28 / 54
その21 どいつもこいつも非常識かよ!?(泣)
しおりを挟む(Side:アルフ)
「ー…で。どうしたんだルーシェ」
道すがらずっと沈黙を保っていたアルフであったが、
現在は既に城内の彼女の部屋。
未だ沈黙したまま元気なく俯く彼女に、
らしくないぞと声をかけつつどうして急に気が変わったのかと問う。
本当は、彼女が態度を変えた理由についても見当がついている。
というか十中八九、ギルド内のあの妙な異変だろう。
(あの人だかりの中心に居た女…最後の粘着質な視線も奴だろう)
顔がフードに隠れていたため姿は分からないが…。
背中越しであってもあからさまに人を値踏みしまくった眼差しをバッチリと感じ取った感想はといえば、そこらの身分至上主義や下手な宗教家よりもタチが悪く気味も悪い。
正直言って、男にとって関わり合いになりたくない女1位だ。
何故ならそういう奴に限って、
自分自身に過剰ともいえるほど自信を抱いているからだ。
もしやそんな女が放つ毒気に当てられたか?と心配が擡げ始めた時、
ようやく口を開いた。
「………す」
「?ん…すまん聞こえなかった。もう一度」
「あそこにいた女の人、多分知っている人、です」
ボソボソと喋るルシェルディアに聞き直すと、予想外の言葉が。
親共通の知り合い?それとも……
「…知ってる人間?追放された国元で、か?」
「というか。私が追放となったきっかけを作り出した貴族令嬢だと思います」
「…は?」
慎重を期して聞き返したところ、更に予想外な返答。
きっかけを作り出した貴族令嬢?
そんな奴が何故我が国に??
そういえば追放されたとは聞いてはいても、その内容ー…何故、どんな理由で追放されたのかは一切聞いていなかったことを思い出す。
その令嬢とやらがどう関われば国を追われ魔窟なんて危険地帯に追放されるのか……
(全く予想がつかん)
どう聞いたものかと言葉を続けるのを躊躇っていると。
ルシェルディアはバッと顔を上げてむん!!と徐に胸を張った、いつものように!
「本当にあの人には困ったものですね!!」
「へ」
「元々あの時もその可能性を疑ってはいましたが、まさか本当に、しかも他国の人民にまで無差別に使うなんて信じられません!
あれの使い手は国に報告する義務までありますのに、おそらくあの様子ではそれすらしてはいないのでしょうね……
ふむぅ……何故この国にいるのかは不明ですがさて。
どうしたものでしょうか」
「おい待て待て。
話がまるで見えないんだが……。
俺にも分かるように説明してくれないかルーシェ?」
「あ(忘れてた)。
失礼しましたアルフ様。
あのですね、ギルドでの異変ですがあれはおそらく魔法によるものですよ」
「…まだ分からん(今忘れてた、とか思っただろコイツ)。
その口振り、どうやらあのローブ女を知っているようだが…
真実知り合いだったとしてその女が何やら魔法を使用していると?
一体なんの魔法で、あれは誰なんだ」
追放の原因になったと言われてもその状況も相手が誰なのかもまるで分からん、というと。
ようやく説明不足に気付いたのか、ああと納得の表情を浮かべた。
「ローブ女て……
そういえば追放されたことは話しても
詳しい話は一切していませんでしたそうでした!
えとですね……うむぅ、なんと説明して良いのか。
うん。掻い摘んで説明しますとあのローブ女さんはソフィア・シモンといいまして子爵家の令嬢です。
私には婚約者がいたのですが、貴族学園の卒園パーティーで彼女への虐めや無頼の輩を使って暴行を働こうと企んだと妙な言いがかりをつけられた挙句その言い分に同調して出張ってきた帝国の第2皇子の取引を真っ向拒否してしまったのでその場で拘束されて魔窟へと追放されました!
んー、こんな感じです!!」
「貴族令嬢には重いはずの事情をさらっと言いやがった!?
…色々無理やり感が漂うが取り敢えず、第2皇子の取引の内容は?」
話を聞いていて婚約破棄云々よりそっちの方が気になり問うと、
「罪に問われて投獄されたくなければ愛妾になれ、です!!」
「よし帝国皇族は消そうそうしよう」
クッソみたいな裏取引に一瞬一気に帝国皇族を根絶やしに!!と思考が飛んだ。
が、当のルシェルディアはそれは駄目ですよ~と実に爽やかに言ってのけて俺の頭を冷やした。
「皇帝様、皇妃様、皇太子に第1皇女様はとても良識ある方々ですよ?
父達の登城に付き合ってよく遭遇…、話す機会があったので間違いありません。
屑なのは“第2”だけです!!」
どうしても消すなら彼だけにして下さいね!!
止めの満面の笑みに、つい脱力してしまった。
(というか最早皇子とすら呼称されなくなったぞそいつ、第2て。
……余程嫌いなんだな)
この少女が母国の皇族相手にそこまで屑だと言い切るなんて、
本当に屑なんだな…と考えて、それでも暗殺くらいはOKか?と思案していると、
不意にあることに気付きそれも断念。
この能天気さに忘れがちだが彼女はあのレイブン家の1人娘。
化け物家族が可愛い娘を陥れた奴を放っておくはずがない。
ルシェルディアはそのソフィアとかいう子爵令嬢が他国であるここにいることを大層不思議がっているが、案外レイブン家と彼らの怒りを恐れた彼女曰くの“まとも”な皇族に追放食らったのかもしれないと思った。
(もしくは…
他人をあらぬ罪で陥れた罪人として捕まりそうになって逃げたとか…)→当たり
ともあれ。
期せずして彼女が国を追われた事情が分かり、
これで心置きなく遠慮なく彼女を口説ける事に確証を得ることができた。
何よりギルドからこっち、口を閉ざしていた彼女が何かに落ち込んでいたわけでも恐れていたわけでもなかったことに一先ず安堵する。
健康第一、元気溌剌!が常の彼女が暗いとどうにも落ち着かないのだ。
暗くなりそうだった雲行きが晴れた面持ちでそれで、と話を戻すことにした。
「さっき言いかけていた、そのソフィア嬢?が使用している魔法とは?」
気持ちが軽くなったことでつい軽く聞いてしまった自身の問いに、
「魅了魔法です!それも結構強力な!!」
呆気からんと同じような口調で返された答えに、
ビシリと石化してしまった。
0
お気に入りに追加
2,636
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる