追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

文字の大きさ
上 下
40 / 54

その32 当日祭夜会・その3〜本番に突入です!!〜

しおりを挟む



入場時に少しばかり出遅れ、慌ててアルフ様に追いついた私、ルシェルディアは。
入場を果たした瞬間己に集中した会場中の視線に、
ふぉ!?と危うく声を上げかけた。

(うわわわ!ものすっごい注目されてます?)

てっきりより注目を集めると思っていた国王陛下は、婚約者と仲睦まじい様子で既に王座とその並びで置かれた椅子へ着席を済ませている。
おそらく結婚目前とあって麗しい二人の絵図には皆慣れているのだろう。
対して王弟殿下であるアルフ様はというと。

(今までずっと独身の上婚約者もいなかった、と。
そりゃ、そんな人が私みたいなのを連れて夜会に登場したら騒めきますよね)

アルフ様も罪なお人なのです、とまるで人ごとのように心中で己に対して罵りを上げているであろう世の貴族令嬢達にそっと合掌してみる。

が、知らぬは本人ばかりなり。

貴族連中が騒めいた理由は、なにもアルフレッドが見知らぬ女を明確なる自身のパートナーとして連れて登場したからばかりではないことを、ルシェルディアは知らない。

己の持つ色合いの珍しさと美しさ、
そして幼い見た目に反して凛と背筋の伸びた佇まいと何故か香りたつ色気が、
会場中の貴族男性の目を釘付けにしていることなど。

上背のある野性的な容貌の王弟殿下と並ぶ、正体不明の美少女。
身長差も相まって、ともすれば倒錯的な二人の絵面に、
会場からはゴクリと唾を飲み込む音があちこちから。

(む、皆喉でも乾いているのでしょうか?
ふむぅ…飲み物ならそこ彼処に用意されているのに)

見当違いなことを考えているとも知らず、やっとたどり着いた席へと座る。
勿論、アルフ様の隣に用意された席だ。

そわそわする心持ちを必死に抑えながら、
取り分け一つ、何故だか妙に粘着質な視線を感じるのが気になる。

国王陛下が挨拶を述べている最中も、どころか会場入りしてからこっち、
ずっとアルフ様と自分を凝視してくる視線があるのだ。

社交用の笑顔を貼り付けたままさり気なく辺りを見渡すと。
呆気ない程にあっさりと、視線を送る主にたどり着いた。
たどり着いてしまった。

(あ……。あれは)

本来ここにいるはずのない、自分から婚約者も母国も奪った貴族令嬢。
ー…ソフィア・シモン子爵令嬢

(あれ?うーん、確か彼女…黒髪黒目じゃあありませんでしたっけ?)

会場のほぼ中央から自分達を半ば睨むような強い視線を飛ばしてくる彼女の現在の髪色は金。
いくら若いと言えども露出が多過ぎるドレスとその派手な外見により、
会場内の貴族女性の中でも彼女は一際浮いていた。

扇子を片手に仁王立ちする彼女の周りには、多くの貴族男性の姿が。
皆一様に惚けた顔で、登場して席についた王族そっちのけで彼女の周りに侍り、蕩然と彼女だけを見つめる様はかなり異様。

(…む、魅了魔法でしょうか…)

自分には聞かないとはいえ、その様子にルシェルディアは僅かに眉を顰める。
魅了魔法の最も厄介なところは、魔法の行使が表立って分からないことだ。
いつ、どこで、どのようにして魔法を行使するか。
普通なら行使の際、分かりやすい魔力の奔流が光という現象に可視化される為、魔法を行使したことが分かる。
しかし魅了魔法にはそれがない。
ほのかに緩やかに、鼻先をかすめる香水のように。
微弱な魔力が霧状に拡散して対象に定めた目標を包み、侵す。
まるで目に見えぬ毒の如しだと評したのは何という魔術師だったか。

いずれにせよ、こんな衆人環視の中で堂々と魔法を行使する胆力だけは褒めてあげたい。

妙なところで仕切りに感心する、やはり非常識な少女・ルシェルディアだった。

そうこうしている内に、舞台は着々と整いつつあった。

国王陛下の挨拶が終わった後の、貴族家らの王族への挨拶という、
本日最大のイベントが。




しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...