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その7
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んん…ん?
なんだ?
めちゃくちゃいい匂いがする。
これは…味噌汁と炊き立てご飯と、あとは焼き魚、かな?
独り立ちして以来久しく嗅いでなかった朝食の香りが鼻腔を刺激し、
急に空腹感を覚える。
「朝、ご飯…?」
母さんの朝食…久しぶりに食べたいなぁ…。
不摂生な生活に慣れすぎて遠ざかっていた手作りの味というものが、
匂いを嗅いだ瞬間無性に恋しく感じた。
求めるあまり自ら急かすように重たい瞼をなんとか持ち上げ目を覚ますと…
「お。丁度起こそうと思ってきたんだが。
ー…おはようさん」
「………ふぇ……?」
目覚めてすぐ視界に移った会社の同期・大神と昨夜見知ったばかりの部屋に、
急速に意識がはっきりと覚醒していく。
次第に昨夜の自分の痴態が脳内で再生され始め…
「朝飯、出来てんぞ。
それともこの部屋で食べるか?」
「……な」
「ん?今何か言ったか」
「なにしれっと普通に朝の挨拶しちゃってんだこの強姦魔ぁぁ!!」
「あ?」
大神の悪びれることのない態度に、
僕の怒りは朝から早々に爆発したのだった。
=================================
「………」
ーもぐもぐもぐ
「はぁーー…。
目覚めて一言目が強姦魔、ね」
「………(事実だろ)」
ーもぐもぐ、ずず…ずずぅー
「大層寝起きが宜しいようで。かなり熟睡してたし」
「……(誰かさんにごっそり体力・気力を奪われれば爆睡もするわッ!)」
「…こんなに口に出さずに考えてることが丸わかりな人間って…くくっ」
「…何がおかしい」
「いやだってなぁ。
そんだけ表情で俺に文句垂れまくってるくせに、俺が作った飯めっちゃ食ってるじゃん」
「っは!?」
「っブハッッ!む、無意識かよ余計ウケる…!」
「…(ぐぬぬ)」
ーベッドルームで盛大に大神を罵倒した後。
同じく盛大に鳴った僕の堪え性のない腹の音に爆笑した奴は、
怒りと羞恥から真っ赤になった僕の様子などそよとも気にせず、
僕をリビングのソファーまであっさりと運んだ(またしてもお姫様抱っこで!)。
そうしてローテーブルに朝食が乗せられたトレーを二つ対面でさっさと並べ終えると、
「ほら、食えよ」
と一言言って、自身もガツガツととても男らしく食べ始めたのだった。
人の気も知らないでこの野郎…と昨夜自分に散々なことをしてくれたこの魔王が調理したものなど食べてなるものかと最初は頑として食べない姿勢で持って奴を睨んでいた。
そう、睨んでいただけだったの、だが…
(仕方ないだろ腹減ってんだから!
昨日だってお前のせいで夕食食いっぱぐれたしなんだったら手作り料理に飢えてんだよこちとら!!
そもそもッなんで同じ一人暮らしでこんなに料理うまいんだよ?!
ふっくら炊きたて白米とか出汁香るキノコと豆腐の味噌汁とか!
大好きな甘い厚焼き卵とか止めに皮目までパリッと焼けた魚(鮭)、だと…。
どんだけ王道田舎のお母さんの味追求してんだよーー!!)
こんだけうまそうなものを目前に差し出されてさぁ食えと言われれば
誰だって食べる一択だと思うんです、ハイ。
少々やけ気味に食べる速度を加速させた無言の僕を見て爆笑する大神よ、
思う存分笑うがいい。
まぁそういった具合に開きなおった僕は見事魚の骨を除いて朝食全てを完食したのだった。
が。
むふーー、と腹一杯の満足感に浸っていた僕にまたもや奴は。
「で、今日も泊まってくんだろ?昼と夕飯何がいい」
とこともなげに言い放った。
「ー…は?」
何言ってんのこいつ、と一瞬目が点になった僕はそこで漸く。
(…あ)
「っぁああああーーーッッ!!」
「うるさっ!いきなりなんだ」
「仕事!完全に忘れてた会社っっ」
「あ?今日は休日だろ」
「っこちとら休日出勤でもしなきゃ仕事おわんねぇんですよエリート様ぁっっ!
くそっただでさえ無能上司の尻拭いで決算明けの貴重な週末が危ういってのに…!
て、そうだあれが終わらないとそもそも決算が明けない!?
もう最悪っっ!
時間は8時45分、か…ギリギリ滑り込んで資料室にパソ持ち込んでこっそり処理すればバレな」
「待て待て」
「ぁあッッ!?」
「少し落ち着け、ー義弘」
うさぎとしか呼ばなかったこの諸悪の根源にちゃんとした名前で初めて呼ばれ、
思いがけずも落ち着きを取り戻す。
はぁーーと大きくため息を吐いた大神はガシガシと髪をかき混ぜるとそもそも、と一言おいてからなんで僕が出社する必要がある?と問う。
「…だって、仕事終わってなくて…」
「さっき“無能上司の尻拭い”とか言ってたろ。それって経理のクズだろ。
要は自分の仕事は終わってるけどあいつが溜め込んだ未修正・誤字脱字計算間違いだらけのデータやら書類の修正清書、それと提出をするために休日返上してこっそり片付ける…てことだろ」
「う、うん。
そうだけど…てかなんで誤字脱字だらけって分かるの
(他部署のエースにまでクズ呼ばわりされる上司とは一体…?)」
「あ?そりゃああのクソの無能っぷりは結構有名だからだよ。
だから…んなのやる必要、ねーっつーの。
なんで突っ返してやらんかったんだ」
「っあの、なー…。
営業は上司に恵まれてんのかもしれないけどさ?
普通、上司から仕事振られたらやらなきゃいけないわけ!
自分の仕事は自分でって正論吐いた所で評価も居場所もなくなるのが日本社会の常識なの!!」
「そんな非常識知るかよ。
何の為に会社にコンプライアンス部だのメンタルチェックだのがあると思ってる。
可愛い草食系の癖に精神だけ昭和男児か己は」
「なっ、だっ…て」
(おいおい、何で僕、こんなにダメ出しされてんだろ…。
早く仕事しに行かなきゃならないのに。
足腰だるいし何なら尻が痛いし、さっさと面倒ごと処理したいだけなのに何で)
「だ、て…そうするのが、仕事だ、って…っ5年やって、き」
「…おい。
何で泣いてんだよ」
「へ… …?」
なんだ?
めちゃくちゃいい匂いがする。
これは…味噌汁と炊き立てご飯と、あとは焼き魚、かな?
独り立ちして以来久しく嗅いでなかった朝食の香りが鼻腔を刺激し、
急に空腹感を覚える。
「朝、ご飯…?」
母さんの朝食…久しぶりに食べたいなぁ…。
不摂生な生活に慣れすぎて遠ざかっていた手作りの味というものが、
匂いを嗅いだ瞬間無性に恋しく感じた。
求めるあまり自ら急かすように重たい瞼をなんとか持ち上げ目を覚ますと…
「お。丁度起こそうと思ってきたんだが。
ー…おはようさん」
「………ふぇ……?」
目覚めてすぐ視界に移った会社の同期・大神と昨夜見知ったばかりの部屋に、
急速に意識がはっきりと覚醒していく。
次第に昨夜の自分の痴態が脳内で再生され始め…
「朝飯、出来てんぞ。
それともこの部屋で食べるか?」
「……な」
「ん?今何か言ったか」
「なにしれっと普通に朝の挨拶しちゃってんだこの強姦魔ぁぁ!!」
「あ?」
大神の悪びれることのない態度に、
僕の怒りは朝から早々に爆発したのだった。
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「………」
ーもぐもぐもぐ
「はぁーー…。
目覚めて一言目が強姦魔、ね」
「………(事実だろ)」
ーもぐもぐ、ずず…ずずぅー
「大層寝起きが宜しいようで。かなり熟睡してたし」
「……(誰かさんにごっそり体力・気力を奪われれば爆睡もするわッ!)」
「…こんなに口に出さずに考えてることが丸わかりな人間って…くくっ」
「…何がおかしい」
「いやだってなぁ。
そんだけ表情で俺に文句垂れまくってるくせに、俺が作った飯めっちゃ食ってるじゃん」
「っは!?」
「っブハッッ!む、無意識かよ余計ウケる…!」
「…(ぐぬぬ)」
ーベッドルームで盛大に大神を罵倒した後。
同じく盛大に鳴った僕の堪え性のない腹の音に爆笑した奴は、
怒りと羞恥から真っ赤になった僕の様子などそよとも気にせず、
僕をリビングのソファーまであっさりと運んだ(またしてもお姫様抱っこで!)。
そうしてローテーブルに朝食が乗せられたトレーを二つ対面でさっさと並べ終えると、
「ほら、食えよ」
と一言言って、自身もガツガツととても男らしく食べ始めたのだった。
人の気も知らないでこの野郎…と昨夜自分に散々なことをしてくれたこの魔王が調理したものなど食べてなるものかと最初は頑として食べない姿勢で持って奴を睨んでいた。
そう、睨んでいただけだったの、だが…
(仕方ないだろ腹減ってんだから!
昨日だってお前のせいで夕食食いっぱぐれたしなんだったら手作り料理に飢えてんだよこちとら!!
そもそもッなんで同じ一人暮らしでこんなに料理うまいんだよ?!
ふっくら炊きたて白米とか出汁香るキノコと豆腐の味噌汁とか!
大好きな甘い厚焼き卵とか止めに皮目までパリッと焼けた魚(鮭)、だと…。
どんだけ王道田舎のお母さんの味追求してんだよーー!!)
こんだけうまそうなものを目前に差し出されてさぁ食えと言われれば
誰だって食べる一択だと思うんです、ハイ。
少々やけ気味に食べる速度を加速させた無言の僕を見て爆笑する大神よ、
思う存分笑うがいい。
まぁそういった具合に開きなおった僕は見事魚の骨を除いて朝食全てを完食したのだった。
が。
むふーー、と腹一杯の満足感に浸っていた僕にまたもや奴は。
「で、今日も泊まってくんだろ?昼と夕飯何がいい」
とこともなげに言い放った。
「ー…は?」
何言ってんのこいつ、と一瞬目が点になった僕はそこで漸く。
(…あ)
「っぁああああーーーッッ!!」
「うるさっ!いきなりなんだ」
「仕事!完全に忘れてた会社っっ」
「あ?今日は休日だろ」
「っこちとら休日出勤でもしなきゃ仕事おわんねぇんですよエリート様ぁっっ!
くそっただでさえ無能上司の尻拭いで決算明けの貴重な週末が危ういってのに…!
て、そうだあれが終わらないとそもそも決算が明けない!?
もう最悪っっ!
時間は8時45分、か…ギリギリ滑り込んで資料室にパソ持ち込んでこっそり処理すればバレな」
「待て待て」
「ぁあッッ!?」
「少し落ち着け、ー義弘」
うさぎとしか呼ばなかったこの諸悪の根源にちゃんとした名前で初めて呼ばれ、
思いがけずも落ち着きを取り戻す。
はぁーーと大きくため息を吐いた大神はガシガシと髪をかき混ぜるとそもそも、と一言おいてからなんで僕が出社する必要がある?と問う。
「…だって、仕事終わってなくて…」
「さっき“無能上司の尻拭い”とか言ってたろ。それって経理のクズだろ。
要は自分の仕事は終わってるけどあいつが溜め込んだ未修正・誤字脱字計算間違いだらけのデータやら書類の修正清書、それと提出をするために休日返上してこっそり片付ける…てことだろ」
「う、うん。
そうだけど…てかなんで誤字脱字だらけって分かるの
(他部署のエースにまでクズ呼ばわりされる上司とは一体…?)」
「あ?そりゃああのクソの無能っぷりは結構有名だからだよ。
だから…んなのやる必要、ねーっつーの。
なんで突っ返してやらんかったんだ」
「っあの、なー…。
営業は上司に恵まれてんのかもしれないけどさ?
普通、上司から仕事振られたらやらなきゃいけないわけ!
自分の仕事は自分でって正論吐いた所で評価も居場所もなくなるのが日本社会の常識なの!!」
「そんな非常識知るかよ。
何の為に会社にコンプライアンス部だのメンタルチェックだのがあると思ってる。
可愛い草食系の癖に精神だけ昭和男児か己は」
「なっ、だっ…て」
(おいおい、何で僕、こんなにダメ出しされてんだろ…。
早く仕事しに行かなきゃならないのに。
足腰だるいし何なら尻が痛いし、さっさと面倒ごと処理したいだけなのに何で)
「だ、て…そうするのが、仕事だ、って…っ5年やって、き」
「…おい。
何で泣いてんだよ」
「へ… …?」
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