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第二章 帝国編
第59話 古の大蛇・グラトニー②
しおりを挟む『事を起こしたのは、人間どもからそういった依頼を受けたから。
人間に擬態し紛れたのは
……その方が効率よく人を殺し喰らう事が出来ることに気付いたから。
ただそれだけのことじゃよ』
人に紛れれば、関わりを持てば。
接触の機会は増え、元の姿で人を捕らえるのに比べれば余程易いのは明らか。
ましてや奴が擬態した人間の職業は闇商人。
後ろ暗い人間を誑かして駒にし、土地から土地へと移ろうのも易ければ、
表で非難されるような奴隷や、不当に攫われてきた人間を秘密裏に食糧化するのにはうってつけだ。
醜悪そのものの笑みに歪んだ(表面上)老獪な顔に吐き気がする。
同じく理の外に身を置くものとして、いや、だからこそ奴の所業に心底反吐が出る。
(ましてや我が友の娘を、シェイラを喰らうだと?
……単細胞の馬鹿蛇め、絶対に許さん!)
【そうか。
であるならば早々に滅するが吉じゃな】
『ほ?ほっほ!!
ず、随分と物騒な思考をするようになったものよのぉ森の!!
儂を滅する?主が??
あり得ん、あり得んぞ!!
たかが地母神如きの生臭走狗が生命を司る女神より生み出された儂を滅するなど大言壮語が過ぎるというものではないかのぉ!!?』
【女神に生み出されたとはいえ、欲が過ぎてすでに見捨てられた身じゃろう。
何がそんなに可笑しいかは皆目理解も及ばんが、偉そうに自分の方が格上だなど間違っても言わぬことよ。
人間に怯えて何百年と隠れ寝こけていた主の何を恐れろというのじゃ?】
『何じゃと?』
【ふん、己の欲すら制御できん愚か者が。
効率よくなどと言い訳しておったが分かっているぞ?
要はあれじゃ、元の姿ではまた人間達の討伐対象にされ命をつけ狙われるのが怖かったんじゃろう?
いや、案外長いこと寝過ぎて孤独感に耐えられず、人間に寄る辺を求めたという線も捨てきれんのぅ?
若々しい成人男性ではなく、人の世において庇護され尊敬される年寄りに擬態して若い人間の娘を誑かしていたのがいい証拠ではないか】
『…戯言が過ぎるぞ森の。
誰が人如きに恐怖したと?
挙句、言うに事欠いて人に寄る辺を求めた、じゃと?
馬鹿馬鹿しい』
【ほう?怒るところを見るに我の予想も案外いい線いってるんじゃないかのぉ?
強がらんでも良いのじゃぞ、ん?】
『一々嫌味たらしく言いおって……!
そうまで儂を愚弄するからにはどうやって儂を“滅する”のか見せてもらおうじゃないかのぉ!?』
(ふん、簡単に挑発されおって。相変わらず気の短い奴め)
怒りに任せて爪と毒牙を変形させるグラテアに、内心ちょろいなと人間風に揶揄してほくそ笑む。
奴が本来の姿に戻り我と対峙したなら多くの力を他に割いている我が不利であるが、おそらくそれはないだろうと踏んでいる。
何故なら、元より奴は本来の姿を人間如きに晒す事を殊の外避けている。
奴にとって大蛇の姿を晒す事は即ち、全力を出せるその姿に戻らねば相手に遅れを取ると言っているようなものだからだ。
己の消滅がかかっているくせに下らん拘りとプライドよと呆れもするが、同時に助かりもするのも事実。
地母神に生み出された我と、生命そのものを司る女神に生み出された奴では少々どころでなくこちらに分が悪い。
それにー…
【殺気丸出しで戦闘態勢をとっているところ悪いんじゃが。
こんなところで暴れるつもりか?
いかな主とてこのような狭き場所では本領を発揮できまい】
ここはベルナードとかいうあの人間の治める国の首都であり、要であり、宮殿。
シェイラも身を置くこの建物内で我ら二人が暴れれば、宮ごと崩壊・消滅もあり得る。
巻き込まれて死なれるのは冗談じゃないと思い場所を移そうと告げれば、何を今更と失笑された。
『儂を散々侮辱し滅するとまでほざいた主が今更何をほざくか。
矮小な人間から受けた依頼など元よりどうでもいいしあの娘を喰らえないのならこの場にさして興味もない、移動してやるのも吝かではないがのぅ…。
ん?……くくっ!!さては人間らを巻き込むのを恐れているな?
人間などいくら潰れて死のうがどうでもいいではないか!
それにー…
大言を吐いたなら尚のこと、主自身で守ってみるがいい!!』
(ちっ!挑発が過ぎたか!こちらの言葉に全く聞く耳を持っていない……!)
これだから欲に負けた短気単細胞は嫌だと心底うんざりしながら僅かに焦燥を滲ませる。
かぁ!!と口を大きく開いて牙を剥き出しにしながら恐るべき速度で襲いかかってくるグラテア。
急ぎ建物から退避するようシェイラへと心話を飛ばし、結界を構築する。
(頼む、無事凌いでくれシェイラと我の“友”達よ…っっ!!)
元より大して広くもない部屋の中、グラテアの凶悪な爪と牙は、目前まで迫っていた。
そして一瞬後。
白磁宮に、破壊による強烈な振動と轟音が鳴り響いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※次回、第60話『激突』
お楽しみに!!
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