華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる

帆田 久

文字の大きさ
上 下
49 / 50
神華と獅子王編

4話

しおりを挟む
後半、性的な表現があります。
苦手な方は回避推奨。

==========================================




(とある侯爵屋敷)


きぃぃ…とかすかに音を立てて開いたベランダへ通じるガラス扉に、
ラガンは眉を盛大に顰めた。

ここは彼の寝室で、
就寝前で明かりが消えているせいか、部屋は暗闇に包まれている。
が、そんな中扉から忍ぶようにして姿を現した黒装束の獣人に、
彼の来訪を心待ちにしていただけに単身で現れたことに盛大なる不快感を露わにした。


「……何故荷物がないのだ」

「………申し訳」

ガシャン!


ベッドサイドに置かれたクリスタルオブジェを無造作に床に払い落として謝罪を遮る。

「もう一度、聞いてやろう。
何故。荷物がない?」

「…番であるギルドマスター代理の獅子獣人が常に荷物を手放さない故、
全く手が出ず。
こちらの監視の目にも気付いた為、一度引きましてございます」

「傲慢な肉食獣種め…!
それでお前は荷物をただ眺めるだけでそのまま放ってきたと。
使いすら碌にできんのか!!」

「………」

「なんとか言ったらどうなんだっ!?」

「そこまで言われるならご自分で荷を手に入れるがいいぞ侯爵」


突如現れたもう1人の人物に、
ラガンは苦虫を噛み潰した顔で黙り込んだ。

スラリと背の高いシルエット
暗がりの中では顔の造形まで判別することは難しいが、一つだけ。
そのたった一つの特徴だけは暗闇の中でも爛々と光彩を放っていた。

濡れて光るルビーのような、真っ赤な真っ赤な瞳。

それだけでラガンは男の正体を知り得た。


「その瞳……吸血種。
闇ギルドの長、散血ざんけつのヴェルナールか」

「ご名答。
しかしあまり役職名と名を呼ばれるのは好きではないのでご遠慮願いたい。
あと。子飼いとはいえ、あまりうちのギルド員を低賃金でこき使うのはやめていただきたい」

「…自分の子飼いをどう使おうと勝手であろうが。
寧ろ賃金を払ってやるだけ感謝して」

欲しいと続けようとしたラガンは、ぞわりと走った怖気に慌てて口を噤んだ。
桁違いの、魔力。
ただの人間が長時間濃密な魔力に威圧されればどうなるか、想像に難くないからだ。

「子飼いであろうがなんだろうが。
闇ギルドに名を連ねたその時からその者は私のものだ。
勝手に使うなぞ本来なら許されぬよ。
その者がスラムから拾われた恩義とやらを私に告げていなければ。
貴様はとっくに乾いた干物だぞ?侯爵」

「っ」

「だがしかし。
使、王妃様の為の荷物と聞く。
かの方が快癒されるのであればこちらとても部下が一度受けた依頼。
完遂はしてやろう。

だがーー…ゆめゆめ忘れるなよ侯爵、この依頼はと」

「……っわかった!ちゃんと貴様らの正規依頼分は支払うと約束しよう」

「ふむ。最低条件は果たしたな。
では依頼を遂行するとしようか。
さぁ、帰ろうか?」

「…御意」

「ではな、侯爵?
次はちゃんと報酬を用意しておいてくれよ」

ーじゃないと次こそ干物が出来上がることになるからなーー

赤い瞳を細めていうや、カカと笑い闇に消えた。

気付けば黒装束の獣人も姿はなく、ガラス扉もしっかりと閉まっている。

「……化け物が。
ふん、まぁ予想外の大物がきたが寧ろ良かったのかも知れん。
これで荷物が届くのだからな」


ラガンは知らずかいていた汗を乱暴に寝巻きで拭うと、
贅を尽くした寝台へとぼすん、と身を投げた。


※  ※  ※


「……真実を知らず欲に目の眩んだ人間は実に滑稽で哀れだねぇ。
金の成る木に金欲を刺激され、王妃を快癒させようとは。
はは!
王妃が快癒したら真っ先に死ぬだろうなぁ」

「主様を化け物などと。
もう恩も義も消え失せました。
あの男…消しましょう」

「ふふ、まぁそう猛るなルルド。
さぁさ、あんなチンケな人間のことなど忘れて私にお前の翼を見せておくれ」

「…お見苦しいものを」

「私のものが見苦しい、と?」

「っいえ!私の元より持っている方が、です。
しかし、わかりました」


バサ…!


跪いた獣人の背中に広がる翼。
通常一対の鳥翼なはずのそれは酷く歪で。
片翼は鳥のもの、そして片翼はー蝙蝠。
貴族屋敷の屋根の上で広げられたそれに指を滑らせてうっとりと目を細めながら、
赤目の男は笑う。

指を這わされた獣人の男も翼をふるりと振るわせてうっとりと主たる赤目の男を見上げ。

「ああ、綺麗にね!
やはりお前にはこちらの方が合っている。
ふふ…翼を触らせてくれたご褒美だ。お飲み」

翼を触るのとは反対の手の指腹を長い自身の爪でピッと切ると、
獣人の男の口元に持っていき……

「…ぁあっ…」

はぁ…と興奮したように指から流れ落ちる真っ赤な血液へと
獣人男ールルドは必死に舌を伸ばした。

垂れた血液では足りないとばかりに指へと舌を這わせて勃起するルルドを、
ヴェルナールは恍惚とした様子で嗜虐的に見下ろしていた。

「さてはて、荷物はあの獅子王の番か。
全く厄介な仕事を引き受けてくれたこと。
あの獅子王との敵対はあまりしたくないのだが、…まぁいいか。
しかし荷物が私の目に叶うものならば…少し手元に置くのも悪くはないかな?」

「ぅぁあッッ」

銀色の長い髪を風に靡かせながらそう独りごちた吸血鬼は、
ぐり…と未だ自身の指を舐めしゃぶって発情している鳥獣人の股間を踏みつけると髪を鷲掴み、
身を屈めて己の血に濡れる唇にねっとりと吸い付いた。

「あぅじ、ひゃ、ま……あ、んふ」

「……ふ、本当にお前は可愛いねルルド。
仕事が片付いた暁にはもう片翼も捥いで、生やしてやろうね。
…そぉら、もっと舌をお出し」

くちゅくちゅと水音が激しさを増し、
禍々しい魔力と共に、酷く淫蕩な香りが風に乗って侯爵屋敷から上空へと流れていった。



=========================================

何やらエロくてダークな新キャラ(主従)が誕生してしまいました。
(いろんな意味で)コーキ君ピンチ??
次回もお楽しみに~♪( ´▽`)
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

王子なのに戦場の聖域で好き勝手ヤってたら獣人に飼われました

サクラギ
BL
戦場で共に戦う者たちを慰める場所、聖域がある。そこでは国も身分も関係なく集うことができた。 獣人と戦士が書きたいだけで始めました。独りよがりなお話をお許し下さいます方のみお進みください。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...