創煙師

帆田 久

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第1章

2.5話 苦労性ワンコ・一佐君と自称“癒し系”な小悪魔系同僚の一幕・2

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「ああれぇ~いっちゃん?どうしてこんな所にいるのぉ?」

一人暴走状態だった一佐は、間延びしたその甲高い声を聞くと、口を閉じてたちまち真顔になった。その後その真顔を嫌そうに歪めると、声の聞こえた方角を睨みつけた。
そうして、一見只の獣道にしか見えない辺りをぴたりと見据えたまま、不機嫌そうに声を上げた。

「おい。」
「ん、なぁ~にぃ一ちゃん?」
「なぁ~にぃ、じゃない気色悪い。あと、人と話をするときにはちゃんと姿を見せろ、三笠みかさ。失礼だろ常識的に考えて」

ざざざ…と音を立てて獣道から飛び出して登場した三笠とよばれた青年は、少年といっても差し支えがない程に小柄だ。サラサラの短い茶髪に大きな同色の瞳。笑みを浮かべたなら愛らしいであろう、頬にそばかすが散った顔を、今は何故か驚愕の色に染めている。

「え。
………さっきまで部下たちそっちのけででかい独り言ブツブツ呟いてた非常識の塊の様な一ちゃんに……、常識を問われる…、だと!??」
「おいコラ三笠もういいだまれ」
「えへへ~♪怒った?怒っちゃった??まぁまぁ、そんなにカリカリしないでよ一ちゃん。……若くして禿げるよ?」
「禿げんわ!まだまだふっさふさな強根毛だわ!!」
「はぁいはい。どー、どー。
…ゴメンね君たち。僕と一ちゃんのことは気にせずとっとと、運んじゃってぇ~。あ、出来るだけ静かに、ね?」
「っは、はい!了解しました!ではあの、…お先に失礼します、三笠、一佐副隊長!!」

グワッと鬼の形相で食ってかかる一佐をまるで興奮した家畜でもなだめるようにあしらうと、しれっと隊員達に声をかけて指示を出した三笠に、戸惑いながらもどこかホッとした面持ちで皆行動を開始した。
(誰も好き好んでこんな真っ暗な山の中で、不気味な像と夜を明かしたくない!)と。

 遅れを取り戻すかのように若干急ぎ足で下山していく部下たちの背中が闇に紛れて見えなくなったころ、ようやく興奮状態から脱した一佐は、改めて三笠と視線を合わせた。あいも変わらず、不機嫌そうなまま。

「確かに、部下の前で取るには些か問題な行動だったかもしれん。が、お前にだけは非常識などと言われたくないぞ。なにが“僕”だよ。お前は俺と同じ齢だろうが」
「えぇ~?でもでも、“俺”より“僕”の方が絶対僕に合ってるよぉ~!
ねぇ、一ちゃんも僕が“僕”って言う方が似合うと思わない?思うよね!?」
「っっっああー…“僕僕ボクぼく”五月蝿いからもういい。第一お前、今回の山道への集合に遅れて来といて最後何しれっと指示出してるんだ!偶々柳隊長から言及されなかったからいいもの、いや良くはないが。同じ副官兼副隊長としては肝が冷えたぞ!」

一体どこでうつつを抜かしていたのだと非難の声を上げた一佐に、きょとん、と目をパチパチと開閉すると不思議そうに一佐の疑問にこたえた。

「え。うつつを抜かすも何も…。僕最初からこの場にいたけど??」
「………へ?」
「大体さ?今日の夜山巡回担当僕だよ?だから当然、さっきのの発見も僕だし。現場離れてたのだって隊長から調べ物頼まれたからさ、一ちゃんも集合で来るって分かってたから安心してたんだよねぇ」

いつも巡回担当交互にやってるじゃん、忘れちゃったぁ??と告げる三笠に、唖然としてた一佐もそういえほそうだったことを思い出し、呻く。

「因みに戻って来てからは一ちゃんが部下達を上手くまとめていたから、獣道の中から覗いてたんだよぉ~!気づかれたらよばれて飛び出て!!と登場する予定だったのに、隊長以外誰も何も気づかないんだもん!」
「や、柳隊長は気づいて、たのか?」
「そだよぉ!ここに来てすぐに。」

さっきもすれ違った時にも目、あったし との言葉にさらに呻くと

「じゃあ何でその時に隊長のぎ、妓楼行きを止めてくれなかった!?」
「そうそれ!!」

肩を掴んで切なげにうったえる一佐の肩をガバリと掴みかえすと、三笠は先程までのふざけた表情の一切が消え、真剣さを滲ませながら重々しく頷いた。

「……一ちゃん」
「?…お、おう?」
「柳隊長はさ、僕たちが誇る赤狼の総隊長、だよね?」
「………そうだが。つまり何が言いたいんだ?」
「そんな、日々犯罪者を取り締まり、国民の平和を守るのが仕事の!況してやその隊の総隊長が!!只々女の子と遊びたいが為に、部下を置いて難事件から逃げるわけないだろう!!?」
「!?!……そ、そうだな!ッッてことはつまり」
「そうだよ、一ちゃん」

ゴクリ、と言葉を待つ一佐を思わせぶりに時間を置いて流しみると、

「柳隊長はきっと、あの像から得たんだよ。僕たちも気づかなかった重大な“手掛かり”をさ」
「やはりか!」

うむ、と確信を持った頷きを返す三笠に、上司への熱い敬愛を再燃させた一佐は思考を再び暴走させていく。

「僕よりも隊長のことわかっている一ちゃんにはもう、全部お見通しだよね?」
「無論だ!つまり柳隊長はその手掛かりをもとに調の為に花街へと急行し」
「うんうん」
「知らせず単身にて向かったのは、つまり任務を遂行した後隊舎に運び込んだから、俺たちが自力で手掛かりにたどり着くことを期待してのこと!!」
「その通り!(チョロシ)」
「ん?今一瞬、変な言葉が聞こえて」
「それより一刻も早く僕らも戻って、その手掛かり?を見つけないとじゃないかなぁ!?」
「!!それもそうだな!よし、とっとと下山するぞ三笠!!」
いうや否や、山道にそって走り出した一佐の背を眺めながら“やれやれ”と三笠は小さく華奢な肩を竦め、のんびりと後を辿り歩き出した。

(恨まないでよ、僕嘘は言ってないから)
自身が柳隊長に頼まれて仕事をしていたのも本当なら、隊長が花街へと急行した理由も、のことだとは思う。
が。
は本来の赤狼の仕事とは関係無く、隊長がで花街へと向かった本当の理由はー。
単に、一佐が男として色に慣れていない。それだけである。

(ったく25にもなって純情童貞少年かっつーの。
ねんね君が暴走することわかってながら置いていきやがってあの鬼畜上司!僕みたいな可愛い少年にガキのお守りさせんなおっさんいつかぶっ殺すッッ!!)

おおーい、三笠ぁはやくしろーと前方からの声に はいはぁーいと愛嬌たっぷりに返答しながら、心中では存外口汚い呪詛を吐き続ける、自称“赤狼”の癒し系青年・三笠君なのであった。


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※苦労性ワンコ一佐君と自称“癒し系”な小悪魔系同僚の一幕、とタイトルで書きましたが、案外小悪魔系の彼の方が一佐君よりよっぽど苦労性なのでは?と後になって気づいたダメな帆田でした…。



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