154 / 161
第二章 帝国編
第56話 道化師の愉悦②
しおりを挟む『ほ?』
『シェイラ?!
前に出るな!!』
『シェイラ様!?』
『嬢ちゃん!!馬鹿何やってんだ!!?』
周りの制止も無視して結界を彼らにだけ張り、つかつかと血だらけの室内へと踏み込む。
どうやって姿を消したのか、はたまたヴィーダ嬢を殺した方法もわからない中、
安易に殺した張本人に接近するのは無謀極まることぐらい自分でもわかっている。
それでも、動かずにはいられなかった。
『話からしますと、なにやら私が必要なのでしょう?
隠れていては手に入らないのではなくて?』
『ほぉほぉ……さっきの面白き膜は消えておるのぉ。
いや、お嬢さん、主以外は、といった方が良いか……ほんに、面白き娘よ。
ああ……ますます孫に欲しいのぅ…たった今一人いなくなったことじゃし』
『どの口が、いうのですか(自分で殺したくせに)』
シュルンと突然煙の如く姿を現した翁は、間近で私の顔を覗き込む。
ガド様やルード達が駆け寄ろうとしたのを手で制止して、
眼差しを冷ややかなものへと変える。
いよいよ持って、彼が人間ではない可能性が出てきたが、今そんなことは無視だ。
元より人としての基本的な常識や道徳心を持ち合わせていないような輩を自分は人とは認めないのだから。
きっと彼からみた自分の顔は、怒りに歪んで醜いものとなっているに違いない。
だというのにやはりというか可笑しげに笑みを深めるばかりの翁に、
シェイラをしても殺意が芽生えそうだ。
相手が低身長故に冷え切った眼差しで見下ろす私
それを下から愉しげに覗き見つめる翁
暫しの時間無言で見つめ合った末、翁は再度私へ手を伸ばしかけて止め、今日一番の笑い声を上げた。
狂気の混じった、異様な笑い声を。
ヒィーヒィーと息切れを起こすほどに笑い転げる彼に呆気に取られながらも、
未だ彼の情の無さと残虐さに怒りを残したままであった私は何を笑っているのです?と彼に問う。
『ああ、ああ、負けじゃよ負け!!
折角膜をなくしてくれたんでそのままお言葉に甘えようとも思うたが、…止めじゃ』
『では、大人しく捕まってくださるとでも?』
『ほっ!?いやいやお嬢さん、そうは参らんて。
そうさな、お嬢さんを守っているそれと二人きりで話をさせてくれるならば考えんでも無いんじゃがのぅ』
『…それ、とは?』
『分かっておろうにお嬢さんもお人が悪いの。
そいつじゃよそいつ……ほれ、いるじゃろ?人為らざる存在がそこに』
私の頭のそのまた後ろを指差して笑う老人にため息を漏らすと、
彼が興味を示している精霊王、オーギュスト様が姿を現した。
『ほぉっほ!!やはりおるではないか!!』
『オーギュスト様…』
【やはり、視えておったか】
愉快痛快とばかりにはしゃぐ老人に向け苦々しげに呟き私から離れて室内の奥へと飛んでいくと、
老人はグリンと首を回して精霊王の姿を追う。
最早用があるはずの私には見向きもしていない。
『ほ?どこに行くんで?』
【…話をしたいんじゃろ、それも儂と二人きりで。
早う来んか……それとも、滅せられたいか?】
『おお怖いのぉ~!と、いう訳じゃお嬢さん?』
少しばかりこの場を離れても?と戯けた様子で私に聞いてくる翁に、お好きにしたらいいではないですかと色のない声で返し、オーギュスト様を見つめる。
【心配は無用ぞ。主の良きに計らおう。
ただ少し、儂もこやつに聞きたいことがある。逃しはせんよ】
そう言い置いて翁を連れて奥続きの部屋へと姿を消した二人を、
私は呆然と見送った。
ー…部屋へ消える寸前、
翁が愉悦に塗れた笑みを浮かべていたのを凝視しながら。
後にはジョルダン嬢と敵だった女性の無残な死体だけが、部屋の中に横たわっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※ここ数日作者多忙の為更新できずすんません!!
次回、オーギュストと翁の回入ります!
いよいよ翁の正体が明らかに?
お楽しみに~♪
3
お気に入りに追加
9,649
あなたにおすすめの小説
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる