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20:渇望した答え
しおりを挟むこんなにも自分が気弱だとは思わなかった…!
あのクソ虫を追い出し、ララを筆頭に使用人らまでもが空気を読んでの退室。
退室する際のララより“今度こそキメろ!”と念を飛ばしてまでの激励(視線)を受け取ったというのに自分ときたら!
跪いて結婚を乞うたまではいい。
彼女の事情もちゃんと把握しているのだと、
彼女が真実冤罪であったと公的にも証明されている、故に潔白だと告げたのもだ。
しかしその説明をしている内に、
(罪が晴れたら彼女は……)
帰りたいと。
国へ帰って、例の婚約者と結ばれることを願うのではないか?
そんな不安が唐突に込み上げてきて、思わず言ってしまったのだ。
君は自由だから、帰りたければ帰れると。
君の意思を優先する、と。
彼女を母国へ、その大層な婚約者がいる場所へ戻すなど冗談じゃない。
だが……
もしも彼女が未だソイツを深く愛していたとしたら、無理に自分の元に留め置くのは彼女を苦しめることになるのではないか。
もう、言ってしまった言葉は取り消せない。
たかだか少しばかりの間しか交流のない俺なんかより、
長年婚約をしていた相手を選ぶに決まっている。
家族にも逢いたかろう。
次々と悪い方へと思考が流れる中、彼女の口が薄く開きハッと顔を上げる。
ディーは俺の目を真っ直ぐ見て
「私はーー、…もう死んでいるのですよ ジル様」
と掠れた甘い声で囁いた。
「ー…は。な、にを、言って」
死んでなどない。
目の前にいるではないか!
ギョッとして彼女を凝視すると、彼女はくすり…と微笑った。
「断罪の丘より荒れた海へと身を投じる。
それはつまり、死んだと見做される、それほどまでに生き残るのが困難な場所なのです。
ですからおそらく国でも私は死んだことになっている。
違いますか?」
「…いや、それは……」
「…例えそうでなかったとしても……。
私はあの時、
確かに死にました。
殿下を婚約者に持つ、
ミルドルア王国 ディステル・アデライド伯爵令嬢を殺したんです。
ーー…自ら、崖から飛び降りて」
ヒュッと喉奥で息を呑んだ。
(断罪の為に落とされた訳ではなく、自ら落ちた?
自殺しようとした、だと!?)
彼女の目はとても凪いでいた。
きっと真実なのだろう。
俺はとてもやりきれない気分になった。
自分が待って、待って、待ち望んで。
ようやく手にしたと助けた彼女がよもや自身で生を諦めていたなどと、とても信じたくなかった。
「あの時。
私は絶望しておりました、全てに。
国王陛下、殿下、懇意にしていた各貴族家の方、私の護衛を長年勤めてくれた騎士…皆に突然罪人だと指さされ。
何かがおかしいとわかっていても、
長年信頼してきた者達は私の敵となり果て。
他ならぬその騎士に本来なればあの時あの丘で、首を落とされるはずでした。
その瞬間全てがどうでも良くなり、私は私を殺すことにしました。
ですから」
「……」
一度、彼女の声が途切れた。
その時の絶望感を思い出しているかと思うだけで、心が痛い。
何分経ったか、或いはほんの数秒か。
「貴方が海より助け、この屋敷にて目を覚ました私は、ただのディステル。
伯爵令嬢でもなければ、他国の王族の婚約者でもない、ただの、ディー。
全てを知った今…
それでも、私を……っ、ただの平民娘のディーとして…受け入れ、て、くれます、か……っ?」
「ーーーっ!」
ゆらゆらと震える声で
目尻にこれでもかと涙を湛えて
勇気を振り絞って
彼女は俺にーー!
「当たり前だ……っ!!」
「っ!」
歓喜に、脳が焼ける。
気が付いたら彼女を腕の中に閉じ込めていた。
ぎゅうぎゅうと抱きしめて痛いだろうに、
腕の中で嗚咽を噛み殺す彼女に堪らなくなり。
「……元より君がどこの誰だろうが罪人だろうが諦めるつもりなどなかった!
事情を知ってからは母国へ戻った方が君は幸せになれるのではとも…っだが!
君が過去も家族も関係ないというのなら
…もう離してやらん!!」
「……ぁ…ジ、ル、さ」
「君は俺のものだ……ディー」
彼女の返答なぞ先の言葉で充分だった。
高まりきった熱に突き動かされるまま、
腕の中の彼女の唇を激しく奪った。
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