華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる

帆田 久

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出会い〜ツガイ編

27話

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「良いっすかギルマス?!
終わったら即!即ギルド長室直行ですよ!?
承認書類山積みで待ってますからね!?
そのままコーキ君と一緒にバッくれ…直帰しないで下さいよ!!?」

「へいへい。だからギルマス代理、な」

「本当に分かってんですか!?
…ったくただでさえ仕事が溜まっているのに!!
いくら僕が優秀だからって各書類の最終的な承認と確認はギルマスの仕事なんすからね!!」

「だぁから分かったっつってんだろクソウサ。
あと、代理だって何度言やぁわかんだよお前!
それで優秀だとかほんと…」

「ヴォーグだ、い、りぃ!?これで宜しゅうございますかねぇ!?」

「はぁ……ほんとコイツうるせぇ……」


(こういうの、なんて言うんだっけ?
え、と……割れ鍋に綴じ蓋…?)←ちょっと違う

ーー自分のスキルの危険性を知り、酷い悪夢から覚めて。
ジレウスの腕の中でぐっすりと眠り直し、すっきりとした目覚めを迎えたその翌々日。

僕はジレウスと一緒に、冒険者ギルドへとやってきていた。
といって、今いる場所は、以前のギルド長室ではなく、
1階の受付前だ。
目の前では現在、うざったそうに顔を顰めて耳をホジホジしているジレウスと、彼にギャンギャンと噛み付いて(?)いる声の煩いうさ耳さんことミルドさんがオロオロする受付のお姉さんそっちのけで会話をしている。

場所以上に前回とガラリと違う点を挙げるとするなら、
僕とジレウスの格好だろうか。
僕は先日ジレウスに山のように買ってもらった服の中から股下に若干の余裕がありつつもフィット感のあるズボンと緩めで裾長めなポケット(複数)付きの長袖シャツ。
背には同じくジレウスに買ってもらった採集道具などを収めたやや大きめなバックパックを背負っている。

そしてジレウスはというと、完全にベテラン冒険者スタイル。
シンプル且つぴったりフィットなシャツの上に、何らかの魔物の皮で出来た柔軟性のありそうな防具を身につけ、腰には大凡小型とは言い難いナイフが数本に背中には彼の高い背より若干丈の短い大剣を背負っている。
使い込んでいそうなレザーパンツのベルト部分にはナイフの他にも革製のポーチ。
中身を聞いたところ、中には簡単な救急道具やポーションの類いが入っているらしい。

彼の威圧感たっぷりな雰囲気にマッチして、
只者じゃない感がぷんぷんしているように感じるのは僕の勘違いだろうか?

(でも、凄くかっこいい……)

堂々たる彼の冒険者としての風格に、同じ男として以上に目を輝かせてしまう。
同時に、少しどころでない申し訳なさも抱いてしまうのだ。
何せ、このフル装備で。
彼が挑むのが、難易度の高い魔物討伐でも、大商人の筆頭護衛でもなくーー
初心者の僕が挑む薬草採取の護衛、だから。

改めてその事実にしょんぼりとしていると、その様子をどう勘違いしたのか、
ジレウスが身を屈めて頭をわしゃわしゃとまでてきた。

「待たせて悪いなコーキ。
クソウサがまた煩かっただろ?」

「?ううん。あんまり聞いてなかったから平気」

「ははっそうか。
じゃ、行くかぁ~!」

それでもやっぱり申し訳ないという気持ちが隠せず、

「でも本当に…良いの?」

「?何がだ」

「僕の、薬草採取なんかにつ、付き合わせちゃって。
ジレウスって凄い冒険者、なんでしょう……?」

今更初心者のお守りなんて面倒くさいんじゃ?
おずおずと下から彼を見上げる。
僕の言葉に僅かに目を見開くと、直後にハハッッ!!と実に爽やかに笑った。

「寧ろ一緒に行かなかった方が心配で仕事なんざ手につかねぇよ!
それに俺なんざそう大層な冒険者でもねぇからそんな気にすんな」

精々壁役としてこき使ってくれと笑う彼の後ろで、
彼が『大層な冒険者じゃない』と言った瞬間から、中堅所っぽい冒険者の男性数人がブンブン!と千切れんばかりの勢いで首を横に振っているのがいやに気になる。

(本当にいいのかなぁ…?)

結局遠慮が消えはしなかったけれど。

「いいですかコーキ君!
なんとしてもギルマ……ヴォーグ代理を依頼完了後にここへ連れてきて下さいね!?
何ならそのままギルド長室でにゃんにゃんしてても良いですから!
いや、絵面的には完全にアウトでしょうが
兎にも角にも彼をギルドへ帰還させて下さいね!!
絶対っすよ!?」

「ジレウス、にゃんにゃんってどういう意味?
猫さんいるの??」

「っああなんでもねぇよ!?
ほらほらコーキ、折角の初依頼だ、さっさと行くぞ!!」

「?う、うん分かった。
うさ耳さ…ミルドさん、行ってきます!
……ギルドの中であんまり騒いじゃ、駄目だよ?」

「ぐはぁッッ」

「ったく、ほらコーキ」

(ミルドさんの言葉にやや顔を痙攣らせつつ)からりと笑いながら僕の背中を押してギルドからの退出を促す彼に身を任せながら、初めて、それも他ならぬ彼と出かける初めての冒険に。
僕は密かに心を躍らせ足を前に進めた。

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