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その32 当日祭夜会・その3〜本番に突入です!!〜
しおりを挟む入場時に少しばかり出遅れ、慌ててアルフ様に追いついた私、ルシェルディアは。
入場を果たした瞬間己に集中した会場中の視線に、
ふぉ!?と危うく声を上げかけた。
(うわわわ!ものすっごい注目されてます?)
てっきりより注目を集めると思っていた国王陛下は、婚約者と仲睦まじい様子で既に王座とその並びで置かれた椅子へ着席を済ませている。
おそらく結婚目前とあって麗しい二人の絵図には皆慣れているのだろう。
対して王弟殿下であるアルフ様はというと。
(今までずっと独身の上婚約者もいなかった、と。
そりゃ、そんな人が私みたいなのを連れて夜会に登場したら騒めきますよね)
アルフ様も罪なお人なのです、とまるで人ごとのように心中で己に対して罵りを上げているであろう世の貴族令嬢達にそっと合掌してみる。
が、知らぬは本人ばかりなり。
貴族連中が騒めいた理由は、なにもアルフレッドが見知らぬ女を明確なる自身のパートナーとして連れて登場したからばかりではないことを、ルシェルディアは知らない。
己の持つ色合いの珍しさと美しさ、
そして幼い見た目に反して凛と背筋の伸びた佇まいと何故か香りたつ色気が、
会場中の貴族男性の目を釘付けにしていることなど。
上背のある野性的な容貌の王弟殿下と並ぶ、正体不明の美少女。
身長差も相まって、ともすれば倒錯的な二人の絵面に、
会場からはゴクリと唾を飲み込む音があちこちから。
(む、皆喉でも乾いているのでしょうか?
ふむぅ…飲み物ならそこ彼処に用意されているのに)
見当違いなことを考えているとも知らず、やっとたどり着いた席へと座る。
勿論、アルフ様の隣に用意された席だ。
そわそわする心持ちを必死に抑えながら、
取り分け一つ、何故だか妙に粘着質な視線を感じるのが気になる。
国王陛下が挨拶を述べている最中も、どころか会場入りしてからこっち、
ずっとアルフ様と自分を凝視してくる視線があるのだ。
社交用の笑顔を貼り付けたままさり気なく辺りを見渡すと。
呆気ない程にあっさりと、視線を送る主にたどり着いた。
たどり着いてしまった。
(あ……。あれは)
本来ここにいるはずのない、自分から婚約者も母国も奪った貴族令嬢。
ー…ソフィア・シモン子爵令嬢
(あれ?うーん、確か彼女…黒髪黒目じゃあありませんでしたっけ?)
会場のほぼ中央から自分達を半ば睨むような強い視線を飛ばしてくる彼女の現在の髪色は金。
いくら若いと言えども露出が多過ぎるドレスとその派手な外見により、
会場内の貴族女性の中でも彼女は一際浮いていた。
扇子を片手に仁王立ちする彼女の周りには、多くの貴族男性の姿が。
皆一様に惚けた顔で、登場して席についた王族そっちのけで彼女の周りに侍り、蕩然と彼女だけを見つめる様はかなり異様。
(…む、魅了魔法でしょうか…)
自分には聞かないとはいえ、その様子にルシェルディアは僅かに眉を顰める。
魅了魔法の最も厄介なところは、魔法の行使が表立って分からないことだ。
いつ、どこで、どのようにして魔法を行使するか。
普通なら行使の際、分かりやすい魔力の奔流が光という現象に可視化される為、魔法を行使したことが分かる。
しかし魅了魔法にはそれがない。
ほのかに緩やかに、鼻先をかすめる香水のように。
微弱な魔力が霧状に拡散して対象に定めた目標を包み、侵す。
まるで目に見えぬ毒の如しだと評したのは何という魔術師だったか。
いずれにせよ、こんな衆人環視の中で堂々と魔法を行使する胆力だけは褒めてあげたい。
妙なところで仕切りに感心する、やはり非常識な少女・ルシェルディアだった。
そうこうしている内に、舞台は着々と整いつつあった。
国王陛下の挨拶が終わった後の、貴族家らの王族への挨拶という、
本日最大のイベントが。
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