10 / 10
10 エピローグ〜閉幕〜
しおりを挟む公爵が炭となった後ー。
魔女は一通の手紙を残して、いつのまにか姿を消していた。
目の前で人1人が魔法により消し炭になったことでパニックになりかけた会場は、
その後に登場した本物の王妃と第一王子によって静寂を取り戻し、
すぐさま歓喜が場内を塗りつぶした。
初めて貴族達の前に姿を現した第一王子は若かりし国王に瓜二つであり、瞳の色は王妃譲りの碧眼。
少し線が細くなったものの柔らかい笑みを浮かべた王妃を王がすぐさま腕の中に閉じ込め、
凛々しくも麗しい青年へと成長していた第一王子が見上げる貴族らに美しい所作で礼をすると、最早偽物のことなど貴族らは頭の中から消し飛ばして第一王子万歳!王妃様万歳!国王陛下万歳!!と喝采したのであった。
婚約破棄騒動時に娘を嘲笑した連中もその中には混じっていたが、
状況変われば何と身代わりの早いこと。
(まぁそれが貴族という生き物、なのかもしれんが、な)
嘲笑した連中は全て顔を覚えているから、
まぁこれからは徐々に家の付き合いを減らして関係を絶っていくなりすればいいかと無理やり納得することにした。
隣で我が息子が奴らをじっと見ながらうっそりと暗い笑みを浮かべているから、
仕返しは、まぁ……信頼厚き彼に任せるとしよう。
妹を愛しすぎていて果たして彼に嫁ができるかどうかは定かでなく少々不安だが。
私?再婚??
するわけないだろう。
私には今なお愛して止まない亡き妻と、彼女にそっくりな愛らしい娘が既にいるのだから。
※ ※ ※
ーー結局。
偽王妃と偽第一王子が公に処刑されることはなく、
2人とも毒杯を賜ってのひっそりとした刑に処された。
随分軽い!と思わないでもないが、偽第一王子の方はともかく、
偽王妃の方はその容姿が問題となったからだ。
王妃様と瓜二つの人間を公で処刑など、できようはずもないからだ。
偽第一王子と共に私の娘を陥れた伯爵令嬢や取り巻き令息らは家共々取り潰し、各家当主や本人たちは鉱山奴隷へと落とされたので、現在王国では貴族の数が相当数不足し、領地維持や経営に平民上がりの優秀な人材を充てることを検討し始めている。
今回の黒幕であった公爵は魔女によって裁かれてしまった為、
国王としてもそのあたりまでが処断の限界だったのだろうとも思う。
因みにあの時呆然と床に座り込んでいた公爵夫人、ナタリー・イブリスは。
公爵位…というか貴族籍からの抹消を自ら国王に申し出、
個人資産を全て王国各地の孤児院へと寄付し、自身は修道院へと早々に身を移した。
あまりにも早い行動に周囲は驚愕していたが、さもありなん。
心配していた娘と孫は毒杯を賜って死に、自分を長年裏切って野心に燃えていた夫も魔女に裁かれて死に、身の置き場がなかったのだろうとも思う。
あの日あの時は彼女にとって人生最悪の日であり悲劇として刻まれたのだろうことも。
しかしながら人生は残酷だ。
それぞれが悲劇と嘆く事柄も、他人から見れば全てが喜劇。
寂しさを埋めるように私や息子へ微笑みを向ける娘が、
いずれまだ見ぬ男性にそれを向ける絶望感溢れる未来も。
妹に邪な視線を向ける男どもを睨んで牽制する我が息子が、
家を継ぐ際にころりと見合いの令嬢と恋に落ちるのも。
王から変わらずこき使われて腰を痛めたり、白髪が増えたことを嘆く私も。
側から見れば、ただの喜劇のようなものなのだから。
「……取り敢えず、この度の喜劇は、これにて閉幕。っと」
そんな益体もないことを呟きながら書き綴り終えた私は、
分厚い日記帳を閉じるのだった。
[終わり]
==================================================
季節的挨拶といたしまして、えー…メリークリスマス!!!
1人寂しくコンビニで購入したホールケーキを突っついている作者であります。
…む、ウマイ…。
それはさておき。
これにて短編『舞台に似合いの最高の喜劇を』完結です!
10話と短いながらも最後まで読んでくださった読者様方、ありがとうございます!!
復帰後1作品目だったので読んでいただけるか不安でしたが、現在ほっとしてます(^^)
もう一つ二つと書き殴った短編をつらつら投稿しつつ、
未だ完結してない作品もゆっくりゆっくりと入力しているので、
お待ち頂いている読者様方には申し訳ありませんが気長~~~にお持ちいただけますと幸いです!
ではまたどこかの物語の中で!
0
お気に入りに追加
30
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる