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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。
第73話 たまにはゆったり
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盛大に喧嘩してわかることも割とある。
喧嘩するほど仲が良いって言うけど、喧嘩するとお互いの気持ちがよくわかると言うか…。
なんというか…、好きであればあるほど逆に喧嘩しちゃうこともあるんだな…。
ただ、なんというか…お互いに喧嘩する事で更に好きになった…って感じはある…。
ひとまず、盗賊ちゃんと魔女さんがお風呂に入ってる間に俺と残りのみんなで食事会の準備でもしようという事になった。
せっかくなのでギルマスちゃんも呼ぶと、用事でたまたま来ていた皇女殿下も一緒に来ることになった。
「にゃ~。つまり盗賊ちゃんに大変おめでたい事があったからみんなでお祝いしようと、そういう事にゃ?」
「まぁ…そうなるかな。そのせいでついさっきまで喧嘩もしちゃってたけど…。」
「お互いに相手のことが好き過ぎるにゃ…。
まぁ、それ自体はとても良い事だとは思うけどにゃ…。
お前らほんとさっさと結婚しちまえにゃ…。
むしろなんでしないのにゃ?そんなに好きなのに…。」
毎回、そんな事言われる度に考えてはしまうのだが…、どうしても俺の世界の常識で物を考えてしまう…。
俺には盗賊ちゃんはまだ幼い少女だし、これだけの年の差で結婚とか、それ以前に彼女の将来を奪って良いのか…ってのをさっきまではついつい考えてしまっていた。
「そこはアレだろう大賢者!君は自分の世界の常識でなにもかも考えてしまっている。それ以上に君は、彼女の将来について随分と先のことまで考えこんでしまって結論を出せずに居るんじゃないのかい?」
「うん…まぁね。考え過ぎって絶対言われそうだけど…。
2人がお風呂から出てくるまで、ちょっと話に付き合ってもらって良いかな?」
「うむ!構わないぞ!君の悩みを聞くのはお姉さんの役目だったからな!何かあればちゃんと口に出さないと壊れてしまうからな。」
俺より背の低い勇者ちゃんに頭をなでなでされながら、俺たちはみんなで食堂へと向かおうとする。
その途中で皇女殿下に話しかけられた。
「ところで、あなたの本心としてはどう思ってるの?色々と考えるのはその後でもいいと思うの。
あなたがまずどうしたいか。そこから考えるべきよ。
先のことなんてどうなるかわからないし、どうにでもなるんだから…。」
「俺は…。彼女と…一緒にいたい。だけど俺は…!」
「異世界の…人だから。ですか?いつか自分が元の世界に急にまた帰ることになってしまった時のことや、それ以外にもたくさんの事を考え込んでしまっているんですね…。」
「まぁ…ね。前回のこともあるし考えずには居られないさ…。」
俺が元の世界へ戻った時、俺もみんなも互いに互いが関わった記憶を失っていた。
だから俺は自分がこの世界から急に消えないように楔を立てる事になった。
だから今は…少なくとも俺が急にこの世界から消えるというリスクは…大きく失われた筈だ。
だが…、その理屈ならこれだけ世界に楔を残した安倍晴明は…何故消えた…?
まだそういう謎が沢山ある…。
確かに考え過ぎかもしれないが、こう言った謎や心配をちゃんと失くしてスッキリさせてから…俺はついついそういう事を考え過ぎたのかもしれないな…。
食堂について食事の準備をしている間に、みんなに考えていた事をいくつか聞いてもらうことにした。
「なんで結婚に踏み出せていなかったのか…。
いろんな理由があるよ。
年齢差は確かにまず一つ目…。
具体的に言えば、自分の世界の常識でだと子どもと大人の境目とも言える年齢の女の子に手を出すのはどうなのかなって…。いや…まぁ…キスしてんじゃんとか言われたらぐぅの音も出ないんだけど…。
あとは、アレだな…。年齢差があるとどうしても最後は先に死んでしまう事とか考えてしまって…。1人だけ残す事になったら…とか…。」
「うむうむ!そう言うのたしかにわかるなぁ…。
たった数年ならまだしも10数年単位で余生を一人で過ごさせる事になったら…ってついつい考えてしまうよな!だが、それを言ったらこの世界には寿命差が半端なく大きい種族も多々居るからな!
だからこそ、重婚文化がこの世界では普通なのさ。
悲しい話だが、先立たれたら次へ…みたいな人も多いんだよ。」
そういうの考えるとますます嫌になっちゃうんだよな…。
だからついついそれくらいならってなっちゃったり…。
「本当に賢者は考え過ぎにゃ。
先のことなんか考えてもしょうがないにゃ。
にゃーも賢者のこと好きになった時なんか寿命の事とか全然考える気もしなかったにゃ。
多分、そっちのが普通にゃ。
先の見えない未来なんて後でいくらでも考えれば良いし、割とどうとでもなるもんにゃ。」
「好きになり過ぎると、たとえ1秒たりともなるべく1人にさせたくなくなるからきっとそうなるんだろうな!考え過ぎてしまうのは要はそう言う事だ!」
それ以上に自分が寂しがり屋な性格をしてるのもあるかもだな…。
だからこそ、相手を寂しがらせる事はなるべくしたくないし…。
「で、他にも理由があるのかにゃ?
まぁ、何もかもが考え過ぎな気はするんだけどにゃ。」
「とは思うよ…。お金や家のことも最初は考えてたし…。そこは今のこの環境だからまず心配はないけど。それはこの世界で俺が一生を終えるならばの話だ。
これだけの楔をしっかりと残した筈の晴明が自分の世界で生涯を終えている…。
それは何故かとか考えたり、そうなると残された人はどうなるのかなとか…。」
「確かに…考え出すと不安しかない話だにゃ…。
以前のこともあるから余計にだにゃ…。
お互いにお互いの事を忘れて、賢者が戻ってきても暫くは完全に思い出しきれてなくて…。
アレは本当につらくて悲しい事件だったにゃ…。
願わくば…二度とあって欲しくないにゃ。」
俺だってそれはそう思う。
ただ、結局俺はこの世界にとっての異物だ。完全回避できる保証は一切ない。
この身体も、この世界に適応できる肉体かどうかもわからない。
世界が違えば、その世界に存在する細菌や食べ物の成分も違う。
近いものはあるだろうが、そう言うのが体質に合わなかったり未知の病原菌や病に侵されれば助かる見込みはないだろう。
例えば、俺が今までの生活習慣が原因でこの世界でガンにでもかかったらたすかるのか?
そう言う話もあり得なくはない。
まぁ、考え過ぎなのだが…。
病のことを抜きにしても、俺がこの世界で一生を終えられるという可能性は100%ではない。
「あとは、子どもが出来た後も…俺が万が一この世界から消えてしまったらとかついつい考えたり…。
そもそも、出産と言うのは昔は命懸けだったとか聞くし、それ以前にあの幼い身体相手にそう言う行為はまだ早いだろうとかもうほんと色々とね…。」
「アホらしいくらいに考え過ぎにゃ…。
しかも、大半が自分の事ではなく相手のことばかりにゃ。
それ、全部彼女に話したことあるにゃ?」
「ん…、言われてみると…確かにない…。
そもそも、話して良いものかって考えてたし…。」
などと話してると食事の支度を終えた盗賊ママが俺にどかっとのしかかってうりうりしてくる。
「なるほどなるほど。アンタがもうどんだけうちの娘に惚れてて、どんだけ大切に思ってくれてるのかはよーーーーくわかったよ。
いやもうほんと羨ましいくらいに。
アタシが旦那に欲しいくらいに。
でも、ほんとアンタ考え過ぎだよ。
だからね、あの子の親としても言っておく。抱きたきゃ抱け。結婚したけりゃしろ。
幸せにしたいなら、後先考えずにやりたいようにやりな。
あの子も、それを求めてる。
ただ、あの子もまだまだガキだ。
アンタが不安になるくらい考え込んだら、あの子も同じくらいに不安になるくらいに考え込んじまうよ。
あの子もそれくらいアンタのこと好きなんだから…。」
「そう…だよな…。いやまぁ、抱くとか抱かないとかは色々と俺の中の罪悪感とかが邪魔してるのが大きいんだけど…。」
「じゃあ何か?あの子が今のアタシと同じ年齢だったら直ぐにでも抱くかい?」
性的な欲望的には…まぁ、抱きたくはなるだろうが…。
でもそれ以上にいろんなことを考え込むな…。
「アタシが思うに、アンタは欲望と自分の自制心が矛盾してると思うんだよ。
普通、目の前にいる女がみんなアンタに惚れてたら男なら全員抱くだろう。
少なくともアタシが知ってる男はみんなそんなもんだったよ。
まぁ、アタシは高級娼婦だからそう簡単には抱かせなかったけどね。
で、アンタの本音はどうなんだい?うちの娘を抱きたいとか結婚したいとか思ってんだろう?」
「そりゃ、本音はもちろん…。否定はできない…。」
「はぁ…。なんというか、アンタは優し過ぎるんだよ。損なくらいに優し過ぎる。
優し過ぎて優しいのかもわからないくらいにね。
あの子は幸せもんだね…。
こんな男今まで見たことないよ。
なんなら、アタシが抱かれたいよ。
きっと、ベッドの上ではさぞ優しく抱いてくれるんだろうねぇ?いや、案外ベッドの上ではケダモノになるのかねぇ~?」
ニヤニヤと下品な話題でからかってくる盗賊ママ、この人も明るい顔で笑っちゃいるけど盗賊ちゃんが生まれたあとは結構大変な人生送ってたんだもんな…。
「ほんと…。あの子には勿体無いくらいに良い男だよアンタは。もっと自分にも自信を持ちな?
知らないだろうから教えてあげるけど、あの子アタシにメイク教わりに来た時なんて言ったと思う?
アタシがアンタと同い年だから、きっとアンタ好みの女になるメイクもわかるはずだろう?だから、教えてくれって。
誰よりも男を知り尽くしてるアタシならきっとアンタが惚れる女になるメイクもわかる筈だってね。
そんなことを娘に言われる日がくるなんてね。
嬉しいような悲しいような…だよ。
ただ、これもまたアンタのおかげだ。
アタシたちの距離を縮めてくれたこと、感謝してるよ…。」
「いや…、こちらこそ。なんて言うか彼女をこの世に産んでくれたことに感謝したいくらいだ。
あの子のおかげで、俺は毎日を生きる活力も湧いてきた。
本当に、恋をする前は生きることが楽しくなくて退屈で面白くもない毎日を送っていたから…。
きっとこのまま何もなく死ぬのかとかも思ってた。
この世界に来て、みんなと会ってからは毎日が楽しいよ。もちろん、平和なのが一番だけど…。
しかし、10日あまりでほんといろんなことがあり過ぎたな…。
詰め込み過ぎな刺激的な毎日だよ…。
それもあって、普通結婚って何年も付き合ってからするもんだろうとか思っちゃうんだよ…。
たった数日でここまでベタ惚れされてるのが異常だろうと…。」
「そもそも、私たち2人に対してもいくら言葉が通じてなかったとは言え、目の前で脱いでも手を出そうとしなかったような紳士様だもんね~賢者は…。」
戦士ちゃんもいつのまにか食堂に来ていたようだ。妹ちゃんも一緒だ。
「でも、それが賢者様の魅力です。
優しくて頼り甲斐があって、甘えるととても優しく包み込んでくれて…。
いやぁ…正直あんなぽっと出の女に寝取られるとは思いませんでしたよちくしょう。」
「妹ちゃん妹ちゃん、本音がたくさん溢れてる溢れてる…。あと、一緒には寝てるのは確かだけど、寝取ると言う言葉は正確にはそう言う意味ではない…と思う。
実際、俺もこんなに惚れてもらえて惚れられるとは思っても見なかったよ。
それこそ、最初この世界に来た時はもふもふのギルマスちゃんが可愛くて仕方なかったし。」
「にゃー、ほんとそれにゃ…。あんだけもふもふして癒されてたのに…。いつのまにかぽっと出の女に完全に身も心も奪われてて、にゃーは悲しいにゃ…。」
そこへ2人が戻ってくる。
湯上り肌の2人はまたいつにも増して美しく見える。
「面白い話をしていたようだね。お風呂ありがとう賢者くん。お陰さまであったまったよ。
しかし…、まぁ確かに私も彼の部屋に入り込んだ盗賊がいつのまにかこんなに互いに思い合う仲になって、自分は割と蚊帳の外になるなんて思っても見なかったよ…。」
「な、なんだ!?お風呂から上がってきてみればみんなでオレを責める流れになってたのか!?
そうか…、みんなの中では順番的にオレが一番最後に惚れたのに…こんなにも愛してもらってるんだ。
そりゃ…あまり気が良いものではないよな…。」
「はははは!だが、君がこんなに彼のことを好きになる気持ちはよーくわかるぞ!私も生前の幼馴染のお姉さんだった頃は彼の無意識の優しさにとても救われたしきゅんきゅんさせられたからな!
さて、みんな揃ったぞ大賢者?」
皆が席に着くと料理がたくさん運ばれてくる。
「すごい量だな…。魔女さんからチラリとは聞いてたけど…、これオレへのお祝いなんだよな…?」
「まぁ、おめでたい日かな…って。嫌だった…かな?」
「そんな事ねぇよ。こうやってなにかを祝ってもらうのは初めてだから。じゃ、乾杯しようぜ?」
皆で乾杯し、美味しい料理を食べ、夜が更けていく。
こんなにたくさんの人と一緒に、大好きな人と一緒に、食事をする事の楽しさたるや…。
君がいたからこそ俺は知ることが出来たんだ。
さて…、俺はこの世界にあとどれだけ居ることが出来るのか…。
調べるべき事は山積みだ。
だが…まぁ…今はどうでも良いか。
焦らず調べれば良い。
今はこの楽しいひと時を楽しむとしよう。
喧嘩するほど仲が良いって言うけど、喧嘩するとお互いの気持ちがよくわかると言うか…。
なんというか…、好きであればあるほど逆に喧嘩しちゃうこともあるんだな…。
ただ、なんというか…お互いに喧嘩する事で更に好きになった…って感じはある…。
ひとまず、盗賊ちゃんと魔女さんがお風呂に入ってる間に俺と残りのみんなで食事会の準備でもしようという事になった。
せっかくなのでギルマスちゃんも呼ぶと、用事でたまたま来ていた皇女殿下も一緒に来ることになった。
「にゃ~。つまり盗賊ちゃんに大変おめでたい事があったからみんなでお祝いしようと、そういう事にゃ?」
「まぁ…そうなるかな。そのせいでついさっきまで喧嘩もしちゃってたけど…。」
「お互いに相手のことが好き過ぎるにゃ…。
まぁ、それ自体はとても良い事だとは思うけどにゃ…。
お前らほんとさっさと結婚しちまえにゃ…。
むしろなんでしないのにゃ?そんなに好きなのに…。」
毎回、そんな事言われる度に考えてはしまうのだが…、どうしても俺の世界の常識で物を考えてしまう…。
俺には盗賊ちゃんはまだ幼い少女だし、これだけの年の差で結婚とか、それ以前に彼女の将来を奪って良いのか…ってのをさっきまではついつい考えてしまっていた。
「そこはアレだろう大賢者!君は自分の世界の常識でなにもかも考えてしまっている。それ以上に君は、彼女の将来について随分と先のことまで考えこんでしまって結論を出せずに居るんじゃないのかい?」
「うん…まぁね。考え過ぎって絶対言われそうだけど…。
2人がお風呂から出てくるまで、ちょっと話に付き合ってもらって良いかな?」
「うむ!構わないぞ!君の悩みを聞くのはお姉さんの役目だったからな!何かあればちゃんと口に出さないと壊れてしまうからな。」
俺より背の低い勇者ちゃんに頭をなでなでされながら、俺たちはみんなで食堂へと向かおうとする。
その途中で皇女殿下に話しかけられた。
「ところで、あなたの本心としてはどう思ってるの?色々と考えるのはその後でもいいと思うの。
あなたがまずどうしたいか。そこから考えるべきよ。
先のことなんてどうなるかわからないし、どうにでもなるんだから…。」
「俺は…。彼女と…一緒にいたい。だけど俺は…!」
「異世界の…人だから。ですか?いつか自分が元の世界に急にまた帰ることになってしまった時のことや、それ以外にもたくさんの事を考え込んでしまっているんですね…。」
「まぁ…ね。前回のこともあるし考えずには居られないさ…。」
俺が元の世界へ戻った時、俺もみんなも互いに互いが関わった記憶を失っていた。
だから俺は自分がこの世界から急に消えないように楔を立てる事になった。
だから今は…少なくとも俺が急にこの世界から消えるというリスクは…大きく失われた筈だ。
だが…、その理屈ならこれだけ世界に楔を残した安倍晴明は…何故消えた…?
まだそういう謎が沢山ある…。
確かに考え過ぎかもしれないが、こう言った謎や心配をちゃんと失くしてスッキリさせてから…俺はついついそういう事を考え過ぎたのかもしれないな…。
食堂について食事の準備をしている間に、みんなに考えていた事をいくつか聞いてもらうことにした。
「なんで結婚に踏み出せていなかったのか…。
いろんな理由があるよ。
年齢差は確かにまず一つ目…。
具体的に言えば、自分の世界の常識でだと子どもと大人の境目とも言える年齢の女の子に手を出すのはどうなのかなって…。いや…まぁ…キスしてんじゃんとか言われたらぐぅの音も出ないんだけど…。
あとは、アレだな…。年齢差があるとどうしても最後は先に死んでしまう事とか考えてしまって…。1人だけ残す事になったら…とか…。」
「うむうむ!そう言うのたしかにわかるなぁ…。
たった数年ならまだしも10数年単位で余生を一人で過ごさせる事になったら…ってついつい考えてしまうよな!だが、それを言ったらこの世界には寿命差が半端なく大きい種族も多々居るからな!
だからこそ、重婚文化がこの世界では普通なのさ。
悲しい話だが、先立たれたら次へ…みたいな人も多いんだよ。」
そういうの考えるとますます嫌になっちゃうんだよな…。
だからついついそれくらいならってなっちゃったり…。
「本当に賢者は考え過ぎにゃ。
先のことなんか考えてもしょうがないにゃ。
にゃーも賢者のこと好きになった時なんか寿命の事とか全然考える気もしなかったにゃ。
多分、そっちのが普通にゃ。
先の見えない未来なんて後でいくらでも考えれば良いし、割とどうとでもなるもんにゃ。」
「好きになり過ぎると、たとえ1秒たりともなるべく1人にさせたくなくなるからきっとそうなるんだろうな!考え過ぎてしまうのは要はそう言う事だ!」
それ以上に自分が寂しがり屋な性格をしてるのもあるかもだな…。
だからこそ、相手を寂しがらせる事はなるべくしたくないし…。
「で、他にも理由があるのかにゃ?
まぁ、何もかもが考え過ぎな気はするんだけどにゃ。」
「とは思うよ…。お金や家のことも最初は考えてたし…。そこは今のこの環境だからまず心配はないけど。それはこの世界で俺が一生を終えるならばの話だ。
これだけの楔をしっかりと残した筈の晴明が自分の世界で生涯を終えている…。
それは何故かとか考えたり、そうなると残された人はどうなるのかなとか…。」
「確かに…考え出すと不安しかない話だにゃ…。
以前のこともあるから余計にだにゃ…。
お互いにお互いの事を忘れて、賢者が戻ってきても暫くは完全に思い出しきれてなくて…。
アレは本当につらくて悲しい事件だったにゃ…。
願わくば…二度とあって欲しくないにゃ。」
俺だってそれはそう思う。
ただ、結局俺はこの世界にとっての異物だ。完全回避できる保証は一切ない。
この身体も、この世界に適応できる肉体かどうかもわからない。
世界が違えば、その世界に存在する細菌や食べ物の成分も違う。
近いものはあるだろうが、そう言うのが体質に合わなかったり未知の病原菌や病に侵されれば助かる見込みはないだろう。
例えば、俺が今までの生活習慣が原因でこの世界でガンにでもかかったらたすかるのか?
そう言う話もあり得なくはない。
まぁ、考え過ぎなのだが…。
病のことを抜きにしても、俺がこの世界で一生を終えられるという可能性は100%ではない。
「あとは、子どもが出来た後も…俺が万が一この世界から消えてしまったらとかついつい考えたり…。
そもそも、出産と言うのは昔は命懸けだったとか聞くし、それ以前にあの幼い身体相手にそう言う行為はまだ早いだろうとかもうほんと色々とね…。」
「アホらしいくらいに考え過ぎにゃ…。
しかも、大半が自分の事ではなく相手のことばかりにゃ。
それ、全部彼女に話したことあるにゃ?」
「ん…、言われてみると…確かにない…。
そもそも、話して良いものかって考えてたし…。」
などと話してると食事の支度を終えた盗賊ママが俺にどかっとのしかかってうりうりしてくる。
「なるほどなるほど。アンタがもうどんだけうちの娘に惚れてて、どんだけ大切に思ってくれてるのかはよーーーーくわかったよ。
いやもうほんと羨ましいくらいに。
アタシが旦那に欲しいくらいに。
でも、ほんとアンタ考え過ぎだよ。
だからね、あの子の親としても言っておく。抱きたきゃ抱け。結婚したけりゃしろ。
幸せにしたいなら、後先考えずにやりたいようにやりな。
あの子も、それを求めてる。
ただ、あの子もまだまだガキだ。
アンタが不安になるくらい考え込んだら、あの子も同じくらいに不安になるくらいに考え込んじまうよ。
あの子もそれくらいアンタのこと好きなんだから…。」
「そう…だよな…。いやまぁ、抱くとか抱かないとかは色々と俺の中の罪悪感とかが邪魔してるのが大きいんだけど…。」
「じゃあ何か?あの子が今のアタシと同じ年齢だったら直ぐにでも抱くかい?」
性的な欲望的には…まぁ、抱きたくはなるだろうが…。
でもそれ以上にいろんなことを考え込むな…。
「アタシが思うに、アンタは欲望と自分の自制心が矛盾してると思うんだよ。
普通、目の前にいる女がみんなアンタに惚れてたら男なら全員抱くだろう。
少なくともアタシが知ってる男はみんなそんなもんだったよ。
まぁ、アタシは高級娼婦だからそう簡単には抱かせなかったけどね。
で、アンタの本音はどうなんだい?うちの娘を抱きたいとか結婚したいとか思ってんだろう?」
「そりゃ、本音はもちろん…。否定はできない…。」
「はぁ…。なんというか、アンタは優し過ぎるんだよ。損なくらいに優し過ぎる。
優し過ぎて優しいのかもわからないくらいにね。
あの子は幸せもんだね…。
こんな男今まで見たことないよ。
なんなら、アタシが抱かれたいよ。
きっと、ベッドの上ではさぞ優しく抱いてくれるんだろうねぇ?いや、案外ベッドの上ではケダモノになるのかねぇ~?」
ニヤニヤと下品な話題でからかってくる盗賊ママ、この人も明るい顔で笑っちゃいるけど盗賊ちゃんが生まれたあとは結構大変な人生送ってたんだもんな…。
「ほんと…。あの子には勿体無いくらいに良い男だよアンタは。もっと自分にも自信を持ちな?
知らないだろうから教えてあげるけど、あの子アタシにメイク教わりに来た時なんて言ったと思う?
アタシがアンタと同い年だから、きっとアンタ好みの女になるメイクもわかるはずだろう?だから、教えてくれって。
誰よりも男を知り尽くしてるアタシならきっとアンタが惚れる女になるメイクもわかる筈だってね。
そんなことを娘に言われる日がくるなんてね。
嬉しいような悲しいような…だよ。
ただ、これもまたアンタのおかげだ。
アタシたちの距離を縮めてくれたこと、感謝してるよ…。」
「いや…、こちらこそ。なんて言うか彼女をこの世に産んでくれたことに感謝したいくらいだ。
あの子のおかげで、俺は毎日を生きる活力も湧いてきた。
本当に、恋をする前は生きることが楽しくなくて退屈で面白くもない毎日を送っていたから…。
きっとこのまま何もなく死ぬのかとかも思ってた。
この世界に来て、みんなと会ってからは毎日が楽しいよ。もちろん、平和なのが一番だけど…。
しかし、10日あまりでほんといろんなことがあり過ぎたな…。
詰め込み過ぎな刺激的な毎日だよ…。
それもあって、普通結婚って何年も付き合ってからするもんだろうとか思っちゃうんだよ…。
たった数日でここまでベタ惚れされてるのが異常だろうと…。」
「そもそも、私たち2人に対してもいくら言葉が通じてなかったとは言え、目の前で脱いでも手を出そうとしなかったような紳士様だもんね~賢者は…。」
戦士ちゃんもいつのまにか食堂に来ていたようだ。妹ちゃんも一緒だ。
「でも、それが賢者様の魅力です。
優しくて頼り甲斐があって、甘えるととても優しく包み込んでくれて…。
いやぁ…正直あんなぽっと出の女に寝取られるとは思いませんでしたよちくしょう。」
「妹ちゃん妹ちゃん、本音がたくさん溢れてる溢れてる…。あと、一緒には寝てるのは確かだけど、寝取ると言う言葉は正確にはそう言う意味ではない…と思う。
実際、俺もこんなに惚れてもらえて惚れられるとは思っても見なかったよ。
それこそ、最初この世界に来た時はもふもふのギルマスちゃんが可愛くて仕方なかったし。」
「にゃー、ほんとそれにゃ…。あんだけもふもふして癒されてたのに…。いつのまにかぽっと出の女に完全に身も心も奪われてて、にゃーは悲しいにゃ…。」
そこへ2人が戻ってくる。
湯上り肌の2人はまたいつにも増して美しく見える。
「面白い話をしていたようだね。お風呂ありがとう賢者くん。お陰さまであったまったよ。
しかし…、まぁ確かに私も彼の部屋に入り込んだ盗賊がいつのまにかこんなに互いに思い合う仲になって、自分は割と蚊帳の外になるなんて思っても見なかったよ…。」
「な、なんだ!?お風呂から上がってきてみればみんなでオレを責める流れになってたのか!?
そうか…、みんなの中では順番的にオレが一番最後に惚れたのに…こんなにも愛してもらってるんだ。
そりゃ…あまり気が良いものではないよな…。」
「はははは!だが、君がこんなに彼のことを好きになる気持ちはよーくわかるぞ!私も生前の幼馴染のお姉さんだった頃は彼の無意識の優しさにとても救われたしきゅんきゅんさせられたからな!
さて、みんな揃ったぞ大賢者?」
皆が席に着くと料理がたくさん運ばれてくる。
「すごい量だな…。魔女さんからチラリとは聞いてたけど…、これオレへのお祝いなんだよな…?」
「まぁ、おめでたい日かな…って。嫌だった…かな?」
「そんな事ねぇよ。こうやってなにかを祝ってもらうのは初めてだから。じゃ、乾杯しようぜ?」
皆で乾杯し、美味しい料理を食べ、夜が更けていく。
こんなにたくさんの人と一緒に、大好きな人と一緒に、食事をする事の楽しさたるや…。
君がいたからこそ俺は知ることが出来たんだ。
さて…、俺はこの世界にあとどれだけ居ることが出来るのか…。
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クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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