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出会い〜ツガイ編
5話
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~道中~
泉からこっち、迷いのない足取りで森の道なき道を進んでいく彼の
腕の中でちょこんと大人しくしていた僕だったけど、
ずっと出会ってから聞きたくて聞けなかったことを聞いてみようと
意を決して話しかけてみることに。
「あの」
「ん?どうした?」
「お兄さん?の家に、行く?」
「ん、ああ、その前にちょっくら職場に寄ってくがな。
てお前、なんだぁその“お兄さん”てのは」
「……名前、知らない」
「…そういやそうだな。
俺はジレウス。ジレウス・ヴォーグってんだ。
お前も名を聞いてなかったな、…なんて呼べばいい?」
「……ジレウス、さん。僕、名前……、?」
「?…分からないのか」
話しかけた目的の通り、自分を抱えてスタスタと歩く男がジレウスという名と知れて嬉しい反面、自身の名を改めて問われ、思わず言葉に窮してしまった。
確かに名前ならある。
しかし前世?でもほとんどまともに呼ばれたことのない名前。
決して嫌いではないけれど、もし。
もしも名前を聞いて、この人に不快感を与えたら。
(この人は、あの人達とは違うのに……!)
そんな益体もない不安が襲い、口を噤ませてしまう。
だが黙した僕を、それでもじっと見守ってくれる彼の誠実さに、
僕は自分の不安と決別することにした。
「僕、名前、…こう、き」
「ん、コーキか。いい響きだなぁ」
ただし告げた言葉は喉に絡み、妙に辿々しくなってしまったが。
かつての名前ー、虹季
奇しくも現在の瞳の色を含んだその名をどんな理由や意味を込めて両親がつけたのかは謎だが、それでもジレウスがいい響きだと言ってくれた。
「くふふっ」
「なんだコーキ、そんなに笑って?ほんと、変な奴だなぁ」
(きっと初めて僕の名前を褒めてくれた人だなんて、思いもしないんだろうなぁ)
強面で、ケモ耳で、大きくて、優しい人。
子供はよく分からんとぶっきらぼうにぼやくジレウスの腕の中で揺られながら、
僕はいい気分のまま、うとうとと目蓋を重くしていった。
僕を包む彼の体温は彼の優しさに溢れて、酷く心地よくも温かかった。
泉からこっち、迷いのない足取りで森の道なき道を進んでいく彼の
腕の中でちょこんと大人しくしていた僕だったけど、
ずっと出会ってから聞きたくて聞けなかったことを聞いてみようと
意を決して話しかけてみることに。
「あの」
「ん?どうした?」
「お兄さん?の家に、行く?」
「ん、ああ、その前にちょっくら職場に寄ってくがな。
てお前、なんだぁその“お兄さん”てのは」
「……名前、知らない」
「…そういやそうだな。
俺はジレウス。ジレウス・ヴォーグってんだ。
お前も名を聞いてなかったな、…なんて呼べばいい?」
「……ジレウス、さん。僕、名前……、?」
「?…分からないのか」
話しかけた目的の通り、自分を抱えてスタスタと歩く男がジレウスという名と知れて嬉しい反面、自身の名を改めて問われ、思わず言葉に窮してしまった。
確かに名前ならある。
しかし前世?でもほとんどまともに呼ばれたことのない名前。
決して嫌いではないけれど、もし。
もしも名前を聞いて、この人に不快感を与えたら。
(この人は、あの人達とは違うのに……!)
そんな益体もない不安が襲い、口を噤ませてしまう。
だが黙した僕を、それでもじっと見守ってくれる彼の誠実さに、
僕は自分の不安と決別することにした。
「僕、名前、…こう、き」
「ん、コーキか。いい響きだなぁ」
ただし告げた言葉は喉に絡み、妙に辿々しくなってしまったが。
かつての名前ー、虹季
奇しくも現在の瞳の色を含んだその名をどんな理由や意味を込めて両親がつけたのかは謎だが、それでもジレウスがいい響きだと言ってくれた。
「くふふっ」
「なんだコーキ、そんなに笑って?ほんと、変な奴だなぁ」
(きっと初めて僕の名前を褒めてくれた人だなんて、思いもしないんだろうなぁ)
強面で、ケモ耳で、大きくて、優しい人。
子供はよく分からんとぶっきらぼうにぼやくジレウスの腕の中で揺られながら、
僕はいい気分のまま、うとうとと目蓋を重くしていった。
僕を包む彼の体温は彼の優しさに溢れて、酷く心地よくも温かかった。
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