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第二章 帝国編
第50話 風雲急を告げる事態①
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『あの方は……』
無事だろうか
執務室を出た後、先にウリミヤを部屋へと送る最中に彼女がポツリと零した。
限りなく小声で呟かれたそれを耳聡く拾ったモリーがあの方とは一体誰のことです?と彼女に問うと、しまった!と焦ったように何でも無いと誤魔化そうとしたが、それに対してモリーが僅かに目を細めた。
『無意識ですか。
こんな状況下で呟かれた人物…尚更どなたのことなのかお聞きせねばなりませんね』
『あ、貴女に関係ないでしょう?』
『いいえ、関係なら大いにあります。
事がこれ程大事に…更にまだ不穏分子がいると判明している現段階では、
些細な事柄も警戒せざるを得ません。
それに、貴女は御自分のお立場を忘れてもらっては困ります。
陛下はああおっしゃいましたかが正直私は貴女を許しておりません』
『………』
『モリー!控えて下さい』
僅かに殺気まで放ちながらウリミヤを睨むモリーにシェイラは声をかけるが、
彼女がそれに首肯することはなく、更にいい募る。
『いえ、シェイラ様言わせて下さいませ。
危険な薬物を宮に持ち込み、皇帝陛下の身を危険に晒しただけでなく、
シェイラ様までも誘拐するといった巫山戯た真似をなさった貴女……。
例え諸事情ありと危険に晒されたお優しいシェイラ様や陛下が貴女を許そうとも、すぐに牢へ入れられる事がなくとも。
やったことは昨晩捕らえられてきた“豚”と同じ。
彼女は私からしてみれば愚劣な犯罪を犯した罪人なのです』
『モリー……』
だから退室を願ったあの副団長が彼女を過度に警戒していたのには内心賛同していた。
そう聞かされて、ウリミヤはグッと唇を噛み締めて俯き、私も言葉に詰まる。
確かに彼女の取った行動は短慮で、大変愚かなことだ。
苦難を強いられている自身の家族ー…商会の人々を、両親を救いたかったとはいえ、
自国の皇帝やその周囲を危険に晒していいはずもなく。
またそれが露見した時に彼女が守りたかった家族も連座で罪に問われる可能性を全く考慮していない。
しかし、同時に思うのだ。
『モリー、そこまでですよ』
『…シェイラ様?』
『今彼女を責めたところで何になります?
彼女は自身の罪を自覚して自らの足で皆様や陛下の前に立ちました。
説明責任も素直に果たしています。
誰に助けを求めることも出来ない中で利用されながら行動せざるを得なかった、
私と同じく成人したばかりの彼女に貴女はこれ以上何を求めているの?
地に頭を擦り付けての謝罪?
泣きながら許しを乞えと?
それとも自ら牢へ入れて欲しい、断罪してくれと私どもに嘆願するべきと?
違うでしょう?』
『それは、しかし……』
『私には今、たくさん守ってくださる方がいます。
非力な身でありながらも正面を見据えて正道を歩めるのも、困難にぶつかった時に知恵や力を貸してくれる人々がモリー、貴女を含めています。
ですが彼女ー…ウリミヤにはいなかったのですよ。
貴女がもしも非力などこにでもいる一人の女性で、自分の大切な人が困難に喘ぎ、その窮状を打開する手立てを示されたなら。
利用されている事に気付きながらも行動しなかった、家族を見捨ててでも犯罪になど加担しなかったと断言出来ますか?
少なくとも私は出来ません』
『………』
『答えられないのならその殺気を抑えなさい。
罪を自覚し反省する者に対して必要以上に責め立てることは貴女にして欲しくないのですよ。
陛下も直に対面して彼女に逃げる意思がないことを確認されたからこそ、こうして貴女に部屋へと案内するよう申し伝えたのではなくて?』
『……出過ぎたことを言いました。
ジョルダン嬢、不要な発言をお許し下さい』
『いえ……』
(ずるい言い方をしてすみません、モリー…)
シェイラこそ、モリーを責める権利はない。
散々守られ、その中でも迂闊に拐われる自分がどの口でとも思うし、モリーが自分にこれ以上害を及ぼさない為にも彼女の発言した人物を知るために敢えて強い言い方をしたのもわかっている。
だがこれ以上ウリミヤ一人を責め立てたところで何の意味もないことであるのも事実。
不穏分子が存在すると言うのなら余計、これ以上彼女ばかりに警戒を募らせている余裕もないと考えて敢えて嫌な言い方をした。
やがて彼女に用意された部屋の前へとたどり着く。
彼女が入室したのを確認してその場を後にしようとモリー共々踵を返す。
モリーの言葉に今まで押し黙っていた彼女だったが、立ち去ろうとする私達にあの!と声をかける。
その声に振り向いた私達に、
『あ、の…“あのお方”のこと、お話ししても、いいです。
ただ、お話しする代わりに……あの方を救っていただきたいのです!!
お約束くださるのなら……』
『話す、と?』
コクンと頷く彼女をちらと見た後私に視線でどうするかを確認するモリーに頷いて見せる。
『いいでしょう……と言って差し上げたいところですが、
流石に内容と人物をお聞きせねばなんとも答えようがありません。
ただ、問答無用にその人物を捕らえたり処断しないことはお約束しますよ。
シェイラ様は勿論、私は貴女を利用した豚とは違いますので、約束はお守りしますわ』
如何なさいますか?と視線で問うモリーをじっと見つめた後私を見た彼女は、
意を決したように口火を切ろうとして、
『あの方は………がっ!!』
気がつけば、私達が見つめる中ー…
彼女は自らの腹から剣を生やしていた。
無事だろうか
執務室を出た後、先にウリミヤを部屋へと送る最中に彼女がポツリと零した。
限りなく小声で呟かれたそれを耳聡く拾ったモリーがあの方とは一体誰のことです?と彼女に問うと、しまった!と焦ったように何でも無いと誤魔化そうとしたが、それに対してモリーが僅かに目を細めた。
『無意識ですか。
こんな状況下で呟かれた人物…尚更どなたのことなのかお聞きせねばなりませんね』
『あ、貴女に関係ないでしょう?』
『いいえ、関係なら大いにあります。
事がこれ程大事に…更にまだ不穏分子がいると判明している現段階では、
些細な事柄も警戒せざるを得ません。
それに、貴女は御自分のお立場を忘れてもらっては困ります。
陛下はああおっしゃいましたかが正直私は貴女を許しておりません』
『………』
『モリー!控えて下さい』
僅かに殺気まで放ちながらウリミヤを睨むモリーにシェイラは声をかけるが、
彼女がそれに首肯することはなく、更にいい募る。
『いえ、シェイラ様言わせて下さいませ。
危険な薬物を宮に持ち込み、皇帝陛下の身を危険に晒しただけでなく、
シェイラ様までも誘拐するといった巫山戯た真似をなさった貴女……。
例え諸事情ありと危険に晒されたお優しいシェイラ様や陛下が貴女を許そうとも、すぐに牢へ入れられる事がなくとも。
やったことは昨晩捕らえられてきた“豚”と同じ。
彼女は私からしてみれば愚劣な犯罪を犯した罪人なのです』
『モリー……』
だから退室を願ったあの副団長が彼女を過度に警戒していたのには内心賛同していた。
そう聞かされて、ウリミヤはグッと唇を噛み締めて俯き、私も言葉に詰まる。
確かに彼女の取った行動は短慮で、大変愚かなことだ。
苦難を強いられている自身の家族ー…商会の人々を、両親を救いたかったとはいえ、
自国の皇帝やその周囲を危険に晒していいはずもなく。
またそれが露見した時に彼女が守りたかった家族も連座で罪に問われる可能性を全く考慮していない。
しかし、同時に思うのだ。
『モリー、そこまでですよ』
『…シェイラ様?』
『今彼女を責めたところで何になります?
彼女は自身の罪を自覚して自らの足で皆様や陛下の前に立ちました。
説明責任も素直に果たしています。
誰に助けを求めることも出来ない中で利用されながら行動せざるを得なかった、
私と同じく成人したばかりの彼女に貴女はこれ以上何を求めているの?
地に頭を擦り付けての謝罪?
泣きながら許しを乞えと?
それとも自ら牢へ入れて欲しい、断罪してくれと私どもに嘆願するべきと?
違うでしょう?』
『それは、しかし……』
『私には今、たくさん守ってくださる方がいます。
非力な身でありながらも正面を見据えて正道を歩めるのも、困難にぶつかった時に知恵や力を貸してくれる人々がモリー、貴女を含めています。
ですが彼女ー…ウリミヤにはいなかったのですよ。
貴女がもしも非力などこにでもいる一人の女性で、自分の大切な人が困難に喘ぎ、その窮状を打開する手立てを示されたなら。
利用されている事に気付きながらも行動しなかった、家族を見捨ててでも犯罪になど加担しなかったと断言出来ますか?
少なくとも私は出来ません』
『………』
『答えられないのならその殺気を抑えなさい。
罪を自覚し反省する者に対して必要以上に責め立てることは貴女にして欲しくないのですよ。
陛下も直に対面して彼女に逃げる意思がないことを確認されたからこそ、こうして貴女に部屋へと案内するよう申し伝えたのではなくて?』
『……出過ぎたことを言いました。
ジョルダン嬢、不要な発言をお許し下さい』
『いえ……』
(ずるい言い方をしてすみません、モリー…)
シェイラこそ、モリーを責める権利はない。
散々守られ、その中でも迂闊に拐われる自分がどの口でとも思うし、モリーが自分にこれ以上害を及ぼさない為にも彼女の発言した人物を知るために敢えて強い言い方をしたのもわかっている。
だがこれ以上ウリミヤ一人を責め立てたところで何の意味もないことであるのも事実。
不穏分子が存在すると言うのなら余計、これ以上彼女ばかりに警戒を募らせている余裕もないと考えて敢えて嫌な言い方をした。
やがて彼女に用意された部屋の前へとたどり着く。
彼女が入室したのを確認してその場を後にしようとモリー共々踵を返す。
モリーの言葉に今まで押し黙っていた彼女だったが、立ち去ろうとする私達にあの!と声をかける。
その声に振り向いた私達に、
『あ、の…“あのお方”のこと、お話ししても、いいです。
ただ、お話しする代わりに……あの方を救っていただきたいのです!!
お約束くださるのなら……』
『話す、と?』
コクンと頷く彼女をちらと見た後私に視線でどうするかを確認するモリーに頷いて見せる。
『いいでしょう……と言って差し上げたいところですが、
流石に内容と人物をお聞きせねばなんとも答えようがありません。
ただ、問答無用にその人物を捕らえたり処断しないことはお約束しますよ。
シェイラ様は勿論、私は貴女を利用した豚とは違いますので、約束はお守りしますわ』
如何なさいますか?と視線で問うモリーをじっと見つめた後私を見た彼女は、
意を決したように口火を切ろうとして、
『あの方は………がっ!!』
気がつけば、私達が見つめる中ー…
彼女は自らの腹から剣を生やしていた。
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