追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その21 どいつもこいつも非常識かよ!?(泣)

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(Side:アルフ)




「ー…で。どうしたんだルーシェ」

道すがらずっと沈黙を保っていたアルフであったが、
現在は既に城内の彼女の部屋。
未だ沈黙したまま元気なく俯く彼女に、
らしくないぞと声をかけつつどうして急に気が変わったのかと問う。

本当は、彼女が態度を変えた理由についても見当がついている。
というか十中八九、ギルド内のあの妙な異変だろう。

(あの人だかりの中心に居た女…最後の粘着質な視線も奴だろう)

顔がフードに隠れていたため姿は分からないが…。
背中越しであってもあからさまに人を値踏みしまくった眼差しをバッチリと感じ取った感想はといえば、そこらの身分至上主義や下手な宗教家よりもタチが悪く気味も悪い。
正直言って、男にとって関わり合いになりたくない女1位だ。
何故ならそういう奴に限って、
自分自身に過剰ともいえるほど自信を抱いているからだ。

もしやそんな女が放つ毒気に当てられたか?と心配が擡げ始めた時、
ようやく口を開いた。


「………す」

「?ん…すまん聞こえなかった。もう一度」

「あそこにいた女の人、多分知っている人、です」


ボソボソと喋るルシェルディアに聞き直すと、予想外の言葉が。
親共通の知り合い?それとも……

「…知ってる人間?追放された国元で、か?」

「というか。私が追放となったきっかけを作り出した貴族令嬢だと思います」

「…は?」


慎重を期して聞き返したところ、更に予想外な返答。
きっかけを作り出した貴族令嬢?
そんな奴が何故我が国に??

そういえば追放されたとは聞いてはいても、その内容ー…何故、どんな理由で追放されたのかは一切聞いていなかったことを思い出す。
その令嬢とやらがどう関われば国を追われ魔窟なんて危険地帯に追放されるのか……

(全く予想がつかん)


どう聞いたものかと言葉を続けるのを躊躇っていると。
ルシェルディアはバッと顔を上げてむん!!と徐に胸を張った、いつものように!


「本当にあの人には困ったものですね!!」

「へ」

「元々その可能性を疑ってはいましたが、まさか本当に、しかも他国の人民にまで無差別に使うなんて信じられません!
の使い手は国に報告する義務までありますのに、おそらくあの様子ではそれすらしてはいないのでしょうね……
ふむぅ……何故この国にいるのかは不明ですがさて。
どうしたものでしょうか」

「おい待て待て。
話がまるで見えないんだが……。
俺にも分かるように説明してくれないかルーシェ?」

「あ(忘れてた)。

失礼しましたアルフ様。
あのですね、ギルドでの異変ですがあれはおそらく魔法によるものですよ」

「…まだ分からん(今忘れてた、とか思っただろコイツ)。
その口振り、どうやらあのローブ女を知っているようだが…
真実知り合いだったとしてその女が何やら魔法を使用していると?
一体なんの魔法で、あれは誰なんだ」


追放の原因になったと言われてもその状況も相手が誰なのかもまるで分からん、というと。
ようやく説明不足に気付いたのか、ああと納得の表情を浮かべた。


「ローブ女て……
そういえば追放されたことは話しても
詳しい話は一切していませんでしたそうでした!
えとですね……うむぅ、なんと説明して良いのか。
うん。掻い摘んで説明しますとあのローブ女さんはソフィア・シモンといいまして子爵家の令嬢です。
私には婚約者がいたのですが、貴族学園の卒園パーティーで彼女への虐めや無頼の輩を使って暴行を働こうと企んだとをつけられた挙句その言い分に同調して出張ってきた帝国の第2皇子の取引を真っ向拒否してしまったのでその場で拘束されて魔窟へと追放されました!
んー、こんな感じです!!」

「貴族令嬢には重いはずの事情をさらっと言いやがった!?
…色々無理やり感が漂うが取り敢えず、第2皇子の取引の内容は?」

話を聞いていて婚約破棄云々よりそっちの方が気になり問うと、


「罪に問われて投獄されたくなければ愛妾になれ、です!!」

「よし帝国皇族は消そうそうしよう」


クッソみたいな裏取引に一瞬一気に帝国皇族を根絶やしに!!と思考が飛んだ。
が、当のルシェルディアはそれは駄目ですよ~と実に爽やかに言ってのけて俺の頭を冷やした。

「皇帝様、皇妃様、皇太子に第1皇女様はとても良識ある方々ですよ?
父達の登城に付き合ってよく遭遇…、話す機会があったので間違いありません。
屑なのは“第2”だけです!!」


どうしても消すなら彼だけにして下さいね!!
止めの満面の笑みに、つい脱力してしまった。

(というか最早皇子とすら呼称されなくなったぞそいつ、第2て。
……余程嫌いなんだな)

この少女が母国の皇族相手にそこまで屑だと言い切るなんて、
本当に屑なんだな…と考えて、それでも暗殺くらいはOKか?と思案していると、
不意にあることに気付きそれも断念。

この能天気さに忘れがちだが彼女はあのレイブン家の1人娘。
化け物家族が可愛い娘を陥れた奴を放っておくはずがない。

ルシェルディアはそのソフィアとかいう子爵令嬢が他国であるここにいることを大層不思議がっているが、案外レイブン家と彼らの怒りを恐れた彼女曰くの“まとも”な皇族に追放食らったのかもしれないと思った。

(もしくは…
他人をあらぬ罪で陥れた罪人として捕まりそうになって逃げたとか…)→当たり


ともあれ。
期せずして彼女が国を追われた事情が分かり、
これで心置きなく遠慮なく彼女を口説ける事に確証を得ることができた。
何よりギルドからこっち、口を閉ざしていた彼女が何かに落ち込んでいたわけでも恐れていたわけでもなかったことに一先ず安堵する。
健康第一、元気溌剌!が常の彼女が暗いとどうにも落ち着かないのだ。

暗くなりそうだった雲行きが晴れた面持ちでそれで、と話を戻すことにした。


「さっき言いかけていた、そのソフィア嬢?が使用している魔法とは?」


気持ちが軽くなったことでつい軽く聞いてしまった自身の問いに、


「魅了魔法です!それも結構強力な!!」


呆気からんと同じような口調で返された答えに、
ビシリと石化してしまった。

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