出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
上 下
151 / 161
第二章  帝国編

第53話  風雲急を告げる事態③ side:ルード

しおりを挟む





side:ルード


『ーーーーー!!!』

『なんだ!?』


宮に響いた大声に、一気に緊張が走った。


『ルー…陛下、今のはおそらくモリーです!!』

『っ居室区域かっ!!』


今後における最終的な行動確認に勤しんでいた俺とガドだったが、そんなことは一瞬にして頭から吹き飛んでしまった。


『行けッッ!!』

天井に向かって叫ぶ。
御意、と小さく返答があった直後に気配を絶った影。
自分も急ぎ向かうべくデスクに立てかけておいた剣へと手を伸ばし、ガドと共に入り口から出て行こうとすると、ふと馴染みのある気配が。


【その様子ではあの侍女の声に気付いたようじゃな】

『精霊王!!』

『おい、なんでこっちにくるんだよ!!?
嬢ちゃん守ってりゃ良いだろうが!』

【ぬ、その物言いは心外であるな。
他ならぬシェイラたっての願いによって主らに状況を伝えに来たというに……】

『だったら早く説明しろ!!……時間が惜しい』

『お二人さん、移動しながら話そうぜ!?』

『ああ、オーギュスト殿、頼む』

【はぁぁ~…まぁ良かろう。我の好き好んでシェイラから離れたでなし】


そうため息をついて、件の事件の証言をした令嬢、ジョルダン嬢を部屋に送った際に室内で待ち伏せしていた刺客に口封じ同然に彼女が殺されたことと、副団長とやらが敵としてやってきて挟み撃ちされていること、執務室ルード達の居場所に至るまでの騎士団員が負傷したり気絶して転がったりと戦闘不能に陥っていること。
つらつらと語られる状況の悪さに酷い頭痛に襲われながら彼女は、シェイラは無事かとガドと廊下を駆けながら確認する。


【心配せずともシェイラには結界がある。あのような武器玩具で攻撃されたところで、彼女には届くまいて。何せ我の加護は強力じゃからな!!】

『あのなぁ…!
あっちは敵が二人、嬢ちゃんは攻撃手段がねぇし、モリーは丸腰だろう!?
もしもモリーになんかあったときに嬢ちゃんが冷静でいられると思ってんのか!?』

『一番は貴殿がその人ならざる力を以ってして敵を排除してくれたなら安心できたのだがな』

【…それはならん】

『じゃあ何のために嬢ちゃんに憑いてるんだよ?
守るとか言いながら無意味だろうがっ』

途中途中で床にころがる転がる騎士団員を荒く蹴り起こしながらオーギュストを責めるガドの言葉に賛同していると。


【主ら……何か勘違いしておるようじゃが、
我は主ら人間如きに都合よく使われる存在ものではないぞ】

『『!!!』』

急に剣呑な気配に変わった精霊王に息を呑み、それでも足を止めずに移動を続けて話の続きを促す。


【加護を授けたといってその者の害となるものを全てするわけではない。
害から守る過程でことがあっても、じゃ。
そも、我ら人の理から外れている存在が直接人へと多くの干渉をするのは本来であらば望ましからざること。
“災厄”や“戦神”を自称する神どもならいざ知らず、我は自然を愛し司る存在もの達の王。
直接守り敵を排除したくばそれは同じ人の役目、我に強要するでないわ!】

『…………』

自分たちこそ禄に守れていないくせに文句を言うなと憤りも露わに告げる彼に返す言葉がなかった。
確かにその通りだからだ。
ましてやここは自分の宮、己の領域内テリトリーで度々事を起こされて後手に回っていることに一番苛立っているのも自分自身なのだから、と。

しかし自分の近衛である隣の男は全く怯む様子を見せず、
意識を取り戻した何人かに他の連中を起こして態勢を立て直すよう言い含めると、険悪な空気をまるで無視したいつもの調子で続けた。


『そうは言っても伴侶に~とかいったほどの人間を加護があるからって放置するかぁ?
冷てぇんじゃねぇの精霊王さんよ!?』

【……それは仕方なかろう……の母親の魂を浄化するのに大半の力を回している故、加護の強化を買って出たくともそうもいかんのじゃ……】

『結局あんたも力不足が原因で手助け出来んって訳だろ?…ん、ちょっと待て。
魂の浄化って何の話だ?』

『しかも今シェイラの母親と言ったか、精霊王?』

【…主ら、ロイドから何も聞いておらなんだか?
娘にも我の事を話さなかったことといい全く我が友は……。
面倒極まりないのぅ……】

『『おい』』

部下ガドのこういう、マイナスの感情をすっ飛ばして会話出来るところが羨ましい、などと些か最近自嘲がすぎる自身に苦笑しつつ、新たに沸いた疑問を追及しかけたが。
またぞろ話題がずれそうになったところで、精霊王が走る自分達に警戒を促してきた。


【今はそれどころじゃあるまいて。
ほれ、そろそろじゃぞ?】


そういって彼が指差した先にー…


『シェイラ!?』

『嬢ちゃん!?』


一心不乱に剣を振り下ろしては何かに弾かれて苛立っている我が国の騎士団副団長・ゼンとその様子を確認する事なく扉の開いたままの室内に向けて必死に声をあげているシェイラの姿が飛び込んできたのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※長くなりそうな為、ルード回として一度切ります!
次回はガド回です!!

しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...