上 下
2 / 10

2 開幕①

しおりを挟む
王家・カルス家が第二子にして第一王子、ダインバルドは
自らの傍にお気に入りの伯爵令嬢・イルミベルを侍らせてニヤニヤと目前の女をを凝視する。

目の前にて弱々しく首を横に振る女はセルシア・エルヴィン。
4歳の頃よりの自身の婚約者女だ。

紅蓮の髪に蜂蜜色の大きな瞳。
幼き頃はそれこそその人形めいた整った顔立ちに一目で惹かれた、
それは否定しない。
だからこそ王妃たる母にねだり、婚約者として据えた。
否、第一王子たる自分が据えてやったというべきだろうなここは。
何せ私の婚約者ということは未来の王の妃なのだから。

だが成長するほどに人形めいた端正さは増し、同時に賢しさもいや増し。
学園在学中常に首席。
私を下に置き続けたのは身の程知らずという以外に言葉がない。
イルミベルのように可愛らしく媚びてくるならまだ可愛げもあろうが、
侯爵家当主と長男が留守にしている際何度も屋敷へと単身向かい、
寵を与えてやろうと身体を求めても拒絶し続け部屋にもあげようとしなかった。
私はこの国の王族、それも第一王子だというのに!!

やはり母親がいない女というのはこれだから。
女としての悦びを将来の夫となる私から与えられる機会を自ら拒否するなどなんたる傲慢。
男に求められたなら全身全霊で尽くすのが女の在り方だというのを母親から教えられることなく育つとこうも厚かましい存在に成長するのかと、何度苛立ったことか。
しかしそれも今日で終わりだとほくそ笑む。
たった今小賢しいセルシアに、婚約破棄を突き付けたのだから。

理由?
そんなものなんでもいい。
差し当たっては私の側近らに色目を使って誘惑を繰り返し、
それを咎めたイルミベルに暴力を振るったとした。
側近らは勿論、イルミベルへの暴力や学園で他貴族家の者らに暴言を吐いていたなどの証言・目撃者の買収と確保は既に済んでいる。
いくら頭が回っても、所詮は教材知識を脳に詰めているだけの女だ。
それが事実であろうがなかろうが、
世の中、金と権力でどうとでもなるのだということをわかっていない。

自分はそんなことはやっていないと未だに首を振り続けているのがなんとも滑稽だ。
そんな様子を見て、次いでそれらの罪により貴族として不適格と貴族籍の剥奪も言い渡してやった。
その瞳が恐怖に引き攣るのがなんとも心地よい。

が、それでもなお、その場でみっともなく泣き崩れることもなく、
否定を続けるセルシアに僅かに苛立ちが再び込み上げてきた。
そろそろ父上や母上達も入場してくる頃合い。
さっさとこの女を退場させて、イルミベルと舞踏会を楽しみたい。
これだけの舞台で婚約破棄と貴族籍剥奪を宣告されたのだ。
何も知らない貴族どもとて愚かなる自身の行いによって失墜した傷物女など、
例え容姿が整っていようが救いの手など伸ばすまい?

と、セルシアに向けて近づいてくる二人の存在に気付く。
その二人の様子を目にしてニタリと更に笑いが込み上げる。

ゆったりとした、まるで急ぐことのない歩み。
娘が公衆の面前で断罪されているというのに口元には余裕の笑み。
目には怒りとも殺意とも取れる意志を宿して真っ直ぐ娘へと向かっている。
そんな二人を見て、これは追加で面白い喜劇が見られそうだと確信を抱いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

気づいたらモフモフの国の聖女でした~オタク聖女は自らの死の真相を解き明かす~

平本りこ
ファンタジー
両親との関係を拗らせた結果モフモフオタクとなった蒲原リサは、ある日事故に遭う。次に目覚めたのは馨しい花々に囲まれた天国――ではなくて棺桶の中だった。 リサはどうやら、魔王の妻である聖女リザエラに転生してしまったようだ。 まさかそんなことが現実に起こるはずないので、夢か没入型の新ゲームだと思うのだけれど、とにかく魔王は超絶イケメン、息子はぬいぐるみ系モフモフワンコ! ついでに国民はケモ耳‼︎ オタク魂が盛り上がったリサあらためリザエラは、ゆったりモフモフ生活満喫する……かと思いきや、リザエラの死には不穏な陰謀の影がちらついていて、のんびりばかりはしていられない! 獣人が暮らす国で、聖女に転生したとある隠れオタクが自らの死の謎に立ち向かいながら家族の絆を深める物語。 ※毎日18時更新 約12万字 ※カクヨムさんでも公開中

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

処理中です...