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その36 当日祭夜会・その7〜目の覚めた青年〜

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「な、何たる不敬!!」

「いきなり殿下の腕を掴んで縋るなど」

「何とはしたない……!」

「殿下のパートナー様も何故何も言わないのか!?」


(うむぅ…これはどうしたものでしょうか)

こんばんは。ルシェルディアです。
ソフィアの無謀な行動を目にした貴族達が一斉に抗議の声を上げる中、
パートナーである自分にまで矛先が向いてきそうな気配につい唸ってしまいます。

ハイそうですよね、折角王弟様のパートナー閉じて馳せ参じている身なのに、
その相手に他の女性があからさまに媚びて身体を密着しているのを黙って見てるとか無いですよね?

でもしかし、私も思うのです……
ソフィアさんこそ自分のパートナーをどうするのかな?と。

(もんのスッゴイ目付きで睨んでらっしゃる)

私の隣でアルフ様にしがみついている彼女を、
さも視線で殺してやる!レベルで睨んでいる御仁がおる訳で。

確かに、自分のパートナーが自分そっちのけで他の男とイチャコラ?してたらそうなりますよ。
で。
そんな殺気塗れのお人が目前に居るうちに、
私がさも嫉妬してます!との発言をかませば……乗ってきますよね?
修羅場確定です。
そして色恋沙汰経験値皆無の私が安易にその状況を作り出してしまったなら、
1人置いてけぼりになってしまうのも分かりきっている訳なのです!
というか面倒くさい!!

なので、これだけ周囲が非難轟々であっても迂闊に口を挟めな……ん?

(何でしょうか、あれ)

ソフィアにされるがままにされているアルフ様が
何やらハンドサインらしきものをこちらに…。

意味を理解しかねて彼を見やると、
一瞬。
ほんの一瞬アルフ様がこちらをちらと流し見て、ーーニヤリと笑った。

(ふむ。ではお任せしますね)

あの顔、きっと考えあっての行動と言いたいのだろう。
正直現在進行形で胸の辺りがモヤモヤしっぱなしな私ですが、
ここはもう、
まるっとアルフ様に解決していただこう!!と深く考えることをやめた。

はてさて、どうなることやら。


※  ※  ※

一方ソフィアを連れてきたカール青年は、
ルシェルディアが想像しているような嫉妬心とは程遠い鬱屈とした焦りと怒りに
顔を歪めていたーー



(Side:カール)


(僕は一体今まで何をしていたのだろう)


意識が明確化したその瞬間、己の愚かさを嘆いた。
目前にはスレイレーンの王弟殿下、そのパートナーの美しい女性、
そしてーー自らが連れてきた娼婦が如き女。

更に最悪なのが、
自分に今まで、ことだ。
忘れて呆然とするならまだいい。
いや、体面として決して良くはないが、それでもこの当日祭を迎えるまでに自分がしでかしてきたことを自覚するほど酷くもないはずだ。
この、現在進行形で恐れ多くも王弟殿下へ媚びを売りまとわりつく恥知らずな女と身体の関係を持ち、家の財産を使って貢ぎ、家族を無為に引き合わせ、挙句がこれか。

最早即刻首を刎ねられても文句は言えない、
どころか是非とも刎ねてくれとこの場で跪いて懇願したい!

王弟殿下にも、そのパートナー様にも申し訳なく、
ただただ背後から己が連れてきた巫山戯た女を睨みつけることしか出来ずにいると。

(あれは……、っそうか!だったのか!!)

一瞬殿下がパートナー様をちらと流しみ、パートナー様は殿下の手元を。
その手元が示すサインは、軍務に携わる者なら誰でも読み取れるサイン。
我がエデルジア伯爵家は代々軍務に携わる身。
残念ながら僕はそっち方面の才能に乏しく、
また騎士団に入団するほどの武才も皆無だった為に、
あの女と出会ってしまう羽目になった冒険者ギルドへと顔を出したが、
それでも家の仕事やそれに従事する優秀な兄達は誇らしく、
まかりなりにも助力を夢見て勉強していた。

だからそれが意味するところも正確に把握できたのだ。

つまりーー

“魔法を悪用・行使する咎人/女/不敬罪/捕縛作戦実行中/手出し不要”


パッ、パッ、と続け様に出されたサインを繋ぎ合わせると、
そんな内容になるのだ!

思わず殿下の顔を仰ぎ見れば、女に笑んでいると見せかけて、その延長線にいる僕に視線を僅かに合わせてくれたのが分かり、感謝の念に思わず頭を下げて泣いてしまいそうになった。

(っ駄目だ!ここで態度を変えたら殿下の作戦を台無しにしてしまう!!
……落ち着け、そしていかにもまだあの女に懸想しているように振る舞わなければ)

何故女の術中から逃れることが出来たのかは不明だが、
おそらく殿下がなんらかの手段で自分を正気に戻してくれたのだと確信して。

僕は、いかにも殿下に嫉妬しているように鋭く視線を強めたのだった。
実際には女を殺したい気持ちを押し隠して。


ーー殿下の合図が待ち遠しい!


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