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第二章 帝国編
第46話 鉄の侍女と帝国騎士団長の本領(後)
しおりを挟むside:モリー
『その侍女を連れて下がってて頂けますかジョルダン嬢!?
…後で事情を聞かせてもらいますが』
『取り敢えず邪魔だっ!!』
かつて愛用していたアビス鋼で仕上げられた特別製の手甲で相手を殴り飛ばしながら、駆け込んできた令嬢に声を張り上げる。同時にガルディアス様も声を上げて二人にこの場から退避を促すが、取り乱した様子で仕切りに侍女の肩を揺さぶりその場から動こうとしない彼女に、何と愚鈍な…!と悪態を吐く。
瀕死なのは誰が見ても明らか。
さっさと侍女を引きずってこの場を離れればいいというのに、
そんな判断すら出来ないとは…。
正直、あの令嬢と侍女がどうなろうとも知ったことではない。
寧ろさっさと死んでくれた方が自分としても戦いに集中でき、引いてはシェイラ様の足取りを追うことが出来る。
おそらくはこの件に大いに関わっているくせに、今なお自分の手を煩わせる二人、特にジョルダン嬢の方を今すぐにでも殴り殺してしまいたい。
懲りず自身に向かってくる刺客に蹴りを放ち、床に倒れたそいつの顔面をヒールの踵でグシャリと踏み抜いて止めを刺す。
床と自身の足に血飛沫が飛ぶのも構わず顔面から踵を引き抜き、
手甲で飛翔する暗器を薙ぎ払う。
『有象無象が………私の、邪魔を、するな!!』
殴っても殴っても湧いてくる刺客にうんざりとしながら咆哮をあげる。
追撃をしようと迫っていた2、3人がその声と無表情なモリーの殺気に僅かにたじろく様子を見せるが、それすら構うことなく距離を詰める。
本来ならばガルディアス様がお一人で圧倒できるこの輩達。
しかしながらあの二人の防衛に回っているために思うように身動きが取れていない。
(どこまではた迷惑な存在なのでしょう……)
もういっそ本当に殺してしまってもいいのでは…そんなことを考えていたからだろうか。
自身とガルディアス様の間を通り抜けた一人が令嬢と侍女に迫る。
『っひっ……!!』
ギュッと侍女を抱きしめてその場に蹲るジョルダン嬢。
刺客の両の手にはナイフが一本ずつ。
『しまっ…!』
『っおのれ……!!』
ガルディアス様が振り返ろうとするも他の刺客に足止めをくらい、
自分も駆け出すが距離が空きすぎている。
このままでは間に合わない。
令嬢にナイフが振り下ろされる。
そのままナイフは彼女の首へ深々と突き刺さり………はしなかった。
『へぶッッ!!』
キン!!と金属を弾く音とともに刺客の片手からナイフが弾き飛び、次いでそれでも令嬢を掴もうと迫ったその刺客が壁にでもぶつかったように奇声を上げて後方ー…ガルディアス様の足元まで吹き飛んだ。
相手取ってた刺客を蹴り飛ばしてその飛ばされた刺客を見やれば、完全に伸びている。
一体何が起こったのか。
そう思いジョルダン嬢を凝視していると、彼女の後方から声が。
『彼女に…ウリミヤとその侍女にこれ以上手出しはさせません』
凛とした声でそう告げて姿を現したのはー…
『嬢ちゃん!!?』
『シェイラ様!!』
自分が無事を祈って止まなかった拐われた当人、姿を消していたシェイラだった。
…………………………………………………………………………………………………
(シェイラ様……
シェイラ様が、お戻りになられた!!)
『ただいま戻りました…モリー、ガド様』
少し決まり悪げに眉を下げてこちらに微笑むシェイラ様。
ほんの数時間離れていただけなのに久しぶりにお顔を拝見した錯覚に囚われ、暫し呆然としてしまったモリーだが、依然として脅威が去っていないことを思い出しハッと辺りを見渡す。
ガルディアス様も一瞬呆けた顔をした後再度敵に視線を注ぐが、肝心の敵はといえば未だ何が起きたのか分からずその場でたたらを踏んでいた。
その隙にシェイラ様の元まで駆け寄りお怪我はないかを素早く確認するが、
少しドレスの裾が汚れている以外に異常は見られずほっと胸を撫で下ろす。
『また心配と迷惑をかけてしまいましたわねモリー。
大丈夫、この通り傷一つないわ』
『ああ…シェイラ様、よくぞ…よくぞご無事で!!』
場所と状況も弁えず瞳を潤ませて感極まる私を困ったように見つめて、
私の肩をポンポンして下さるシェイラ様。
早く救出せねばと気持ちばかりが逸っていただけに、急速な安堵感が込み上げてくるのを止められない。
そんな私の様子に苦笑を漏らすと、それよりもと前を見据える。
『不甲斐なくも誘拐されてしまった私が言うことでもないのだけれど…。
とりあえず、この場を何とかするのが先決ですわね』
その言葉にハッとして動き出したのは刺客達。
突如現れたシェイラ様も排除対象に加えたその殺気に、
暫しの間なりを潜めていた殺気が再度湧き上がる。
肩に置かれていたシェイラ様の手をそっと外し、にっこりと微笑むと少しばかりお下がりを、と主人に告げる。
『そちらのお二人を連れて退避していてくださいませんか?
そうして頂ければ直ぐにでも…片付けて御覧にいれましょう』
ギュグッと手甲に包まれた手を握りしめる。
『わかったわ。モリー、ガド様も…ご無理は禁物ですよ?』
『『承知』』
そう言い置いて倒れた侍女と彼女を抱えるジョルダン嬢を支えながら後方ー……エントランスの外へと下がっていく。
完全に外へと下がり終えたのを確認すると、ガルディアス様と目を合わせて頷き、敵を小面から捉える。
『ああ……やっとですわ。
やっとお荷物がいなくなりました』
『ああ、同感だね。やっと動ける』
ボキ……ボキキ……
ジャキ…
『『さっさとくたばれ屑ども』』
両手の指をボキボキと鳴らし、はたまた剣を構え直して。
私とガルディアス様は同時に刺客達へと躍りかかるのだった。
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※次回、第47話 蹂躙そして帰還は夜遅くに更新です!!
お楽しみに~(≧∀≦)
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