追放令嬢は森で黒猫(?)を拾う

帆田 久

文字の大きさ
上 下
4 / 54

その4 散策中、黒い物体と遭遇しました。

しおりを挟む
ふわあぁぁぁ~~。


大きな大きな欠伸が森に響く。
どうも、毎度お馴染み(?)のルシェルディアです!

起き抜けの勢いで誰にともなく挨拶してしまいました。
やや、これもまた追放され孤独感に苛まれた弊害でしょうか?(心にもない)

セルフツッコミを完結させて気が済んだ私は、うろから出て軽くストレッチをこなし終えると、昨晩御者さんから頂いた麻袋をひっくり返し、改めて持ち物を確認する。

(何々…私の縄を切った小刀に干し肉が数切れ、黒パンが3つ、水の入った水袋、と。ん?銀貨と銅貨までありますね…出すのを忘れたのでしょうか?意外とうっかりさんですねぇあの御者さんは。
しかしまぁ、ありがたく頂戴しておきましょうか)

さして裕福でもない御者の男性が同情心だけでなけなしの稼ぎを少女に残した、などという考えには少しも至らないルシェルディアは、自身が後追いで袋に放り込んだドレスの袖をポイッと地面に放り出すとそれを伸ばして食料を広げる。

「マサイ神へ日々の糧に感謝を込めて。
……。
…………。
では、頂きましょうか!」

食前のお祈りを済ませると、いざ!と態とらしい仕草でバ!っと両手を広げた(特に意味はない)のち、モキュモキュと味わい深い干し肉へと齧り付いた。
(※因みに、マサイ神とはこの世界に於いては戦いの神の名である。
どうやらルシェルディアの家では豊穣の神・ルシア神ではなくかの神に祈りを捧げる変わり者のようだ)

たっぷりと時間をかけて干し肉一切れと黒パン1/2個を食し終えると、
残りの食料を再び麻袋へと詰め込んできゅっと絞めた閉じ口の紐を持ち手に肩へと担ぎさて、と独りごちる。


軽くその場で屈伸を数度繰り返すと、すんすんと鼻を鳴らす。

(ふ~む……魔窟といえば強力な魔物達のだとお父様達から聞いていたのですが、随分と数が少ないですねぇ?
昨晩も襲っては来ませんでしたし…意外に臆病で優しい生き物なのでしょうか??)


魔物達が寄ってこない原因が自分にあるなどとは露ほども考えないルシェルディア。
そもそも『嗅覚のみで近隣に生息する生物の数を把握する』ことが出来る、その異常性に当人だけが気付いていない。

(ま、いいでしょう。
魔物が駄目なら野草・木の実狩りに変更です!時間に余裕があれば兎か鹿辺りの普通の野生動物を仕留めたいですね。ここから出るにしても、動物の毛皮や角は綺麗に剥ぎ取れば“そこそこ”良い稼ぎになるとお爺様も言っていましたし!!)

いざ行かん!とまたもや無意味に両手を広げた後ー……


少女の姿が掻き消えた。



===================================================


その後三時間ほどかけて彼女の動きを正しく追えた者は、果たして人類にいただろうか?
きっと追えた者がいたとすればそれは彼女と同類、異常者と称して差し障りないだろう。

「うむぅ…少々物足りないような気がしなくもなくもないような、あれ?
なんか文章がおかしく…ま、無問題ですね!」

三時間後、元の大樹の前まで戻ってきたルシェルディアは、
取り敢えず食料ゲットぉ~!と両手や背に担いで抱えていた収穫品の数々をドサドサとその場に落とした。
木の実(大量)、野草・キノコ類(大量)、何故か血抜きを終えた小鹿に丸々と太った怪鳥(各二体)、最後に薪用の乾燥した小枝(大量)。

…もしもこの場に誰か善人且つ常識的な感性を持つ第三者が存在したとして。
彼らはかの少女の収穫成果を目にした瞬間、9割9分叫んだことだろう。

『一人分の食料にしては、採り過ぎ(獲り過ぎ?)じゃね?!
何!?ここに住むの!?そうなの!!??』と。


しかしくどいようだが誰も彼女にそれを突っ込む者はここにはいない。
で、結果。

充分な収穫を終えて満足感たっぷりにうんうんと頷いた少女・ルシェルディアは、
早速血抜きの終了した獲物の解体作業へと取り掛かるのだった…。


====================================

ー…その物体は、ルシェルディアが解体を終えた鹿肉を枝に刺して地面に突き立て焚き火で焼いているときに発見した。
正確にいえば、肉を焼く際の香草を取り忘れたことに気付き、大樹付近を時である。
鬱蒼としているだけあって高く伸びた雑草を木の棒でかき分けていた時、枝先に何かがぶつかった。

(?硬くない。石じゃ、ない?)

試しに突っついてみると、もぞり、とその黒い塊が動いた。
どうやらなんらかの生物のようだが、頑に丸まったまま顔を見せようとしない為に何の生物かが分からない。

(ふ~む?取り敢えず食料は足りていますし、…大分弱っているようですし…。
うん、連れて帰りましょう!)

何の生物かすら確認することなく、ルシェルディアはその生物をむんずと掴むと拠点兼寝ぐらまで持ち帰った、と。そういった経緯での発見である。

何やら全身が濡れそぼっていた為ちぎっておいた自身のドレス袖で軽く拭き、焚き火の側にぼとり。
拭いた時に判明したのだが、どうやら黒猫らしい。

一般的な成猫と比べても少々図体が大きく、寧ろ猫と似て非なる生き物の可能性も大いにあるのだが、しかしやはりというかルシェルディアは全く気にしなかった。
どころか。


(ふ、ふぉぉおおおおッッ!!
にゃ、にゃんこしゃんんんんンンン~!!!)

大いに大興奮、テンションMAX状態であった!

貴族令嬢と言ってもその実情は結構窮屈なもの。
今まで小さい犬や猫、小鳥などを飼いたくて町中の生き物小屋で見かけて親にねだっても、決まって祖父や父親から、

『ははっ!ルーシェ、おやつに欲しいならとと様がまたいつものように捕まえてきてやるぞぉ~!』
や、
『どれが欲しいんじゃ可愛い儂のルーシェ?…ああ、アレは駄目じゃ。
猫も犬も味は正直いってイマイチじゃし…そうじゃ!今度じぃじがサラマンデル(大蜥蜴の魔物)を狩ってきてやろう!美味いぞ~♪』

などなど。

すべて食料としてであって
ペットとして可愛がりたいと理解してもらえた試しがない(どんな家族だ?)

なので、そんなとんでも家族に教育(食育?)されて育ったルシェルディアにとって“猫”という生物は現在、愛でたい憧れの生き物No.1なのだ。

拭いた際に怪我の有無もさりげなく確認し、おそらく空腹による衰弱と判断。
自身のためにせっせと用意していた食事を急遽黒猫ちゃん用に生、加熱済み両方用意して件の愛玩生物が目を覚ますのを自分用の焼けた肉串を手にソワソワと待つ。

そして数分後…
肉の焼けるいい匂いに釣られてか、もぞっと黒い毛に覆われた身体を揺らして。
黒猫が、その両眼をゆっくりと開いた。







しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

処理中です...