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出会い〜ツガイ編

32話

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(大丈夫かな……ジレウス)


悲鳴を聞いて真っ先に助けに行こうと提案したのは僕だ。
ジレウスが助けに行こうか、僕の護衛を優先すべきか迷っていたのはすぐに分かった。
優しい彼のことだから、僕を1人にしておけないとすぐに護衛優先で帰路に向かおうと決断したことも。
それを踏まえてそれでも救助をと提案したのは、他ならぬ自分であるというのに。

こうして木の上に取り残されることになって初めて、
彼の、ジレウス自身の身の心配を全くしていなかった自分に腹が立つ。

“もしも彼が重傷を負ってしまったらどうしよう”
“僕のことを迎えに来なかったら?”

身勝手は重々承知の上で、言い知れぬ不安に襲われる。

(早く 早く戻ってきてジレウス。
無事な姿を僕に見せて)

一度は治まったはずの震えが身体に走り始めたその時、


「おーいコーキ!!
待たせたなぁ!」

「!!」

木の下から届いた声に、びくりと肩を跳ねさせ、直後に下を見下ろすと。
果たして、早く姿を見たいと願って止まなかったライオンさんが、
先ほどと全く変わらない、どころか幾分も柔らかな笑みを浮かべて自分を見つめて手を振っていた。

「ちゃんといい子で待ってたかぁ?」

少しばかり意地の悪さをわざと滲ませたその笑みを目にした瞬間、
身体の震えも、湧き上がり続けていた悪感情も、あっさりと霧散してしまったのだった。



※  ※  ※



「どこ行ってたんですか!!」


ジレウスに片腕で抱えられた僕は、冒険者達のいる場所へと戻った直後、
思いもよらない言葉で出迎えられた。

声を発したのは女性冒険者で、主にジレウスを詰るような眼差しで睨み付けている。

(え、何で??
ジレウスは彼女たちを魔物から守ったんじゃないの??)

助けたはずの人間から何故ジレウスが詰られなければならないのか。
思わずジレウスを見やると、困ったように苦笑い。
と、興奮したようになおも彼を詰ろうと口を開けた彼女を、
「やめろよ!!」と赤毛の青年が強い口調で止めた。

「助けてもらっておいて何勝手なこと言ってやがんだよリマシー!!?」

「でもっだってあの人魔物切るだけ切ったらさっさとどっか行っちゃうし!!
ヨンギが今にも死にそうになってるの分かってたはずなのに見殺しにしようとしたんじゃッッ!!」

「ふざけんな馬鹿!!」

「キャッッ!!」


「わわっ!?」

パンッッ!と勢いよく女性の頬を平手打ちしたことにびっくりして声が出てしまった。
悲鳴を上げて頬を押さえ、
信じられないと言わんばかりの面持ちで女性が赤毛の男性を見やる。
彼女の視線の先では男性が怒りを露わに仁王立ちしていた。

「……冒険者、だろ、俺たちは。
やることなすこと全部自己責任な職種なんだよ。
パーティーも組んで、自分たちの判断でこんな森の奥に踏み込んでこういう事態を迎えた。
だったら!全部俺らの判断の甘さが招いたことだろ!?
たまたま居合わせて、見るに見かねて助けてくれた命の恩人を!!
何偉そうに非難してんだよ!!

ヨンギなら傷も毒もさっき彼のくれたポーションで最悪は免れるまでに回復しているし」

「え……あのポーション、エルドが持ってたものじゃ」

「ねぇよ。
そんな高価なもん、あんないっぱい持ってる訳ねぇ。
兎に角、ヨンギは今疲労から気を失っているだけ。
そこまでしてもらってこれ以上不満だと吐かすなら、
俺はお前を許さな「はいストップ」?」

突然迎えた修羅場にオロオロしていた僕の隣で、ジレウスが会話に割って入った。

「でも」

「でもも何もねぇよ。
それこそこんな森奥でいつまでも喧嘩している暇、ねぇだろ?
ほれ、そのヨンギとかってデケェ兄ちゃんは俺が担いでってやるからお前さんはもう1人の緑の兄ちゃんに肩かしてやれ。
そこの彼女は……そんだけ元気なら自分で歩ける、よな?」

「「は、はい」」

「んじゃ、行こうぜ。
……お前さんらみんな想定外の事態に直面して神経がまだ興奮してんだよ。
話をするなら落ち着いて、だろ?」

「「………すみませんでした」」

「あいよ」


あっという間に彼らの仲裁をしてしまった彼に尊敬の視線を送っていると、
盾役だという彼を片手で肩に担ぎ上げたジレウスが僕にん、と反対側の空いてる手を伸ばした。


「ほら、コーキ。
お前はこっちだ。
ちと窮屈で悪いがな」

「いい。僕…歩く」

「大丈夫だ、お前1人くらい、元々抱えているうちに入らんくらい軽いからな!」

「……いい」


ただでさえ魔物の討伐をし、既に大きな『荷物』を背負っているのだ。
その上薬草を一杯詰め込んだバックパックを背負った僕までなんて、
歩みが更に遅くなるに決まっている。

それに、と背後に続く冒険者女性をちらりと見る。
ジレウスに仲裁されて少し落ち着いた彼女は、
自分の発した言動にしょんぼりと肩を落としている。

「僕、お姉さんと手を繋いで歩くっ」

敢えて殊更子供っぽく言い募ってジレウスを見上げれば、
僕の意図を察した彼が、

「……優しいのは美徳だが、人が良すぎだ」

ぼそりと小さく呟いてわしゃわしゃと髪を乱暴にかき混ぜた。

「疲れたらすぐ言え」

一言そういうと、再度赤髪の青年に声をかけて先頭を歩き出した。

「お姉さん、行こ?」

「あ、え?え、ええ、そうね??」

ここに来て初めて僕を認識したらしい彼女は目を白黒させつつ、
落ち込んでいた自分を恥じたように目元を赤らめ、伸ばした僕の手を取ってくれた。

女性と僕の足に合わせて歩いてくれた先陣のおかげで、
当初昼過ぎには戻れるはずだった街への帰還は、夕方にまでずれ込んでしまったが。

こうしてーー


若手冒険者達とともに、僕らは無事街へと生きてたどり着くことができたのだった。

(波乱含みの冒険者活動初日だったなぁ…)

肩に人1人担いだまま堂々とした足取りで前を歩くジレウスの背中は、
大剣を背負っているのを抜きにしても頼もしく、格好良かった。


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