追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

文字の大きさ
上 下
42 / 54

その34 当日祭夜会・その5〜身の程を知らぬ者〜

しおりを挟む

件の令嬢、ソフィアが壇上で王族の前に立った時、
会場内がざわ!!と騒めきたった。

ただでさえ顰蹙ひんしゅくを買っていた女が王族の前に。
しかも首を垂れることなく無遠慮に正面から彼らを見るなど!

スレイレーン王国貴族として、
いや社交の場に身をおく者として絶対にしてはならぬ不敬を平然としている。

周囲から不敬な不届きもの!!と驚愕と憤怒の視線を一心に浴びながら、それでも女は平然と笑んで見せる。
先ほどまで会場で彼女に見惚れたり侍ったりしていた男達も、
その媚びた笑みを不気味そうに見て身体を震わせ……はたと気付く。

“何故あんな不敬なを綺麗だなどと思っていたのか?”

と。

徐々に己を見つめる周囲の目が種類を違え始めたことに、
しかし件の女が気付く素振りすらない。

夜会のメインイベントとなるダンスを前にして、
会場は奇妙な緊張感に包まれていたーー


※  ※  ※



(Side:アルフ)



本当、厚顔無恥とはこの女の為に存在するような言葉だな


今はまだ兄にも分散している女の値踏み視線を前にして、
アルフが抱いた一番の感想がそれだった。

(この女…元々子爵とはいえ貴族令嬢だったと聞いているが。
一体家では何を学んでいたのだか……)

王族・皇族とは、貴族らにとっては仕え、頂くべき国の象徴。
敬い、従う。
その図式は例えどの国であれ、王政国家にとっては常識中の常識。
だというのに目前に佇むソフィアはその常識を微塵も体現できていない。
どころか自らこそが国の頂点に属するが如くといった態度で、
自分は称賛され、乞われ、傅かれるのが当然、それも俺達王族ですら例外なくと考えているのが丸わかりな太々しい態度で笑っているのだ。
予め合図あるまで手出し無用と申し付けられている騎士達も、微動だにしていないものの拳を強く握り込み、額に青筋を立てているのがこの壇上にあってさえ見て取れる。

思わず口元が嘲りを含んだ笑みを浮かべそうになるのを必死に堪える。


いや、寧ろ元々男を漁るのに忙しくて何も学んでいなかったのかもしれんな、と一度呆れて散漫になりそうになった意識を一つにまとめ直す。

「さて。……お主は確か?」

俺の隣に並び立つ兄ーー国王が、
表面上はにこやかな笑みを浮かべながら言葉を発する。
なお、目は全く笑ってはいなかったが。
仮にも間も無く正式なこの国の王妃となるが周知のパートナーを明らかに下に見ているその態度に、内心即座に縊り殺してやりたくて仕方がないのだろう。
さも、お前、誰?え、うちの国の貴族じゃないよね?と言外に告げている言葉が嫌味を過分に含んでいることに全く気付いていないのか。
ソフィアは寧ろ国王が自分に注目していると勘違いをしたようで、
熱心な眼差しの中の媚びを強めた。

(!!)

途端、兄のしている耳飾りが鈍く光ったのを俺は見逃さなかった。
常時発動しているらしい魅了魔法、それに割く魔力を強めた証拠だ。

俺が確認した事象を同じく目にしたらしい兄のパートナーがちらと俺を流しみ、小さく顎を引く。
自分もちゃんと、証拠となる事象を確認した、そう俺に示す為に。
しかしーー、

(……まだだ。まだ、早い)

兄1人に魔法行使の下に色目を使ったとて、まだ証拠としては弱い。
なんらかの害意、敵意の類いの感情を露わにするまで。
そう考えて魔法の行使を黙認していると、
簡単な挨拶をしたソフィアがこちらに正対した。

その目には兄にも魔法が通じたという絶対の自信と、
傍らに立つルシェルディアに対する、明確なる敵意。
やはり本命は、彼女ルーシェの相手である俺、らしい。

女が、欲の滲んだ笑みを浮かべ、言葉を発する。

「ー…アルフレッド王弟殿下、ご機嫌麗しゅう。
私、ソフィアと申しますわ」

令息の単なる連れであるのにこの態度のデカさ。
本来先に挨拶を述べねばならない、
険しい表情を浮かべる自身のパートナーそっちのけで甘ったるい声を発するソフィアに対して。


「ーーソフィア嬢、ですか。
何と麗しい、まるで咲き誇り香り立つ薔薇のようだ」

殊更に甘い声を作り、艶然と笑みを深めた。
しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

処理中です...