいで環境汚染されたとか?」
「喋り過ぎたな。そういう意味ではない。気にしなくてもよい」
海斗は青空を眺めながら、ぽつりと語り掛ける。
「なあ。俺はあんたを改めて信用したい。鎮守とか種族とか、そういうのを抜きに、俺と友達になってくれないか。俺はカオナシとの関係を新しく結び直したい」
「素晴らしい提案だ。私に異論はない」カオナシは手招きした。海斗はカオナシの隣に立った。
「助けられっぱなしだけど、これからよろしくな。カオナシ」
「こちらこそ、よろしく頼む。海斗」
二人は並んで青空を眺め続けた。
天井に等間隔で照明が取り付けられているおかげで、地下にいるにも関わらず、内部をはっきり見て取れた。四面全てが金属で覆われており、所々に扉が付いている。アニメに登場しそうな秘密基地みたいな印象を受けた。ここから巨大ロボットが発進しても不思議はない。
内部は警報が鳴り響いており、英語のアナウンスが流れている。最終学歴中卒の海斗の英語の成績は普通だったので、ネイティブな発音の英語は聞き取れない。何を言っているのかわからない。
「施設の一部が破壊されたのと、侵入者が現れたと警告しているようだ」一朗太がアナウンスを通訳した。
「銃を持った連中が現れても不思議はないよね」美月はスカーを出現させ、最前列に立たせた。
「後ろは私に任せて」日奈は自分たちの背後に、通路を塞ぐほどの巨大な盾を出現させた。
海斗はちょっと呆気に取られた。少し見ない間に、二人の妹がとても頼りになる存在になっていた。成長したんだろうと、後で喜ぶことにした。今は救出に集中する。
「どこにいるのかわかるか?」カオナシに訊いた。
(わかる。私の言う通りに動け。ただし、警戒を怠るな)
四人は走り出した。
暫く直進してから右に曲がったところで、アナウンスの内容が変わった。海斗には意味を理解できないが。
「緊急事態に付き、安全が確認されるまで各区画を封鎖するらしい」一朗太が通訳した。
床から、厚い鉄板がせり上がってきた。
「このまま進め!」
力を使って破壊しようとした海斗を制止した一朗太。美月は言われた通り、スカーを突っ込ませた。厚い鉄板は紙のように、簡単に破れた。一朗太の力で、金属から紙に変質したのだ。
(敵が来るぞ)
カオナシの忠告を海斗は伝えた。
向こう側から、アサルトライフルを持つ四人の軍人がやって来た。前列の二人が床の上に片膝を付き、後列の二人は立った状態で、海斗たちに銃口を向けた。警告なしで引き金を引いたが、何も起こらなかった。一朗太の力で、四丁の銃は丸ごとゴムに変質したのだ。それを知らない軍人たちは、混乱することなく素早く捨てハンドガンを握るが、それも丸ごとゴムに変質した。武器が使えないと悟ると、軍人たちは無理に戦わずに撤退した。
「逃げてくれるのはありがたいね」海斗は漏らした。テンイを冒険して学んだことだが、戦わずに済むのなら、それにこしたことはない。
「三十六計逃げるにしかずだ」一朗太は説明する。「一度引いて態勢を整えたら、またやって来るぞ」
「その前に、救出して逃げないとな」
(救いがあるとすれば、連中にとってここは重要施設のはずだから、重火器は使用しないだろ)カオナシは補足した。
敵と遭遇することはなかった。カオナシの分析では、情報を共有した上で、対抗策を考えているか、ここを戦場にする気がないとのこと。後者であれば、素直に喜ばしい。
(止まれ。左手の扉の先にいる)
海斗たちは扉を潜った。警報やアナウンスはこの部屋では鳴り響いていないが、その部屋は異様さに満ちていた。広い空間は白い光で照らされていて全体をよく見通せた。そのせいで、見たくないものまで見えてしまった。大きな円筒形のガラスが幾つも並んでおり、その中には人がホルマリン漬けで入れられている。人間でないのは、一目でわかった。
テンイの家族たちだ。
ここにはテンイの家族の標本が並んでいる。
「なんだよ、これ……」海斗は信じられない思いで、あるガラスの前に立ち触れた。中には全裸状態の通じ合う者が入れられている。
(人間どもめ……)カオナシは静かに、だが烈火の如く怒りに燃えていた。
「これが、ニューイーラが隠したい真実か……」一朗太は呟いた。
中には内蔵だけを保存しているものがあり、それを見てしまった日奈は、口を押えて必死に吐き気と戦う。美月も吐き気を催したが、気丈に日奈の背中を擦る。
(こうなる前に、二人を助け出すぞ)
カオナシに促され、四人は一番奥の扉を潜った。そこは手術室そのものだった。白衣を着た外科医らしき人たちが、闖入者に一斉に目を向けた。
英語で何かを言ってきたが、海斗には理解できない。と言うより、耳に入ってこない。手術台の上には、全裸状態のアマネが横たわっており、今まさに切開されようとしていた。少し離れた位置に、大きな台があり、その上にはゴンが横たわっていた。その光景に、海斗の中で何かがプツンと切れた。
外科医の一人を押し倒し、馬乗り状態で顔を何度も殴打した。周りの外科医たちは喚くのだが、美月はスカーの刀を逆刃状態して、外科医をフルスイングのように叩いた。スカーの力は凄まじく、成人男性を軽々と吹き飛ばし壁に激突させた。日奈は複数の盾を出現させて、外科医たちに突っ込ませた。壁に激突して気を失った。
外科医が気を失ったところで、海斗は立ち上がり、アマネの元へ向かった。
「起きろって」
呼吸器を外して、体を揺さぶったが、起きる気配はない。仕方ないので、頬を強めに叩きながら声をかけた。
アマネの口から呻き声が漏れ、瞼がゆっくり開いた。
「……かいと……?」寝ぼけ眼を海斗に向けた。
「約束を守りにきたぞ」
「やくそく……?」
「守るって約束しただろ」
ぼーとしていたアマネは、おもむろに上体を起こすが、麻酔の影響で体に力が入らない。海斗は手を貸して、アマネを起こした。
「頭、痛い……」アマネは右手で頭を押さえた。
ひとまず安心した海斗は、ゴンに顔を向けた。美月たちに起こされたゴンは、床の上に四股を付けて立っているが、こちらも麻酔の影響でふらふらしている。一歩を踏み出そうとするが、どさっとその場に倒れた。口を動かすも、呂律が回っていない。
「さっさと脱出しないとな」海斗は言った。
「その前にやることあるよね」美月は倒れている外科医から、白衣を奪い取って、アマネに渡そうとした。
彼女は意識が混濁しているせいで、自分のあられもない姿に気付いていないのだから、服を渡されても着替えるという思考に行きつかない。美月は無理矢理、白衣を着させた。海斗は気遣いができる妹に感謝した。焦りと緊張のせいで、全裸のまま街に連れ出そうとしていた。
「歩けるか?」海斗は訊いた。
アマネは弱弱しく頭を左右に振った。
「乗れ」海斗はアマネに背を向けて、両膝を曲げた。
アマネは倒れるように全身を預けたので、海斗は危うく押し潰されそうになった。踏ん張って耐えて、アマネを落とさないようにしっかり背負った。ゴンはスカーが担ぎ上げた。
「後は戻るだけだな」
(馬鹿を言うな)カオナシが言った。(あの入り口は、既に敵に抑えられていると思った方が良い。待ち構えている可能性が高い。出るなら、ここから出るぞ)
海斗は天井を見上げた。「今更だけどさ、崩落する危険性とかないかな」
二人を助け出したことで、心に少しだけ余裕が生じて、そういった可能性を考えられるようになった。今更ながら、かなりの危険を犯して入り口を作ったのだと実感した。
(それなら、入り口を作った時に、崩落してもおかしくなかっただろう。多分、大丈夫だ。ここも監視されているはずだから、悠長に出口を作っている暇もない。そこで私に考えがある)
海斗はカオナシの脱出計画を説明した。説明し終えたところで、扉が開き、一人の男性が入ってきた。現れた人物に、敏感に反応したのは日奈だった。小さな悲鳴を挙げて、美月の後ろに隠れた。
「侵入者ってお前らかよ。これが飛んで火に入るなんとやらってやつか」
日奈の兄、矢立陸治は、何が面白いのか不明だが、ケラケラと笑った。
海斗は陸治に対して攻撃的な視線を向ける。
「まあ、落ち着けよ。最愛の妹と再会できて、俺は今、気分が良いんだ」
「黙れ。臆病者のクソガキ」一朗太の言葉には侮蔑が含まれていた。
「何だって……?」陸治のこめかみに青筋が浮かんだ。一朗太に対してメンチを切る。
「日奈から聞いたぞ。父親は自殺し、母親は失踪。大切な人が次々と自分の元から離れていった。日奈まで離れていくのが怖くて、暴力によって支配することで自分から離れないようにした。家族の絆を信じられない、臆病者の発想だな」
日奈は美月の影から陸治を凝視した。「本当にそうなの……?」
「てめぇも殺す……」陸治は顔を紅潮させていたが、不意に冷静になった。「俺はここに勤めることになって、ある真相を知った。昔々、街を襲った大惨事の真相を。なあ、お前ら、黒い残暑の真相を知りたくないか?」
海斗たちの顔色が変わった。
「良い表情じゃないか!それが見たかった!」陸治は満足気にげらげら笑った。「知りたいのなら、相応の態度を取るのが礼儀だろ。お願いしますって頭を下げな」
「断る」間髪入れずに一朗太は拒絶した。「お前に頭を下げるぐらいなら、知らない方がいい」
「お前はそうでも、そっちの二人は知りたがっているようだが」
海斗と美月は顔を合わせた。
十四年前に起きた未曽有の大惨事。多くの死傷者や行方不明者を出した。原因は、未だに判明していない。どうして家族や友達は、理不尽に死ななければならなかったのか?その答えを知る人物が目の前にいる。だが、日奈に酷いことをした奴に、頭を下げるのは強い抵抗があった。対して、知りたいという強い欲求もある。
「惑わされるな。どうせ口から出任せしか言えない」一朗太は忠告した。
「おいおい。決めつけるなよ。俺は、お前以上に情報を持ってるんだぜ。例えば、そいつの中にいる奴についてとか」陸治は海斗を指した。
一朗太はすぐに反論の言葉が出なかった。「はったり、というわけではなさそうだな」
「お願いします。教えて下さい」日奈は美月の影から出て頭を下げた。
陸治はあからさまに不機嫌になった。「日奈。黒い残暑後にやって来た俺たちには関係ない話だ。お前が頭を下げても教える気はない。さあ。どうするお二人さん?」
「お願いします……」葛藤の末に、最初に膝を屈したのは美月だった。その表情は心底から悔しそうだった。
「妹は頭を下げたぞ。お前はどうする?」
「……お願いします……」海斗も頭を下げるが、心底から悔しそうだった。
陸治は腹の底から笑った。「いい!すげーいい!最高の気分だ!特別に教えてやるよ。あれは、お前の中にいるローブ・オブ・オーダー――この世界ではカオナシと呼ばれている奴が引き起こした。お前らは滑稽だぜ。なんの罪もない人間を何万と殺した奴といるんだからな!」
げらげらと笑う陸治の笑い声は耳に届かなかった。海斗は呆然としながら、自分の胸に視線を落とした。共に居る人物に、真偽を確かめようと口を開くが、言葉が発せられる前に、後頭部に強い衝撃が走った。パンッ!という快音が鳴った。
「だからどうした!」海斗と美月の後頭部を叩いた一朗太は叫んだ。稲郷兄妹は参謀殿を凝視した。
この反応は予想外だった陸治は、呆気に取られた。「いや、お前、大量虐殺した奴といるんだぞ……」
「だからどうした!」
「……お前、おかしいよ……」
「指摘されなくても知っている」一朗太は海斗、美月の順に睨んだ。「海斗。美月。それは今重要なことか?違うだろ!街から脱出するのが先決だろ!考えるのは後にしろ!」
一喝が効いて兄妹は気持ちを立て直した。
自分の思い描いた通りにいかずに、陸治の顔は悔しさで歪んだ。
「貴重な情報提供をするあたり、クソガキにしては役に立ったな。感謝しておいてやる。臆病者」
陸治の顔が再び紅潮した。「てめぇから殺す!」
「海斗!」一朗太が合図を出すと同時に、海斗たちの頭上の天井が液体となって、手術室へと流れ込む。海斗はすぐさま、四本の柱で支えられた黒い屋根を出現させて、液体と化した大量のそれから自分たちを守った。陸治は反応が遅れて、飲み込まれた。しかも手術室へと通じる扉は、紙に変質させてあったため、手術室から押し出された。
屋根を消滅させてから、海斗たちは天井を見上げた。円形の穴が出来上がっており、縁から水滴が一滴ずつ落ちる。穴の奥には青空が見える。海斗は自分たちの足元に円形の黒い足場を出現させ、エレベーターのように上昇させて外へと出た。突然できた穴を覗き込んでいた通行人たちは、海斗たちが現れたことに心底驚いた。
「外の空気は美味いね」海斗は新鮮な空気を肺一杯に取り込んだ。
「ここは、柴野地区か……」一朗太は現在地の把握に努めた。振り返れば、ニューイーラ本社ビルの威容が間近にある。
突如として、街全体に警報が鳴り響いた。続いてアナウンスが流れる。
「住民の皆様にお知らせします。現在、青葉特別区はテロリストの攻撃を受けています。テロリスト殲滅のために防衛軍が出動します。住民の皆様は安全が確認されるまで、最寄りの建物に避難してください。繰り返します――」
通行人たちは蜘蛛の子を散らすように、最寄りの建物に避難した。
「こんな時に、テロリストかよ」海斗は忌々しそうに呟いた。
「ボケるな。どう考えても、テロリストは俺たちだ」
一朗太の言葉を証明するかのように、戦闘車両が現れた。荷台で立っている軍人は、取り付けてある機関銃の銃口を海斗たちに向けた。
「日奈」一朗太は指示を出した。
日奈は複数の巨大な盾を出現させて、壁を作り上げた。これで、進路を阻むと同時に、視界を遮ることに成功した。盾壁の前で急停止した戦闘車両は、すぐに迂回した。
この隙に、海斗たちは逃げ出した。
「速く行ってくれ……」
海斗は頭上を見上げながら心から願った。
遥か頭上から、ヘリコプターのローター音が聞こえてきて、空から海斗たちを捜索している。簡単には見つからない工夫をしているとはいえ、ローター音が聞こえるのは心臓に悪い。海斗たちは、路地裏にいて上空から見つけづらいように、黒い屋根で姿を隠している。表通りは簡単に歩けない。防衛軍が捜索しているのもあるが、あちこちに監視カメラが設置してあるため、海斗たちの逃走ルートは筒抜けになっているのだ。
ローター音が少し遠くなったことで、海斗は胸を撫で下ろした。美月たちに顔を向けた。美月と日奈はそれぞれ、ゴンとアマネに付いていた。二人はようやく意識がはっきりしだした。一朗太は街からの脱出方法を一人で考えている。
「二人とも大丈夫か?」
「あまり大丈夫ではないな」ゴンは力がいまいち入らないのに関わらず、無理に立ち上がった。四股が微かに震えている。
「もう少し待って」アマネは壁に寄りかかった状態だ。
街から脱出するためには、二人の力も必要だと参謀殿が言ったので、ここで二人の回復を待っていた。加えて、一朗太が考える時間も必要だった。
「悪いが、あまり悠長に構えていられん」
一朗太が言った言葉を、海斗は通訳した。
「包囲網は確実に狭まっている。ここが見つかるのも時間の問題だ」
「まずは状況を説明してくれ」ゴンが言った。
一朗太の説明を海斗は通訳した。
「同族同士で殺し合うなど、やはり人間は――。いや。今はそんなことを言っている場合ではないな」
アマネは申し訳なさそうに海斗に顔を向けた。「ごめんね。私たちのせいで、同族を敵に回して」
「俺は約束を守っただけだ。何があっても守るって約束しただろ」
アマネは顔の筋肉が緩みそうになったが、寸でのところで堪えた。表情を正して、全身に力を入れて立ち上がった。
「足手纏いにはならないよ」
気合は十分だが、僅かにふらついている。
「街から脱出するにあたり、案があるなら聞かせてくれ」
「空を飛ぶのはどう?」アマネが提案した。
「却下だ」即座に反対した。「敵にはスナイパー…、狙撃手…、………狙い撃つのが得意な奴がいる。遮蔽物がない空を呑気に飛んだら、撃ち落とされるのが目に見えている。遮蔽物の多い地上を歩いた方がマシだ」
「単純に路面電車を乗り継ぐのはどうだ?」海斗が提案した。
「向こうがわざわざ俺たちのために、移動手段を残してくれていると思えない。よしんば、動いていても、速度が出ない。囲まれるぞ」
このあたりで、意見は出尽くした。一朗太並みに、頭の回転が速いのは、この中ではゴンぐらいだろうが、彼は青葉については無知だ。妙案は出てこない。他の四人にしても、知恵の泉のように、次から次へとすぐさま湧き出てこない。
「俺の意見を言わせてもらう」一朗太は注目を集めた。「実のところ、移動するだけだったら簡単だ。俺の力を使えば、建物を横断しながら街の外まで真っ直ぐ行ける。だが、ここから街の外まで、直線でもおよそ三十キロメートルある。走って向かうには体力がもたない。歩いて行くにしては遅すぎる。その途中で、監視カメラか避難者の通報で囲まれる可能性が高い。やはり現実的なのは、どこかで車を確保することだ」
「ちょっと待って。それって盗難するってことだよね?」美月が言った。
「そうなるな」
「それはちょっと……」倫理的な問題が発生してしまうため、凄く嫌そうな顔になった。
できれば海斗も、そんなことをしたくない。そんなことをしては本当の犯罪者になってしまう。自分は良いとしても、美月と日奈の経歴に傷がついてしまう。
「贅沢を言える立場だと思うか?悪いがこの点は飲み込んでもらうぞ」
「わかった」いの一番に同調したのは日奈だった。
「ちょっと落ち着こうな。日奈」海斗は諭す。「そんなことをしたら、経歴に一生の傷が残っちまうぞ。将来を考えれば、慎重にならないとな」
「私は、お兄ちゃんたちと一緒に居られるなら、そんなの気にしないよ。私は明日も地獄のような中で生きてきたから。私の将来よりも、お兄ちゃんたち一緒に居られる今が大切なの」
こう言われては、諭す言葉が出てこなかった。少々の葛藤はあったが、海斗と美月も飲み込んだ。
「奪う車はもう決めてある。防衛軍の車を奪うぞ」
「軍用車を奪うのか?」海斗は予想していなかった。てっきりその辺に落ちている車を盗むのかと思っていた。
「仕方ないだろ」一朗太はゴンに顔を向けた。「ゴンはでかい。軽自動車では乗り切れない。自然と、中型車以上になる。その辺にでかい車が落ちていて、運良くキーが刺さっているなんて奇跡に期待するのは現実的じゃない。だったら、既に動いている車を奪った方が現実的だ」
「それって軍人と戦うってことだよね?」美月は訊いた。
「そこが問題だ。俺たちは素人だからな。俺の力で、武器を玩具にできても、白兵戦となると、ほぼ確実に負ける。相手は訓練を受けたプロだからな。車を無傷で手に入れるためにも、力の使用は控えたいしな。そこで二人に期待したいんだが」
一朗太はゴンとアマネに顔を向けた。
「期待してくれて構わない」ゴンは言った。
「殴り合いはできないけど、力を使えばどうにかできるかな」
海斗が小さく挙手した。「白兵戦なら俺もできる。カオナシに鍛えてもらった」
「スカーと合わせて四人か。俺がサポートに徹すればいけるか……?」
流石に今回ばかりは、参謀殿でも自信を持てずにいた。だからといって、いつまでもうだうだ考えるタイプではない。決断し作戦を説明した。
一朗太は路地裏の影から、徐行に近い速度で周囲を捜索しているランドクルーザーを覗く。
運転席、助手席、後部座席、荷台、合わせて六人といったところか。一朗太は海斗たちに顔を向けた。海斗は黒い槍を握っている。
「時間との勝負だ。援軍が到着する前に片を付けてくれよ」
海斗が二人に通訳し、全員が頷いた。
ランドクルーザーが、襲撃地点と定めたところを通過した。
「今だ」
日奈は力を使って、ランドクルーザーの前方に盾壁を出現させ進路を塞いだ。急停止した車。続いて、ランドクルーザーの後方にも盾壁を出現させ退路を塞いだ。軍人たちは車から降りて、アサルトライフルを構えながら周囲を警戒する。
勢いよくゴンが飛び出し先陣を切った。スカー、海斗、アマネも続く。軍人の反応は素早かった。すぐさま銃口を向けて発砲しようとしたが、一朗太の力でゴムにされてしまい、リアルな造形の玩具の銃にされてしまった。銃を捨て、コンバットナイフを握りしめた。それもゴムにされてしまったのだが、まだ気づいていない。
ゴンは軍人の一人に体当たりし押し倒し、胸に前足を押し付けた。軍人はナイフでゴンの首を刺そうとしたが、刀身がくにゃりと曲がった。ゴンは首に鋭い牙を突き立てた。悲鳴を挙げる軍人。構わずにゴンは声帯を噛み潰した。
美月はスカーを操り、軍人の一人に逆刃の状態で斬りかかった。軍人は避けようとしたが、動けなかった。足元に視線を落とすと、道路が沼みたいになっており、足首まで浸かっている。大振りの一撃は、右肩に直撃。鎖骨が折れる嫌な音が鳴った。軍人は小さな悲鳴を挙げて仰向けに倒れた。
海斗は一朗太の力で、身動きが取れない軍人に向かって、石突で鳩尾を狙った。ずれてしまったが効果はあった。軍人は思いっきり突かれたところを両手で押さえて、前屈みになった。海斗は差し出された頭を思いっきり叩いた。軍人は前のめりになりながら倒れた。
アマネは背中に翼のようなものが出現すると同時に、二人の軍人の頭上から見えない力の塊を振り落とした。拳骨をするような形になった。脳天に直撃した二人は、ふらふらとしてから倒れた。
荷台に乗っていた最後の一人は、通信機に向かって英語で何かを話すが、それもゴムにされてしまっていた。荷台にゴンが乗り込み、右足に牙を突き立てた。悲鳴を挙げるのを無視して、ぶんぶんと振り回してから、明後日の方に投げ飛ばした。
「上出来だ」
路地裏から一朗太と日奈が出てきた。
六人はすぐにランドクルーザーに乗った。巨体のゴンは荷台に乗るのだが、一朗太の指示で日奈も荷台に乗る。スカーには消えてもらった。
「いつの間に車の免許を取ったんだ?」海斗は助手席に乗って、純粋な疑問を口にした。
実のところ、青葉の住人の車の免許取得率は低い。無償で利用できる便利な足が存在するのが一番の理由だ。海斗にしても車の免許の必要性を感じなかったので、取得していない。
「持っていない。ゲームで慣らした程度だ」
「素人じゃん」
後部座席に乗った美月は、いきなり不安げな表情になった。その隣に座っているアマネは、日本語を理解できないので、きょとんとしている。
「安心しろ。今時の車は大半がオートマだ。素人でも運転できる。後はスーパーマリオカートの応用でどうにでもなる」
「ならねぇよ」
一朗太は海斗の突っ込みを無視して、車窓から身を出した。「日奈。車を覆い隠すように盾を両脇と後ろと上に展開してくれ」
「えっと……、こう?」
壁の役目をしていた盾は一斉に動いて、ランドクルーザーの前方以外を守るように展開した。盾と盾の僅かな隙間から陽光が差し込むが、車内は薄暗くなった。
「どうだ?ゲームみたいだろ」一朗太はにやりと笑った。
「御見それしました」
確かにこれは、カートを中心に展開する三つの甲羅みたいで頼もしく感じる。この状態でぶつかってくるのは、子供の頃もだが、今でも嫌いだ。ふざけんなっ!と叫びたくなる。
一朗太はギアをドライブに入れて、アクセルを一気に踏んだ。
「安全運転で頼むよ!」海斗は叫んだ。
やはり一朗太は素人であった。直進しているのに、ふらふらしている。ガードレールに突っ込みそうで、本当に怖い。
「そんなことを言っている暇はないぞ」
カンカンカンカンと何かが金属に激しくぶつかっている音が鳴り響く。海斗は疑問に思い、車窓から身を出した。盾に守られているので周囲を見通せず、何が起きているのか把握できないのだが、音は鳴り続けている。
日奈は立ち上がり、盾と盾の僅かな隙間から、外の様子を探った。
「一、二…三台追いかけてきてるよ」
「危ないから伏せてろ」海斗は怒鳴るように言った。万が一に、隙間を通って当たる可能性がある。
日奈は言われた通り、荷台に伏せた。
海斗たちの進路を塞ぐように、十字路の左右からランドクルーザーが姿を現した。機関銃の銃口を向けた。
「ショートカット戦法をするぞ」
一朗太は勢いよくハンドルを切った。
「ぶつかる!ぶつかる!」
ランドクルーザーはガードレールを突き破り、建物の中へ突っ込んだ。その建物はオフィスのようだ。おっかなびっくりに外の様子を伺っていた数名の社員は、ぎょっと驚き、慌てて逃げた。
ランドクルーザーは受付のあるロビーを突き破り、仕事場を突き破り外へと出て道路を走行する。幸いなことに怪我人はいない。ワイパーを動かして、フロントにくっ付いた書類やら小物やらを落とした。普通に考えればありえないことだ。勿論、これには種がある。一朗太が力を使って、ランドクルーザーが通る箇所だけ紙に変質させたのだ。運転手以外には、暴走運転にしか見えないため、海斗たちはそのことに気が付いていない。
「マリオカートで磨いた技術がこんな形で役に立つとはな」一朗太は興奮していた。
「カートじゃないけどね……」美月の呟きは、アマネ以外に聞こえなかった。
「お前、楽しんでいるだろ!」海斗は言った。
「ああ!楽しくてしょうがない!」
こいつ。もしかしてハンドルを握ると人格が変わるタイプだったのか?
などと、海斗は疑った。
強い衝撃が車内を襲った。
今度はなんだ?と海斗はまた車窓から身を出したが、周囲を見通せないためやはりわからない。今度はゴンが立ち上がり、隙間から外の様子を探った。
「海斗。空を飛ぶ乗り物が追いかけて来るぞ」
「って、ことはヘリコプターか!」
「恐らくロケットランチャーでも使ったんだろ」一朗太は分析した。
「それって大丈夫なの?」美月が運転席と助手席の間に身を乗り出した。
「わからん」一朗太は正直に答えた。「この盾の強度実験はしていないからな。問題ないかもしれないし、数発で駄目になるかもしれない」
ロケット弾が、ランドクルーザーの目の前で着弾した。道路に大きなが穴が穿たれた。足を止める作戦にでたようだ。一朗太は舌打ちしながらハンドルを切った。再びのショートカット戦法だ。ただし今度は、ただの住宅だ。家族が住むための家だ。ランドクルーザーはリビングへと突っ込んだ。そこでは一家が家族団欒を――していなかった。目と鼻と口以外が出ていないマスクを被った三人組の男性が、家族を居間で座らせていた。一人が家族を見張り、他の二人は家の中を物色している。この場合、誰にとって運が良いのか悪いのか、不明だが、強盗現場に出くわしてしまった。街の状況を考えれば、火事場泥棒だろう。誰も予想していなかった、ランドクルーザーの登場に一斉に顔を向けた。
一朗太は見張っている強盗を弾き飛ばした。
稲郷兄妹の顔から血の気が一気に引いた。
一朗太はハンドルを切って、半回転させて急停車させた。ギアをニュートラルに入れて、アクセルを吹かして強盗を威嚇した。強盗たちは弾き飛ばされた仲間を見た。手足が変な方向に曲がっており、全身から血を流している。ランドクルーザーの威嚇は、次はお前たちの番だと告げているようだ。二人は顔を合わせて同時に頷いてから、脱兎の如く逃げ出した。一朗太はギアをドライブに入れ直して、再び道路に戻った。
「お、お、お、お前はなんてことをしたんだ!?」海斗は叫んだ。
勢いに任せてぶつかったので、即死で間違いないだろう。運良く生きていたとしても、重度の障害が残るのは間違いない。まさか大切な家族が、殺人に手を染める瞬間を、すぐ隣で目撃する日が来るとは夢にも思わなかった。
「どうしよう。どうしよう。どうしよう。どう――」美月は青い顔を両手で挟んで呟き続ける。
「ただの人助けだ。問題ない」一朗太は顔色を変えずに言い切った。
「そうか。そうだよな!」
激しい混乱に襲われている海斗は正常な判断ができなかった。
ランドクルーザーに再び衝撃が伝わった。
「不確定要素がある以上、墜とした方がいいな」一朗太はハンドルを握りながら呟いた。「ゴンに墜とせるか聞いてくれ」
海斗は車窓から身を出した。「ゴン!ヘリを墜とせるか!」
ゴンは隙間から暫し観察した。「……あれはどういう物なのだ?」
「機械の塊……」海斗は説明に窮した。まず機械がなんなのかわからないだろう。どうやって説明しようか考えて、突き刺す獣との戦いを思い出した。「あれには電気がよく効く」
「それなら可能だ」
「次の衝撃後に、攻撃してくれ」という一朗太の作戦を伝えた。
ランドクルーザーに衝撃が伝わった。次弾装填している隙に、上方の盾が左右に開いた。ゴンは力を使って頭上に巨大なプラズマを出現させた。そこから巨大な稲妻が、ヘリコプターめがけて迸った。ヘリコプターは慌てて回避したが、稲妻は追いかけてきた。超高温の電熱でヘリコプターは溶かされながら両断された。表面に電気が走りながら落下するヘリコプター。盾は再び閉じた。それと同時に、後方から大きな爆発音と衝撃波が伝わった。
街の外――ゴールは目前に迫っていたが、海斗たちの考えは読まれており、防衛軍が既に布陣して待ち構えていた。しかもどうやって先回りさせたのか、立派な砲塔が陽光で輝く戦車まで配備されている。
「数が多いな……」一朗太はぼやいた。
海斗の脳裏に妙案が浮かんだ。「そのまま行け。俺に考えがある」
「期待するぞ」
海斗が力を使うと同時に、戦車から砲弾が打ち出された。砲弾は黒い壁に阻まれた。そしてランドクルーザーは、黒く緩やかな坂を上っていた。海斗は、カオナシの力を使って街の外まで続く橋を出現させたのだ。防衛軍は橋を攻撃するがびくともしない。海斗たちは、橋を渡り切り街からの脱出に成功した。
「やるじゃないか」
地下作戦司令部の正面にある巨大スクリーンに送られてくる映像を見ながら、クリストファーは素直に感心した。映像には小さくなっていくランドクルーザーの姿が映っている。圧倒的に不利な状況であったにも関わらず、ローブ・オブ・オーダーたちは逃げ切った。この時ばかりは、拍手を送りたくなった。
「追撃しますか?」ハワードが訊いた。
「止めておくとしよう。これ以上の犠牲は出したくない」
ようやく、街ごとテンイへやって来たのだ。プロジェクト・パラディーススが本格的に動くのだ。そのためにも、やるべきことは沢山ある。徒に兵を消耗したくなかった。
「了解」ハワードは部下たちに撤収の指示を出した。
クリストファーは、内心でほくそ笑んだ。
実のところローブ・オブ・オーダーが街を出て行ったのは、喜ばしいことだった。いずれは決着を付けないといけない相手だが、街を戦場にしなくて済む。この街が、新世界の首都になるのだから。反面、ローブ・オブ・オーダーの名において、諸族を集め連合軍を結成される可能性があるが、未開の原始人相手に負けるとは露とも思っていない。防衛軍に加えて、長い時間をかけて育てた新戦力もある。後者が戦力として役に立つには、時間が必要なのが難点であるが、ゲームを通してある程度、育てたので僅かな時間で済む。とはいえ、慢心しては足元を掬われる。スケジュールを幾つか繰り上げる必要がある。
「主任」傍に控えるクラークに目を向けた。「対オブ・オーダー用の兵器の進捗状況はどうなっている?」
「試射を行い、問題点を洗い出して更なる改良を加える必要があります」
「完成まで何日掛かる?」
「速くても二か月は必要かと」
「では、三か月の猶予を与える。それまでに完成させろ」
「畏まりました」
クリストファーは、次にハワードに目を向けた。
「総司令。兵器が完成次第、すぐに動けるように、情報収集と作戦立案を頼んだぞ」
「了解」
「私は、君たちの仕事に大いに期待している」
青葉特別区が見えなくなったところで、一朗太はブレーキを踏んで止めた。ギアをニュートラルに入れた。
「一旦集合」
車から降りて招集した。ランドクルーザーを守っていた盾は既に消えていた。
海斗たちは、車から降りて一朗太の元に集まった。
「どうしたんだよ?」海斗が訊いた。
「これからのことについて話し合いが必要だ。行く当てなんてないしな。どうする?」
確かに話し合いが必要な案件だった。助けることばかり考えていたので、その後のことは何も考えていない。海斗が知る限りでは、テンイの家族は、基本、気が良い人たちなので、身を寄せることができる。ただし、人間だとばれなければだ。人間だと知られたら、追われてしまう。身も心も休まらない日々になってしまう。
皆が頭を悩ませるが、この問題は簡単に解決する。
「私の家に来る?」アマネが提案した。「海斗の故郷を見たから、次は私の故郷を見て欲しい。何より、助けてもらったお礼をしたいし」
「翼有る者の集落か。興味深い」ゴンは強い関心を示した。
「反対意見はあるか?」
誰も何も言わなかった。
「お世話になります。よろしくお願いします」海斗は頭を下げた。
「任せて」アマネは嬉しそうに胸を叩いた。
「風が気持ちいい」アマネは荷台の縁に座って、全身で風を浴びていた。青い長髪が風でたなびく姿は、その美貌と相まって一枚の絵画のようだ。
一行は、アマネの家――翼有る者の集落に向かうべく、ランドクルーザーで移動中だ。といっても、燃料がなければ動かない乗り物なので、行けるところまで行って、そこからは徒歩で移動する予定だ。
「そう思わない?」海斗に訊いた。
「そうだな」荷台の上で胡坐を掻き、腕を組んでいる海斗は上の空だった。
「人間ってこんなの作れるんだね。凄いよ」
「そうだな」
「私も欲しくなってきたよ。海斗は作れるの?」
「そうだな」
生返事ばかりする海斗に、アマネは不満を募らせ頬を膨らませる。
「ちょっと海斗。私の話を聞いてる?」
「そうだな」
「聞いてないでしょう」
「そうだな」
「…………海斗。好きだよ」
「そうだな」
反応が薄すぎることに、アマネは泣きそうになった。
荷台の上で、くつろいでいたゴンは、いい加減に見かねた。十三本ある尻尾の一本を動かして、海斗に往復ビンタをした。
「何しやがる!」
両頬がひりひりして痛い。多分、これは腫れる。
「目は覚めたか?」
「俺は起きてるよ」
「起きているなら、ちゃんとしろ」
ゴンは顎でアマネを指した。
「どうした!?」泣きそうな顔になっているアマネに、素直に驚いた。
「だって、海斗が全然相手にしてくれないんだもん」
「ごめん。記憶にないんだけど、本当にごめん」
覚えていることは、一朗太の指示で、海斗、ゴン、アマネの三人で荷台に乗るように言われたことだ。参謀殿曰く、『俺たちに気兼ねなく、考える時間が欲しいだろ』とのこと。何を指しての発言なのかすぐにわかったので甘えさせてもらった。
「悩みがあるなら相談に乗るよ」アマネが言った。
「……それなら、御言葉に甘さえてもらおうかな」
一人で考えても埒が明かない。海斗は、黒い残暑と、陸治から聞いた、その真相について話した。
「話を聞く限りでは、カオナシ様がやったのは間違いないだろ」ゴンが答えた。「だが、それがどうしたのだ?」
「いやな。俺、美月、一朗太の両親や友達は、黒い残暑で亡くなったんだよ」
「それと…、上の空がどう繋がるのだ?」ゴンは言葉を慎重に選んだ。
「テンイに来てから、カオナシは俺を助け続けてくれた。今もこうやって、お前たちと不自由なく会話できるのはカオナシのおかげだ。でも、黒い残暑で、何万もの人間を殺した。その中には、俺の両親や友達も含まれる。俺は……、カオナシとどう付き合ったらいいのかわからなくなって……」
「……テンイの家族として言わせてもらえれば、カオナシ様に賞賛を送りたい。だからこそ、何と言っていいのか、わからないな」
「私は海斗の気持ちがわかるかな」アマネは言った。「故郷を飛び出したはいいけど、いざ家族の集落が目前に迫ったら、どうすればいいのかわからなかったから。私が翼有る者だと知られたら、殺されるのもあって怖かったし」
「凄いな。そんな思いをしてまで、入ったのか」海斗は感心した。
「家族を知りたかったってのがあったから。ほとんど勢いで飛び込んでみたの。そしたら、翼有る者は絶滅したと思われていたみたい。それ以来、気楽に旅をしてたんだよね。海斗たちに出会うまではね」
「勢いで飛び込んだのか……」時にはそういうのも必要なのかもしれない。じゃないとわからないこともある。「俺も飛び込んでみるよ。直接カオナシと話してくる」
「それがいいだろう」ゴンは同意した。
「……ところで、どうすれ――」そこで海斗の意識は途切れた。
瞼を開けると、死者の底にいた。向こうから呼び出してくれたのは、素直にありがたい。海斗は、何の力を持たない一般人であるため、自分からカオナシに会いに行く方法は持ち合わせていない。
カオナシは地面の上に座って、木に背中を預けていた。相変わらず、動物たちに囲まれている。本来であれば、頭がある空洞部分から、小動物が出てきた。
「私に用件があるようだから呼んだ」
「そうなんだけど、びっくりするから、急に呼ぶのは止めてくれ」
「次からは気を付けよう」
「単刀直入に訊く。あんたは本当に黒い残暑を引き起こしたのか?」
「そうだ」
あまりにも簡単に認めたことに、軽いショックを覚えた。カオナシのことは信頼しているし、知らなかったとは言え今まで見守っていてくれたから信じたかった。自分は一人ではなかったのだ。できれば、陸治の戯言であったと願っていた。
「…………どうしてだ?」
「それを説明するためには、事の始まりから説明しなければならないな」
死者の底の雰囲気が変わった。生命の営みが行われているのだが、そこで暮らしている動物たちがまるでカオナシを存在していないかのように振舞っている。小鳥たちは、カオナシの目の前を通過していった。
「私の記憶を元に、映像を編集した」最初にそのような断りを入れた。「大戦争後、私たちが鎮守を始めてから、滅多に家族の前に姿を現さなくなって幾星霜。この時の私は、久しぶりに家族の前に姿を現した」
一瞬にして映像が切り替わった。空を飛んでいるカオナシを、更に上空から見ている形だ。海斗はてっきり主観映像かと思っていたが、第三者的な視線だ。
カオナシは初めて見る種族の集落――無数の洞窟で形成された集落――に舞い降りた。頭から胴体は人間と変わらないのに、手足は犬猫のそれだ。
「この家族は、敏なる者。力は強く、高い身体能力を有する」カオナシは説明した。
カオナシが登場したことで、敏なる者たちは大喜びした。すぐに集落総出で歓待を受けるカオナシ。だが、楽しい雰囲気はあまり長く持たなかった。徐々に興奮しだした敏なる者たちは怒り出し、カオナシに詰め寄った。リーダーらしき人物が、怒りに任せながら理由を話した。
「ここで私は人間という種族が、悪逆な行いをしていることを知った。実のところ、私が人間という種族を知ったのは、最近のことなのだ。私はすぐに人間の元へ向かった」
また映像が一瞬で変わった。今度は軍隊の宿営地にしか見えない場所だ。無数のテントに車。そして無数の檻。その中には、テンイの家族が、種族ごとに入れられていた。
「この光景を見て、私は激しい怒りを覚えた。まるで、家族を物のように扱っているからな」
上空にカオナシが現れたことに、軍人たちは驚いた。写真を撮ったり、カメラで撮影している人もいる。家族たちはカオナシの登場に、希望を見出し檻に掴まって、助けを懇願する。
「まず私がしたのは警告だった。家族を解放し、元の世界に帰り、二度とテンイに来るなと」
映像の中で、部隊長らしき人物が頷いて、テンイの家族を解放した。だが撤収するには、時間がかかるので、時間が欲しいと言った。
「素直に言うことを聞いたから、私は人間の言い分を飲んだ。今にして思えば、これは過ちだった。問答無用で殲滅すればよかった」
映像が切り替わった。今度は、通じ合う者たちの集落に変わった。
「だいたい一年後ぐらいに、再び家族の前に姿を現した。そこで、人間たちが再び家族狩りをしているのを聞いた。人間は端から約束を守る気などなく、愚かにも私は騙されたのだ。私は人間の殲滅を決断した」
映像が切り替わった。軍隊の宿営地に変わったが、今度の軍人たちは、カオナシの来訪に対し、戦闘準備をして待ち構えていた。両者の間に言葉は必要なく、カオナシが到着してすぐに戦闘が始まった。
「なんだよこれ……」海斗は戦慄した。
それは戦闘と呼べるものではなかった。カオナシが一方的に蹂躙しているのだ。この時の人間たちは保有している全ての火器で攻撃した。だが、直撃してもカオナシには、まるで効果がなかった。せいぜい汚れるぐらいだった。対して、カオナシの攻撃は、人間たちを次々と屍に変えていった。虐殺と言っても差し支えはないかもしれない。
「人間からすれば、私は幽霊のような存在であり、人間の武器では私に傷一つ付けることはできない。だがそれ故に、油断してしまった」
カオナシは死屍累々とした地上に降り立ち、檻の扉を包丁のような剣で斬って、捕らわれていた家族たちを次々と開放する。そんなカオナシに対して、背後から駆け寄って来る一人の軍人がいた。その手には剣のような物を装着している。それは中身をくり貫いたような球体であり、その中に右手を入れているのだが、無数の細い触手が右腕に絡みついている。球体から淡い光を発する剣身が伸びている。
「よく見ておけ。これこそ私が敗れた理由だ」
カオナシは近づいてくる軍人に対し、全くの無警戒。堂々と背中を見せている。軍人はその背中から剣を深々と突き刺し貫いた。数瞬後にカオナシから悲鳴が上がった。
「一体何があったんだ?」海斗は訊いた。
「ホコと言ってな。これは、大戦争において、翼有る者たちが作り出し、私たち――現在は鎮守たちを殺すための武器だ。ホコは大戦争で全て失われたと思っていた。仮に現存していても、人間がそれの正体を知っているとは思わなかったし、扱えると思ってもいなかった。慢心したが故に私は敗れた」
映像が切り替わった。今度は、真っ暗な映像が暫し続く。
「人間で言うところの気を失った状態になっていた」カオナシは説明した。
真っ暗だった映像が、急に明るくなった。そこは海斗にとっては、比較的見慣れた光景だった。カオナシは手術台の上に乗せられ、用途不明な様々な計器に繋がれていた。その周りには、白衣を着た無数の人間がいる。誰も彼もが、珍獣を見る目でカオナシに好奇の視線を向けている。
「この時の私は死に向かっていた」
「どういうことだ?」海斗は首を傾げた。
「世界の法則が違うのだ。どうやら地球では、私は存在できないようだ。凄まじい速度で消滅していくのがわかった。どうせ死ぬのなら、一人でも多くの人間を道連れにしてやろうと、私は力を使った」
そう言った瞬間、カオナシを中心に、黒い球体が広がっていった。突然の出来事に慌てふためく人間たち。必死に逃げるが壁は、人間の逃げ足よりも速度があり、人間たちを易々と飲み込んでいった。その光景に、海斗は言葉を失った。忘れたくても忘れられない。理不尽に家族や友達を奪った、あの時の黒い壁そのものだった。何年経とうが、こればかりは見間違いようがない。
「結果的に、これで私は自由を得た。だが、消滅する事実は変えようがなかった。私は何としても生き延びなければならなかった。そしてお前を見つけたのだ」
上空から見下ろすカオナシ。地上から見上げているのは子供の頃の海斗。
「もういい」
そこから先のことははっきり思い出していたので、海斗は遮った。映像は切り替わり、死者の底になった。小動物たちは、再びカオナシの元へ集まった。
「これが黒い残暑の真相だ」
「……………どうして俺だったんだ?」
「地球で私が生き延びるためには、肉の器が必要だった。一番近くにいた器がお前というだけだ。それ以上もそれ以下の理由もない。今だから話せるが、これは私にとって初めての試みであり、成功するかはわからなかった。最悪、お互いに悪い影響が出ていたかもしれない。結果的に良かったと思っている。お前を基準に、人間というのを知ることができた」
「俺から出ていくことは可能なのか?」
「可能だが、やろうとは思わない。世界の法則の関係で、私の魂は、お前とくっ付いてしまった。無理に引き剥がすことはできる。その代わり、お前に悪影響を及ぼすことになる」
「なあ、あんたは、美月の髪がどうして白いか知っているか?」
カオナシは頷いた。「勿論だ。お前を通して私も知っている。あの子は、家族を愛していたが故に、失った重度のストレスから、脱色してしまった」
淡々と言われることに、無性に腹が立ってきた。
「あんたのせいで美月の人生は滅茶苦茶になった!美月だけじゃない!一朗太や拓郎!ひまわり園の家族たちの人生を滅茶苦茶にした!」
黒い残暑の真相。それは、カオナシが自棄を起こしたからだった。何故かわからないが、酷い裏切りにあったような気持になった。
「……………そうだな。私が大人しく死んでいれば、多くの人間が生を全うできただろう。だがな海斗。私はお前の言葉を聞きたい。お前はどう考えているのだ?」
「俺のことはどうでもいい!重要なのは美月のことだ!」
「……では、お前は私に何を望む?謝罪か?この命か?」
「謝罪はしてもらう!そこから先は…美月の判断に任せる……」凄く情けないことを言ったような気になった。
「それでは暫し、体を借りるぞ」
海斗は不思議な感覚に襲われた。現実に戻って来たのに、まず体の自由が利かない。自分の意思に反して、体が全くいうことを聞かない。見えている景色もなんか変だ。まるでカメラを通して世界を見ているような感じだ。これが体を借りられるということなのを知った。
ゴンは姿勢を正して、カオナシに対して伏せている。アマネはどこか警戒した様子で、カオナシを見つめる。
「一朗太。車を停めてくれ」カオナシが言った。
ランドクルーザーが停まると、カオナシは荷台から降りて、美月の元へ向かい土下座した。突然のことに、美月は困惑した。初めてカオナシと対面する日奈は、海斗の外見と中身が、全く違うことに困惑した。
「黒い残暑は私が自棄を起こして、起きたものだ。知らぬとはいえ、私はお前たちの家族友人を奪った。本当に申し訳ないことをした」
「お止め下さい」ゴンが言った。「元をただせば、人間が蒔いた種。カオナシ様が謝罪する理由はなく、人間が謝罪するのが筋ではありませんか」
「黙れ。私は、人間もある意味、被害者と知った」
「それはどう――」
「あの」美月は遮った。「それはお兄ちゃんから頼まれたんですか?」
「海斗の望みだ。そして私にどうして欲しいかは、美月の判断に任せるとのことだ」
「……………考える時間をください……」
海斗は焚火を挟んで、一朗太と向かい合っていた。アマネが一緒に居ようとしたが、海斗が頼むと、何かを察して、大人しく引いてくれた。
今晩も野宿をすることになったが、今までと違うのは、車中泊ができることだ。寝づらいものの、夜の寒い風に晒されないのは本当にありがたかった。また、車の中にはサバイバルキットが常備してあり、その中には非常食もあった。加えてゴンが狩りをしてきたおかげで、栄養と空腹の心配は今のところなかった。
「――てなわけさ」
海斗は、どうして黒い残暑が起きたのかを説明した。一朗太は長時間の運転で疲れているはずなのに、海斗の相談に乗ってくれた。本当に良い家族に恵まれた。と、つくづく実感した。
「それでお前はどう思ったんだ?」
「どうしてかわからないが、裏切られたように感じた」
「……そう感じたのは、お前が納得できなかったんだろう。お前が納得できる理由だったら、そんな風には感じなかったんじゃないか?」
「…………多分、そうだと思う……」
冷静になり、指摘されたことで、カオナシに歩み寄れる理由が欲しかったんじゃないかと思う。自分でも意識していない心のどこかでは、やっぱり信頼したいのだろう。
ここで会話が途切れ、二人は焚火を見つめる。重苦しくはないのだが、会話が続かない空気だ。薪が爆ぜる音が、やけに耳に残った。
「……なあ」海斗は、恐る恐る口にする。「お前は黒い残暑をどう思っているんだ?」
「…………今から話すことを、誰にも口外しないで、墓まで持っていくと約束してくれるなら教える」
海斗は一瞬、躊躇ったが頷いた。
「俺は黒い残暑が起きたことに、心から喜んでいる」
海斗は驚愕した。大勢の命を理不尽に奪った大惨事を喜ぶなどありえない。問い詰めようとしたが、一朗太は手を前に出して止めた。
「最後まで聞け。それから文句があるなら聞く」
海斗は大人しく引き下がった。参謀殿を見つめる目は、厳しくなった。
「俺の両親は、所謂、毒親という奴でな。虐待は当たり前。飯のない日だって、当たり前のようにあった。真面目な話。黒い残暑が起きなければ、遠からず俺は死んでいた」
海斗は一朗太と出会った頃のことを、急に思い出した。同い年とは思えないぐらい、チビで瘦せていた。その頃は、毒親という言葉を知らなかったし、そんな親が存在するとも思っていなかった。今の話を聞いて、その頃を思い出すと、ちゃんと聞かずに問い詰めようとした自分が恥ずかしかった。
「黒い残暑があった日。俺は両親の虐待で外へ放り出された。それが結果的に、俺の命を救い、両親は死んだ。そして、ひまわり園に引き取られて、家族の温かみを知った。俺からすれば、黒い残暑は人生に光を照らしてくれたきっかけだ。誰も彼もが、美月のように家族を愛しているのが当たり前だと思うな」
「俺は間違っているのか……?」独白のように言った。
「俺の例が特殊だったというだけだ。倫理的には間違っていない……、お前は両親の顔を思い出せるか?」
「それはもち……、あれ?」海斗は首を捻った。
顔にモザイクが掛かっているように、上手く像を結ばない。というか、両親の好物とかも上手く思い出せない。
「上手く思い出せないのか?」
「そうなんだけど……」
生まれてから十年以上、毎日顔を合わせていた家族の顔を、どうして思い出せないのか不思議でなかった。
「俺に言わせれば、お前はある意味、幸福な人生を歩んだ。美月のお兄ちゃんで居続けるための努力をした。それが、他の家族と決定的な違いだ。誰よりも先に、未来を見据えて努力していた。言葉を変えれば、余計なことを考えずに済んだ。お前は自分でも気づかない内に、過去に囚われていないのだろう。それを踏まえて聞く。お前はカオナシをどう思っているんだ?」
「何万もの人間を――」
「倫理に基づく言葉だ。俺が聞きたいのは、お前の言葉だ」
「美月の――」
「それは兄としての言葉だ。そういったものを全部取っ払って、丸裸になった稲置海斗の言葉を聞きたい」
海斗は自分の心と向き合い、知った本心に自己嫌悪に陥った。「ああ、くそっ……。認めたくないな。こんな俺を……」
「それでも聞かせて欲しい」
海斗は長い沈黙の後に喋り出した。「黒い残暑は過去のことだ。今更、蒸し返したところで、何が変わるんだ?俺はカオナシに対して、強い怒りや憎しみを持てない。むしろ、あいつも被害者だろうと思ってしまう。くそっ。俺って薄情な人間だったんだな」
口にすると、強い罪悪感に襲われる。その辺に硬い岩であったなら、自分の頭を勝ち割りたくなった。
「お前が本当に、薄情な人間なら美月の兄になったりしなかっただろう。日奈を救おうとしなかっただろう。あの二人のために、ニューイーラを敵に回したりしなかっただろう。俺にしても、ここまで付き合ったりしなかっただろう。間違えるな。お前は薄情じゃない。ただ、何が大切かを知っているだけだ」
「ありがとうよ。そう言って貰えて、少しだけ心が軽くなった」
「事実を言ったまでだ」
「……もう一度、カオナシと話をしてみるよ」
(では案内しよう)
世界が一瞬にして変わった。そこは死者の底ではなかった。見回す限り平野がどこまでも続き、青空には雲一つない。カオナシは海斗に背を向けて、青空を眺めている。
海斗はカオナシの背中に向けて、いきなり頭を下げた。「済まなかった。一方的に責めるのは間違っていた。許して欲しい」
「私は今、喜んでいるのだよ」カオナシは背を向けたまま言った。「お前がようやく一人の人間として言葉にしてくれたことを。例えそれが、罵声であっても、私は喜んだ」
「一方的に責められたことを、怒らないのか?」
怒られても仕方ないと思えることをした。という自覚がある。だから罵声を浴びせられたら、大人しく受ける気でいた。
「何故だ?お前たちも被害者ではないか。私に対して怒りや憎しみをぶつけるのは自然なことだ」
「事情を知らなかったら、そうかもしれない。でも事情を知った今では、あんたも被害者だ」
「それは違うぞ。人間も巻き込まれた被害者だと知った。私の中に、許すも許さないもない。謝罪は不要だ。そんなことよりも見よ。この青空を。これこそ、本来のテンイの空だ」
海斗は青空を見上げた。
「透き通っていて綺麗だな」
加えて、高層建築物がないので、とても広く感じる。
「そうだろう。……だが、悲しいことに、この空を知るのは、今では私たち鎮守だけだ」
海斗は首を傾げた。現実の空と、ここの空の何が違うのかわからない。
「それはつまり……、人間のせいで環境汚染されたとか?」
「喋り過ぎたな。そういう意味ではない。気にしなくてもよい」
海斗は青空を眺めながら、ぽつりと語り掛ける。
「なあ。俺はあんたを改めて信用したい。鎮守とか種族とか、そういうのを抜きに、俺と友達になってくれないか。俺はカオナシとの関係を新しく結び直したい」
「素晴らしい提案だ。私に異論はない」カオナシは手招きした。海斗はカオナシの隣に立った。
「助けられっぱなしだけど、これからよろしくな。カオナシ」
「こちらこそ、よろしく頼む。海斗」
二人は並んで青空を眺め続けた。
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