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第二章 帝国編
第47話 蹂躙そして帰還
しおりを挟む※シェイラ視点でお送りいたします!
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よく物語などで力ある人物が一方的且つ容赦なく敵を屠る様を【蹂躙】というが。
眼前ー…後宮のエントランスホールで現在繰り広げられている光景は正しくそれ。
ー完膚なきまでの、蹂躙劇である。
ウリミヤの後を追ってエントランスへと踏み込んだ当初、
敵の数はおよそ20人程。
対して侍女とウリミヤを守っていたのはガド様とモリーの二人だけ。
どう考えても形勢不利、普通なら勝ち目がない。
自分が割り込んだ時に数人は地を這っていたけれど、それでもまだ十数人はいた筈である。
モリーに下がっていてくれと言われた時、てっきりある程度二人で協力して他の騎士団員が駆けつけるまで場を持たせるのかと思い下がってみたものの。
これでは応援が来るまでもなく、刺客とやらは全滅してしまうのではなかろうか。
ガド様が一人を手に持つ頑強な剣で撫で斬りにすれば、
モリーが飛び上がり蹴りを放ちながら拳で顔面を潰す。
止めを刺しているモリーに刺客が背後から忍び寄れば、
ガド様が強烈な蹴りをお見舞いした後に剣で突き殺す。
黒装束の男達が宙を舞い、同時に血飛沫が上がる。
何という 混沌
『ガド様は分かるのだけれどモリー……貴女は一体何者なのですか……』
次から次へと地に伏す刺客達をちらとも見ることなく縦横無尽に駆け回る二人。
特に特筆すべきはモリー。
両手には見たことのない鈍色の渋い手甲を嵌め、躊躇無く敵の腹や顔面を殴り、抉る。
侍女服特有の黒いロングスカートが彼女が駆け、壁を蹴り、跳躍する度にひらり、ふわりと華麗に揺れる。
それだけ激しく動きまわっているというのに、華麗且つ下着が見えないのがまた絶妙なところだ。
顔は生き生きとして口元は優美に弧を描き、尚且つ瞳も爛々と輝きを増している。
もしもシェイラがこの時初めてモリーという人物を見た場合、
とてもではないが侍女とは思うまい。
正しく戦場を駆け慈悲なき鉄槌を敵に下す戦乙女。
(……弟子入りしようかしら?)
凄惨な光景な筈なのにあまりの華麗さについそんな事を真剣に考えてしまうシェイラ。
元々姉であったならとまで思っていた彼女の新たな一面に、転がる死者のことも打ち忘れてボゥ…と見惚れる。お違う意味で姉さま呼びをしてしまいそうになり、慌ててかぶりを振る。
危うくルミエス様に似た新たな扉を開いてしまうところだった。
モリーにばかり注目してしまっていたが、ガド様とて負けてはいない。
大柄なガド様が持っているからこそそれほど大きく見えないが、
その手に持つは間違いなく大剣。磨き上げればさぞ美しく銀に輝くだろうその剣先は、現在違う色に染まり濡れ光っている。
剛腕から繰り出される剣撃は軽々と相手を2、3人まとめて吹き飛ばし、斬られた腹や切断された手足からは夥しい量の血が吹き出している。
間違いなく致命傷だ。
俊敏に動き回ることもできるのに、それをモリー任せて自身はのそり…のそり…と殺気を放ちながら刺客達を一か所に追い詰めていく。
その様正に、鬼神の如し。
(ゆらゆらと殺気が可視化して見えるのは私だけなのでしょうか)
シェイラの故郷で鬼などと呼ばれていたかの将軍が可愛い虎に思えるほどの気迫と重圧。
気の弱い人間ならそれだけで失神、最悪天に召されてしまいそうだ。
あっという間に刺客は数を削られ残すところ僅か一人にまでなる段になって、
初めて刺客が撤退の意思を見せる。
倒れ伏す仲間の中には未だ息のある者達がいるにも関わらず、
なりふり構わず後宮内へと走り出した。
『逃すかよ!!』
『待ちなさい!!』
待てと言われて待つ馬鹿はいないとばかりに勢い良く走り去る刺客を二人が追う。
この間に侍女の手当てをと彼女を抱きしめたまま泣き続けているウリミヤを離し、
傷の程度を確認。
(……かなり深いですわね。出血も多い、このままではまずいですわ)
とりあえず出血を出来る限り抑えなければ、モリー達が帰ってくるまでに死んでしまう。
自分のドレスのスカート部分を急ぎ破いて裂き、包帯がわりにきつく巻きつける。
『……ぐっアアアッッ』
『ラヒムっ!?意識を!!痛いのは分かるけど兎に角意識を保って…!!』
『もう少しすればお医者様に手当て頂けますから、頑張ってください!!』
真っ青な顔色で額に大粒の汗を浮かべる彼女にウリミヤと共に必死で声をかけていると、複数の駆け寄る足音が。
まさか刺客の残党か!?
そう思い咄嗟に振り向き守りの魔法を使おうとしたシェイラはー…
『シェイラ無事か!!?』
騎士達を連れて自分達にまっすぐ駆けてくるルードの姿を目にすることになった。
………………………………………………………………………………………………
『ルー……陛下!!』
駆け寄ってきて自分を見下ろすルードに声を上げると、無表情なルードの顔が目に入る。
それは酷く怒っているようにも見え、思わず視線を泳がせる。
騎士達がテキパキと負傷した侍女を運んでいき、付き添うようにしてウリミヤも去っていく中、ルードと二人だけがその場に取り残される。
『あ、あの……ルー…ド、私また迷惑をッッ!?』
『いきなり姿を消す奴が、あるか』
居室からいなくなったことへの謝罪をしようとした私は、気付けばルードにきつく抱きこまれていた。
『ルー……』
『無事で良かった…』
声をかけようとして出来なかった。
何故なら彼が小刻みに震えているのが分かったから。
暫く彼の腕の中でぼぅ…としていると彼がゆっくりと身体を離した。
『…落ち着きましたか?』
『ああ……お陰様でな。
怪我はないか?その…スカートが破けているようだが…
まさか誰かに!?』
『え、あ!違いますよ!
先程の侍女の方の手当てに自分で破いただけです!!
私自身はどこもなんともありませんよ』
『そ、うか。それは良かった』
一瞬険しさが増した彼の表情が軟化する。
いつもの、自分が好きな、ルードの顔だ。
二人で見つめ合い、ふっと互いに一笑する。
『こいつめ……心配ばかりかけさせてくれる奴だ』
『ですからそれはっ……!
……すみませんでした』
『まぁいいさ。……これも惚れた弱みというやつか。
帰ってきたならそれでいい。
ー…お帰り、シェイラ』
『はい。
ー…ただ今戻りましたわ、ルード』
視界の端に、最後の引き摺ってこちらへとやってくるガド様とモリーの姿が映る。
こうしてシェイラは、自分の大切な人達のいる皇宮へ帰還を果たしたのだった。
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