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第二章 帝国編
第63話 糸の切れた操り人形は語る〜迫る危機〜
しおりを挟むガド様を先頭に警戒する一同の前で、むくりと上体を起こし、呻き声を上げながら頭を振る副騎士団長。
何かを振り払うように数度左右に頭を振り続け、目をシパシパと瞬くと、ようやく視界が晴れたかのように辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
そうして自身を、まるで怨敵でも見るかのように睨みつけながら大剣の剣先を向けている騎士団長と仕える主たる若く麗しい皇帝陛下、鉄の侍女頭ともう一人の見覚えのない貴族令嬢を視界に収め、次いで遅ればせながら自身が芝の上にて手足胴を縛られている現状を自覚し。
『…え、あの…団長、陛下。これは一体全体、どういう状況なのでしょうか?』
酷く動揺して戸惑った声で、彼らに答えを求めたのだった。
その戸惑った助けを求める視線の先で、
自身の上司達がこそ、戸惑いと怪訝な眼差しで互いに顔を見合わせている様子を不思議そうに眺めながら。
…………………………………………………………………………………………
『つまり、今の状況に至るまでのことを何も覚えていないと』
『は、はい……』
初め、意識を取り戻した騎士団副団長を警戒して大剣を向けていたガド含む一同だったが、あまりにも害意(敵意ともいう)が抜けきった顔で“何故に自分は団長殿に剣先を向けられているのか”と呟かれ、自身の置かれている状況と為してしまった罪について問うてみた結果。
彼はシェイラを害そうとしたことも、ましてやガドに背後から斬り伏せられて倒れ、捕縛されたことも、何もかもにまるで覚えがないと発言した。
あの時確かに様子はおかしかったが一体これはどうしたものか……と当人を含めて困惑していると、ルードが徐に“では一番最後の記憶は?”と問いかける。
自身で割砕いた小石の残骸の一部を手に取り眺めながら、最後に残っている記憶の中にその原因があるのではとの彼の考えは、どうやら間違ってはいなかった様で。
『あの、陛下達が他国へと視察に出ている時、…お守りだと言って戴いたのです』
『誰に』
『え、誰とは。皆様もこれと同じ物をお持ちでは?』
『そんな物知らんな。いいから誰からもらったかさっさと言え!』
『は、はい!その……、…………かです』
『聞こえん、はっきりとだ』
『で、ですから!さ、宰相閣下ですよ!!』
『ーーは?』
ここに来て全く予想外の人物の名が挙げられて、
尋問していたガド様他私たち全員が目を見開いた。
『宰相、だと?』
義弟ではなく、名を挙げられたのは宰相。
『私の敬愛する陛下や団長も皆が皆この“お守り”を持っていると聞き、
私もそれに倣って持っているといいと言われて……』
『そこから記憶がない、と?』
『……え、ええ。
今も何とか近々のことを思い出そうとはしているのですが。
そもそも陛下や団長がいつ国へ戻られたのかも思い出せず…。
……っ申し訳ございません!!』
『……どういうことだ?意味が分からん』
『何故ここで宰相が…』
皆一様に、今まで全くのノーマーク人物が、
彼の持っていた不穏極まる物を経て浮上したことに困惑を隠せないようだった。
が、今はそれよりもシェイラは気がかりなことがあった。
『陛下、皆様も。
一先ず宰相閣下のことは捨て置き、
先帝陛下と正皇妃様の御身の無事を確認しませんか?
あと何故かお忘れのようですが…リオン様のことも』
私の言葉にハッとした様子で周囲を忙しなく見回す面々に、
やはり不自然な事象によって皆“忘れて”しまっていたことを確信する。
『皆様、いえ陛下。
一刻も早く正皇妃様達の離宮へ』
『……ああ』
険しい顔でガド様に行くぞ!と声をかけて、
私を含めた一同は皆、離宮へと足を一斉に向けたーー
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※やっと再開しました!
変更あるかもですが、
2日に1話のペースでのアップでラストまで進行する予定です!!
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