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その34 当日祭夜会・その5〜身の程を知らぬ者〜
しおりを挟む件の令嬢、ソフィアが壇上で王族の前に立った時、
会場内がざわ!!と騒めきたった。
ただでさえ顰蹙を買っていた女が王族の前に。
しかも首を垂れることなく無遠慮に正面から彼らを見るなど!
スレイレーン王国貴族として、
いや社交の場に身をおく者として絶対にしてはならぬ不敬を平然としている。
周囲から不敬な不届きもの!!と驚愕と憤怒の視線を一心に浴びながら、それでも女は平然と笑んで見せる。
先ほどまで会場で彼女に見惚れたり侍ったりしていた男達も、
その媚びた笑みを不気味そうに見て身体を震わせ……はたと気付く。
“何故あんな不敬な平凡極まる下品な衣装の女を綺麗だなどと思っていたのか?”
と。
徐々に己を見つめる周囲の目が種類を違え始めたことに、
しかし件の女が気付く素振りすらない。
夜会のメインイベントとなるダンスを前にして、
会場は奇妙な緊張感に包まれていたーー
※ ※ ※
(Side:アルフ)
本当、厚顔無恥とはこの女の為に存在するような言葉だな
今はまだ兄にも分散している女の値踏み視線を前にして、
アルフが抱いた一番の感想がそれだった。
(この女…元々子爵とはいえ貴族令嬢だったと聞いているが。
一体家では何を学んでいたのだか……)
王族・皇族とは、貴族らにとっては仕え、頂くべき国の象徴。
敬い、従う。
その図式は例えどの国であれ、王政国家にとっては常識中の常識。
だというのに目前に佇むソフィアはその常識を微塵も体現できていない。
どころか自らこそが国の頂点に属するが如くといった態度で、
自分は称賛され、乞われ、傅かれるのが当然、それも俺達王族ですら例外なくと考えているのが丸わかりな太々しい態度で笑っているのだ。
予め合図あるまで手出し無用と申し付けられている騎士達も、微動だにしていないものの拳を強く握り込み、額に青筋を立てているのがこの壇上にあってさえ見て取れる。
思わず口元が嘲りを含んだ笑みを浮かべそうになるのを必死に堪える。
いや、寧ろ元々男を漁るのに忙しくて何も学んでいなかったのかもしれんな、と一度呆れて散漫になりそうになった意識を一つにまとめ直す。
「さて。……お主は確か?」
俺の隣に並び立つ兄ーー国王が、
表面上はにこやかな笑みを浮かべながら言葉を発する。
なお、目は全く笑ってはいなかったが。
仮にも間も無く正式なこの国の王妃となるが周知のパートナーを明らかに下に見ているその態度に、内心即座に縊り殺してやりたくて仕方がないのだろう。
さも、お前、誰?え、うちの国の貴族じゃないよね?と言外に告げている言葉が嫌味を過分に含んでいることに全く気付いていないのか。
ソフィアは寧ろ国王が自分に注目していると勘違いをしたようで、
熱心な眼差しの中の媚びを強めた。
(!!)
途端、兄のしている耳飾りが鈍く光ったのを俺は見逃さなかった。
常時発動しているらしい魅了魔法、それに割く魔力を強めた証拠だ。
俺が確認した事象を同じく目にしたらしい兄のパートナーがちらと俺を流しみ、小さく顎を引く。
自分もちゃんと、証拠となる事象を確認した、そう俺に示す為に。
しかしーー、
(……まだだ。まだ、早い)
兄1人に魔法行使の下に色目を使ったとて、まだ証拠としては弱い。
なんらかの害意、敵意の類いの感情を露わにするまで。
そう考えて魔法の行使を黙認していると、
簡単な挨拶をしたソフィアがこちらに正対した。
その目には兄にも魔法が通じたという絶対の自信と、
傍らに立つルシェルディアに対する、明確なる敵意。
やはり本命は、彼女の相手である俺、らしい。
女が、欲の滲んだ笑みを浮かべ、言葉を発する。
「ー…アルフレッド王弟殿下、ご機嫌麗しゅう。
私、ソフィアと申しますわ」
令息の単なる連れであるのにこの態度のデカさ。
本来先に挨拶を述べねばならない、
険しい表情を浮かべる自身のパートナーそっちのけで甘ったるい声を発するソフィアに対して。
「ーーソフィア嬢、ですか。
何と麗しい、まるで咲き誇り香り立つ薔薇のようだ」
殊更に甘い声を作り、艶然と笑みを深めた。
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