59 / 137
ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。
第30話 僕らの勇者Oh…
しおりを挟む
昼食を終え俺の新たな力についての考察やらも済んだことだしと、俺は1人で街を回ってみることにした。
なんだかんだでこの世界に来てからまともに街を見て歩いてなかったしな。
この西の国の果てにあるこの都市はこれでもかなりの大都市に当たるらしい。
市場に商店街に露店街、屋台村的な感じの場所やカフェやバーの集まる通りなどいろいろなもので構成されている大都市だ。
その中央にギルドがあり、都市の果てに城と城を中心とした職人と研究者が集う城下町があると言うのがこの世界の大都市の主な特徴である。
ひとまず、俺は先ほどまでいたカフェ街から露店街へと移動する。
ハンドメイドの材料として革紐を手に入れたかったからだ。
ただやはり革紐だけと言うのは需要的なものもあるのかなかなかに見つからない。
俺は、すでに誰かがアクセとして作ったものを分解して材料にするとかそう言うのはあまり好きではないのだ。
ふーむ…。これは誰かにやっぱついてきてもらって案内してもらうべきだったか…。
ひとまず俺は革紐を編んだものを売ってるおばちゃんに、自分でこう言うのを作りたいんだけど材料はどこに行けば手に入るかを尋ねてみた。
聞いてみると材料の手に入れ方は様々らしい。
ギルドを通して材料になるモンスターの討伐を依頼→モンスターから剥いだ皮をギルド直結の加工業者や腕利きの職人が皮細工の材料として加工→そこから材料を買い取って服や防具やアクセをつくる業者や職人→さらにそれを売る露天商
みたいなのが主な流れらしく、ギルド周辺の工場を当たってみるのがお勧めと言われた。
ただ、すぐにギルドに戻るのもつまらないなぁと思った俺はその足で商店街へと向かう。
商店街はこの世界特有の一般人向けの服や道具を主に取り扱っている店が並んでいる。
時計屋もいくつかあるが、当然ながらこの世界の時計は手巻きタイプのばかりだ。
値段は少々張る。
それに良くも悪くも俺の世界の観点からすればヴィンテージデザインばかりだ。
当然といえば当然なのだが、これは俺の趣味にはあまりあってない。
しかし、この世界はガラスの加工技術も凄いのか所々にショーウインドウみたいな感じで色々と展示している店もある。
あとは、大鳥用のアクセサリーや荷馬車の専門店なんてものもあった。
こう言うところは異世界らしいな。
そして専門店の大鳥もまた人懐っこい。
興味深げに見ていると、店員よりも大鳥が寄ってきて\アイヨ?/といってくるくらいだ。
こいつらは実に愛らしい。
そういえばこの世界には愛玩動物としての犬や猫は居るのだろうか…。などと言う興味も湧いてきた。
俺は商店街をそのまま練り歩く。
すると、その先でこっちで言う大型デパート的な3階建の建物に出くわした。
「おお…。建築技術も結構優れてんだな…。
こんな建物が…。」
面白そうなので入ってみる。
中に入ると家具屋とか服屋とか靴屋がメインでチョロチョロと宝石屋や時計屋、飲食店が入っていた。
こう言うところもまるで俺の世界のデパートそのままだ。
流石に屋上遊園地はないけど…。
ただ、この世界の遊びを楽しめる遊技場的なのはあったりした。
主にこっちで言うトランプ系のゲームがメインさったが…。
それで勝って専用のメダルを集めると、その枚数に応じて好きな景品と交換できる仕組みだ。
ぬいぐるみとかもある。
「ぬいぐるみなぁ…。ゲーセンではよく取ったな。
そう言えば、流石にフィギュア的なものは見かけないな。」
あとは活版印刷技術も確立されてないのか、図書館はあっても本屋らしい本屋もなかった。
精々、俺の推しの冒険者の絵を描きました!的なイラスト屋がいたくらいだ。
このデパート的なところでも「あの有名絵師が描いた冒険者〇〇の絵」みたいなのはあった。
ちなみにいわゆる薄い本はなかった。
ちょっぴり期待したけど…。
あとはおもちゃ屋的なものも見かけた。
と言っても昭和初期のようなブリキや木で出来たおもちゃがメインだが…。
その途中できらびやかなお店を見かける。
ドールショップだ。
陶器製の可愛らしく愛らしい球体関節人形が所狭しと並んでいる。
よくあるフランス人形や日本人形のような気持ち悪い感じじゃなく、それはもう天使のような可愛さのドール達が並んでいた。
「美しいなぁ…。」
俺はこう言う人の手が生み出した芸術が好きなのだ。
料理然り手作り家具然りハンドメイド然り…。
同じものは生まれないと言うところが実に良い。
たとえ同じ作り方でも料理だって多少は味が毎日変わるのだ。
「ふふ。お手にとって見て見ますか?この子達からもあなたに抱き上げられて見たいと言う気持ちを感じます。」
これまたお美しい、金髪にホワイトロリータな服をお召しになったドールショップの店員さんが声をかけてくる。
「初めてお見かけになるお客様ですね。
純粋な黒髪…。さぞ高貴なお方なのでしょうか…。
それに変わったお召し物…。もしかしてあなたが、今街で噂になってる…。」
そうそうそう。
「勇者様ですね?」
そっちじゃない。
「えっと、大賢者の方です…。勇者様に倒された方ですね。」
「これは失礼を…。あなたの噂も聞き及んでおります。
あぁ、だからこの子達もあなたに抱かれたいのですね。
モノを創り出す手は彼女達に取っては親のような温もりですから。」
どうぞと比較的小さなドールを差し出され、俺はその子を両手で優しく受け取る。
ちっちゃ…きゃわわ…癒されるぅ…。
とほっこりしていると…
「人間相手は良いが人形相手の浮気は許さぬぞ主様よ!!」
カバンからおいなりちゃん(ちびさいずのまま)が飛び出してきた。
「!? ドールがしゃべってる…。
これが…賢者様の魔法…。私たちドールマスターの夢である自我を持つドールをも生み出せるなんて…!」
店員さんが感動に打ち震えている…。
「あー…えーっと…。うちの子も抱いてみます?」
「是非に!!」
店員さんは空中浮遊していたおいなりちゃんを優しく抱きとめてなでなでしていた。
「ふぉぉ…ふぉぉおうっ…こやつの手も…たまらぬのぅ…。女神のような優しさを感じる…。」
「うふふっ。嬉しいです。ここにいる子たちは私が生み出した子なんです。
どうやら皆も貴女を歓迎しているようですね。」
微笑みながらおいなりちゃんをなでなでする店員さん。
とても嬉しそうに撫でている姿がまた美しい。
「とても良いものを見せて頂きました。」
店員さんがそっと俺の肩においなりちゃんを乗せて来たので、俺もドールを店員さんに返す。
「私はここで、この子達を迎えてくれるステキな方を探しているのです。
貴方はその資格を十分に持っていると言えるでしょう。
お迎えしたくなったらいつでも来てくださいね。」
俺がお迎えに来たのではなく、見に来ただけであることはよくわかっていたようだ。
俺はドールショップを後にし、またあてもなくデパートの中を歩き回る。
特に何か目的があるわけでもなくただ見て回りたい好奇心が俺の足を動かす。
しかし、空想の中の異世界の文明ってのはなんでこうも中世的なのが多いのか…。
普通なら異世界でも機械的なものを使った文明があっても良いところだろう。
そんなふうに思っていたが、この世界は魔力をうまく使った俺の世界にはない道具もいくつかはあった。
きっと俺の世界にいたような文明を生み出す知恵のあるものが現れなかっただけなんだろう。
そこにさえ気付くものが現れたら世界の文明は大きく発展する。
俺の知識を使えば、この世界にはきっとたくさんの文明の変化が起こってしまうだろう…。
蒸気機関車が電車に変わり、エネルギー資源が変化し、炭鉱夫が仕事をなくすような事態だって起こり得るだろう。
よく、フィクションの世界の異世界人は世界を変化させるような規模のとんでも無い事をやらかしている。
よくよく思うけど、これって許されるのか…?
日本にゃ郷に入っては郷に従えという言葉がある。
その世界に存在するものを、存在するルールで使うのが正しい気がするんだけどなぁ…。
まぁこの世界にないもの持ち込んで無双してた俺が言えたもんじゃないけど。
ふぅ…。やっぱ1人の方が色々と考え事するには捗るな…。
しかし、こうやって少しづつこの世界についても知っていかないとだな…。
やっぱ外を歩くのは大事だ。
「おやぁ?おやおやおやおや!そこを行くは賢ちゃんじゃないか!さっきぶりだな!」
「すみません。どちら様でしょうか。多分人違いです。近付かないでくださぁあああ!」
近づくなと言い切る前に一瞬で間合いを詰められた。
瞬歩の無駄使いだぞお前!
「なんだ急に他人行儀になって!さっきお互いにお互いを気持ちよく叩き合った仲じゃないか!」
「その言い回しやめろ!あと賢ちゃん言うな!」
「あはは!では賢者と呼ぼう!」
「むしろさっきまでそう呼んでたよね…?
んで?勇者様はここでなにを?」
おお!っと何か思い出したように手をポンっと叩く勇者ちゃん。
「うむ!下着と普段着を見にきたんだ!
私も清い乙女だからな!服くらい可愛いものを着ないといけないと君と戦って思ったんだ!」
「俺がなぜきっかけになったかは触れたくないけどいい考えだと思うようん。」
「なので、君好みの私の下着と普段着を選んでくれ!」
「絶対やだ!」
俺は脱兎のごとくその場から逃げようとするが、すぐに瞬歩で回り込まれた。
「私には服を一緒に選んでくれる友も異性もいないのでな!君は適任だ!選んでくれ!」
「拒否権って知ってる?」
「知らん!」
ですよねぇ…。
俺は諦めて買い物に付き合うことにした。
だが、女の子の服選びか…。
この子、アホだけど見た目は完璧だし、その辺は楽しめそうだ…。
うーむ…しかし服か…。
スカートとかよりパンツルックな服装が似合いそうだけど、そもそも俺も自分の服は店員さん任せな方だ。
着こなしを教えるようなセンスはない。
「おお!これが都会の服屋か!私の村とはレベルが違うぞ!」
高級デパートに田舎者を連れてきたときみたいな反応だ…。
「すみません…。とりあえずこちらの方に服を見繕ってやってください…。」
俺は店員さんに彼女を任せた隙を見て逃走を図る。
しかしまわりこまれてしまった!
「一緒に見てくれ!なんなら君の前で脱いでも良いぞ!」
「それやったら縁切るぞ…。」
「それは困るな!仕方ない!試着室で着替えよう!」
お前、どこで脱ぐ気だったんだ!?
服屋の店員さんも若干引いている…。
そして俺の前で勇者ちゃんのファッションショーが始まる。
店員さんも何着てもお似合いです~♪とお決まりのセリフでおだてている。
が、本当に勇者ちゃんは何着てもよく似合う。
可愛らしくてかっこいいのだ。
俺的には和服とか着せてみたくなるな…。
「なぁ大賢者!どの服が一番君の好みだ!?
私は君の好みの服が着たい!!」
そんなもの、この世界にはないよ。
といっていじめてやっても良かったが、そこはぐっとこらえて、足首がチラ見えするベージュのチノパンのようなものとカーキのワイシャツを選択する。
引き締まったお腹もチラ見えして実に可愛い。
それにサンダルタイプのブーツをセレクト。
ドチャクソ可愛いくてかっこいい。
「ふむ…!これが君の好みなんだな!どうだ?私は君好みの女になったか!?」
「うぅん…。からかおうかとおもってたけどこれは無理だわ…。綺麗すぎるしカッコいい。」
「ではまた私の勝ちだな!」
何の勝負だ。
「では次は私の下着を選んでくれ!」
「それだけは勘弁して…!」
店員さんに助けを請う視線を向ける。
「よくお似合いのカップルですねー。
いいじゃないですかー下着くらい選んであげてもー。
いっそノーパンでもカッコ良さそうですしその人ー。」
店員さんの顔がチベットスナギツネになっている。
そして俺たちはカップルじゃない。
「わかったぞ!ノーパンだな!店員さんアドバイスありがとう!」
空気が固まったのがわかった。
道行く人の足が止まり俺に視線が注がれているのもわかった。
だがこいつがあっさりとノーパン至上主義に目覚めたのはわからなかった。
「それはダメだ!下着も見に行くぞ!!」
視線を店員に向ける。
(計画通り…)と言う言葉が似合いそうなニヤリ…顔をしている。
お、お前!はめやがったなぁああ!
そして俺は渋々と下着選びに付き合わされる羽目になるのであった。
自分の下着ですらろくに選んだことないのに、そんな俺に女の下着をえらべってぇのかよ。
そしてこの子は冗談が通じないタイプだ。
穴あき下着とかいいんじゃない?とか言ったら遠慮なく選びかねないレベルで…。
はぁ…。次回へ続く話が下着選びってどんな引きだよ…。
と思いつつ俺は尺不足を恨むことにした。
なんだかんだでこの世界に来てからまともに街を見て歩いてなかったしな。
この西の国の果てにあるこの都市はこれでもかなりの大都市に当たるらしい。
市場に商店街に露店街、屋台村的な感じの場所やカフェやバーの集まる通りなどいろいろなもので構成されている大都市だ。
その中央にギルドがあり、都市の果てに城と城を中心とした職人と研究者が集う城下町があると言うのがこの世界の大都市の主な特徴である。
ひとまず、俺は先ほどまでいたカフェ街から露店街へと移動する。
ハンドメイドの材料として革紐を手に入れたかったからだ。
ただやはり革紐だけと言うのは需要的なものもあるのかなかなかに見つからない。
俺は、すでに誰かがアクセとして作ったものを分解して材料にするとかそう言うのはあまり好きではないのだ。
ふーむ…。これは誰かにやっぱついてきてもらって案内してもらうべきだったか…。
ひとまず俺は革紐を編んだものを売ってるおばちゃんに、自分でこう言うのを作りたいんだけど材料はどこに行けば手に入るかを尋ねてみた。
聞いてみると材料の手に入れ方は様々らしい。
ギルドを通して材料になるモンスターの討伐を依頼→モンスターから剥いだ皮をギルド直結の加工業者や腕利きの職人が皮細工の材料として加工→そこから材料を買い取って服や防具やアクセをつくる業者や職人→さらにそれを売る露天商
みたいなのが主な流れらしく、ギルド周辺の工場を当たってみるのがお勧めと言われた。
ただ、すぐにギルドに戻るのもつまらないなぁと思った俺はその足で商店街へと向かう。
商店街はこの世界特有の一般人向けの服や道具を主に取り扱っている店が並んでいる。
時計屋もいくつかあるが、当然ながらこの世界の時計は手巻きタイプのばかりだ。
値段は少々張る。
それに良くも悪くも俺の世界の観点からすればヴィンテージデザインばかりだ。
当然といえば当然なのだが、これは俺の趣味にはあまりあってない。
しかし、この世界はガラスの加工技術も凄いのか所々にショーウインドウみたいな感じで色々と展示している店もある。
あとは、大鳥用のアクセサリーや荷馬車の専門店なんてものもあった。
こう言うところは異世界らしいな。
そして専門店の大鳥もまた人懐っこい。
興味深げに見ていると、店員よりも大鳥が寄ってきて\アイヨ?/といってくるくらいだ。
こいつらは実に愛らしい。
そういえばこの世界には愛玩動物としての犬や猫は居るのだろうか…。などと言う興味も湧いてきた。
俺は商店街をそのまま練り歩く。
すると、その先でこっちで言う大型デパート的な3階建の建物に出くわした。
「おお…。建築技術も結構優れてんだな…。
こんな建物が…。」
面白そうなので入ってみる。
中に入ると家具屋とか服屋とか靴屋がメインでチョロチョロと宝石屋や時計屋、飲食店が入っていた。
こう言うところもまるで俺の世界のデパートそのままだ。
流石に屋上遊園地はないけど…。
ただ、この世界の遊びを楽しめる遊技場的なのはあったりした。
主にこっちで言うトランプ系のゲームがメインさったが…。
それで勝って専用のメダルを集めると、その枚数に応じて好きな景品と交換できる仕組みだ。
ぬいぐるみとかもある。
「ぬいぐるみなぁ…。ゲーセンではよく取ったな。
そう言えば、流石にフィギュア的なものは見かけないな。」
あとは活版印刷技術も確立されてないのか、図書館はあっても本屋らしい本屋もなかった。
精々、俺の推しの冒険者の絵を描きました!的なイラスト屋がいたくらいだ。
このデパート的なところでも「あの有名絵師が描いた冒険者〇〇の絵」みたいなのはあった。
ちなみにいわゆる薄い本はなかった。
ちょっぴり期待したけど…。
あとはおもちゃ屋的なものも見かけた。
と言っても昭和初期のようなブリキや木で出来たおもちゃがメインだが…。
その途中できらびやかなお店を見かける。
ドールショップだ。
陶器製の可愛らしく愛らしい球体関節人形が所狭しと並んでいる。
よくあるフランス人形や日本人形のような気持ち悪い感じじゃなく、それはもう天使のような可愛さのドール達が並んでいた。
「美しいなぁ…。」
俺はこう言う人の手が生み出した芸術が好きなのだ。
料理然り手作り家具然りハンドメイド然り…。
同じものは生まれないと言うところが実に良い。
たとえ同じ作り方でも料理だって多少は味が毎日変わるのだ。
「ふふ。お手にとって見て見ますか?この子達からもあなたに抱き上げられて見たいと言う気持ちを感じます。」
これまたお美しい、金髪にホワイトロリータな服をお召しになったドールショップの店員さんが声をかけてくる。
「初めてお見かけになるお客様ですね。
純粋な黒髪…。さぞ高貴なお方なのでしょうか…。
それに変わったお召し物…。もしかしてあなたが、今街で噂になってる…。」
そうそうそう。
「勇者様ですね?」
そっちじゃない。
「えっと、大賢者の方です…。勇者様に倒された方ですね。」
「これは失礼を…。あなたの噂も聞き及んでおります。
あぁ、だからこの子達もあなたに抱かれたいのですね。
モノを創り出す手は彼女達に取っては親のような温もりですから。」
どうぞと比較的小さなドールを差し出され、俺はその子を両手で優しく受け取る。
ちっちゃ…きゃわわ…癒されるぅ…。
とほっこりしていると…
「人間相手は良いが人形相手の浮気は許さぬぞ主様よ!!」
カバンからおいなりちゃん(ちびさいずのまま)が飛び出してきた。
「!? ドールがしゃべってる…。
これが…賢者様の魔法…。私たちドールマスターの夢である自我を持つドールをも生み出せるなんて…!」
店員さんが感動に打ち震えている…。
「あー…えーっと…。うちの子も抱いてみます?」
「是非に!!」
店員さんは空中浮遊していたおいなりちゃんを優しく抱きとめてなでなでしていた。
「ふぉぉ…ふぉぉおうっ…こやつの手も…たまらぬのぅ…。女神のような優しさを感じる…。」
「うふふっ。嬉しいです。ここにいる子たちは私が生み出した子なんです。
どうやら皆も貴女を歓迎しているようですね。」
微笑みながらおいなりちゃんをなでなでする店員さん。
とても嬉しそうに撫でている姿がまた美しい。
「とても良いものを見せて頂きました。」
店員さんがそっと俺の肩においなりちゃんを乗せて来たので、俺もドールを店員さんに返す。
「私はここで、この子達を迎えてくれるステキな方を探しているのです。
貴方はその資格を十分に持っていると言えるでしょう。
お迎えしたくなったらいつでも来てくださいね。」
俺がお迎えに来たのではなく、見に来ただけであることはよくわかっていたようだ。
俺はドールショップを後にし、またあてもなくデパートの中を歩き回る。
特に何か目的があるわけでもなくただ見て回りたい好奇心が俺の足を動かす。
しかし、空想の中の異世界の文明ってのはなんでこうも中世的なのが多いのか…。
普通なら異世界でも機械的なものを使った文明があっても良いところだろう。
そんなふうに思っていたが、この世界は魔力をうまく使った俺の世界にはない道具もいくつかはあった。
きっと俺の世界にいたような文明を生み出す知恵のあるものが現れなかっただけなんだろう。
そこにさえ気付くものが現れたら世界の文明は大きく発展する。
俺の知識を使えば、この世界にはきっとたくさんの文明の変化が起こってしまうだろう…。
蒸気機関車が電車に変わり、エネルギー資源が変化し、炭鉱夫が仕事をなくすような事態だって起こり得るだろう。
よく、フィクションの世界の異世界人は世界を変化させるような規模のとんでも無い事をやらかしている。
よくよく思うけど、これって許されるのか…?
日本にゃ郷に入っては郷に従えという言葉がある。
その世界に存在するものを、存在するルールで使うのが正しい気がするんだけどなぁ…。
まぁこの世界にないもの持ち込んで無双してた俺が言えたもんじゃないけど。
ふぅ…。やっぱ1人の方が色々と考え事するには捗るな…。
しかし、こうやって少しづつこの世界についても知っていかないとだな…。
やっぱ外を歩くのは大事だ。
「おやぁ?おやおやおやおや!そこを行くは賢ちゃんじゃないか!さっきぶりだな!」
「すみません。どちら様でしょうか。多分人違いです。近付かないでくださぁあああ!」
近づくなと言い切る前に一瞬で間合いを詰められた。
瞬歩の無駄使いだぞお前!
「なんだ急に他人行儀になって!さっきお互いにお互いを気持ちよく叩き合った仲じゃないか!」
「その言い回しやめろ!あと賢ちゃん言うな!」
「あはは!では賢者と呼ぼう!」
「むしろさっきまでそう呼んでたよね…?
んで?勇者様はここでなにを?」
おお!っと何か思い出したように手をポンっと叩く勇者ちゃん。
「うむ!下着と普段着を見にきたんだ!
私も清い乙女だからな!服くらい可愛いものを着ないといけないと君と戦って思ったんだ!」
「俺がなぜきっかけになったかは触れたくないけどいい考えだと思うようん。」
「なので、君好みの私の下着と普段着を選んでくれ!」
「絶対やだ!」
俺は脱兎のごとくその場から逃げようとするが、すぐに瞬歩で回り込まれた。
「私には服を一緒に選んでくれる友も異性もいないのでな!君は適任だ!選んでくれ!」
「拒否権って知ってる?」
「知らん!」
ですよねぇ…。
俺は諦めて買い物に付き合うことにした。
だが、女の子の服選びか…。
この子、アホだけど見た目は完璧だし、その辺は楽しめそうだ…。
うーむ…しかし服か…。
スカートとかよりパンツルックな服装が似合いそうだけど、そもそも俺も自分の服は店員さん任せな方だ。
着こなしを教えるようなセンスはない。
「おお!これが都会の服屋か!私の村とはレベルが違うぞ!」
高級デパートに田舎者を連れてきたときみたいな反応だ…。
「すみません…。とりあえずこちらの方に服を見繕ってやってください…。」
俺は店員さんに彼女を任せた隙を見て逃走を図る。
しかしまわりこまれてしまった!
「一緒に見てくれ!なんなら君の前で脱いでも良いぞ!」
「それやったら縁切るぞ…。」
「それは困るな!仕方ない!試着室で着替えよう!」
お前、どこで脱ぐ気だったんだ!?
服屋の店員さんも若干引いている…。
そして俺の前で勇者ちゃんのファッションショーが始まる。
店員さんも何着てもお似合いです~♪とお決まりのセリフでおだてている。
が、本当に勇者ちゃんは何着てもよく似合う。
可愛らしくてかっこいいのだ。
俺的には和服とか着せてみたくなるな…。
「なぁ大賢者!どの服が一番君の好みだ!?
私は君の好みの服が着たい!!」
そんなもの、この世界にはないよ。
といっていじめてやっても良かったが、そこはぐっとこらえて、足首がチラ見えするベージュのチノパンのようなものとカーキのワイシャツを選択する。
引き締まったお腹もチラ見えして実に可愛い。
それにサンダルタイプのブーツをセレクト。
ドチャクソ可愛いくてかっこいい。
「ふむ…!これが君の好みなんだな!どうだ?私は君好みの女になったか!?」
「うぅん…。からかおうかとおもってたけどこれは無理だわ…。綺麗すぎるしカッコいい。」
「ではまた私の勝ちだな!」
何の勝負だ。
「では次は私の下着を選んでくれ!」
「それだけは勘弁して…!」
店員さんに助けを請う視線を向ける。
「よくお似合いのカップルですねー。
いいじゃないですかー下着くらい選んであげてもー。
いっそノーパンでもカッコ良さそうですしその人ー。」
店員さんの顔がチベットスナギツネになっている。
そして俺たちはカップルじゃない。
「わかったぞ!ノーパンだな!店員さんアドバイスありがとう!」
空気が固まったのがわかった。
道行く人の足が止まり俺に視線が注がれているのもわかった。
だがこいつがあっさりとノーパン至上主義に目覚めたのはわからなかった。
「それはダメだ!下着も見に行くぞ!!」
視線を店員に向ける。
(計画通り…)と言う言葉が似合いそうなニヤリ…顔をしている。
お、お前!はめやがったなぁああ!
そして俺は渋々と下着選びに付き合わされる羽目になるのであった。
自分の下着ですらろくに選んだことないのに、そんな俺に女の下着をえらべってぇのかよ。
そしてこの子は冗談が通じないタイプだ。
穴あき下着とかいいんじゃない?とか言ったら遠慮なく選びかねないレベルで…。
はぁ…。次回へ続く話が下着選びってどんな引きだよ…。
と思いつつ俺は尺不足を恨むことにした。
0
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~
真心糸
ファンタジー
【あらすじ】
ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。
キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。
しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。
つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。
お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。
この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。
これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる