出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
上 下
137 / 161
第二章  帝国編

第40話  消えたシェイラ②

しおりを挟む



※モリー視点でお送りします。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




side:モリー




室内を調べ尽くし、シェイラの姿をどこにも見つける事が出来なかったモリーはその場に頽れた。
なんで自分はあの時、彼女の側を離れてしまったのか。

たった2日。
たった2日前に彼女を守ると固く誓い直したばかりだというのに!!
ガルディアス様この男がなんと言おうとも、彼女を一人にすべきではなかった。
そうであれば彼女がここから姿を消すこともなかったというのに!
キッ!!と背後に立つガドを見上げれば、
険しいながらも余裕のある顔が視界に映り込む。
ポリポリと頬を掻きながらまぁ落ち着け、などとほざくこの男をどうしてくれようかと顔を歪ませると、再度落ち着くよう促される。


『今更そんな焦ったところで事態が変わる訳でなし。
もうちょい落ち着けや、侍女殿』

『っ何を呑気な……!シェイラ様が!いないのですよ!?
先程まで確かにこちらに』

『だぁーかぁーらっ!!
……落ち着けって。
そんなに騒いで、嬢ちゃんが戻るとでも?
少しは冷静にならなきゃあ、姿を消したのかも分からんだろうが』


『!!』

元はといえば誰のせいで!!と詰ろうとしたガドから諭され、
少しばかり血の上った頭が冷える。
……本当に少しだけだが。


『……なんで』

『…ぁん?』

『なんで、そんなに落ち着いていられるのですか……。
余裕ありげに、私に声などかけて。
すぐさま陛下に事の次第を報告するなりしに走らねばならないのが今の貴方のすべき事でしょう?』

『あのなぁ…。
報告をしようにも!鍵のかかった部屋から!どうやって!人一人消える事が出来るのか分からなきゃ報告のしようがないだろうがッッ!!

別に余裕こいてる訳でも落ち着いてる訳でもねぇんだよこちとら。
ただ、まだ居なくなって殆ど時間の経っていない今だからこそ、
なんか手がかりの一つや二つ見つかるかもしれねぇからに協力してもらいたい、
それくらい、分かれよ』

『…申し訳、ございません』


確かにこうしてメソメソと泣き言を漏らしていても事態は好転しない。
柄にもなく弱音混じりの発言をしたことに羞恥を覚えたが、
今は彼の言う通り、事態を正確に把握することに集中することにした。


『落ち着いてくれたようで何より。
あとな、さっきお前さんが言った余裕ありげというのも、彼女を本当の意味で害する事が出来る人間はそういないと俺は考えているからっていうところから来てんのかも知れん。
何せ彼女にはがついてるんだろう?』

『…あ』


モリーの目がしっかりと自分を見たことに僅かな安堵を現しながら、
自分の見解を述べるガド。
言外に精霊王の存在を示唆され、今の今まで失念していたことに気付く。
だがそこで新たな疑問が湧く。


『では何故されたのでしょう…?
交流会では見事、危機をお救いになられたというのに』

『ん~、それなんだが。
この間彼が話してた感じで聞いてると、シェイラの身にが彼の手を出す判断基準ってやつじゃね?
だから今回は、直接彼女の身体や精神を害することをされなかったから
出てこなかったし何もしなかった。
そんなとこだと俺はみてるんだが』

『成程……ただ眠らされただけだとかで一々出てきていてはキリがなさそうですものね』

『ああ……だからすぐに嬢ちゃんの命に危機が!!とかの心配は俺はしていない。
まぁ早く見つけ出すに越したこたぁないんだが……と、ここか!』


話をしながら部屋の中を歩き回っていたガドが何かに気づいたらしい。
慌てて近付くと部屋の隅ー、絨毯に覆われた床面の一部が僅かに盛り上がっている。
ガドが絨毯をめくり上げてを外すと、そこには階下へと続く階段が。
更にはその階段の上部に何やら壺が転がっていて、触れてみるにまだ温かい。
顔を近づけて一瞬クラッと目眩を引き起こし、ガドが後ろから慌てて支えてくれた。


『すみません、ありがとうございます』

『いや、お前さんが近づいて確認しなかったら俺も同じことをしていたしな。
……大丈夫か?吐き気とか気分が悪いとかは?』

『いえ、そういった症状は……ただ少し、眠気が』

『これで決まりだな。
予想通り、香壺で“眠り香”を焚いたんだろう。
よく人攫いが使う手だ』


ちょっと待ってろ、と私に言いおきその場を離れると、すぐに手に三枚の濡れた布を持って来た。


『濡らして絞った布だ、口元に当てとけ。
あと壺もこれで包んで…と。
とりあえずはこれでいい。
で?お前さんはこの後どうするつもりだ?』

『決まっているではありませんか。
この隠し階段を伝ってシェイラ様を追います』

『そういうと思ったぜ……が、やはり報告が先だ。
事は陛下の居室で起きた。
つまりはまかり間違えば陛下も何者かに害される危険があったことに他ならんからな。
それに陛下自身にこの隠し階段について聞けば
もしかするとどこに通じるものかわかるかも知れないだろ?』


埃の積り具合からしてあまり期待は出来んが、と呟くガドに渋々頷くと、
ならば早く参りましょうと入り口へと急ぎ歩く。
隣に並び歩くガドがひどく意外そうな顔をしていることに気づき、何か?と視線で問えば。


『いやまぁ。
さっきまでのお前さんならてっきり“そんな事は貴方が一人で報告に行けばいいでしょう!私は先に行きます”とか言ってそのまま階段降ってくかと思ったんでな』

『いくら私でも優先順位は履き違えませんよ、先ほどはその、少しばかり取り乱しました。
……先程までの私はお忘れください』

『くくっ……やだね忘れるなぞ勿体ない!
鉄の侍女殿と呼ばれるお前さんも中々どうして可愛げがあるもんだと』

『死にたいのでしょうか?』

『あ、忘れますハイ』

『宜しい』


ギロリと睨みふざけたことを宣う隣の騎士団長を黙らせると、
黙してひたすら前を向いて歩く。

直属の主の元へと歩みを進める侍女頭殿の耳が真っ赤に染まっていることに気付いたのは、
それを見つめてニヤつく騎士団長ただ一人だった。



しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...