出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
上 下
143 / 161
第二章  帝国編

第46話  鉄の侍女と帝国騎士団長の本領(後)

しおりを挟む




side:モリー




『その侍女を連れて下がってて頂けますかジョルダン嬢!?
…後で事情を聞かせてもらいますが』


『取り敢えず邪魔だっ!!』



かつて愛用していたアビス鋼で仕上げられた特別製の手甲で相手を殴り飛ばしながら、駆け込んできた令嬢に声を張り上げる。同時にガルディアス様も声を上げて二人にこの場から退避を促すが、取り乱した様子で仕切りに侍女の肩を揺さぶりその場から動こうとしない彼女に、何と愚鈍な…!と悪態を吐く。

瀕死なのは誰が見ても明らか。
さっさと侍女を引きずってこの場を離れればいいというのに、
そんな判断すら出来ないとは…。

正直、あの令嬢と侍女がどうなろうとも知ったことではない。
寧ろさっさと死んでくれた方が自分としても戦いに集中でき、引いてはシェイラ様の足取りを追うことが出来る。
おそらくはこの件に大いに関わっているくせに、今なお自分の手を煩わせる二人、特にジョルダン嬢の方を今すぐにでも殴り殺してしまいたい。

懲りず自身に向かってくる刺客に蹴りを放ち、床に倒れたそいつの顔面をヒールの踵でグシャリと踏み抜いて止めを刺す。
床と自身の足に血飛沫が飛ぶのも構わず顔面から踵を引き抜き、
手甲で飛翔する暗器を薙ぎ払う。


『有象無象が………私の、邪魔を、するな!!』


殴っても殴っても湧いてくる刺客にうんざりとしながら咆哮をあげる。
追撃をしようと迫っていた2、3人がその声と無表情なモリーの殺気に僅かにたじろく様子を見せるが、それすら構うことなく距離を詰める。

本来ならばガルディアス様がお一人で圧倒できるこの輩達。
しかしながらあの二人の防衛に回っているために思うように身動きが取れていない。

(どこまではた迷惑な存在なのでしょう……)
もういっそ本当に殺してしまってもいいのでは…そんなことを考えていたからだろうか。
自身とガルディアス様の間を通り抜けた一人が令嬢と侍女に迫る。


『っひっ……!!』


ギュッと侍女を抱きしめてその場に蹲るジョルダン嬢。
刺客の両の手にはナイフが一本ずつ。

『しまっ…!』

『っおのれ……!!』


ガルディアス様が振り返ろうとするも他の刺客に足止めをくらい、
自分も駆け出すが距離が空きすぎている。
このままでは間に合わない。
令嬢にナイフが振り下ろされる。
そのままナイフは彼女の首へ深々と突き刺さり………はしなかった。

『へぶッッ!!』


キン!!と金属を弾く音とともに刺客の片手からナイフが弾き飛び、次いでそれでも令嬢を掴もうと迫ったその刺客が奇声を上げて後方ー…ガルディアス様の足元まで吹き飛んだ。
相手取ってた刺客を蹴り飛ばしてその飛ばされた刺客を見やれば、完全に伸びている。

一体何が起こったのか。
そう思いジョルダン嬢を凝視していると、彼女の後方から声が。


『彼女に…ウリミヤとその侍女にこれ以上手出しはさせません』


凛とした声でそう告げて姿を現したのはー…


『嬢ちゃん!!?』

『シェイラ様!!』


自分が無事を祈って止まなかった拐われた当人、姿を消していたシェイラだった。


…………………………………………………………………………………………………

(シェイラ様……
シェイラ様が、お戻りになられた!!)



『ただいま戻りました…モリー、ガド様』


少し決まり悪げに眉を下げてこちらに微笑むシェイラ様。
ほんの数時間離れていただけなのに久しぶりにお顔を拝見した錯覚に囚われ、暫し呆然としてしまったモリーだが、依然として脅威が去っていないことを思い出しハッと辺りを見渡す。
ガルディアス様も一瞬呆けた顔をした後再度敵に視線を注ぐが、肝心の敵はといえば未だ何が起きたのか分からずその場でたたらを踏んでいた。

その隙にシェイラ様の元まで駆け寄りお怪我はないかを素早く確認するが、
少しドレスの裾が汚れている以外に異常は見られずほっと胸を撫で下ろす。


『また心配と迷惑をかけてしまいましたわねモリー。
大丈夫、この通り傷一つないわ』

『ああ…シェイラ様、よくぞ…よくぞご無事で!!』


場所と状況も弁えず瞳を潤ませて感極まる私を困ったように見つめて、
私の肩をポンポンして下さるシェイラ様。
早く救出せねばと気持ちばかりが逸っていただけに、急速な安堵感が込み上げてくるのを止められない。
そんな私の様子に苦笑を漏らすと、それよりもと前を見据える。


『不甲斐なくも誘拐されてしまった私が言うことでもないのだけれど…。
とりあえず、この場を何とかするのが先決ですわね』


その言葉にハッとして動き出したのは刺客達。
突如現れたシェイラ様も排除対象に加えたその殺気に、
暫しの間なりを潜めていた殺気が再度湧き上がる。
肩に置かれていたシェイラ様の手をそっと外し、にっこりと微笑むと少しばかりお下がりを、と主人に告げる。


『そちらのお二人を連れて退避していてくださいませんか?
そうして頂ければ直ぐにでも…御覧にいれましょう』


ギュグッと手甲に包まれた手を握りしめる。

『わかったわ。モリー、ガド様も…ご無理は禁物ですよ?』


『『承知』』



そう言い置いて倒れた侍女と彼女を抱えるジョルダン嬢を支えながら後方ー……エントランスの外へと下がっていく。
完全に外へと下がり終えたのを確認すると、ガルディアス様と目を合わせて頷き、敵を小面から捉える。


『ああ……やっとですわ。
やっとがいなくなりました』

『ああ、同感だね。やっと


ボキ……ボキキ……
ジャキ…


『『さっさとくたばれ屑ども』』




両手の指をボキボキと鳴らし、はたまた剣を構え直して。
私とガルディアス様は同時に刺客達へと躍りかかるのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※次回、第47話 蹂躙そして帰還は夜遅くに更新です!!
お楽しみに~(≧∀≦)
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...