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出会い〜ツガイ編

3話

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「………」

「………」

「……なぁ」

「………」

「何で裸なんだ?」

「うゅぅ……っ」


(言われると思った言われると思った言われると思った!!)

互いに視線の位置するところは違えど見つめ合うこと暫し。
名も知らぬケモ耳男性から投げかけられた当然の疑問に、
羞恥心が限界突破してしまった僕。

(うん、分かってた!
聞かれるのなんてとっくに分かってたよ!?
だ、だけどさ?僕も大きな華から爆誕(で合ってるのかな?)したばっかりで
何で裸なんだとか全然分かってな……あ。
人って服着て生まれては来ないよね!?)


どう言って説明していいかも思い付かず呻き声を上げて悶えていると、ケモ耳男性さんが徐に自分の羽織っていた黒いマントを外して近付き、僕をそれですっぽりと覆ってくれた。

「あ……」

「小汚いマントで悪いけどよ、こんなんでもないよりゃマシだろ」

(なんて優しいケモ耳さん!!)

見ず知らずの、加えて得体の知れない僕なんかに自分のマントを与えてくれるなんて!
前世(?)で親にも施されたことのない親切をあっさりと為され、
思わず感動に目を潤ませてしまう。

僕の眼差しに照れたように頬を無骨且つ太い指でポリポリと掻く姿も
何だかとても愛嬌がある。

(この人(?)なら……)

漠然と。
本当にただ漠然と、この人は“大丈夫”だと感じた。
きっと以前の両親のように、自分に暴力を振るわないと、
何故か唐突に確信を抱き、安堵に唇が緩む。

「ん」

「あ?」

安堵を抱いた途端にその人物に甘えたくなってしまうのは人のさがかそれとも単なる甘えか。
両手を上げて見つめる僕に、ケモ耳男性が戸惑ったように瞳を揺らす。

「ん!」

「……抱っこ、か?」

めげずに背伸びをしながら両手を伸ばし続けていると、
ややあって戸惑いを残しつつも僕の意図を察したらしい彼が大きなその身を屈めてくれる。
こくこくと男の確認に頷けば、
まるで宝物を持ち上げるようにそぉっと脇に手を入れて僕を持ち上げた。
が。
それでも余程子供の扱いに慣れていないのか、
そのまま抱え込むことなく硬直してしまった。

ぷらんぷらんと空中で足が揺れるのがさながら空中ブランコのよう。

僕が精神も本当に幼い子供だったら、
おそらく地に足がつかない状態に恐怖し泣いてしまったことだろう。
しかしー

(わぁ…温かいなぁ……!)

実の両親にすら暴力以外で触れられたことがない僕にとって、
脇を掴む彼の大きな手の温度も、
強面の割にとても穏やかな光を帯びた彼の瞳も、
何もかもが新鮮で得難く、嬉しさを伴うものだったようでーー

「!!」

へにょりと顔が緩んで、僕は久しぶりに心からの笑顔を浮かべた。

僕の顔があまりにもだらしなく緩んでいたのか、
驚いたように両目を見開いた彼。
かなり強面で大柄の(ケモ耳)成人男性が僕みたいな子供の表情一つにこんなに驚いているのがおかしく、更にくすくすと笑い声を漏らしてしまうが、どうもこれはなかなか止められそうにない。

キャッキャと1人笑う僕を暫く凝視していた彼だったが、
徐に、今度こそ僕をその太く長い腕の中に抱え込むと、ぽつりと呟いた。

「お前がは取り敢えず置いておくとして……。
俺の家に、来るか?」

「!!」

このままずっと1人、裸でいるわけにもいかんだろ?

こともあろうに得体の知れない僕なんかを、家へと誘ってくれたのだ!
優しい印象の男の優しい提案に、
僕は泣きたい気持ちになりながら一も二もなく何度も頷いていた。
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