閣下は罪人と結ばれる

帆田 久

文字の大きさ
上 下
12 / 27

11:登城 告げられる彼女の真実

しおりを挟む
(本名…ディステル・アデライド。
元伯爵令嬢、か。
ディー…本名だったのだな)


ひたすら事務的に書かれた彼女の出自に母国、彼女が高位の治癒魔法に長けた人物であり、婚約者がいたこと。
そして成婚間近でなんらかの謀に巻き込まれて罪人として投獄された後、
罪人の密やかな処刑場である断崖から転落してあの孤島へと流れ着いたことが、
実に簡潔に、淡々と書かれていた。

まるで私情を1文字たりとも記すことのないようにーー。

彼女は聡明だ。
そして俺を優しい、懐が深いとも言っていた。
おそらく冤罪を着せられた自身について主観的に書いたなら、俺が同情すると思ったのだろう。
彼女の国も真実も何も知らぬ俺が、彼女の言葉を全て鵜呑みにして、と。

だからこそ『後日』改めて問うと言ったのだ。
俺が情報を得る時間を、彼女に対する真偽を正しく判断できるように。


===



冊子を読んだ翌日ーー

ビルスト国、国王陛下に呼び出された俺は、王城の王の執務室を訪れた。
幼少よりなにかと話す悪友が如き間柄である現国王が、極めて砕けた格好・口調でよぉ、と挨拶をしてきたのに、思わず思いっきり顔を顰めて見せる。

「…仮にも貴様は国王だろうが。
なんだその巫山戯た挨拶は。
もっと振る舞え馬鹿者」

「くくっ、仮にも国王に向かって随分と不敬な発言だなぁ、ジル?」

そんな口をきいても許されるのはお前くらいだと嘯く悪友…もとい国王にイラッとしながら何の用だと用件を問う。


「別に特には?」

「…おい」

「というのは冗談で、だ。
どうやら身を固める決心がついたようじゃないか堅物!」

「あ?」

「妖艶美女か?それとも可愛い系?
どこの家の令嬢だ~?はっ!?ついに副官君家のあの気の強い姉君を娶る気に!?」

「違う!!……俺に相手ができたこと、どこから聞いた」

「どこからってお前……。
堅物で有名なお前が!やたら早く家に帰りたがり!
しかもそれらの奇怪なる行動をしだす前に小舟で家令と一緒に女性を屋敷へと抱き抱えていったと驚愕情報のオンパレードだぞ我が国の軍は。
俺を仮にも王と戴くならお前は将軍であり公爵家当主だ。
相手が気になるのは当たり前だろう?」

「………」

「で、誰なんだ、ん?」

「…貴様は知らない」

「お?まさか平民か!?
ほぉ~、なぁに!堅物、番狂いと言われ続けてまで相手を作らなかったお前だ。相手がどこの誰であれ、誰も反対など」

「番が見つかった。占術師が示した通りのあの場所で」

「ー…は?」

「番だ、つ・が・い!しかも他国の人間だ」

「そ、え?番?本当に??
しかも人間???」

「ああ」


「はあぁぁぁぁぁーーッッ!!?」


「煩い」


獅子獣人の大声はかなりの騒音だ。
俺の鼓膜を破る気かと告げれば、一頻り声を吐き出した悪友がようやく落ち着きを取り戻した。

「はぁ…番、ねぇ。
まぁ執念深く待っていた甲斐があったなぁ友よ!!」

「…それはどうも」

「それで式はいつなんだ?
勿論俺も招待をしてくれるよな!何たってお前は公爵家当主であり我が国が誇る将軍様だ!!」

「未定だ」

「……番なんだろ?
人間って言ってたな、まさか獣人嫌いなのかその娘」

「違う。違うし彼女も俺を嫌っていないと本人に確認済みだ。
だが……まだ彼女と正式に番う約束ができていない」

「何やってんだお前」

「しょうがないだろ!
少々訳ありらしくてな、そもそも彼女はあの孤島の海まで
両手足に魔封じの呪い付き枷を嵌められてな、死にかけてたんだよ…」

「罪人、なのか?流石に逃亡罪人となれば、番だろうが何だろうが、悪いが国王として結婚を許すことは…」

「それが俺と番うのを躊躇っている問題であり、
俺が答えを出さねばならない問題でもあるんだが。
そもそも今日貴様にここに呼び出されなければ俺はその真偽を即刻調べに行っていたんだ」

「………。
事情の説明を求める」

「やなこった」

真剣マジな話だ、ジル。
もしも彼女が逃亡した重罪人であれば、他国の国王へと情報が伝達される。
凶悪な罪人を国へと入れるわけにもいかないからな。
逆に冤罪を着せられた無実人であるとするならこちらからそれとなくその国の国王に話をつけることができる。
何にしても情報は得られる。
だからこんな時くらい頼れよ、悪友」

「…悪い、それと感謝する」

常に巫山戯た態度をとる悪友の、こういうところが曲者なんだ。
締める所は締めるこの頼れる悪友に、彼女の事情を話すことにしたのだった。


===



「ミルドルア王国元伯爵令嬢、ディステル・アデライド。
ーーん?アデ、ライド?」


まずは名前を、と彼女の名を告げたところ……悪友は突如喉に魚の小骨でも引っ掛かったような表情で首を傾げた。

「聞き覚えが、あるのか」

では、彼女は真実罪人……と眉を寄せた俺に


「っま、待て待て!
えっと、確かつい先日……ミルドルア王国から通達…書類どこだ~!」

「書類、少しは整理しろよ」

ガサガサと山になった書類の中を漁る悪友に呆れた声をかける。

「しょうがねぇだろ次から次へと来るんだから!!
っと、これだ!
え~……、………」

「なんだ、早くしろ」

「急かすなっつの!あー、な。
おぉぅ……。何とまぁ……」

「だからなんだと」

「結論から言おう。
彼女ー…ディステル・アデライド伯爵令嬢はにより死んだことになってる」

「…冤罪?」

「ああ。それで、ほんの数日前、この通達が届く1週間前に本当の罪人が国民の前で一家丸々処刑されている。
で、王妃も、その後令嬢の罪により取り潰されてしまった伯爵家と令嬢自身の罪と汚名も全て濯がれ、として王族名簿に永久登記された、らしいぞ」

「は…?」

(婚約者がいたとは書かれていたが王太子妃?!
しかも永久登記!?なんだそれは!!)

「この通達自体、万が一同姓同名の人物が他国で発見された時の保険ってことみたいだ。
つまり……お前の番は真実無実であり、元とはいえ伯爵令嬢と家柄も良く、王太子の元婚約者であり、汚れなき乙女ということが今この瞬間証明された訳だ。
すげーなお前の番。
わざわざ冤罪を国王が認めたということは、相当な人数の人間が彼女の冤罪を晴らすために動いたということだ。
人望も地位もある、しかも死してなお彼女を簿
……ミルドルアの王太子は今なお彼女を愛していると見た!」

「絶対に渡さん!!」

呆気なく、あっさりと事情を話す前に判明した彼女の真実が耳に届くと同時、
俺は犬歯を剥き出しにして悪友の執務室で吠えた。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

処理中です...