追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

文字の大きさ
上 下
43 / 54

その35 当日祭夜会・その6〜罠にかかった獲物〜

しおりを挟む


こんばんは!
ご存知の通り、ルシェルディアです!
私は現在、絶賛混乱中であります。
混乱の原因は勿論、傍に立つパートナー様の態度でありまして……


※  ※  ※



(っえっ!?)


色気たっぷりにソフィアへ微笑むアルフ様に、私は何で!?と驚愕する。

自分とも渡り合える程、魔力の強いアルフ様。
彼が以前、自身で宣言していた通り、
魔法抵抗力もその強力・強大な魔力に準じて強いはず、
故に魅了など効かないはずで……。

現に先ほどまでは笑顔ながら酷く酷薄な色を瞳に宿していたはず。
それなのにソフィアが目の前にやってきて言葉を発した瞬間、
態度が明らかに変わった。
まるで魅了にまんまとかかり、ソフィアに好意を抱いたかのように。

ー…夜会前、何が起ころうとも笑みを崩すなとのアルフ様より厳命されていなければきっともっと慌てていたことでしょう。
しかしやはり、元より腹芸が苦手な私。
動揺というものは完全には隠せない様で…

軽く目を瞠ったその様子を目敏く見てとったソフィアが、

(え、うわっ!うむぅ…なんか、魔物のなり損ないみたいに歪んでる。
笑顔気持ち悪っ!!)

かーなーり、嫌な笑みを浮かべたのにはうんざりとしてしまった。

一抹の不安を感じつつそれでも成り行きを見守る他ない私は、
極上の笑顔を浮かべる隣の美丈夫殿を只々見つめた。


※  ※  ※



(Side:ソフィア)


普通なら不敬だと咎め立てられる態度で臨んだ国王への挨拶を何事もなく終えた私は、確信と自信を持って本命の王弟殿下へと向き直った。

(ああ…やはり。
見れば見るほど野生的で美しい!
彼こそ私のモノとなるべき極上の男よ……!)

自分を見返す王弟、アルフレッド・スレイレーンを半ばうっとりと見つめ、
同時に図々しくも傍らに佇む忌々しい女を敢えて視界から外して集中する。

(いくらこの女が隣にいるとはいえ、私が本気を出せばちゃんと筈!)

慎重に魔力を増し、同時に周囲の人間に気付かれてはいないかを視線の端で確認する。

(…これだけの出力で使うのなんて滅多にないことだけれど…さて)

ちゃんと効果を発揮しているのかと
先ほどまでやや冷たい眼差しでこちらを見ていた王弟の様子を窺う。
するとーー。


「ーーソフィア嬢、ですか。
何と麗しい、まるで咲き誇り香り立つ薔薇のようだ」


先ほどまでとは打って変わって熱を帯びて私を見つめて称賛する目前の男。

(!!よし…かかった!!)

思わず手を握り込んで歓喜する。
これで、と。
ちらりと彼の隣に目をやると、忌々しい女ー…ルシェルディアがガラリと変わった王弟の様子に目を瞠っているのが見て取れ、うっそりとほくそ笑む。

以前婚約者を取り上げた時は全く動じなかったこの女が、
これほど動揺を露わにしていることがおかしくて仕方がない。
これほど強力に行使した魅了魔法が効果を発揮した以上、
最早この極上の男がルシェルディアを瞳に映すことすらないだろうに。
この上まだ縋ろうというのか浅ましい!と眉を跳ね上げる。

(……勝った!!)

これで自分はこの女にも、そして人生における勝負にも勝ったのだと。
心の底から高らかに叫びたい気分だった。
あとはもう、このまま放っておけば王弟は自分の言いなり、
この挨拶の後きっと自分をファーストダンスへと誘い、そしてことだろう。
そのまま軽く頭を下げて一先ず壇上を辞そうとしー、
しかしあることに気付き思いとどまる。
この場まで漕ぎ着けるために堕とした煩わしい男が、
予想以上の険しさでもって自分を背後から凝視していることに気づいたから。

おそらくパートナーなのに放置されたばかりか、
目の前で他の男に目移りしたと憤っているのだろう。
カールもまた、王弟同様にかなり強力な魅了でもって堕としたのだから。

(…本命を前に一々相手にしてられないっての、面倒くさい。
でも、そうね……)

お古を捨てるついでに、ルシェルディアあの女もまとめて絶望感に突き落としてやってまとめて捨ててやろう。
目の前でこれだけ分かりやすく王弟に情があることを認めているのだ、
慕う本人から激しい拒絶を受ければ、今度こそみっともなく取り乱すに違いない。
にんまりと笑い、頭をゆっくりと起こす。
そしてーー、

「アルフレッド様ぁ、私とファーストダンスを踊って下さいましな!」

目前の王弟の腕を引き寄せ絡みつき、殊更甘い声音でもって懇願した。




しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...