追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

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その18 素直になりなよ(お互いに)

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非常識少女の朝食前の非常識なる叫び(?)に
俄かに使用人や侍従、給仕達が騒ついたものの。

なんやかやと宥めすかされ漸く落ち着きを取り戻したところで王家(+1名)の朝食は再開、
恙無く終わる頃にはなんとか王族の特殊な体質を理解・受け入れることに成功したルシェルディア。

とはいえだ。


「ふむぅ……理解は出来ても納得できるかは別問題だと思うのですよ王弟様」

「ほう…?一体何がどう納得いかないんだ、ルーシェ?」


朝食後、執務室へとそのまま向かう陛下と別れ、
所謂王族専用の休憩室へとアルフレッドに案内されたルシェルディアは。
室内のふかふかのソファへと腰を落ち着けつつも態とらしく腕を組んでムムムと精一杯難しい顔を作りながら首をゆるりと横に振った。


スレイレーン王国王族に現れる体質ー…『獣化』

黒猫と可愛がり癒されていた生物は実は人間(しかも王弟殿下)で、
しかも厳密には猫ではなく黒豹だという。
故に本当はもっと大きいはずなのだが、熟練度が高いとサイズも自在に変えられるのだとか!

まぁこの際だ、大きさだの、動物として別物だのはいい。
正直ルシェルディアにとってはこの上な~くどうでもいい。
しかしそれを押して何が納得いかないかといえばそれは勿論!


「そんなの…なんで今まで教えてくれなかったのかってことですよ!!」

その一言に尽きるのだ。

「お城に着くまではまぁ分かりますよ?そりゃあ赤の他人である私を連れていてはご自分の領域内テリトリーに到着するまで安心もできないでしょうから!?
でもですね!?その後いくらでも説明の機会はありましたでしょう!?
到着の翌日とか!冒険者ギルドでのやり取りの前とか後とか!!
あ、あんなッ突然前振りなしに部屋を訪問されても見知らぬ男性がとか不審者がとしか思えません!
しかも猫ちゃん様を求めて見苦しく逃亡した私はさぞさぞ滑稽だったことでしょうね!
本当に可愛らしい猫ちゃんだと思い込んでモフったりだだだ抱き締めたりしてたのに!!」


恥ずかしくて恥ずかしくて100mくらい穴掘って引き篭もりたいくらいです!
頬をぷくぅ~っと膨らませて文句を垂れ流しちゃっても許されるはず!!と
ツンツン状態なルシェルディア。

まぁ正直、初恋を拗らせている目前の男にとっては、
その膨れた頬も小動物じみていて庇護欲をそそるし薄ら紅く色づいていて
可愛い、としか思われていないし、威厳もへったくれもないのだが。

だがしかし文句をつけずにはいられない!と羞恥のあまり込み上げる涙でうるうるさせてしまっているルシェルディアをどう宥めようか…と暫しの間思案していたアルフレッドだったが。

執務室へと去る直前、兄が密かに呟いた言葉を思い出す。


『あちらも相当恥ずかしい思いをしたはずだ。
お前も恥を厭わず素直になるんだな?』

との笑い混じりの言葉を。
ものっ凄く面白がっているあの兄の言に従うのはものっ凄くシャクだが、
ここは素直に従った方がどんなに釈明を募るよりもルシェルディアに受け入れてもらえる可能性が高い…。

その結論へと辿り着いたアルフは文字通り“素直”に心の内を話すことにした。


「すまなかった」

「……」

「その、なんだ……。
森での出会い方が出会い方だったんで、というのも言い訳か。
あー…、お前があまりにも可愛い可愛いと撫で回してくるから」

「から?」

「にこにこ屈託無く笑うお前が可愛すぎて。
いや、ぶっちゃけ一緒にくっついていられるのが好都合だったから意図的に黙ってたすまん」

「…ほぇ?」


そう。
結局のところアルフが黒猫(本当は黒豹だが)の姿をとり続けていた理由など、それに尽きるのだ。
獣化を維持するにもそれなりに魔力が必要だし、維持するにはもっと必要。
一見身体を縮小していれば魔力の消費を抑えられそうなものと考えそうなものだが、実情はその真逆。
本来の大きさとはまるで違う形態を維持するのはまったくもって容易ではなく、魔窟で空腹に力尽きそうになる中その形態をとり続けていたのも、ただ単に強力な魔物に見つからないようにという意味合いでしかなかった。

要するに、“ずっとお前の側にいたかった”
朝ー…正確には数日前に顔を合わせたばかりの見目麗しい成人男性に、
そう直際に言われたルシェルディアはというと。


「ふぁっ!?」


奇声を発して石化した。
顔を真っ赤に染めたまま。

(ふむ…)


大の大人に付き纏われていた事実に気持ち悪いとかの悪感情を表されると思っていたアルフは、思いの外悪くないルシェルディアの反応に少しばかり目を見開くと。
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「なんだ、やはりこんな俺は気持ち悪いか?」

「いいいいやあのそのぉ~何と言っていいやら!?」

「じゃあ黙ってたこと、許してくれるか?」

「それは別に大丈夫なんですがあのっ!?」

「それは良かった!ということはこれからも変わらず側にいてもいいということだな、ルーシェは優しいな」

「え?ぇえ??」

赤面したまま展開についていけず目を白黒させるルシェルディアから、
あっという間にこれからも共に行動することの確約をもぎ取ったアルフ。

(折角男として“意識”されたようなのだ。
ここで畳み掛けずして何になる!)
と、これを機に今まで以上に自身の心の赴くままに押していこうと心に決めたアルフは年齢通りの大人で酷く人が悪い。


己の気持ちに素直になってある意味タチの悪さを増した純情王弟・アルフレッド。
真実の露呈と大人のタチの悪さに振り回されっぱなしの
純情天然非常識乙女・ルシェルディア。

“気持ちに素直になる”がかくも難しいことか。
今回のこの会話が1種の勝負事であったのなら、だが……
男女のアレコレに対する気持ち面での純情度合いは変わらずとも、
実質の(身体的)経験値面では遥か先をいっているアルフの方に勝利の旗は振られたようだ。



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