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その40のその間 私、リリーさん……今、貴女の前にいるの②
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「ちゃんとお手紙も渡したし、これで万事オッケーね!
それにしても思ったより粘ったわねぇ、スレイレーンには優秀な騎士がいること」
(……なんなのよこの女…)
羨ましいわぁ、娘にお願いして2、3匹我が家に持ち帰ってもらいましょうかとコロコロ上機嫌に笑うローブ女に首根っこを掴まれて運ばれながら、ソフィアは鳥肌が立つのを止められない。
ローブ女は異常だった。
何やら紙のようなものを宙に投げたかと思ったら、突如周りの騎士どもが一斉に吹っ飛び。
牢馬車に身を寄せた女が細い指を鉄柵にかけると、力を込めている素振りもないのにギギィィィ…!と軋みを上げて鉄柵が呆気なく曲がり。
ぽっかりと空いたそこからソフィアの首根っこを引っ掴むと片手でヒョイと持ち出し。
挙句、持ち直して立ち向かう騎士どもを次々と踊るように薙ぎ倒した。
それこそ騎士どもが立ち上がらなくなるその時まで。
無論、ソフィアを片手で抱えたまま、笑顔で。
そうして逃げおおせ、今は何処を歩いているのだか。
呆気なく牢馬車から脱せたのはありがたいが、
この異常極まる女は一体自分になんの用があるというのか……?
恐怖に鳥肌を立てずにいられない。
騎士どもと大立ち回りをした場所からかなり離れた場所でようやく降ろされ、
バッと女と距離を取る。
幸い魔力がなければ何もできないと思われていたのか、
手足に枷や鎖の類はつけられていない。
「……それで?アンタみたいな化け物女が私に何の用があるのよ」
「あらあら化け物なんて失礼しちゃうわ?
遊び相手が欲しいのだと私、言わなかったかしら」
「…ローブ被った顔も分からない不審者と遊ぶつもりなんてないわ」
(というかさっさとお別れしたいのよこっちは!)
早くこの女から離れたい。
そう思うが、どうにもこの女には隙がない。
焦りと苛立ちからつい、言葉がついて出た。
「遊びたいだとか訳の分からないアンタの変な趣味に付き合ってる暇はこっちにはないのよ!
折角自由になれたんだから私は好きに行動させてもらうわ!」
ほんと、気狂いには付き合ってらんないわぁーと吐き捨ててこの場から立ち去ろうと女に背を向けると。
ふふふ……
女が静かに笑った。
「自由?貴女に?
そんなものある訳ないじゃない。
言ったでしょう?遊びたいって。
私が、貴女を、あの屑籠から拾ったの。
だから勝手にどこかに行かれるのは困るわ?ソフィア・シモン元子爵令嬢?」
私の家名までフルネームで述べると、
女はローブのフードを頭から外した。
「!?アンタ、まさか……」
女の髪、目の色。
嫌というほどに覚えのあるその珍しい配色に戦慄した。
露わになった美しい女の顔にはもう、笑みはなかった。
人形のような無表情。
「コラルドでもスレイレーンでも。
私の可愛い可愛い娘がとってもお世話になったのですもの。
念入りにお礼をさせていただくのは貴族淑女の嗜みでしょう…?」
「っひ……!?」
一瞬にして距離を詰められ首を掴まれる。
「よくも私の宝を侮辱し辱めたな屑女。
刻むのも挽肉にするのも焼くのも駄目
ただ殺すだけじゃあつまらない
念入りに呪うのも時間がかかって面白くない
屑に貴重な時間をこれ以上費やしたくない
だが屑が娘と同じ人間として存在していること自体許せない。
…そうだ、人間じゃなくなればいい。
女として自信があるんだろう屑。変わった後で1人でも男に美しいと言われたのなら元に戻してやろう」
「やめなさい!やめろってば触んなっ!!
お、お願いだから!謝ればいいんでしょ!?だからお願…」
ペタリ
『魔化』
額に何かを貼られ、女が何事かを呟いた直後。
額から伸びた紙のようなものが全身を覆い、私の視界を奪った。
ゴキ…と骨が折れる音と感触を最後に、私は意識を手放した。
………………………
…………………
…………
……
…
「ぁ”あ”ア”ァァ~~!ゾコノア”ナダ…ワダジドイッジョニイイゴドジナイィィ”」
「……ひぃぃ…ば、化け物だぁ~~~!」
「ナ、ナんデニゲるのぉぉォ”ォ”!?」
「くく……ある意味尊敬するぞその前向き姿勢。
そんな姿になっても男への執着を忘れないとは。
そうやって地面を這いずり男を求め続ければいい。
討伐か飢餓か、己の寿命が尽きるその時まで…
………
………あら。
私ったらやだわ?変な口調で独り言なんてはしたない。
早く旦那様のいる家に帰ってルーシェちゃんが婿様を連れてくるのをお出迎えしなきゃ!」
楽しみね!と上機嫌で去る女ーー、リリムの頭からは、
自身が醜い魔物に変えた女の存在のことなど綺麗さっぱりと消えていた。
人間の男ばかりを襲う新種の魔物として他国の冒険者によって討伐依頼が出され。
ソフィアだった存在がこの世から消えたのは、
それから約半年後のことだったーー。
======================================
死神・リリム様による、ソフィア嬢ざまぁ回でした。
いや、どちらかと言えば呪殺の魔女バージョンかな?
魔物化も呪いみたいなもんですし。
ソフィア、人間じゃなくなってしまいましたぁ!!
南無……。
それにしても思ったより粘ったわねぇ、スレイレーンには優秀な騎士がいること」
(……なんなのよこの女…)
羨ましいわぁ、娘にお願いして2、3匹我が家に持ち帰ってもらいましょうかとコロコロ上機嫌に笑うローブ女に首根っこを掴まれて運ばれながら、ソフィアは鳥肌が立つのを止められない。
ローブ女は異常だった。
何やら紙のようなものを宙に投げたかと思ったら、突如周りの騎士どもが一斉に吹っ飛び。
牢馬車に身を寄せた女が細い指を鉄柵にかけると、力を込めている素振りもないのにギギィィィ…!と軋みを上げて鉄柵が呆気なく曲がり。
ぽっかりと空いたそこからソフィアの首根っこを引っ掴むと片手でヒョイと持ち出し。
挙句、持ち直して立ち向かう騎士どもを次々と踊るように薙ぎ倒した。
それこそ騎士どもが立ち上がらなくなるその時まで。
無論、ソフィアを片手で抱えたまま、笑顔で。
そうして逃げおおせ、今は何処を歩いているのだか。
呆気なく牢馬車から脱せたのはありがたいが、
この異常極まる女は一体自分になんの用があるというのか……?
恐怖に鳥肌を立てずにいられない。
騎士どもと大立ち回りをした場所からかなり離れた場所でようやく降ろされ、
バッと女と距離を取る。
幸い魔力がなければ何もできないと思われていたのか、
手足に枷や鎖の類はつけられていない。
「……それで?アンタみたいな化け物女が私に何の用があるのよ」
「あらあら化け物なんて失礼しちゃうわ?
遊び相手が欲しいのだと私、言わなかったかしら」
「…ローブ被った顔も分からない不審者と遊ぶつもりなんてないわ」
(というかさっさとお別れしたいのよこっちは!)
早くこの女から離れたい。
そう思うが、どうにもこの女には隙がない。
焦りと苛立ちからつい、言葉がついて出た。
「遊びたいだとか訳の分からないアンタの変な趣味に付き合ってる暇はこっちにはないのよ!
折角自由になれたんだから私は好きに行動させてもらうわ!」
ほんと、気狂いには付き合ってらんないわぁーと吐き捨ててこの場から立ち去ろうと女に背を向けると。
ふふふ……
女が静かに笑った。
「自由?貴女に?
そんなものある訳ないじゃない。
言ったでしょう?遊びたいって。
私が、貴女を、あの屑籠から拾ったの。
だから勝手にどこかに行かれるのは困るわ?ソフィア・シモン元子爵令嬢?」
私の家名までフルネームで述べると、
女はローブのフードを頭から外した。
「!?アンタ、まさか……」
女の髪、目の色。
嫌というほどに覚えのあるその珍しい配色に戦慄した。
露わになった美しい女の顔にはもう、笑みはなかった。
人形のような無表情。
「コラルドでもスレイレーンでも。
私の可愛い可愛い娘がとってもお世話になったのですもの。
念入りにお礼をさせていただくのは貴族淑女の嗜みでしょう…?」
「っひ……!?」
一瞬にして距離を詰められ首を掴まれる。
「よくも私の宝を侮辱し辱めたな屑女。
刻むのも挽肉にするのも焼くのも駄目
ただ殺すだけじゃあつまらない
念入りに呪うのも時間がかかって面白くない
屑に貴重な時間をこれ以上費やしたくない
だが屑が娘と同じ人間として存在していること自体許せない。
…そうだ、人間じゃなくなればいい。
女として自信があるんだろう屑。変わった後で1人でも男に美しいと言われたのなら元に戻してやろう」
「やめなさい!やめろってば触んなっ!!
お、お願いだから!謝ればいいんでしょ!?だからお願…」
ペタリ
『魔化』
額に何かを貼られ、女が何事かを呟いた直後。
額から伸びた紙のようなものが全身を覆い、私の視界を奪った。
ゴキ…と骨が折れる音と感触を最後に、私は意識を手放した。
………………………
…………………
…………
……
…
「ぁ”あ”ア”ァァ~~!ゾコノア”ナダ…ワダジドイッジョニイイゴドジナイィィ”」
「……ひぃぃ…ば、化け物だぁ~~~!」
「ナ、ナんデニゲるのぉぉォ”ォ”!?」
「くく……ある意味尊敬するぞその前向き姿勢。
そんな姿になっても男への執着を忘れないとは。
そうやって地面を這いずり男を求め続ければいい。
討伐か飢餓か、己の寿命が尽きるその時まで…
………
………あら。
私ったらやだわ?変な口調で独り言なんてはしたない。
早く旦那様のいる家に帰ってルーシェちゃんが婿様を連れてくるのをお出迎えしなきゃ!」
楽しみね!と上機嫌で去る女ーー、リリムの頭からは、
自身が醜い魔物に変えた女の存在のことなど綺麗さっぱりと消えていた。
人間の男ばかりを襲う新種の魔物として他国の冒険者によって討伐依頼が出され。
ソフィアだった存在がこの世から消えたのは、
それから約半年後のことだったーー。
======================================
死神・リリム様による、ソフィア嬢ざまぁ回でした。
いや、どちらかと言えば呪殺の魔女バージョンかな?
魔物化も呪いみたいなもんですし。
ソフィア、人間じゃなくなってしまいましたぁ!!
南無……。
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