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その6

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「「すみませんでした」」

そして現在、場所は同じく尋問室。
目の前では件の団員さん達2人が土下座しております、ハイ。

1人は心から。
1人は大変不本意も露わに。
頭を下げております。

(約1名謝る気、ないだろ)

そう思いつつも、もう兎に角この尋問室を出たいんだがと念を込めて彼らの上司を仰ぎ見れば。

「長々とすまなかったな。
あの後少々事後処理やら団の指揮やらでバタついてな。
そもそも君が王国の連中と一緒に罪人牢に入れられているとは夢にも思わず、
事態の把握が遅れた為にこんな長時間も…」

「…私からも謝罪を。
私は一応貴方が収容されたことも尋問が行われることも把握してましたし、
尋問自体は!必要性を感じたので黙認してましたが。
流石に団長の言もあり長時間の尋問は…と思ったのですが納得がいかないと一部の団員らが押し通しましてね。
しかも尋問終了の命令が下ったにも関わらず、本来国王陛下に許可を得なければ使用できない宣誓書まで…」

全く、呆れてものも言えませんよなどとそれこそつらつらと語る副団長さん(確定)
へぇーそうですか尋問黙認したの貴方だったんですね、ふぅーん。
まぁぴこぴこしてるお耳が可愛いから許す。

尋問もまぁ、敵地にいた人間…それも召喚されたのは事実だから彼らにとっての警戒対象なのは分かるし納得も出来る。
むしろヴァイスさんが俺の尋問に異を唱えたのが意外な位だ。

つい疑問に思ってヴァイスさんに視線を移すと、…何やらクンクンしているんだが。

「……やはり………」

そしてなんか勝手に納得して頷いてるんだが!?
え、何!?俺臭う!?めっちゃ臭いとか!!?
確かに召喚されてからこっち、檻馬車で雑に移動→牢屋直行→尋問室(長時間)と風呂はおろか身体を拭くことすら出来てないけど!
それ俺悪くないじゃん!?

と、ススス…とさりげなさを装ってヴァイスさんから距離を取ると。
何故か更に縮まる距離。

間近に詰め寄ったヴァイスさんは、そこはかとなく不満げ。

「…何故遠ざかろうとする」

「ぇえー…いや、だって…ぉいが」

「“おい”?」

「だから!風呂入ってないし!
さっきクンクンしてたじゃん!?
お、俺っ、臭いんだろ!?だ、だから少し離れようと……」

「は?」


こんなこと言わせんなよイケメンの癖にデリカシーはどこへ!?と赤面してゴニョゴニョ答えれば。

「団長……。
人間の方には“アレ”はわかりませんし確認の為に嗅覚で確認する習慣がないのですよ?
早く確認したかったのはわかりますが少しは自重して下さい」

「…成程」

「それで?確定です?」

「ああ。間違いない」

「……そうですか」

アレってなんだよ?!説明プリーズ!!
勝手に納得してんのが2人に増えただけだった……。

「…もうここから出たいんですけど。
といっても勝手に召喚された手前、行く当ても持ち合わせもないのでどうすりゃあいいんだか。
…俺、帰れないんでしょう?」

もうこの際、聞かねばならないことをこの際聞いとこうとヤケ混じりに聞けば、
痛ましげに顔を歪めながらもヴァイスさんと副団長さんが頷いた。
やっぱりね。
普通に無理だと思った!

思わず乾いた笑いが漏れる。と、


「…にがおかしいんだよ……」

「?」

「何がおかしいんだよ異常者が!!」

「ゼンガやめろ!!」

上司命令で俺らの会話中ずぅっと土下座を続行していたゼンガくんとやらが、
もう1人の団員くんの制止も聞かずに暴言を再開してしまった。

「っ団長も副団長もおかしいぜ!今帰れないって聞いて笑いやがった!
やっぱり望んでこの世界に来て前のやつみたいに異常なことをやらかすつもりなんだ!!」

「…いい加減にしろといったはずだぞゼンガ。
黙って頭を下げてろ」

「なっ!?なんでそんなにそいつを庇うんだよ団長!?
そいつは」

「あんたさぁ」

「ぁ”あ”!?」

本当にコイツ、しつこいなぁ。
いくら尋問の必要性に納得出来ても、流石に限界だわ。

「自分が。
もしも俺の立場でさ?
ある日突然、何の予告もなく見知らぬ土地に召喚だかをされて。
その場にいた赤の他人達に利用するだの、都合よく使えないなら死ねだのと殺されかけたり。
訳わかんないうちに牢屋に入れられて罪人扱いされて?
それで挙句元の世界に。
家に帰れないってなったら、どう思うよ」

「……」

「何を根拠に俺を異常者にしたいの?前の召喚勇者とやらがそうだったから?
ふざけんなよ?他人と勝手に一括りしやがって。
こっちはこっちの世界にいられて喜んだから笑ったんじゃねぇよ。
笑うくらいしか出来なかったから、笑ったんだよ。
諦める、為に、笑うしか……な」

「もう、いい」

「っなん」

「もう、この馬鹿を納得させようとしなくてもいい。
ー……泣くな」

「……へ」

キレて淡々と言い返してただけのつもりが、どうやら俺は泣いていたらしい。
いつの間にか、ヴァイスさんの逞しい胸板に顔を押し付けられていた。


※ ※ ※



どれほどそうしていただろうか。
ヴァイスさんに抱き込まれて妙な安心感を感じたせいか、
中々涙が止まらなかった。

(こんなに泣いたの、初めてじゃね?)

両親に家を追い出された時でさえ、涙なんか出なかったのに。
ほんと、一生分ぐらいボロボロと目から汗を垂れ流し。
ヴァイスさんから身を離して濡れた目を擦っていると、ぽんぽんとヴァイスさんに頭を軽く叩かれた。

「我が団の団員が、本当にすまなかった。
何の証拠もなく君に我慢を強制した挙句に自分本位なことばかりを告げて君を詰るなどと…同じ騎士として恥ずかしい」

「……いえ。
はぁ、な、泣くつもりなんてなかったのになぁー。
勝手に胸を借りましたすんません!いい歳して恥ずかしい……」

「?いい歳?まだ子供なのにむしろよく今の今までこの理不尽な状況に耐えたと俺は思うぞ?
あと、胸は俺が勝手に押し付けただけだし逆に俺にとっては役得だから気にするな」

(……ん?)

あれ、なんだかあの王国にいるときも思ったけど。
やたらと子供に見られてない、か?
しかも役得??んん??

ハテナだらけになっている俺の頭をもう一度優しく撫でると、
ゼンガくんへ振り返り一転冷え冷えとした目で見下ろした。

「ゼンガ」

「……は、い」

「俺は2度、言を下した。
彼の無実が証明された故の尋問の終了に、彼への心からの謝罪。
それを2度とも無視したな?
3度目は、ない。荷物をまとめて出て行け」

「……っ」

「だ、団長それはっ!?……ふ、副団、ちょ…」

日頃、余程仲が良いのだろう。もしかすると親友なのかも知れない。
もう1人の団員くんがゼンガくんの獣騎士団追放をなんとか回避しようと、
ドア付近に佇む副団長さんに懇願するが、すぐに顔が蒼白に。
副団長さんも、酷く冷たい目で2人を睨め付けていたからだ。
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