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6 依存の受け皿
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「…ひぃぃっ」
武闘派主将3人からの三者三様の強い視線を浴びせられ、常にカッコつけていたくそったれ優男の奥山から引き攣った声が漏れたのを聞き取り、
3人は同時に眉を顰めた。
要するに
(((気持ち悪い声上げんな耳が腐る)))
である。
寧ろ、
同級生に少しばかり睨まれたとて一々怯えるなみっともないとまで思ってしまったが、
彼らは自身らにすくみ上がる部員らのことを完全に打ち忘れている。
こんな肝の小さな男のなにを警戒しろと?と常ならば思うところだが。
いかんせん聖の様子がおかしすぎた。
「あ、の。先輩方…」
「ん?ああ、聖」
「こんにちは」
「よぉ」
聖の戸惑った声に、即座に優しい顔に変わるといつも通りの主将仲間としての挨拶をする。
「その。どうしてここに?
それにその人……奥山、先輩を掴んでいるのは……?」
「ああ、これか?」
「ぐぇっ」
樋口が襟を引っ張り上げて強引に揺らすと、幾分か首が絞まったのか、
踏み潰されたカエルのような声が漏れ出た。
聖の問いに答えたのは、
奥山を引っ掴んでいる樋口ではなく佐伯だった。
「これはですね、まぁ頼まれたのですよ」
「頼まれて?」
「ええ、生徒指導の興津先生から。
奥山君、実は私達と同じクラスなんですがね?
全然登校してこなくてかなり問題になってたんですよ。
だから見つけ次第確保して指導室に連れてきて欲しいって」
「そ、そうなんですか」
「そうなんですよ」
((ナイスだ佐伯))
((これくらいの言い訳は当たり前です。
それに嘘じゃありませんしね)
少しほっとした様子の聖にこちらこそが安堵しつつも、視線で健闘を称え合う。
確かに教師からそのような話を聞いたことは聞いたので嘘ではない。
ないが、そんな面倒なことを率先してやってやるほどこの3人は、他人に親切ではない。
放置した結果この男が退学になるとしてもそれはそれ、
寧ろさっさと退学して聖の前から消えろとすら思っていたぐらいだ。
しかし今はこの男の処遇を決めるためにも、
聖本人に事情を聞かなければならないらしい。
何故なら聖が奥山のことを蓮二さん、ではなくその人、や奥山先輩と呼称したからだ。
故にここは一旦このくそったれを教師に押し付けたのち、
聖に話を聞く。
これが最善であると、3人は瞬時に同じ判断をした。
===== ===== =====
「では俺はこれを興センのところに置いてくる」
「では視聴覚室で合流して下さい」
「ああ」
「え?」
「おいそこのお前」
「は?え、か、空手部主将…!?」
「お前帰宅部だろ。
ちょっと第二の連中に今日は自主練して帰るよう言ってきてくんね?
第二の連中全員な」
「それって……は、はい了解でありますッッ!!」
「え、え」
「さてと。伝言も頼んだことだし。
なぁ聖」
「聖?」
あれよあれよと会話が流れるうちに、気がつくと左も右も佐伯先輩と鬼塚先輩にがっしりと固められ、逃げられなくなっていた。
「…なんでしょうか」
「話を聞かせてもらいましょうか。
何故突然部活を辞めるのかを、ね」
「それ、は。だから一身上の都合と」
「だから、その“一身上の都合”とやらの内容を聞きてぇっつってんだよ。
原因は奥山、だろ」
「ーーっ!!」
核心を突かれ、心臓が止まるかと思った。
蒼褪めはくはくと口を開閉するばかりの俺の頭を、鬼塚先輩がガシガシとやや乱暴に撫でる。
髪はぐしゃぐしゃになったが不思議と気持ちが落ち着いた。
次いで佐伯先輩の優しく落ち着きのある目に覗き込まれて、目頭が熱くなった。
「なんで」
「ん?」
「なんで、俺のこと、そんなに気にかけるんですか?
今までっ、先輩たちとは主将同士としてしか、付き合いも……」
「それではいけませんか?」
「…へ」
「主将同士だから。
……強豪校の1部活で頑張ってた可愛い後輩主将仲間だから、
何故突然辞めるのかが気になるのはそんなに変ですか?」
「っい、え」
あの男は。長年その背中を追いかけて焦がれた男は、
自分の退部の理由なんて聞こうともしなかった。
なのにこの人は。
「そういうこった。
お前、すげぇ頑張ってたじゃん。
弓道部の連中も、先生たちも、俺らだって。
お前の頑張り知ってる奴らはみんな納得してねぇ。
まぁ俺ら3人はそればっかが理由でもねぇがよ」
「え」
「…鬼塚」
「わかってるよ。全員揃った時でもねぇと、な。
とにかくなぁ。
俺らじゃ頼りになんねぇか?」
ーあんまり 1人で悩むなよー
盲目に。
ひたすら盲目に、あの男を想ってきた。
親が死んでも、俺にはまだ彼という追うべき背中があると。
今思えばそれは恋というより、一種の依存だったのかもしれない。
だから身勝手なこの気持ちを裏切られたと思った時、孤独に囚われた。
けど、この人達はー
「っ………、っじゃぁ、お言葉に甘えて…、
聞いてもらっても、いい、ですか……」
ただでさえ先程、我慢の糸が切れてしまったのだ。
堪えられるはずもない。
涙でぐしゃぐしゃに顔を濡らした俺のみっともない懇願に
「聞くよ」「おうよ」と軽々と応えて、
俺は彼らと共に視聴覚室へと向かった。
=======================================
新年、あけましておめでとうございます!!!
まぁあけて既に4日目ですが…。
告知通り、本日より再開します!
そして開始早々謝罪を。
次話(明日)は、胸糞な会話が出てきます…:(;゙゚'ω゚'):
新年早々暗いのやだ!という方は取り敢えず回避してくださいますよう…。
武闘派主将3人からの三者三様の強い視線を浴びせられ、常にカッコつけていたくそったれ優男の奥山から引き攣った声が漏れたのを聞き取り、
3人は同時に眉を顰めた。
要するに
(((気持ち悪い声上げんな耳が腐る)))
である。
寧ろ、
同級生に少しばかり睨まれたとて一々怯えるなみっともないとまで思ってしまったが、
彼らは自身らにすくみ上がる部員らのことを完全に打ち忘れている。
こんな肝の小さな男のなにを警戒しろと?と常ならば思うところだが。
いかんせん聖の様子がおかしすぎた。
「あ、の。先輩方…」
「ん?ああ、聖」
「こんにちは」
「よぉ」
聖の戸惑った声に、即座に優しい顔に変わるといつも通りの主将仲間としての挨拶をする。
「その。どうしてここに?
それにその人……奥山、先輩を掴んでいるのは……?」
「ああ、これか?」
「ぐぇっ」
樋口が襟を引っ張り上げて強引に揺らすと、幾分か首が絞まったのか、
踏み潰されたカエルのような声が漏れ出た。
聖の問いに答えたのは、
奥山を引っ掴んでいる樋口ではなく佐伯だった。
「これはですね、まぁ頼まれたのですよ」
「頼まれて?」
「ええ、生徒指導の興津先生から。
奥山君、実は私達と同じクラスなんですがね?
全然登校してこなくてかなり問題になってたんですよ。
だから見つけ次第確保して指導室に連れてきて欲しいって」
「そ、そうなんですか」
「そうなんですよ」
((ナイスだ佐伯))
((これくらいの言い訳は当たり前です。
それに嘘じゃありませんしね)
少しほっとした様子の聖にこちらこそが安堵しつつも、視線で健闘を称え合う。
確かに教師からそのような話を聞いたことは聞いたので嘘ではない。
ないが、そんな面倒なことを率先してやってやるほどこの3人は、他人に親切ではない。
放置した結果この男が退学になるとしてもそれはそれ、
寧ろさっさと退学して聖の前から消えろとすら思っていたぐらいだ。
しかし今はこの男の処遇を決めるためにも、
聖本人に事情を聞かなければならないらしい。
何故なら聖が奥山のことを蓮二さん、ではなくその人、や奥山先輩と呼称したからだ。
故にここは一旦このくそったれを教師に押し付けたのち、
聖に話を聞く。
これが最善であると、3人は瞬時に同じ判断をした。
===== ===== =====
「では俺はこれを興センのところに置いてくる」
「では視聴覚室で合流して下さい」
「ああ」
「え?」
「おいそこのお前」
「は?え、か、空手部主将…!?」
「お前帰宅部だろ。
ちょっと第二の連中に今日は自主練して帰るよう言ってきてくんね?
第二の連中全員な」
「それって……は、はい了解でありますッッ!!」
「え、え」
「さてと。伝言も頼んだことだし。
なぁ聖」
「聖?」
あれよあれよと会話が流れるうちに、気がつくと左も右も佐伯先輩と鬼塚先輩にがっしりと固められ、逃げられなくなっていた。
「…なんでしょうか」
「話を聞かせてもらいましょうか。
何故突然部活を辞めるのかを、ね」
「それ、は。だから一身上の都合と」
「だから、その“一身上の都合”とやらの内容を聞きてぇっつってんだよ。
原因は奥山、だろ」
「ーーっ!!」
核心を突かれ、心臓が止まるかと思った。
蒼褪めはくはくと口を開閉するばかりの俺の頭を、鬼塚先輩がガシガシとやや乱暴に撫でる。
髪はぐしゃぐしゃになったが不思議と気持ちが落ち着いた。
次いで佐伯先輩の優しく落ち着きのある目に覗き込まれて、目頭が熱くなった。
「なんで」
「ん?」
「なんで、俺のこと、そんなに気にかけるんですか?
今までっ、先輩たちとは主将同士としてしか、付き合いも……」
「それではいけませんか?」
「…へ」
「主将同士だから。
……強豪校の1部活で頑張ってた可愛い後輩主将仲間だから、
何故突然辞めるのかが気になるのはそんなに変ですか?」
「っい、え」
あの男は。長年その背中を追いかけて焦がれた男は、
自分の退部の理由なんて聞こうともしなかった。
なのにこの人は。
「そういうこった。
お前、すげぇ頑張ってたじゃん。
弓道部の連中も、先生たちも、俺らだって。
お前の頑張り知ってる奴らはみんな納得してねぇ。
まぁ俺ら3人はそればっかが理由でもねぇがよ」
「え」
「…鬼塚」
「わかってるよ。全員揃った時でもねぇと、な。
とにかくなぁ。
俺らじゃ頼りになんねぇか?」
ーあんまり 1人で悩むなよー
盲目に。
ひたすら盲目に、あの男を想ってきた。
親が死んでも、俺にはまだ彼という追うべき背中があると。
今思えばそれは恋というより、一種の依存だったのかもしれない。
だから身勝手なこの気持ちを裏切られたと思った時、孤独に囚われた。
けど、この人達はー
「っ………、っじゃぁ、お言葉に甘えて…、
聞いてもらっても、いい、ですか……」
ただでさえ先程、我慢の糸が切れてしまったのだ。
堪えられるはずもない。
涙でぐしゃぐしゃに顔を濡らした俺のみっともない懇願に
「聞くよ」「おうよ」と軽々と応えて、
俺は彼らと共に視聴覚室へと向かった。
=======================================
新年、あけましておめでとうございます!!!
まぁあけて既に4日目ですが…。
告知通り、本日より再開します!
そして開始早々謝罪を。
次話(明日)は、胸糞な会話が出てきます…:(;゙゚'ω゚'):
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