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1 青天の霹靂とは

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隣接する弓道部修練場から突如上がった叫び声の数々に、
空手部、柔道部、剣道部の面々は一斉に動きを止めた。
元よりあった第一とは別に寄付によって建てられた第二体育館は広大で、
武術系の部活が3分割して使用している為、皆一堂に会しているのだ。

この龍徳院高校はかなりのスポーツ強豪部が揃っており、
彼らもまた県内全国と名の知れた部。
しかしその中にあって弓道部は別格だった。
特に去年、が入部した時からその部は出場する全ての大会を総なめにする無双状態、別格の存在へと姿を進化させ、彼は確か2年にして主将を譲られたのだ。
弓道だけでなくその存在を注目される彼の部は士気も高く、
弓道競技自体が精神性と集中力、静謐さを求められるもの。
なので当然ながら早朝練習が行われている筈のこの時間に
こんな悲鳴が隣のこの体育館まで響いてくるのは明らかに異常。

「「「お前らちょっと様子見てこい」」」

「「「は、はい!」」」


第二の各主将らがそれぞれ己が部員に様子を見てくるよう告げるのも頷ける。

各主将らは他の部員らに練習を続行するよう指示をしながらも不安げに互いに視線を交わし合わせた。

彼らにとって彼は、可愛い後輩であり、癒しであり、密かに想いを寄せる相手。
実はこの主将3人、互いに抜け駆け厳禁の協定を結んでおり、
自身らの卒業までは絶対に想いを告げないこととしていた。
同じく強豪部をまとめる主将としての苦労と負担を理解して、
自身らを振っても彼が気に病まずに済む時期をも考慮して、だ。
何故に振られるのが前提なのかと言えば、
その意中の彼には既に長年の思い人がいることを知っているから。
まぁ要するに、
例え思い人が居ようと諦められない、ガチもガチの片思い野郎共なのだ。

そんな彼らが、かの部の異常を放置するはずもなし。
そもそも彼の容姿からして、
この第二の部活に所属する部員の中にも信奉者は多い。
部員らも練習に打ち込むふりをしているがあからさまに気がそぞろだ。

「ったく。これじゃあ今日の早朝練習はまるで意味がねぇ」

「仕方ありませんよ」

「…気持ちも分からんでもないしな」


空手部主将・鬼塚 拳矢おにづか けんや
剣道部主将・佐伯 遼さえき りょう
柔道部主将・樋口 松陽ひぐち しょうよう

3人が3人とも高身長、巨躯の持ち主であり、端正ながらもかなりの強面。
街を歩けばその筋の人間に勘違いされることもしばしばで、
映画館などの学割を素直に適用されたことがない。
部員らにも尊敬される傍ら恐れられる彼らのたった1人の癒しにして意中の相手。
そんな相手の所属する部で一体何が起きたのかと、
さしもの彼らをして不安に言葉を濁さざるをおえない。
さっさと戻って報告せんか!との彼らの願いが通じたのか。

「「「……戻りました」」」

程なくして彼らが様子見を頼んだ部員らが駆け込んできた。

(((?)))

しかし、息を切らしながらもどこか呆然とした部員らの様子に、
3人は眉を寄せる。

「…それで、何かあったのか」

「「「………」」」


樋口の問いに、しかしはくはくと口を開閉するだけで答えない部員達。

「おいてめぇ…。さっさと報告しろや」

「っはいッッ!あ、ああああのぉ~…その……」

早々に焦れた鬼塚が苛立った口調で彼らに答えを急かす。
地獄の鬼にでも睨まれたが如く怯える彼らは幾分か口籠もり言葉を探したが、
結局。
悩んだ末に、見聞きしたそのままを報告することにした。

“弓道部主将・2年、幾島 聖いくしま ひじりが退部を宣言した”と。


「「「ーーー…は?」」」


「早朝練習の最初に宣言したようです」

「その後皆の引き留めの言葉にも全く応じることなく職員室へと向かったと」

「そ、そのせいで今現在弓道部連中は練習そっちのけで泣き崩れてます…!!」


「「「「「……………なにぃぃぃ!?」」」」」


第二体育館内にも、野太い悲鳴が木霊した。
そしてその瞬間、ピシリと。
かの主将らの秘密協定に、明確なひびが入った音がした。
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