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ー本編ーその辺のハンドメイド作家が異世界では大賢者になる話。

第9話 力を示せ

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さっきまでふざけて話してたはずの魔女の、本気の殺意が俺を包み込んでいる。

「どうしたんだい?遠慮はなしだよ。はやくそこから出てみてくれたまえ。君なら簡単に出れると思うよ?出れなければ圧縮される。というより既に空間ごと消滅してておかしくない。」

熱を感じて左手を見ると賢者のブレス(仮称)につけたチャームが光っていた。
このチャームは【エンドレスノット】
無限の知恵を与えるシンボルでもあるが、他にも【永遠】【不滅】【死の原因を取り除く】などのパワーを持つ。
すなわちそれらの意味合いによる強力な防御結界を無意識のうちに発生させていたのだ。


死なないなら後はここから出るだけか…。

俺は剣に変化するネックレスを握りしめ、大剣に変形させ回転切りで魔力の塊を打ち消した。

「お見事。そう、君の前では私たちの魔力はまずほぼ無意味なのだ。
これが君に私たちが勝てない理由だね。
つまり私たちがどれだけ本気を出そうがほぼ出来レースという結果になるわけだよ。
魔法は君のそのブレスで打ち消され、物理攻撃もその結界を通り抜けられない。
決定打が何もないまま、後は君のその剣から放たれる衝撃波によりいともたやすく倒される…。そういうわけだ。」
「わかっててやったにしても人が悪いぞ…。
俺はこうやって誰かに殺意を向けられたの初めてなんだ…。比較的平和な世界だからな…。」

戦士ちゃんが魔女の胸ぐらを掴む。

「今のは…どういうおつもりですか!
今の魔法はあなたが大罪人を裁く時に使う次元魔法…!
もし、賢者様が力を発動していなければ空間ごと何も残さず消し去られていた…。
冗談にしても許されるものではありません!」

目を見開きフゥーッフゥーッと息を荒くし、本気で怒っている。

「今のは、君たちに対するテストでもあったんだけどね。
そこに対しては不合格だ。
咄嗟の事態でも動けないようなら側近としては失格だよ。
それはさておき、確かにいきなり過ぎたね。
申し訳なかった。
もちろん、この結果がわかりきっていなければ私もこの魔法は使わないよ。」

結果としては助かったが、俺もかなり焦ったぞ…。
このブレスの力が発現していなきゃ実際死んでたろうし…。

「なるほど…。君は気づいてなかったんだね。
つまり無意識下で自動発動するタイプの能力もあると言うことはまだ知らなかったんだね。」
「しらねぇよ!!本気で焦ったわ!」
「君は君に対する悪い物や悪意を自然とそのブレスレットで自動排除していたんだよ。
そして、そのブレスレットは君に無意識下で知識も与えていた。
それに関しては君がこの世界に来る前にもあったはずだよ。
特に眠りに落ちる寸前の時、君は尋常じゃない速度で物事を思考する能力が発言するときもあったようだね。
おそらく、君が夢を見る時見る直前は、君の魂そのものの力が高まるんだろう。
故に魂のみが行動する夢の世界の中では特に強大な力が発現していたのだろうね。
そうなると、この世界の君は魂のみの存在なのか、それともこの世界がやはり君のいう夢なのかなどと言うまたくだらない話をしなければいけなくなるのだろうけども…。てやっ。」

魔女が俺の胸ぐらを掴んで引き寄せて、先程から胸ぐらを掴んだままの戦士ちゃんに無理やり抱きつかせる。

「ひゃわぁああっ!? くっ…!な、何をするんですか魔女様!」
「んー?君がしたくても出来ない事とやらない事…かな。忘れてるかもだけど、君の心の声は私にダダ漏れなのだよ?
つまり君が賢者くんに対して思っていた…。」
「わあぁぁぁぁあっ!!それ以上言うなぁぁあっ!!」
「若い子をからかうのはたのしーねーっ♪
こう言うのも久しぶりだよ~。
さてさて、いつのまにかそこそこ良い時間になって来てるね。
では、さっそく夕飯の前の模擬戦と行こうか。
装備を選ぶ時間を用意しよう。
ただ、この世界では君の世界のアイテムがどれほどの規模の力を持つかはわからない。
あまり強すぎるものを使うのは危険かもだよ。」

と言うわけで、俺は模擬戦に備えて装備を決めることにした。

まず、賢者のブレス。
こいつはもはや名前通りのチートアイテムだ。
無意識の元にオートガードするわ、果ては勝利条件へ勝手に導くわの最強アイテム。
ギベオン モルダバイト セイクリッドセブンに加えて、財産を呼び寄せるプラチナルチルにインスピレーションを高めて眠れる力を呼び覚ますと言われるムーンストーン…。
こいつには他に陰陽チャームも付けられている。
どうも先日はこのチャームにより特に不動金縛りの力を強く発現出来たようだ。

要するにこいつをつけてる限りは、ほぼほぼ誰も俺を倒せないだろう。

こんなもんつけて戦ってもつまらん。外そう。
死んだら死んだだ。

逆に試してみたい石は沢山ある。

1つは俺が10代の頃に手に入れてから大事に持っていたクリスタルの原石を使ったネックレス。
この世界なら相当な力を溜め込んでいるのでは無いか?
こいつには薔薇(いばら)と蠍(サソリ)のシルバーアクセを組み合わせた飾りに、ワイヤークラフトで原石を包むデザインで作っている。

こいつの力を試した上でもう一点試してみたいのは…。

雷水晶…ライトニングクォーツ。

その名の通り雷を浴び、雷の力を内包していると言われる非常にレアで強大な力を持つパワーストーンだ。

セイクリッドセブンことスーパーセブンなんて目じゃ無いくらいのレアストーン。

魔女さんには止められたが俺の知的好奇心がこいつを使ってみたくて仕方ない気持ちが高まる。
もう1つは…ファイアークォーツ。

その名の通り烈火や業火のようにレピドクロサイトという赤い石を大量に内包した水晶だ。
これも10mmくらいの球1つで1.6万円する超高級レアストーンだ。

ただ、こいつを嵌められるフレームがない…。
こいつは今回は使えないな…。
近々フレームを作ろう。

てな訳で俺はいつもの剣に変形するネックレスと水晶の原石に薔薇と蠍が巻きついたネックレス、
そして、緊急時の切り札としてまだ未完ではあるのだが、ライトニングクォーツのネックレスを装備して戦ってみることにした。

賢者のブレスは本当にチートすぎる…。

「さてさて、準備はできたかい?
ふむふむ…。大きな石のネックレスだねぇ…。
はてさて、どんなパワーを秘めているのか…。
実に楽しみだよ。
ま、とりあえずうちの自慢の魔術師たちが死なない程度に頑張ってくれたまえ♪」

城には学校のグラウンドサイズのバカ広い練兵場があった。
俺1人に対して10人。
普通に考えて普通なら勝てる気はしない。

1つ俺も試してみたいのは、この剣のネックレスに入れてる十勝石ことオブシディアンの力だ。
こいつは霊力を高めたり、魔除けの石としての意味合いのほかに未来を見通す力も備えている。

この世界ではどれほどのものか、試してみたい!

「さて、みんな準備はいいかい?手抜きはなしだ。はじめ!!」

10人の魔導師が四方八方から一斉に襲いかかってくる。
目の前にいた魔導師はまず俺の動きを止める戦法だろう。
地面をぬかるみにさせて足をからめとろうとしてきた。
俺は早速、ネックレスを槍に変形させ地面に突き立て棒高跳びのようにジャンプ。
一度ネックレスに戻してから再び今度は大剣に変形させ一振り。
オブシディアンの力により発生する魔を打ち払う衝撃波の前にはいかなる魔法も無効化されるようだ。
あっさりと1人目の魔術師が俺の刃の前に倒れてしまった。

「ふむ…。体も普段の俺と違って身軽に動くし、これはなかなかに楽しいな。テンション上がってきた!」

剣を握り意識を集中させる。
敵がどう動いてくるかがわかる。
左から水の魔法、右から氷の魔法がくる。
またもどちらも足止め目的だ。

俺はそれを回転切りで放った衝撃波で打ち消すが、その隙を見て上空から巨大な火球を叩き落としてくる別の魔術師。

このままではまともにくらってしまいかねんな…。
仕方ない。ならばまずは最初の切り札だ。

剣を片手に持ち替えたのち、蠍と薔薇の装飾のついた水晶の原石ネックレスを取り出しグッと右手に握る。

すると、薔薇は俺の腕へと巻きつき蠍の装飾は俺の右手にガントレットとなってくっついた。

実はこの蠍の装飾にもムーンストーンが元々ついている。
このムーンストーンにも未来視の力があるのだ。

再び右手に剣を持ち替える。

するとシナジー効果なのか敵の動きが手に取るように見えるようになった。

「クソ!!駆け出し冒険者風情が俺たちを弄びやがって!行くぞお前ら!大魔法で一気に畳み掛ける!」

魔導師軍団が火柱に氷柱に風の刃に隆起する尖った岩にととりあえず逃げ場をなくす戦法に出てきた。
それそのものは未来視で見えているためわりとかわせるのだが、それにしたってこんなに一気に畳み掛けられると体力的にかなりしんどい。

言っても俺は30手前の20代も後半のおっさんなのだ。

例えどんなにマジックアイテム的なもので戦闘能力が上乗せされていようが体力には勝てない。
いわば短期決戦型みたいなものだ。

ある程度かわしているうちに俺は息が上がって動きが鈍くなってしまった。
彼らもまたその一瞬の隙を見逃すつもりは当然ない。

「いまだ!一気に叩き込むぞ!」

水魔法により上空に大きな水晶レンズが無数に生成される。その水晶レンズめがけて太陽光が収束し、俺めがけていくつもの熱線が放たれようとしていた。

こいつは厳密には魔法ではない。化学現象だ。
レンズを破壊することは出来ても、熱線を剣で打ち消すことは出来ない。

これはだいぶまずい。
おそらく賢者のブレスをつけていても、魔法ではないこいつを交わす手段はなかったであろう。

「これはまずい!今すぐその魔法を止めるんだ!
彼にその魔法を防ぐ手段はない!!」

いきなり最後の切り札を使う羽目になるとは思わなかったが一か八かだ…。
俺の中ではまだまだ未完成だが、使ってみようじゃないか。
この、ライトニングクォーツを!

俺はポケットの中からライトニングクォーツの原石を取り出し、グッと握り力を込める。

まさに刹那の瞬間であった。

辺り一面に響く大きな雷鳴と共に一瞬で勝負が決した。

魔導師たちは皆もろに俺から放たれた強力過ぎる白い雷を浴び真っ黒焦げに。
俺自身は…雷そのものとなっていた。

「だから忠告したというのに…!
ひとまず、皆は彼らに治癒魔法を!無理ならハイポーションでもぶっかけとけ!心臓が止まってようが完全に死んでなければ何とかなる!
私は…彼を止める…!」

未完成のライトニングクォーツのネックレスは俺を雷の魔神へと変えた。
俺の肉体はまさに雷そのものとなり、触れた地面は砂が溶けガラスになるほどの高電圧を浴びていた。

ほんの少し歩みを進めれば閃光の如く身体が動く。
動いてしまう。

「グレートウォール!」

魔女は強力な多重魔力障壁で、意図せず突っ込む形になった俺を受け止めようとした。
だが、この雷はただの雷ではない。
魔を打ち消すなど当然なのだ。

魔力で防ぐことは当然出来ない。
魔女も俺の雷をもろに食らってしまった。

「ぐぅっ!あぁぁああっ!!なんて力だ…。
さすがにこれは…まずいね…。」

ただ、そこはプロというところか。
先ほどの魔導師連中と違い、事前に治癒魔術をかけていたのだろう。
傷は瞬く間に治癒されていっている。

一方俺は溢れ出す力を抑え切ることができない。
抑えきれない力はどんどん体の外側へと放出されていく。
次第に意識も朦朧とし始めてきている。
このまま意識が失われることになれば俺は完全に暴走してしまいかねない…。

「ぐっ…ウゥゥ…ヴァォォォオォオッ!!」

既に身体の自由は失われ始めていた。
身体は魔女を敵とみなしているのか真っ先に仕留めようと動き出し始める。

そこへ、戦士ちゃんが割り込み地面に剣を突き立てる。

「雷そのものなら…地面に突き刺せば地面に力は流れていくはず…!」
「それでも危険だ!離れるぞ戦士ちゃん!」

地面に剣を突き刺したまま、魔女さんは戦士ちゃんを抱えて遠くへ飛び離脱する。

暴走した俺はそのまま剣に吸い込まれるように突進し、剣を一瞬で溶解させ剣の周りの地面をも瞬時にマグマの如くドロドロに溶かし、冷えた場所からガラス質に変えてしまう。

だがおかげさまで俺の雷化した身体は一瞬力を弱めた。
俺はその瞬間を利用し、ライトニングクォーツに流し込んだ力を自分に戻し、力の発現をなんとか引っ込めることに成功した。

「ふぅ…。驚いたよ…。うちの連中も治癒は間に合ったし、君もなんとか意識を取り戻せたようだね…。
いやぁしかし、練兵場が君の半端ない雷のせいでガラスと岩石だらけになってしまったよ…。」
「す、すみません…。好奇心と咄嗟のピンチに勝てずつい使ってしまいました…。」
「まぁ、その力を使わなければ君が死んでいた可能性もあったことを考えれば、その力を解き放ったことは間違いではないさ…。
しかし焦ったね…。その力…。
なるほどねぇ。【ライトニング】というのは君の世界の言葉で【雷】の意味の言葉だったのか。
君の心の声を聞いてもいたが、それは未完成なんだろう?
おそらく、君の中の【未完成のイメージ】もその力に作用してしまったんだろうね…。
いやぁ、それにしたって面白いものを互いに見せてもらった。
魔法を利用した科学の力で、君の魔法を打ち消す力を無意味とする戦法に、君の雷による刹那の反撃!
しかも、この雷は魔力を帯びていない。
純粋に君の力が形を成して自然現象を複雑怪奇に引き起こしたとでもいうのだろうか?
いやぁほんと驚いた!いいもの見せてもらったよ。
これはまた、研究が捗るねっ!
私も君のその最後の切り札には興味を持ったよ!
それ、今日中に完成させちゃおうよ!
夜中まで付き合うからさっ!ね?ね?」
「あの…賢者様が暴走する度にこれじゃ、命もその他諸々もいくつあっても足りないですよ…。」
「君も良く咄嗟に判断したね!
雷は金属に吸い寄せられる性質がある。
それを利用しうまく攻撃を誘導し、地面を利用したアースによる作用で一時的に弱体化させるとはね。
当たり前のことではあるがよく瞬時に判断し動いてくれたよ!」

なんにせよ…。誰も死ななくてよかった…。
危うく人を殺すところだった…。

「魔女様!!聞いてないっすよ!!
駆け出し冒険者との模擬戦に付き合えって言われて来たのにこんなの駆け出し冒険者の力じゃないでしょ!S級レベルじゃないですかやだー!
危うく死ぬとこだったっすよ!!」
「おー、ご苦労。んむ。そうだね。
これはパワーだけなら確実にS級だね。
賢者くん。君、今からS級冒険者。
私が許すし彼らも許す。」
「こんな半端ねぇ奴がB級とかにいたら連中みんなメシ食えなくなりますよ!!これはダメですって!」

と言うわけで、東の国においての俺は

【S級冒険者】の【大賢者】

となったのであった。
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