15 / 27
14:最高から最悪へ
しおりを挟む※短いです。
===
(帰ったらすぐにでも、彼女にもう一度求婚しよう)
突然の呼び出しにより登城し、悪友の口から期せずして彼女の身元を含めた真実を知ることとなった俺は。
来た時の不機嫌さが嘘のような晴れやかな心持ちで、官舎へと馬を進めていた。
真実彼女が無実だと知った途端に憂いが晴れたなど現金な男だと笑うなら笑え!
誰にともなく心中で叫ぶ。
例え真実彼女が罪人であったとしても、
元より彼女を手放したり罪人として捕らえたりするつもりはなかった。
長年待ち望んだ番。
身分ある者である自覚は充分あったが、もしもそのせいで折角出会えた彼女を手放さなければならないくらいなら家の者達には悪いが、とそれこそ己の全てを捨てることにも否やはなかった。
ただーー
彼女があまりに儚く笑うから
彼女の抱える憂いが晴れない限りは彼女の心からの笑みを見ることができない。
未だ聞くことの出来ない彼女の声を、永遠に聞くことも叶わぬかもーー
そうも思ったからこそ、あの時すぐに彼女へと答えを出すことをしなかった。
それもこれも、彼女に何の憂いもなく、俺を愛してもらうため……
彼女の事情を調べる時間を邪魔されるどころか、
あっさりと真実を教えてくれた悪友へ、今日ほど心から感謝の念を抱いたことはない。
(今日はさっさと書類仕事を片付けて早く家路につかねば)
常に鍛えて筋肉の重さを感じる己の身体がいやに軽く、
ご機嫌で官舎へとたどり着く。
と、何やら妙に官舎内が騒がしい。
(なんだ……?)
折角上機嫌で緩んでいた顔ーー主に眉間に皺がよる。
取り敢えず馬を馬屋へ運ばねばと進行方向を変えようと手綱を引き掛けたその時。
「ああっ!や、やっと見つけましたよ将軍んーーっ!!」
いつにも増して落ち着きのない、
どころか蒼褪め汗をだらだらと流したアガジが官舎から転がり出てきた。
「……お前な…、少しは落ち着きというものを」
「そんなことよりすぐ!すぐにお屋敷へとお帰り下さい閣下…!!」
「……あ?」
ーーそうして告げられた、
アガジが現侯爵へ俺が少女を連れ帰ったと告げたのを盗み聞いて知ったアガジの姉が、
同じく俺の登城の隙を見計らって我が屋敷へと向かったという最悪極まる報告に。
(あのクソ女……!!
ディーの身に傷一つでもつけてみろ!
侯爵家長子といえどその場で八つ裂きにしてやる……!!)
家が侯爵家、弟が俺の副官であることを傘に来て
いつも好き勝手に振る舞い己に媚びを含んだ眼差しを向けて纏わりついてくる高慢極まる金髪の豹獣人女へあらぬ限りの罵声を心で叫びつつ。
愛馬を労る余裕すらなく一路、公爵屋敷へ向けて駆け出した。
0
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる