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第二章 帝国編
第53話 風雲急を告げる事態③ side:ルード
しおりを挟むside:ルード
『ーーーーー!!!』
『なんだ!?』
宮に響いた大声に、一気に緊張が走った。
『ルー…陛下、今のはおそらくモリーです!!』
『っ居室区域かっ!!』
今後における最終的な行動確認に勤しんでいた俺とガドだったが、そんなことは一瞬にして頭から吹き飛んでしまった。
『行けッッ!!』
天井に向かって叫ぶ。
御意、と小さく返答があった直後に気配を絶った影。
自分も急ぎ向かうべくデスクに立てかけておいた剣へと手を伸ばし、ガドと共に入り口から出て行こうとすると、ふと馴染みのある気配が。
【その様子ではあの侍女の声に気付いたようじゃな】
『精霊王!!』
『おい、なんでこっちにくるんだよ!!?
嬢ちゃん守ってりゃ良いだろうが!』
【ぬ、その物言いは心外であるな。
他ならぬシェイラたっての願いによって主らに状況を伝えに来たというに……】
『だったら早く説明しろ!!……時間が惜しい』
『お二人さん、移動しながら話そうぜ!?』
『ああ、オーギュスト殿、頼む』
【はぁぁ~…まぁ良かろう。我の好き好んでシェイラから離れたでなし】
そうため息をついて、件の事件の証言をした令嬢、ジョルダン嬢を部屋に送った際に室内で待ち伏せしていた刺客に口封じ同然に彼女が殺されたことと、副団長とやらが敵としてやってきて挟み撃ちされていること、執務室に至るまでの騎士団員が負傷したり気絶して転がったりと戦闘不能に陥っていること。
つらつらと語られる状況の悪さに酷い頭痛に襲われながら彼女は、シェイラは無事かとガドと廊下を駆けながら確認する。
【心配せずともシェイラには結界がある。冷静でありさえすればあのような武器で攻撃されたところで、彼女には届くまいて。何せ我の加護は強力じゃからな!!】
『あのなぁ…!
あっちは敵が二人、嬢ちゃんは攻撃手段がねぇし、モリーは丸腰だろう!?
もしもモリーになんかあったときに嬢ちゃんが冷静でいられると思ってんのか!?』
『一番は貴殿がその人ならざる力を以ってして敵を排除してくれたなら安心できたのだがな』
【…それはならん】
『じゃあ何のために嬢ちゃんに憑いてるんだよ?
守るとか言いながら無意味だろうがっ』
途中途中で床にころがる転がる騎士団員を荒く蹴り起こしながらオーギュストを責めるガドの言葉に賛同していると。
【主ら……何か勘違いしておるようじゃが、
我は主ら人間如きに都合よく使われる存在ではないぞ】
『『!!!』』
急に剣呑な気配に変わった精霊王に息を呑み、それでも足を止めずに移動を続けて話の続きを促す。
【加護を授けたといってその者の害となるものを全て排除するわけではない。
害から守る過程で取り除くことがあっても、じゃ。
そも、我ら人の理から外れている存在が直接人へと多くの干渉をするのは本来であらば望ましからざること。
“災厄”や“戦神”を自称する輩ならいざ知らず、我は自然を愛し司る存在達の王。
直接守り敵を排除したくばそれは同じ人の役目、我に強要するでないわ!】
『…………』
自分たちこそ禄に守れていないくせに文句を言うなと憤りも露わに告げる彼に返す言葉がなかった。
確かにその通りだからだ。
ましてやここは自分の宮、己の領域内で度々事を起こされて後手に回っていることに一番苛立っているのも自分自身なのだから、と。
しかし自分の近衛である隣の男は全く怯む様子を見せず、
意識を取り戻した何人かに他の連中を起こして態勢を立て直すよう言い含めると、険悪な空気をまるで無視したいつもの調子で続けた。
『そうは言っても伴侶に~とかいったほどの人間を加護があるからって放置するかぁ?
冷てぇんじゃねぇの精霊王さんよ!?』
【……それは仕方なかろう……あれの母親の魂を浄化するのに大半の力を回している故、加護の強化を買って出たくともそうもいかんのじゃ……】
『結局あんたも力不足が原因で手助け出来んって訳だろ?…ん、ちょっと待て。
魂の浄化って何の話だ?』
『しかも今シェイラの母親と言ったか、精霊王?』
【…主ら、ロイドから何も聞いておらなんだか?
娘にも我の事を話さなかったことといい全く我が友は……。
面倒極まりないのぅ……】
『『おい』』
部下のこういう、負の感情をすっ飛ばして会話出来るところが羨ましい、などと些か最近自嘲がすぎる自身に苦笑しつつ、新たに沸いた疑問を追及しかけたが。
またぞろ話題がずれそうになったところで、精霊王が走る自分達に警戒を促してきた。
【今はそれどころじゃあるまいて。
ほれ、そろそろじゃぞ?】
そういって彼が指差した先にー…
『シェイラ!?』
『嬢ちゃん!?』
一心不乱に剣を振り下ろしては何かに弾かれて苛立っている我が国の騎士団副団長・ゼンとその様子を確認する事なく扉の開いたままの室内に向けて必死に声をあげているシェイラの姿が飛び込んできたのだった。
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※長くなりそうな為、ルード回として一度切ります!
次回はガド回です!!
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