創煙師

帆田 久

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第1章

1話 外から来た男

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※実質的プロローグ回です※


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 ゆらり ゆらり ゆらゆらリ


 青空に輝く太陽が遥か下に広がり揺らめく海面みなもを照らし、波立ちとともに陽の光が乱反射を起こす。そんな、清々しい青色と光が輝く大海原おおうなばらの海面には、小さな”ふね”が1隻いっせき

ー否。
”舟”と評するには些かいささか難しく、十人が見れば十人ともがおそらくそれを舟とは言わず”箱”と口を揃えて答えるだろうが…その”箱”に乗っている一人の人間にとっては間違いなく”舟”であると断言するだろう。

そう、その”舟”には人間が乗っている。小さな面積めんせきのそれの上で優雅に胡座あぐらをかいて座るその人物の性別は、果たして男か それとも女か
 長い長い銀髪を背に流し、ゆったりと着込んだ白地の法衣ほういには、これまた優美な華の刺繍ししゅうが銀の糸でなされている。顔にかかる髪の合間から覗く眉も面差しおもざしも上品でひどく整っており、彼の者を性別を超えた、この世為らざる存在に魅せている。

 そんなある種非常識な美貌びぼうの持ち主のかいている胡座の足の上には持ち手の付いた小さな木箱があり、右のすらりとした手には、美々びびしい細工の施された一本の煙管きせる
くちに口付けるわけでもなく、ぼぉ…とほおけたさまで前方に固定した視線をびどうだにしない人間。奇妙なことに、吸ってもいない、どころかきざ煙草たばこすら込められていない空の火皿ひざらからは、もうもうと白煙が立ち昇り、彼の者が視線を向ける前方に向かい一直線に流れていく。
 さらには、当てなく海面を揺蕩たゆたっているようにみえたこの”舟”はその実、その真っ直ぐに伸びる白煙を追うように迷いなく前進しているのだ。



 ゆらゆら  ゆらり


 その不可思議ふかしぎな現象が続くこと暫しの後。
前方に赤いきりおおわれた大陸、それも横一面に延々と続き伸びる断崖だんがいが広がる。
とふいに、美貌の”舟”の主が右手に煙管、左手に木箱を抱えてスッと器用に立ち上がった。すらりと高い背格好からどうやらこの人物は男であるようだ。
 刻々こくこくと進み断崖へと近づく己の”舟”の動きに頓着とんちゃくすることなく、目を閉じると煙管を木箱の持ち手上で返し、トーン トーーン と持ち手に打ち付けた。
空の火皿から灰が落ちることはなく、しかし先程まで立ち昇っていた白煙が消失し、緩やかな前進を続けてた”舟”は
ピタリと動きを止めた。
 ゆったりとした動作で返した煙管を元に戻し 吸い口を薄く形の良い唇に運ぶと。
閉じていた両の眼をゆっくりと開けて前を見据え、
ふわり と、柔らかなえみを唇が象った。
何事かをボソボソと短く呟くと吸い口に今度こそ口をつけ、離すとともにふぅぅ…とさながら煙を吐き出すように息を吐いた、その瞬間ー。

 猛烈な勢いで湧き上がった白煙が男を瞬く間に包み込み、
煙が海風に流され消えたその時には、男の姿はどこにもなかった。


 ゆらゆら ゆらゆら ゆらゆらり


 乗り手を失った”舟”は先のように前進することなく、あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら、むなしく海面を漂う。




この日ー。

赤煙国初代・朱儒しゅじゅが張り巡らせたとされて以来破られることのなかった赤煙国海境かいきょう結界(赤霧あかぎり)を破り人知れず赤煙国に足を踏み入れた、赤煙国史上初の、『海』からの密入国者に、
男はなった。
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