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第1章
第12話 探り合いと新たな訪問客
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先に動いたのは用心棒・清の方だった。
グッと腰に差した棒を引き抜くと、素早くその棒の先を捻りを加えながら悠々と座る優男の顔面ー…正確には顔面すれすれの横を狙って突き出した。
対する優男、紫円はといえばー…
「う~ん…いきなり物騒ですねぇ」
「……何故、避けない?」
対する紫円は、全く避けることなく笑んだまま微動だにしなかった。
低い声でぼそりと呟く清にふふ、と笑うとだって、と続けた。
「まるで当てようという気のないものを避ける必要なんてないでしょう?」
「普通は大袈裟にでも安全な範囲まで避けるものなんだがな…」
「だって私に話を聞きたいと言っている人が、口も利けなくなりそうな顔面を本当に攻撃する訳ないじゃないですか。といって、怖くなかったわけじゃあないですよ?」
「……」
おお怖い怖い
態とらしく嘯いて尚も笑う紫円の至極のほほんとした様子に毒気を抜かれたのか、ふんと小さく嘆息すると棒を引いて床に置き、自身もどかりと腰を下ろした。
無遠慮に紫円の前に転がっていた別の杯に銚子から酒をとくとくと注ぎ入れて一気に煽る。
前髪に目が隠れているために表情が分かりづらいがどうやら少々ふてくされているようだ。
「おや、どうやらイケる口のご様子ですね」
「煩い、余計な世話だ」
煩わし気に紫円のからかいを躱すと再度杯に並々と冷えた酒を注ぎ足す。
その様子をじっと見つめ
「それで?そろそろ聞きたい話とやらを伺っても宜しいでしょうか?
もう夜闇も濃くなって参りましたし…というか。
何故今日ここに?」
「……元々、ここの用心棒として楼主と契約している。
今回はその契約上の条件を楼主が履行するためにお前に会わせてもらった」
「契約上の条件、ですか」
「妙な流れ者の類いが楼の客として訪れた場合、
おれに引き合わせて問いに答えてもらうこと。
契約料を削る代わりに出した条件だった」
「ふむふむ、つまりは楼に泊まれる程の財を持った、
それでいて訳あり臭い変わり種な客ということですよね?
ただの他国の客であれば正直自分の力で接触しろとか言われそうですし」
「……まぁ、
ざっくりいうとそんなものだ」
成程、とうんうん呑気に頷く紫円に胡乱げな視線が刺さる。
それを理解しつつまるっと無視して
「え~と確か…
“ 貴様が何者で、どこから来て、何を知っているのか、全て話せ”でしたっけ。
抽象的過ぎていまいち何を聞きたいのやらだったのですが。契約の話を聞くに、本当に何でも、それこそ些細な出来事でもいいから聞きたいと。
そういうことでしょうか」
「概ね肯定だ」
「ふむ……」
暫し考え込む素振りで顎に指を当てる。
「まず先程も申しました通り私はしがない飾り職人。
余所から来たのは事実ですがそれを言ったところで正直信じていただけるかどうか……。
何を知っているか、については……
貴方が抱えているであろう事情を話して頂けるのであれば、
或いは語れることもある、としかお答えできかねますが。
ー…それを語って聞かせてくれる気は?」
「ないな」
「ではこれ以上話せることもないですねぇ。
そもそも私、別に金持ちな客ではないですし。
昼間に縁あってこちらの働き手と山中で遭遇して、彼女の好意でこちらに連れてきてもらっただけです」
「…客ではなかったのか。
ではせめて、俺が信じないと言ったお前が何処から来たかは」
「海の孤島です」
「は?」
「ですから海の孤島です」
杯を手に固まる清。
「信じる信じないは勝手ですが事実ですよ?」
「…仮にそれが真実と信じたなら。
お前が先程述べた“しがない飾り職人”というのが嘘になるが?」
「え、そうなります?
でも飾り物を作っているのは事実なのですがねぇ……」
ええ~、とあからさまに不満の声を漏らす紫円に若干苛立ち、
あまりふざけてくれるなと唸り声を出す。
「お前のいう、孤島とやらが海の向こうに存在するのなら。
そもそも国に入国すること事態無理だ。
何処の国でも国境を管理・監視する関所があるのと同じ、それ以上にここ赤煙には海と陸を隔てる有名な“赤霧の結界”が……、っ」
そこまで言いかけ、はっと険しい顔を紫円に向けた。
「まさか破ったのか……結界を」
「結界、ですか?さて、どうでしょう」
にこにこと笑んだまま空惚ける優男の態度に、しかし清は確信を抱く。
おそらくこの男は本当に、結界を破ったのだと。
どのような力を用いて結界を破ったのか
未だ僅かに信じられない気持ちはあれど、
清は自身の抱える事情から、寧ろ期待の方が遥かに上回る。
その力と応用について清が勢い込んで問い詰めようとしたところで。
不意に紫円がはぁ…と態とらしいため息を吐いた。
「あのですね……
話を聞くなと言っているのではないのですが。
そろそろ出てきてくれませんかねぇ?」
盗み聞きは、無粋ですよ?
その言葉に清がバッと背後ー…部屋の入り口を顧みると。
「やれやれ、勘の良いことで。
バレていたとはな」
笑い混じりの言葉と同時に襖が開き、男が1人。
「…貴様は……」
「これはこれは用心棒殿、久しいなぁ。
で、何やら2人で面白い話をしている。
ー…俺も混ぜてくれよ」
ひとつ頼むよ
軽い口調を裏切る鋭い視線で紫円と清を睥睨し、
新たなる闖入者ー…柳 観世が姿を現した。
夜はまだ、長い。
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